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大きい器

「えっ?」

「えっ?」

 思わず素っ頓狂な声で驚いた櫻真に、光が似たような声を出し、目を丸くして来た。

「えっ、もしかして先輩の目は可笑しくて、この暗さに気付きはらないんですか?」

「いや、分かるけど……何で光君が、ここに?」

「はぁ? 䰠宮先輩、何言わはるんですか? 先輩が僕のか弱い腕を掴んで、無理矢理こっちに連れて来させたんでしょう? おかしな事言わんで下さい」

 櫻真の言葉に、溜息混じりに答える光。

 その光におかしな点などはない。むしろ、自分が別空間に紛れ込んでしまった事にも気付いていない様子だ。

 ここに光がいるという事は、この間とは違う種類の結界なのだろうか?

 いや、でも……

 ……気配を感じるのは東側の奥からだ。きっと蓮条たちの気配だろう。それ以外の気配はまるで感じない。

「やっぱり、可笑しい」

 櫻真はぼそりと呟いて、光を見る。

 櫻真に険しい表情で見られた光が微かに動揺を走らせる。

「怒りはったんですか? でも僕は間違った事なんて言うてませんからね? 怒るのは筋違いですよ?」

「……やっぱり、可笑しいなぁ」

「へっ?」

「ああ、いや、何でもないよ。光君は気にせんといて」

 櫻真のぼそりとした呟きに、怪訝そうな表情を浮かべた光に櫻真が首を振る。

 やはり、光から声聞力の気配は感じなかった。違和感があるとするなら、光の左手につけられた青い色の数珠だ。

『桜鬼、光君が付けてはる数珠……どう思う?』

『……櫻真、大変じゃ』

 問いとは別に、桜鬼の慌てたような切羽詰まった声が返って来た。

『どうしたん? 桜鬼?』

『この中で透過し続ける事が……』

「できぬ」

 ぱっと櫻真の隣に透過していた桜鬼の姿が現れる。

「いきなり、綺麗な女の人が出てきはった!!」

「あっ、その……光君、この人は……」

「䰠宮先輩……」

 桜鬼の事をどう説明すれば良いか分からずに、櫻真が困り果てていると……

「四十万光とやら、立派な男の子が斯様な小さき事を気にしていてはならぬ」

 驚きで目を瞬かせている光に、桜鬼がそんな無茶な事を言い放つ。

 櫻真は思わず、驚く光の顔と半ば無理矢理感のある意見を通そうと、光へと一歩近づく桜鬼を見る。

「……なんて美しい人なんだ! まさか、貴女の様な綺麗な人に会えるなんて、僕は感激しています。ああ、そうですね。貴女の言わはる通りや。男性が小さい事を気にしとる場合やないですね」

「おおっ! そうじゃ! そうじゃ! 其方も話が通じる男の子じゃのう。もしかすると、将来、大物になるかもしれぬのう」

 自分の言葉に納得してくれた光に桜鬼が満足そうな笑みを浮かべる。そしてそんな桜鬼に褒められた光も満更でもなさそうだ。

 そして、そんな光を見て櫻真も思う。

 確かに、この子は将来……大物になるかもしれん。サインとか貰っといた方がええかな?

「とりあえず、このままここにいる訳にもいかんから、どこかに入り口があるか探さへんと」

「うむ。そうじゃのう。簡単に見つかれば良いが……」

 櫻真の言葉に桜鬼が難色を示す。

「入り口を探すって、何を言うとるんですか? 入り口なら、そこにあるやないですか?」

 きょとんとした表情で光が職員用の出入り口を指差して来た。

 光はここが別空間という事を知らない。その上、いきなり結界や声聞力などの話をしても混乱するはずだ。

 どないしよう? 上手く光君にこの状況を説明するにはどうすればええんやろう?

 こういうとき、自分の説明力の無さに情けなくなる。

「ちょっと、事情が混み合っとって……上手い説明が浮かんだら話すから、今は俺たちに着いてきて」

「何で先輩に指図されな、あかんのですか?」

「そんな事言わはっても、しゃあないやろ? 納得行かないんやったら、扉を押してみれば分かるわ」

 不服そうな光に櫻真がそう言う。

 説明が出来ないのならば、ここから出られない事実を自身で分かってもらうしかない。

「ええですよ。全く職員玄関から出られないなんて、どれだけチキンなんですか?」

 光がそんな事をブツブツ文句言いながら、ズカズカと職員玄関の方へと向かって行く。そしてそんな光の背中を見送ること、数秒。

「ぎゃあああああああ」

 という光からの叫び声が、櫻真たちの耳に届いた。

「桜鬼、行こう!」

「うむ!」

 櫻真たちが急いで光の元に向かうと、そこには職員玄関の扉を頭突きでバンバン叩く邪鬼の姿があった。

 職員玄関を叩き割ろうとしている邪鬼は、顔は牛、身体は蜘蛛という牛鬼の姿をしている。

「きっとこの結界内で邪鬼の力が強まってはるんや!」

「力を強めていようと、妾の敵ではない! 四十万光、下がっておれ!」

 桜鬼がそう言って、刀を取り出す。

 そして颯爽と腰を抜かした光の前に出て、術式の詠唱を唱える。桜鬼が吹かした風が閉ざされていた職員玄関を開き、それと同時に邪鬼がその巨大で中へと侵入させてきた。

「ぎゃあああああああ」

 その光景に光が悲鳴を上げ、櫻真の耳にキーーンと響く。思わず櫻真が耳を塞ぐのと同時に、桜鬼が牛鬼の顔に刀を突き刺し、その瞬間に牛鬼の顔が爆ぜる。

 血飛沫が辺りに撒き散らされ、邪鬼の動きが鈍くなった。

「ん? 頭を刎ねてもまだ動くか。ならば……」

 まだ微動する邪鬼を見て、桜鬼が刀を構え直し、前屈みの体勢で跳躍した。跳躍した桜鬼が牛鬼の身体を分断するように、刀を滑らせる。

 迷いのない刀捌きに櫻真は思わず、目を見張る。しかしそんな櫻真の横にいる光には、やはり衝撃すぎたのか、目を反らせないまま固まっている。

 初めてこれを目にしたら、固まってしまうのも無理はない。正直、櫻真も初めて見る邪鬼がこれだったら、同じ反応をしてしまうだろう。

「一応、デカいのは倒したが……外にもウヨウヨと邪鬼がいるようじゃ。やはり、状況を打破するには、この空間を作り出している根本を叩くしかなさそうじゃ」

 血の付いた刀を払いながら、桜鬼が櫻真の元へと戻って来た。

「根本ってなると、やっぱりあの護符を何とかするしかないな」

 櫻真がそう言って、固まったままの光と再び家庭科室の方へ戻る。するとそのとき……

「櫻真、ちょっと面倒な事が分かったで」

 蓮条と鬼兎火、そして……

「祝部君!」

 蓮条の横に、怪訝そうな表情を浮かべる佳が家庭科室の入り口の所に立っていた。

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