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第四従鬼

 䰠宮瑠璃嬢は、自身の従鬼である魑衛と共に櫻真たちの通う学校の前に来ていた。服装は今通っている高校の制服だ。

 とはいっても、最近は高校の方には行っていなかった。瑠璃嬢にとって学校は退屈で行く意味のない所だ。

 自分の保護者となっている桔梗はそんな自分に難色を示してくるが、正直鬱陶しい。

 京都に来ているのだって、東京にいる両親の意向に沿ってのことだ。鬼絵巻が現れるのは、昔から当主の器が密集している場所が多い。

 そして今回の器は京都に大半が密集している。つまり、京都及び関西圏を中心に鬼絵巻が出てくる可能性が高いということだ。

 だから、今の自分は学業を第一に考える必要なんてないはず。むしろ、それをしていた所為で、この間の件で大きく出遅れてしまった。

 自分が出遅れてしまった事を考えて、瑠璃嬢は大きく舌打ちを鳴らす。

「そんなに苛立って、どうしたんだい? 愛しき君?」

「うざい。あたしを気色悪い呼び方で呼ばないで」

「そう照れるな。私はいつでもどこでも君の事を想っているよ」

 もう溜息しか出てこない。

 自分も体外人の話を聞かない方だと自覚はしているが、この従鬼は和を掛けてひどい。

 朝、自分が起きれば勝手に横で寝ているし、入浴時も入り口の前で待機という変態ぶりだ。

「あそこには二体の従鬼がいるんでしょ? どんな奴?」

 先程の魑衛の言葉を完全に無視して、瑠璃嬢が目を細めて訊ねる。すると魑衛が中学校の校舎の方を、少しの間凝視してから口を開いた。

「あそこにいるのは、第五従鬼の鬼兎火と第八従鬼の桜鬼だ。今流れている気配の感じだと争っている形跡はない。そのためもしかすると、主同士がすでに密約を交わしている可能性がある」

「ふーん。別に良いけど。むしろ一つの場所で二つの従鬼を狩れるなら最高でしょ?」

「だが、瑠璃嬢。あまり無茶はしない方が良い。従鬼が一体の場合ならこちらの方が優勢だが、二体いるとなると、こちらが勢力としては劣勢だ」

「平気。ここにいる奴らにあたしほどの覚悟なんてありはしないんだから」

 瑠璃嬢が忠告してきた魑衛にそう答える。すると魑衛がにっこりと満足そうな笑みを浮かべてきた。

「確かに君の言う通りだ。君と私の覚悟は誰にも負けやしない。そして私はそんな君を守るよ」

「守るのは結構だけど……何で、アンタってそうキザっぽいの? マジでうざいんだけど?」

「誰にでもって訳じゃない。私が優しいのは瑠璃嬢にだけさ。他の女子など全く興味ない」

 別にそこを聞いてる訳じゃないんだけど?

