迷い家 6
(何や、これーーーー!?)
「変わった課題だな。写真に収めるだけで、学校の評価が上がるなんて」
「そもそも、実技の評価って何なん?」
「うーーん、体育とかかな?」
「でも、地図に載ってねぇーんだろ? 探しようがないじゃんか」
口を噤む櫻真を他所に、帝、めぐみ、千咲、隆盛が各々の言葉を並べている。そして、そんな中学生の言葉を聞いて、狼たちが困った様子で唸った。
「ん〜〜、やっぱ難しいよなぁ。地図に載ってない場所を探すなんて。てか、提示されてる情報が少な過ぎるし」
「ホント、ホント。航空写真でも良いから一枚でも写真を見せてくれれば、鳩子ちゃんがサクサクっと見つけるのに〜〜」
狼に続いて嘆いたのは、前髪を姫カットにした小柄な少女だ。どんな方法を取るのか分からないが、もう少し情報があれば見つけられるという自信が見える。
しかしそんな少女の言葉を、真紘の横にいた少年が鼻で笑い飛ばした。
「いやいや、無理だね。むしろ、ここら辺付近だって割り出したのも俺なんだけど?」
「はぁ〜? どんな妄想を働かせてんの? ここまで来れたのは、鳩子ちゃんの力量に寄る者ですから〜〜」
負けられない戦いがあるのか、苛ついた表情で少女が少年を睨み返している。
(ん〜〜、確か屋敷の周りには外部から見えへんように、結界が張ってあるって言うてたような……)
火花を散らす二人を見ながら、櫻真が星明殿についての情報を頭に思い浮かべる。とはいえ、それを口に出すことはしない。
下手に情報を開示して良いものだとは思えないし、櫻真自身も何処に屋敷があるのか知らないからだ。
だが、そんな櫻真の様子を目敏く見ている者がいた。
「先ほどから黙っているが、何か心当たりでもあるのか?」
「えっ?」
櫻真にそう訊ねてきたのは、ジッとこちらを見定めるように見る真紘だ。真紘から凝視され、思わず身をピンとさせる櫻真。
まさか黙っているだけで、何か察しられてしまうとは思わなかった。
それに加え真紘が……
「貴様は䰠宮の者だろう? ならば、人や物探しをする術を持っているのではないか?」
と爽やかな笑みと共に、飛んでもないボールを投げてきたのだ。
自ずと、櫻真の方へ全員の視線が向かってくる。
「え、えーっと……」
なんて答えを返そうか?
頭の中でグルグルと考えが攪拌している間に、さらに状況は櫻真が望まない方へと向かっていく。次に追い込んできたのは、自分と同じ陰陽術を使える隆盛だ。
「そうか! 占術でその星なんちゃらの場所を割り出せば良いんだな? それなら、俺がやってやるよ!」
自分の胸を叩き、隆盛が生き生きとした表情で答える。すると櫻真以外から「占術」の言葉が出てきたのに驚いたのか、真紘が顔をキョトンとさせている。
「貴様も占術が出来るのか?」
「おう! 俺は住吉隆盛。困ってるみたいだからな、俺が一肌脱いでやるよ」
「そうか。それは頼もしいな。是非、お願いしよう」
にっこりと真紘が笑うと、気を良くしたらしい隆盛が益々乗り気になっている。
(どうして、こうも……余計な事を……)
しかし、冒険心が強い隆盛が地図にもない場所と聞いて、心を踊らせないはずはない。
(しかも、『住吉』の方で名乗ってはるし)
おかげで、初めて『住吉』の名前を聞いた千咲たちは、頭に疑問符を浮かべて首を傾げている。
そんな三人に櫻真が小声で、『住吉』は隆盛にとってのアダ名である事を説明しておいた。
隆盛に説明をさせれば、陰陽師という単語が飛び出しかねないからだ。
「でも、最上の奴……あんな大きな事言って大丈夫なのか?」
「そうやねぇ。向こうの人も乗り気になってる感じするし。大丈夫なんやろうか?」
「平松君も千咲ちゃんも心配せんで大丈夫やて。向こうのカッコいい高校生の人もええ人そうやし、分からなくても怒らへんって」
狼や真紘を見ながら、めぐみが千咲たちの心配を笑い飛ばしている。
千咲たちも、そんなめぐみの言葉に納得したのか「確かに」と頭を頷かせている。そんな傍で櫻真は気が気でなかった。
吶喊的な性格はどうであれ、隆盛の力は本物だ。占術に出る結果はただの当てずっぽうなものではない。
(ああ、きっと占術したら一発で……)
隆盛が狼たちを引き連れて、人気のない場所へと向かい始める。櫻真たちは、そんな隆盛たちの後を追うように、付いていく。
(こんな事になるんやったら、さっさと話しておくべきやったわ……)
口から溢れ出そうになる溜息を何とか堪え、歩く櫻真。
「䰠宮君、どうかしはったん?」
不意に千咲から声を掛けられ、櫻真が慌てて千咲の方へと振り向く。振り向いた先にいた千咲が、櫻真に気遣うような視線を向けている。
気分が下がっているのに、気づかれてしまったのかもしれない。
(俺のドアホ〜〜!)
内心で自分自身をド突きながら、櫻真は口を開いた。
「別にどうもしてへんよ。何で?」
「あっ、いやそのな、䰠宮君の顔があんまり浮かない感じやったから……気分でも悪くなってしもうたのかと思って」
「あーー、ちゃうよ。ただ思わぬ出来事やったから、ちょっと驚いてしもうて」
「そうだったんや。でも確かにビックリするな。最上君が何をやろうとしてるのかもよく分らへんし。でも……䰠宮君が体調悪いとかやなくて、良かった……」
千咲が胸を撫で下ろしながらも、やや照れた表情を浮かべてきた。
「ごめんな、心配させてしもうて……」
「あっ、ええの、ええの! 私が勝手に心配しただけやから」
そう言いながらはにかむ千咲に、櫻真は申し訳なく感じる。
「でも、ありがとう。心配してくれはって」
櫻真が笑って、千咲にお礼を言うと……千咲が照れ臭そうに一度だけ顔を頷かせてきた。
(俺って、周りの人に心配かけてばっかりやな〜〜)
俯く千咲を見ながら、櫻真は自分の不甲斐なさを痛感した。いや、痛感するだけではダメだ。このまま男子としての梲が上がらなくなってしまう。
(よしっ! ここは何が起きても……ビシッと身構えて行かな)
櫻真は神社裏の人気のない場所へと向かいながら、小さな決意を固めるのだった。




