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鬼絵巻 〜少年陰陽師 、恋ぞつもりて 鬼巡る〜  作者: 星野アキト
第六章〜珍獣駆ける九龍島〜
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意見のすれ違い

 櫻真たちが旺角からタクシーを使い、ホテルまで戻っていた。しかし、ここにいるのは、櫻真、蓮条、桜鬼、鬼兎火のみだ。

 瑠璃嬢は、「少し周辺を探してくる」と言って、鬼絵巻を探しへ。儚は「お土産を探してくる」と言って、近くにある大型ショッピングセンターへ行ってしまった。

(離れて、二人の気持ちが少し落ち着けばええけど……)

 すぐに気持ちを治めてくれ、というのも難しいだろうが、二人が同室である以上、気まずいままというのも嫌なはずだし、出来れば普通の空気に戻って欲しいとも思う。

 ホテルの正面玄関には、一台のロールスロイスが停まっていた。高級車から出てきたのは、櫻真たちのよく知る人だった。

「あっ、櫻真、蓮条!」

 車から降りて、こちらに気づいた桜子が顔を一気に明るくさせてきた。桜子の後から降りたのは、一息ついた様子の浅葱だ。

「母さんたちだったんや……」

「サービスで付いとるんやろうな。送迎が……」

 櫻真と蓮条で高級車から出てきた両親に苦笑を零す。

「父さん、思ったよりも早く仕事が終わったんやな」

 浅葱たちに櫻真がそう声を掛けると、今度は桜子が眉を下げて苦笑を零してきた。

「まだ残ってるのもあるんやけどね……。取り敢えずはマストのお仕事だけ徹夜で終わらせたの」

「徹夜したんや……」

 静かに驚く蓮条と櫻真に桜子がこっそり、

「その方が飛行機で寝れるかもしれないって。浅葱さん……飛行機が苦手だから」

 と耳打ちしてきた。

(父さん、飛行機が苦手やったんや)

 普段、一緒に住んでいる櫻真でも知らなかった事実だ。とはいえ、それを踏まえて考え直すと、浅葱は国内の移動も極力、新幹線にしていることが多い気がする。

(だから、最初に香港も嫌がったんかな?)

 浅葱が飛行機嫌いなら、あり得なくもない話だ。

「お部屋に案内します」

 日本語に対応できるホテルスタッフが桜子たちに声をかけてきた。

「じゃあ、また後でね〜」

 桜子が櫻真たちに手を振り、浅葱と共にホテルの中へと消えていく。櫻真たちもそんな両親に続いて、桜鬼たちと共に部屋へと戻った。

「ふぅーー、何か疲れたーー」

 部屋のソファへ櫻真が倒れこむ。部屋の大きな窓からは、ヴィクトリア湾が一望できる。

「桜子たちは、何階に泊まっているのかえ?」

「うーん、何階やろ? 父さんたちに訊いてみようか」

 櫻真が端末を弄り、桜子へと連絡する。

『はいはーい』

(母さん、完全に浮かれとる)

 浮かれ声の母親に面食らいつつ、櫻真が部屋番号を訊いた。桜子たちの部屋は26階にあるらしく、しかも物凄く広い部屋らしい。

 普段なら、「ふーん」で終わらせてしまうが、今回は香港でも格式高いホテルのスイートだ。

 こういう機会でないと見られないのだから、見ておきたいという気持ちはある。

(桜鬼は、行く気満々そうやけど……蓮条たちはどうするやろ?)

