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二つの悩み

 お昼休憩に入り、櫻真は蓮条のクラスを訪れていた。その傍らには透過した桜鬼がおり、蓮条の横には鬼兎火もいる。

 四人は教室を出て、人気の居ない屋上へと移動した。

 ただ、誰にどこから見られているとも限らない為、桜鬼と鬼兎火は透過したままだ。

「ここなら、鬼絵巻に関しても話しをしてても、誰かに訊かれはる心配はないやろ?」

「そやな。ただ俺らもここに居るのバレへんようにしないと」

 蓮条の言葉に頷きつつ、櫻真は周りを一瞥した。

 普段、屋上の扉は開かないようになっているのだが、透過している桜鬼たちは扉を擦り抜けられるため、鍵を開けてもらい屋上へと出ていた。

 ここに来たのは、櫻真たちが授業している間に付近を見回りしていた桜鬼たちの話を聞くためだ。

「それで、この付近で怪しい気配とか動きとかはありはった?」

 櫻真が桜鬼にそう訊ねると、桜鬼が鬼兎火と顔を見合わせて顔を頷かせてきた。

『あったぞ。姿形は表さなかったが、魑衛の気配も感じたしのう。それに加え妙な護符も見つかった』

「妙な護符?」

 桜鬼の言葉に、櫻真が顔を顰めさせる。

『うむ。この校舎を囲むように配置されていた2枚の黒い護符じゃ。あの配置を見る限り、前に鬼兎火たちが仕掛けた時のような結界系の護符だとは思う』

「鬼兎火もその護符は見はったん?」

 桜鬼の言葉を訊きながら、蓮条が鬼兎火へ訊ねる。

『ええ。確認したわ。私も桜鬼が察するように、あの護符は何かしらの結界を張るものだと思うの。魑衛たちがどこで入手したかのかは分からないけど……厄介な物で間違いないわ。私と桜鬼でその護符を取り除こうとしたけど、まるで手も足も出なかったから』

