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鬼絵巻 〜少年陰陽師 、恋ぞつもりて 鬼巡る〜  作者: 星野アキト
第六章〜珍獣駆ける九龍島〜
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正念場

 スヤスヤと眠っている百合亜と藤を桔梗と共に抱え、菖蒲はビクトリア・ハーバーの方を睨みつけていた。

「大量の霊気を集めとったのも、門を開くためやったんやな……」

「過去にも、何度か門を開くために動いた件はあったけど、ここまでの段階に至ったのは今回が初めてだな」

 菖蒲の横で、魄月花が感心した様子で口笛を吹いてきた。

「悠長に口笛なんて吹いとる場合ちゃうで。これから、僕らでその穴を閉じに行くんやから」

 菖蒲がそう言って、魄月花を睨む。すると魄月花が口のへの字に曲げてきた。

「でも、あの大きさやと結構な術式を組まへんとアカンやろうね」

 百合亜を抱える桔梗が辟易とした溜息を吐いてきた。桔梗の言葉を近くで聞いていた蓮条と儚が眉を顰めさせている。

 恐らくこの二人は、まだ封門の術式を行った事はないだろう。

 封門とは読んで字の通り、門を封じる術式だ。

海上にある穴は、鬼絵巻が作り出したものではない。元々からそこに存在していたものだ。

 世界には地獄へと続く七つの門があり、ここはその内の一つなのだろう。

 本来なら、その門が開く事は決してなく、そう簡単に開けられるものでもない。

 恐らく、鬼絵巻が香港中を練り歩いていたのも、門を開くために必要なエネルギーとして、霊や邪鬼を集めるためだろう。

 百合亜たちを洗脳し引き連れたのも、声聞力を保有する二人に霊や邪鬼が寄ってくることを見越しての事だ。

(まったく、ど偉いことをしよるもんや……)

 菖蒲は眉間に深い皺を寄せて、開いてしまった地獄の門へと視線を向けた。

 極稀にだが、この門のように向こう側に通じてしまう歪みがある。それを封門したことならあるが、自分や桔梗もここまでの大きさを封門した事はない。

 術式がきちんと成功する確率は、菖蒲ですら分からない状態だ。

 しかも封門するには自分や桔梗だけでは足らない。最低でも五人の人手がいるはずだ。

 幸いにも、ここには百合亜たちを除いても六人の術者がいる。

 鬼絵巻を捕まえる一人を除いてもギリギリ間に合う。

「ここは取り合えず、海の方に向かうで。櫻真は?」

「丁度、上から降りてきてます」

 菖蒲の問いに、蓮条が上の方を指差しながら答えてきた。菖蒲が上を向くと、飛廉に乗る櫻真と瑠璃嬢の姿が見えた。

「ちょっと、困ったことになってるみたいよ」

 地上に降りてきた瑠璃嬢の言葉に、菖蒲が顔を曇らせる。

「困ったこと? 何や?」

見たところ、櫻真にも瑠璃嬢にも大きな怪我はなく、意識が朦朧としているようにも見えない。強いて言うなら、櫻真の表情が優れてないという事だろう。

「実は……」

 口を開いてきたのは櫻真だ。一斉に、その場にいた全員の視線が櫻真へと集まる。視線を向けられた櫻真が自身の置かれている状況を説明し始めた。

「……参ったねぇ」

「まさか、そんな悪い副作用があるなんてな……思いも寄らんかったわ」

「すみません」

「いや、櫻真君は謝る必要はないよ。君を攻めとるわけやないから」

頭を下げた櫻真の言葉を桔梗が微笑を浮かべながら、否定した。そして桔梗の言う通りでもある。

 今の自分たちが嘆いているのは、タイミングの悪さだ。

 櫻真が万全でない以上、封門の術に割く人数に数えるわけにはいかない。

「でも、この七つの門の一つを閉じるんだ。確実に五人の術者は必要だぞ」

 冷静な声音でそう告げてきたのは、真剣な表情の魄月花だ。

「君を数に合わせても出来へんか?」

 菖蒲の従鬼である魄月花は、結界、封印などを得意とする従鬼だ。攻撃の術式で考えると火力は乏しいが、こちらの方面でいえば魄月花自身が持つ加護により、他の従鬼とは比肩にならないほどの能力を有している。

 自分たち術者の代わりも務まるはずだ。けれど魄月花は真剣な表情のまま首を横に振ってきた。

「出来なくはない。けど、その術式を組んでる間の結界は誰が張る? 門を丸ごと囲って、尚且つ菖蒲たち主に結界を張るんだ。正直、あたし以外の従鬼でそれが出来る奴なんていないだろ?」