 きっと自分と同じく興味はあるだろうな、と思いつつも、

「蓮条ーー。母さんたちの部屋 一つ上の階みたいなんやけど、蓮条たちも見に行かへん?」

 桜子との通信を切り、櫻真は向かい側に座る蓮条に訊ねた。

「うーん、行く。こういう時やないと見れへんし」

「やっぱり」

 自分と丸っきし同じ理由の返答が妙に可笑しくて、櫻真は思わず笑ってしまう。

(やっぱ、俺たち双子やな)

 いきなり笑みを浮かべた櫻真に、蓮条が片眉を上げて、首を傾げている。

「俺、変なこと言うた?」

「いいや、言うてへん。さっ、行こう」

 納得してなさそうな蓮条を他所に、櫻真はソファから勢いよく立ち上がる。

 外国で最高級のスイートルームを見るのも良い思い出になるだろう。そう思いながら。



 両親の部屋は、想像以上の部屋だった。

 天井の高いリビングには、ソファの他にグランドピアノなどが置いてあり、左奥には専用のトレーニングルームなども完備されている。

 部屋には専用の執事も付いていたり、リムジンに乗っていた桔梗たち同様、専用の運転手も付いている。まさにいたせりつくせりの待遇だ。

 浅葱は部屋に気負いすることもなく、さも同然かのように長椅子ソファに寝そべっていた。

「浅葱は、どこにいても浅葱じゃのう」

「䰠宮のご当主様だもの。このくらいで驚いてはいられないわ」

 桜鬼と鬼兎火が関心したように笑いつつ、やはり物珍しげに室内を見回している。

「感動しちゃうよね。和風建築に慣れてると」

 桜鬼たちに賛同したのは、ルンルン気分の桜子だ。櫻真の母親である桜子は、䰠宮に嫁ぐ前も、尋常じゃないほどの大きさの家に住んでいたのだが……やはり、その家も純和風建築であり、純洋風のホテルの雰囲気に新鮮さを感じているのだろう。

 桜子がたまに関西方面のイントネーションで無くなるのも、生まれが東北だからだ。

「あっ、そうそう! 櫻真たち、夜ご飯は何処に行くか決めてる?」

「ううん。決めてへんよ。何で? なっ、蓮条?」

「うん、決めてへん」

 櫻真と蓮条で頷き合い、桜子に視線を向ける。すると桜子が顔の前で、嬉しそうに両手を合わせてきた。

「そしたら一緒にご飯、食べへん? 実は、郊外にある水上レストランを予約してるの。瑠璃ちゃんと儚ちゃんにも言うて」

 桜子の口から出た二人の名前に、櫻真は内心でドキリとした。

 きっと、二人とも夕飯の誘いを断ることはしないだろう。ただ、昼間のことを考えると、すぐに返事をすることはできない。

「……ちょっと、連絡してみるわ」

 櫻真がそう言って瑠璃嬢に。少し自分から離れた蓮条が儚へと連絡をする。

『別に、あたしは良いけど。向こうが嫌なんじゃない?』

「いや、儚には蓮条が訊いてはるから……嫌かは……」

 言葉を濁した返事をしながら、蓮条の方を櫻真が一瞥する。すると蓮条と目が合った。儚と連絡が取れた蓮条も自分と似たような表情を浮かべている。

(蓮条も儚から似たような事を言われたのかも……)

 視線の先にいる蓮条の顔を見る限り、そう思ってしまう。

(ここは俺らが決断するしかないな……)

「じゃあ、行くってことにするわ。どうせ、まだ食べるところ決めてへんかったし」

 瑠璃嬢に話しながら、蓮条にも聞こえる声にした。自分の意思を伝えるためだ。

『……分かった。少し経ったら、そっちに戻る』

 櫻真が瑠璃嬢との通信を切る。

 少し経ってから、蓮条も通信を切ってきた。櫻真が疑問を含んだ視線を蓮条に向ける。すると、蓮条が一度、首を頷かせてきた。

「儚も行くって。まだ、少し声は暗かったけど」

「そっか。でもまぁ、ご飯食べる内に、機嫌が直るって事もあるしな」

 蓮条の言葉に櫻真が頷いていると、

「瑠璃ちゃんと儚ちゃん、喧嘩しちゃったの?」

 目をパチクリとさせて桜子が訊ねてきた。

「……まぁ、ちょっと意見、というか意識のすれ違いというか……そういうのがあって」

 櫻真が困り顔でそう言うと、桜子が静かに苦笑を零してきた。

「二人が話せるきっかけが出来れば、ええね」

 桜子の言葉は、まさに櫻真が思う所でもあった。

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