 鬼兎火が眉を顰めて、悔しそうな表情を浮かべている。

 従鬼二人掛かりでも取り除けないとなると、鬼兎火の言う通り強力な声聞力が込められているのは間違いなさそうだ。

「それなら、放課後にその護符をゆっくり調べるしかないな」

「せやな。放課後なら何かあっても人が少ないし……あっ!」

 蓮条の言葉に頷きかけた櫻真は、頭の片隅にあるもう一つの問題の事を思い出してしまった。

「あかん……。俺、放課後は……」

「何で? もしかして、この前みたいに稽古を早く始めはるん?」

 首を傾げさせた蓮条に、櫻真が重たい顔で首を横に振る。

「実は……」

 櫻真は今朝あった光とのやり取りを、蓮条に話す。すると話を聞いていた蓮条が呆れ混じりの溜息を吐いてきた。

「厄介な奴に目をつけられたな?」

「俺もそう思う。でも、もう受けてしまった事やから、放課後に卓球勝負をするしかないんやけど……」

「けど?」

「ギャラリーを呼びはるみたいで。それを考えると気分が一気に重くなる」

 今朝の光の様子だと、確実に自分のファンである女の子たちを呼ぶはずだ。体育の授業などで卓球をした事はあるが、卓球部と試合出来る程の腕ではない。

「完全に、俺のダサい所を見せる気やん」

「まぁ、きっとその一年の目的は、櫻真と卓球試合をするこやなくて、櫻真の人気を落とすことやからな」

 顔を俯かせて項垂れる櫻真に、蓮条が軽く肩を竦めさせてきた。

「それにしても、その変なランキングやと、櫻真一位で俺が二位なんやろ?」

「うん、そうやった。なんか、人気急上昇とか吹き出しで書いてあったわ」

『あら、人気急上昇ですって? 蓮条、良かったわね』

 脱力した櫻真の言葉に、鬼兎火がにっこりと笑みを浮かべている。すると蓮条が照れたらしく、少し慌てた様子で口を動かして来た。

「そこはええねん。俺が言いたいのは……何で間の俺を抜かして、櫻真に勝負を挑んだのかが気になっただけで……」

 言われてみれば、そうだ。

 光が櫻真に突き付けて来たランキングでは、光の上にいたのは蓮条だ。

 それにも関わらず、光は櫻真に勝負を挑んで来た。

「確かに。不思議やな。何でやろう?」

『あれではないか? 一位の櫻真を倒したら、二位の蓮条も倒した事になるとでも思うておるのではないのかえ?』

 首を傾げる櫻真に、桜鬼が人差し指を立てて答えて来た。

「さすがにそうならへんと思うよ? 俺に勝って、俺の人気が下がったとしても、そしたら蓮条が上に上がるだけやん?」

『うむ、確かにそうじゃのう。迷いなき眼で櫻真に勝負を挑んでおったからのう。あの光とやら』

『その子の中で、蓮条よりも櫻真君の方が勝ち易いと思ったのかもしれないわね?』

『戯けっ! 櫻真が蓮条よりも劣っているはずなかろう』

 桜鬼の反応を楽しむように笑う鬼兎火に、桜鬼が不服そうな表情を浮かべる。

『といっても、勝負をするのが櫻真君って事には変わらないし……人気が下がらない様に頑張って試合をするだけじゃないかしら? 桜鬼もそう思うでしょう?』

『そうじゃ。それに心配せずとも櫻真に恥を欠かせるような真似はさせぬ。それに蓮条たちも応援に来るであろう?』

 桜鬼が櫻真に笑顔を見せて、蓮条や鬼兎火にそう声を掛ける。

『私は構わないけど、蓮条はどうする?』

「俺もええよ。ただその試合に時間を掛け過ぎんでな。護符の事もあるんやから」

「勿論。なら、試合する前に1セットだけの勝負にしてもろえば、ええんちゃう?」

 むしろ、その条件ならば苦痛の時間が少なくて済む。おかげで重たい気分が少しだけ軽くなった。

「とりあえず、話は纏まったけど……桜鬼、俺たちが授業受け取るときに、その怪しい護符を見張ってくれへん?」

『うむ、よいぞ。ただ気をつけねばならぬは、櫻真の後ろの席に座る祝部という少年じゃのう。あの者は声聞力を有しているであろう? また巻き込まれなければ良いが』

 桜鬼の言葉で、櫻真は佳との会話を思い出す。

 あの時は、タイミング良く紅葉たちがやってきたため、上手く佳の疑問を誤摩化せた。だが、佳があれで納得したとは思えない。

「俺にもあの八坂神社の件を訊いてきたで? といっても、祝部の奴は俺が意識を完全に乗っ取られてたのも知ってはるから、『俺は何にも記憶にないし、気付いたら宇治の家に運ばれとった』って説明したら、納得してはったけどな」

「やっぱり、蓮条にも訊きに来たんや……」

「やっぱりって事は、櫻真にも?」

「うん、訊いてきはったわ」

 八坂神社の件が会った次の日、櫻真は佳に呼び出されあの時のことを訊かれたのだ。佳がまず訊ねてきたのは、あの事件と櫻真に因果関係はあるのか? というものだ。

 とりあず、櫻真は自分が駆けつけた時には、すでに事態が終息していたと言い逃れたのだ。

「祝部君にも事情を話しといた方がええかな? 何か、このまま嘘を言うのも心苦しくなるし」

 櫻真が桜鬼や蓮条たちの顔を見て、そう提案する。けれど、それに蓮条が難色を示して来た。

「言わはらん方がええわ。これって内輪揉めやし。祝部に話した所で得もないし、むしろ今よりもっと首を突っ込んでくるで?」

「そやけど……。変に一人で動かれてまた巻き込んでしまったら、大変やん。怪我するかもしれへんし」

「自己責任って気もするけどなぁ……。危なくなったら止めはるやろうし、行けるって思ったら止めへんよ? 何か、そんな感じに見えたわ。鬼兎火にもそう見えたやろ?」

 同意を求めるように、蓮条が鬼兎火を見る。すると、そんな蓮条に鬼兎火が首を頷かせた。

『䰠宮以外の人がこの戦いに関わる事は、珍しくないわ。それこそ、報酬なんかを渡して有能な協力者を集めている場合もあったから。けど、今回の場合は協力者にしたいってわけじゃないでしょ?』

「それに祝部がこの前の事を踏まえて俺らの話を聞いたら、悪い方に考えたら厄介やん」

「んーー、確かに言われてみれば……」

 櫻真からしても、鬼絵巻の闘争で起きる被害はないに超した事はないとは思う。しかし、この前の様な予期せぬ事態が起きることだってある。

 被害が出るということは良い事ではない。元々、邪鬼払いなどをしている佳からしたら、良い気はしないはずだ。

「やっぱり、祝部君には話さん方がええかも」

『そうじゃな。何か起きても気付かれぬようにせねば』

 蓮条たちの言葉を聞いた櫻真と桜鬼が頷く。

 とはいえ、鋭い祝部君に隠し通すのは骨が折れそうやな……。

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