 魄月花の言葉は正しい。

 封門の術式を組んでいる間、鬼絵巻がただ指を咥えて待っているとも限らない。それに門からは、内側にいる高位種の邪鬼たちが溢れかえっている状況だ。

 魄月花の結界無くして、集中し術を組むことは厳しいだろう。

 良い考えが浮かばず、菖蒲たちが考えあぐねていると……

「ここ、どこぉ?」

 やや寝ぼけた様子の百合亜と藤が眼を擦りながら、起きてきた。起きた百合亜に魘紫が嬉しそうに飛びつき、魅殊が藤の頭を撫でている。

 人手不足に悩む、このタイミングで起きた二人を暫し見つめる菖蒲たち。

 声聞力だけで言うなら、百合亜や藤も合格だ。けれど……封門の術式を組むまで集中力を切らさずにいられるかが問題だ。

 魘紫や魅殊と契約が出来るとはいえ、集中力を必要とする術式をやりきれるかは怪しい。

 人数はいても、人手不足に変わりはないという事だ。

 そのため、菖蒲以外の櫻真や桔梗、蓮条、儚、瑠璃嬢たちの顔も険しい表情のまま、固まっている。

 けれど、そんな菖蒲たちに対して、

「お前ら、何でそんな険しい顔してんだよ? 問題は解決したっていうのに」

 あっけらかんとした口調で魄月花が声を上げてきた。

「問題が解決って、人数的な面でやろ?」

「ああ。そうそう。むしろこのチビたち二人が加われば、鬼絵巻を捕まえる人数に別の誰かを当てられるから、一挙両得だな」

 ニィと歯を見せて笑ってきた魄月花に、菖蒲が小さくため息を漏らす。

(アカン。魄月花のやつ……百合亜たちが子供っていう事を抜きにしてはる)

 どんぶり勘定で物を言う魄月花に、菖蒲が百合亜と藤を起用する事に消極的な理由を口にする。だが、それを聞いた魄月花が「それが、どうした?」という表情を浮かべてきた。

「ただ、術式に声聞力を込めるだけとちゃう。しっかり百合亜たちも術式を詠唱して組まへんと、門を閉じる事は難しい。そうやろ?」

「それくらいあたしにだって分かってる。だから、このチビたち二人にも術式を教えてやれば良いんだろ?」

「術式を教える事は出来ても、それを百合亜たちが熟せるかが問題や」

 目を細める菖蒲に、魄月花が首を横に振る。そして不敵な笑みを菖蒲へと向けてきた。

「いいや、出来る。ここには魅殊がいるんだ。魅殊の能力さえあれば、人の集中力なんてどうって事ないんだよ」

「つまり精神干渉が出来はるって事か」

 菖蒲が藤の横にいる魅殊を見る。すると魅殊が菖蒲と目を合わせ、首をコクンと頷かせてきた。

「そんな事が出来るんやったら、もっと早う言うてくれればええのに……一生懸命に考えてたのが無駄になった気分やわ……」

 魅殊の能力を知って、儚がそんな溜息を吐く。

 するとそんな儚の嘆きに、魄月花が快活な笑い声を上げた。

「仕方ないな。魅殊は訊かれた事にしか答えない奴だ。あたしらが訊かなきゃ、答えねぇーよ」

「……AIみたいな従鬼やな」

 むしろ、今ならAIの方が性能が良いかもしれない。使用者の好みを学習して、プランを考えるのだから。

 思わず菖蒲が魅殊に突っ込みを入れると、再び魄月花が愉快そうな声を上げてきた。

「まぁ、何はともあれ……どうにかなりそうやね」

「そやな。……魄月花、櫻真の副作用がどれくらい続くのか知ってはるん?」

 桔梗の言葉に頷きながら、菖蒲が小声で魄月花に訊ねる。

「まぁ、程度にも寄るな。ただ治癒と結界の二つなら……2、3日くらいで治るだろうな」

「そうか。分かったわ」

 桜鬼や蓮条と言葉を交わしている櫻真の方を見て、菖蒲は小さく息を吐いた。

 どうせなら、『当分は』とか『暫くは』などの方が有り難かった。勿論、声聞力を使おうとすれば、身体に痛みが走ってしまうのは難儀だとは思う。

 自分たちが声聞力を使う時は、鬼絵巻を取る時だけでなく、占術やお祓いをする時にも使用するのだから。

 しかし、櫻真は桜鬼と契約してから、声聞力を使えば使うほど力が上がる体質になっている。これも、思惑の糸が櫻真に絡み始めた所為だろう。菖蒲がどんなに術式に励もうと、その速度に追いつけないのだ。だから出来る限り、櫻真に声聞力を使わせたくない。

 そう、自分と戦うその時までは。

もちろん、それは難しいことだ。ずっと櫻真の動きを監視しているわけには行かないし、鬼絵巻と関わっている以上、身の保身のために使わなければならない場面が数多と出てくる。

(この件で同じ轍は踏まんやろうしな……)

 棚から牡丹餅というのは難しいということだ。

頭の中で菖蒲がそんな事を考えていると、香港島に入る時に使った点門へと繋がる点門を桔梗が開いていた。

 それを見て、すぐに菖蒲は目と鼻の先にある問題へと意識を切り替える。

(今からが、正念場やな)

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