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鬼絵巻 〜少年陰陽師 、恋ぞつもりて 鬼巡る〜  作者: 星野アキト
第六章〜珍獣駆ける九龍島〜
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昇華していく魂

 飛廉に乗り、先に鬼絵巻を追う櫻真と瑠璃嬢にも巨大恐竜の姿は見えていた。

「鬼絵巻って、何がしたいの?」

「俺に訊かれても……」

 むしろ櫻真の方が知りたいくらいだ。突如現れた恐竜の性質は霊に近いのか、見える者には見え、見えない者には見えない、という感じになっているようだ。それを思わせるように、海の方を指差し驚いている人もいれば、驚愕する人を見て首を傾げている者もいる。

 あの恐竜たちは実態のある器を持ってはいない。実態のない霊は放置していても構わないが、鬼絵巻の影響が強い今の状況では、それも言ってはいられない。

 体が大きい分、周囲に放出する瘴気の量が多いのだ。

「まず蓮条たちに連絡は入れて……」

 櫻真が端末を操作しようとした瞬間、ヴィクトリア湾海上に、強烈な稲妻が天から轟いた。

 一発の落雷は二匹の恐竜を飲み込んだ。光は香港中に行き届き、昼夜を逆転させたかのような明るさに包まれる。

「魁の攻撃じゃのう」

 呟いたのは、霊体化した桜鬼だ。

 儚の従鬼である魁が落とした雷は、海に大きな穴を穿ち、巨大な恐竜の身体を散り散りにしてしまった。

「すご……」

「魁の攻撃は威力が高いからのう。じゃが、儚の方は平気かのう?」

「儚に何か影響あるん?」

 櫻真の問いに桜鬼が静かに頭を頷かせてきた。

「うむ、あるぞ。魁はとても燃費の悪い従鬼じゃからのう」

 桜鬼の説明によると、魁自身が保有する声聞力は従鬼の中でも三番目に低い。そのため、攻撃を放つ時は、主の声聞力を頼りにしなければならないらしいのだ。

「それにも関わらず、魁の攻撃は声聞力を食う。故に魁自身が倒れる前に、主の方が倒れてしまうのじゃ」

「確かに、それやと儚は大変やな」

 声聞力が切れて倒れた記憶なら櫻真にもある。桜鬼と契約仕立てに撹運と戦った時だ。しかし、それ以降は戦っても意識を失うことはなくなっている。

 櫻真自身も鬼絵巻が現れてから術式の練習量も増やしているからだ。

 以前、桜鬼も「櫻真の日々の努力が報われる、良い結果じゃ」と喜んでいた。

(きっと、儚も練習してはるやろうけど、それでも足りないんやなぁ……)

「でも、それだけ魁の攻撃が強いって事やもんな。さっきの恐竜だって一瞬で……えっ!」

 何気なく恐竜が居なくなったはずのヴィクトリア湾を見て、目をギョッとさせた。

「……こんなん、アリ?」

 ヴィクトリア湾から巨大な恐竜二匹は居なくなった。けれど代わりに、カラス程の大きさのプテラノドンへと姿を変え、数も先ほどよりも増えている。

 身体を小さくした分、数を増やしたという事だろうか?

「やっぱり、親玉を叩かないと駄目かもね」

 瑠璃嬢が海上や街中上空を我が物顔で飛び回る恐竜を見ながら、

「まっ、元からそのつもりだけど」

 と呟いてきた。

(瑠璃嬢は、絶対に回り道とかしないタイプやな)

 内心で櫻真が苦笑を零していると、桜鬼が声を上げてきた。

「櫻真、向こうの建物が飛んでもない事になっておるぞ!」

 桜鬼の指差す先には、色々なお店が入る商業ビルが見えた。そしてその商業ビルの周りを大勢の人が行進している。

 行進していると言っても、百合亜たちを引き連れる鬼絵巻ではない。

「日本……兵……」

 更新している人々は、皆が軍帽を被り、軍服を纏い、肩には刃の付いたライフル銃を持っている。行進の後ろには旭日旗が掲げられている。

 行進を行なっているのは、かなりの数の日本兵士だ。瘴気が一体に満ちている。

 そして行進時の見世物でも行うかのように、兵士の何名かが肩に背負っていた銃をショッピングモールの方へと向け、銃弾を放っている。モールのガラスに亀裂が入る。そこへ続けて銃弾が放たれる。窓ガラスは防弾性なのか、簡単に割れ散ったりはしていないが……繰り返される銃撃に悲鳴を上げている。

 近くには、動くことが出来ずにぐったりしている人の姿がある。

 もしも、あの人に割れた防犯ガラスが当たったりでもしたら大変だ。

「悪いんやけど飛廉……あのビルの前に降りはって」

「その必要はないぞ。櫻真」

 下に降りる指示を出した櫻真を桜鬼が止めて来た。

「鬼絵巻の力で少し霊気が上がっているとはいえ、こちらの気配にも気づかぬ地縛霊じゃ。妾が片手間に浄化して参る」

 実態化した桜鬼が勢いよく、地縛霊となった兵士たちの前へと飛び降りた。

「其方たちも十分にこの土地は堪能したであろう? そろそろ天へと帰る時期じゃ」

 櫻真は飛廉に乗りながら、術式を唱える。

「呪禁の法の下、この地に縛られし死霊たちを救い、解き放つ一閃となれ。急急如律令!」

 指剣の先を櫻真が桜鬼へと向ける。

 櫻真の術式により、桜鬼の刀に白い光が溢れ出す。白い光は、陽の光であり、彼らを救う救済だ。

 桜鬼が刀を片手で持ち、矛先を死霊たちへと向けた。

 剣先で『朱雀、玄武、白虎、勾陳、帝公、文王、三台、玉女、青龍』と唱えながら、五芒星セーマンを描く。

 するとそれが光の結界となって地縛霊たちを捕捉し、天へと昇華させる。

 光を求めるように、次から次へと霊たちが吸い込まれていく。そして辺りにいた霊たちを飲み込み、ようやく光が止む。

 刀を降ろした桜鬼が霊体化し、再び櫻真の元へとやってくる。

「お疲れ様、桜鬼」

 戻ってきた桜鬼に櫻真がそう声を掛ける。しかし戻って来た桜鬼はやや不満そうに頬を膨らませていた。

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