 そういう視線で、熱く自分への愛を語る魑衛を睨む。

「とりあえず、あたしはここで獲物を待つ。そのために……特殊な結界を張りたいんだけど、アンタできる?」

「そうだね。ただ相手を閉じ込めるだけなら出来るよ。けど、君が求めている物は、そんな簡単な物ではないんだろう?」

 こういう類いの話では、魑衛はちゃんと主である自分の気持ちを察してくる。そこは有り難い。

「まぁね。あたしがやりたいのは、この間の八坂神社に張られたみたいな結界を張りたい。其の方が、事後処理が楽だし」

「なるほど。瑠璃嬢、君の心根は本当に優しいね」

「……別に、そんなんじゃない」

 瑠璃嬢は肩を竦めて、櫻真たちがいる校舎を見た。

 このくらいの建物を結界で張り巡らせると、声聞力をかなり消費してしまう。それでは駄目だ。

 結界を張るための護符を用意しておけば良いのだが……生憎、瑠璃嬢は護符を用意してない。一応、瑠璃嬢も護符を書くくらいは出来る。

 しかし、自分の性分的に護符を作ったり、術を駆使するよりも、自身の身体を強化し、自分で動く事の方が合っていたのだ。

「面倒だけど、一度出直すしかないか……」

 不承不承にそう呟いた瑠璃嬢に、魑衛が頷く。

 すると、そこへ……

「お待ちなさい。瑠璃ちゃん」

 鳶色の着物を来た葵が音もなく現れた。

「何者っ!?」

 魑衛が誰何して、瑠璃嬢の前に立ち腰に指している刀に手を掛ける。

「うふふ。瑠璃ちゃんは良き用心棒、というより騎士(ナイト)をゲットしたようね?」

「こいつが騎士ねぇ? 完全に恰好は時代劇に出てくる侍風情だけど。それで姉さんは何の用?」

 瑠璃嬢が鋭い目つきを、さらに鋭くさせ突如現れた葵を睨む。

「瑠璃嬢、この者は君の知り合いか?」

「まぁね。姉さんも元々は東京にいたみたいで、ちょくちょくあたしの所にも顔を見せてきたんだよ。大抵は下らない妄想話して帰って行くだけだったけど」

「あーら、ひどいわね。遠路はるばる東京からやってきた瑠璃ちゃんがお困りの様だから、ちょっと助けてあげようかな? って思っただけじゃない?」

「助け?」

「そう。お助け。瑠璃ちゃんは、ここに結界を張りたいんでしょ?」

「盗み聞きしてたんだ。まぁ、姉さんらしいけど」

 片手を腰に当て、瑠璃嬢が呆れた様に溜息を吐く。

「流石、瑠璃ちゃん。葵姉さんの事をちゃんと分かってるじゃない? それで、どうする? 私の助けが必要かしら?」

「……内容にもよるかな」

「行動は大胆なのに、思考は慎重なのね。まぁ、いいわ。姉さんからの特別ボーナスで、このスペシャルな護符を瑠璃ちゃんにプレゼント!」

 そう言って、葵が着物の袂から黒紙に白い文字で、術式が書かれた護符を四枚取り出して来た。

「この護符は、瑠璃ちゃんが想像している結界を張る事が出来る代物よ」

 葵が取り出した護符はまさに、瑠璃嬢たちが欲していたものだ。しかも声聞力の高い葵が持っている護符となれば、護符の強力性は折り紙付きだ。勿論、ちゃんと発動すれば。

 そして、葵をよく知らない魑衛は不審気な表情で葵を睨み続けている。

「何故、貴様は此の様な者を私たちに与える? まさか我が瑠璃嬢を罠に嵌めようという算段ではあるまいな?」

「もう、どうして従鬼ってこうも疑り深いのかしら? 姉さん、嫌になっちゃう。理由は美しい瑠璃ちゃんを、昔の好みで助けたくなっちゃった……じゃ駄目?」

 絶対に嘘。

 瑠璃嬢は、冷静に心の中で突っ込んだ。むしろ、益々疑心を強めるだけだ。

 しかし……

「瑠璃嬢の美しさに……かぁ。確かに無くはない理由だ」

 あっ、魑衛(コイツ)の頭も大分、湧いてるわ。

「そうでしょう? それに瑠璃ちゃんだって当主の器の端くれ。触れて感じてみれば……この護符がおかしな物か、そうでない物か分かるはずよ?」

 納得しかけている馬鹿な魑衛を、葵が畳み掛けに入って来た。

 そして、それは見事に成功する。

「それもそうだ。それに、もし瑠璃嬢に危険が及べば私が守り、貴様を斬るだけに過ぎない。瑠璃嬢、この話……乗ってみまいか?」

「いつの間にか、アンタが主導権握ってんのね?」

「いや、そんなつもりは……」

 瑠璃嬢の言葉にしまったと思ったのか、魑衛がしどろもどろで返事をしてくる。

「まっ、別に良いけど。正直、主従関係とか気にしてないし。それに、あたしの中では、もうその護符を貰うことは確定してる」

「そうか。やはり私と君は心が一つ」

「違う。……姉さん、笑ってないで早くその護符をくれない?」

 瑠璃嬢と魑衛のやり取りを見て笑っている葵に、瑠璃嬢が眉を寄せながら手を突き出す。

「本当に素敵なお二人さんね。あまりのお熱ぶりに葵の顔が赤面しちゃいそう。はい、これ」

 何時如何なる時でも人を茶化す事を忘れない葵から、黒い護符を受け取る。

「ありがとう。助かった」

 お礼を言いながら、瑠璃嬢が受け取った護符をポケットにそのまま仕舞う。

 護符を雑にスカートのポケットに入れた瑠璃嬢を葵が口をヘの字にして見てきたが、瑠璃嬢は気にせず魑衛の方に視線を向けた。

「じゃあ、まずはこの護符を設置して、人が少なくなる放課後を狙って決行するよ」

「御意。君が望むなら俺はそれに従うだけだ」

 魑衛がそう言って、瑠璃嬢にキザっぽく笑いかけてくる。

 そして、瑠璃嬢は魑衛と共に校舎内へと入り込んだ。

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