表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/355

鬼降ろし

「何か、最近……俺ばっかり損してる気分なんやけど?」

 不服そうに眉を寄せているのは、突如現れた鬼の手に強制退場させられた蓮条だ。

「ええ。確かに蓮条の不満は分かるわ。けど、貴方に怪我がなくて本当に良かった」

 眉尻を下げながら、鬼兎火が胸を撫で下ろしている。

「そやけど……。この状況は納得できへんわ」

「俺も、俺も! 納得できねぇーー。全然、暴れられてねぇーし! 俺も鬼絵巻が欲しい!」

 蓮条の言葉に頷いたのは、自分たちと共に強制退場させられてしまった魘紫だ。

 魘紫は竹生島上空に浮く龍神を指差して、地団駄を踏んでいる。

 家へと退場させられた蓮条たちは少しの間、意識を失っていたのだが……目を覚まして、すぐに点門から竹生島へと戻ってきたのだ。

 幸い鬼兎火が言うように、蓮条の身体に外傷はない。そのため、すぐに戦線復帰は出来たのだが、失った時間は惜しい。

ここには桔梗が開いた、上へと戻れるもう一つの点門があるはずだ。

 蓮条が桔梗の声聞力の気配を辿り、もう一つの点門を探っていると……

「こんな離れた場所で、コソコソと何するつもりだ!?」

 血相を変えて、隆盛と彩香がやって来た。

(ああ、次から次へと邪魔が入りよるっ!)

「そっちには関係あらへんやろ? むしろ、何もしてへんし、邪魔やからどこか行っとき」

 蓮条が表情を険しくさせる隆盛たちに睨み返す。しかし、相手もそう簡単に引き下がるはずもない。

「よく言うぜ。お前らが変な香りのする奴を使って、俺たちを嵌めて来たんだろうが!」

「変な香り?」

 隆盛の言葉に反応したのは、鬼兎火だ。

 けれどそんな鬼兎火に返答する前に、臨戦体勢の隆盛たちが「鬼降ろし」の術式を唱えて来た。

 隆盛が自身の式鬼神である朱雀を招喚し、その朱雀と一体化する。

「これやな。櫻真たちが言わはってた鬼降ろしっていうのは」

「ええ、そう見たいね」

「すげぇ、すげぇ。プリメリみてぇ!」

 朱雀と一体化した隆盛は、赤いオーラを纏い、そしてその全身を昔のアニメさながらの金色の甲冑で覆っている。

 六合と一体化した彩香は隆盛のような全身甲冑ではなく、赤い中華ドレスのような格好だ。その手には、中華刀が握られていた。

「火行の法の下、煉獄業火を錦の御旗に、邪鬼を焼き尽くさん。急急如律令!」

 蓮条が鬼兎火へと護符を投げ、その護符が赤い刃となり彼女の手に握られる。

「俺も戦う! 戦いたい!」

 戦闘態勢に入った鬼兎火を見て、魘紫が再び駄々を捏ね始めた。

「戦いたい言うても、主の百合亜が居らへんやん」

 勿論、従鬼単独でも戦うことは出来る。けれど従鬼は主の声聞力を得て戦うため、主不在の戦いだと力が劣ってしまうのだ。

 するとそんな蓮条に鬼兎火が口を挟んできた。

「仮にいつもより劣ってしまうと言っても、魘紫を参加させるのは賛成よ。魘紫は第七従鬼だから、桜鬼に次いで主無しの戦いでは強い従鬼だもの」

 鬼兎火の言葉を聞いて、蓮条も少しの間、考えた。

 鬼降ろしを見た櫻真や儚の話によれば、その強さは従鬼と渡り合えるほどの力だという。それを考えれば、自分が強化するにしても鬼兎火一人で隆盛たち二人を相手にするのは厳しいだろう。それに、鬼絵巻との戦いに備えておく必要もある。

「……そやな。なら魘紫にも一緒に戦ってもらおうか」

 蓮条が魘紫を見て言うと、魘紫がニィと笑みを浮かべてきた。

「おう。それに……百合亜の事なら大丈夫。今、呼ぶから」

 魘紫が間髪入れずに、腹を膨らませるほどの息を吸い、そして……

「百合亜ーー! 下に降りて来いよーー! 面白い格好の奴が見れるぜぇええーー!」

 術で強化してなければ、蓮条の鼓膜は確実に破れていた。

 それほどの大声で魘紫が百合亜へと呼びかけたのだ。

(呼ぶんやったら、霊的交感にすればええのに……)

 キーンと痛む耳を抑えて、蓮条が恨めしげな視線を魘紫に送る。けれど魘紫の方もまるで気にした素ぶりもなく、両手を腰に当て威張りのポーズだ。

 おかげでやる気満々だった隆盛たちの勢いも少しだけ削がれている。

 しかも、魘紫の絶叫を聞いた百合亜が藤と共に桔梗が作った点門から、ひょこっと顔を出して来た。

 そして、変身した隆盛たち(主に隆盛)を見るやいなや……。

「わぁあ! 本当だーー!」

「ピカピカに光ってる……」

 子供の純粋さ丸出しで、目を輝かせてしまった。

「百合亜。今からアイツらと戦うんだぜ? 俺たちの強さを見せてやろうぜ!」

「うん、いいよ! やろう、やろう!」

「僕もやる」

 魘紫の言葉にぴょんぴょんと跳ねる百合亜や藤の姿に、蓮条は頭を抱えたくなった。

「鬼兎火……どないする?」

 蓮条が困り顔で鬼兎火に助けを求める。

 けれどさすがの鬼兎火もこの状況は想像していなかったらしい。少し困り果てた顔を浮かべてから……ポンと手を叩いた。

「蓮条、このままあの子たちに女の子を相手にして貰いましょう」

「えっ? でも大丈夫なん? 百合亜たちまだ『戦う』って事が何か理解してへんよ?」

「大丈夫よ。メインで戦うのは魘紫と魅殊なんだし」

「まぁ、そうやけど……。でもまだ問題はあるで? きっと百合亜たち住吉隆盛の方と戦いたがるんやないかな? あっちの姿に惹かれてはるみたいやし」

 例え、自分たちが「百瀬彩香」の方と戦って、と言っても百合亜たちは難色を示すはずだ。

 しかし、そんな蓮条の心配に対して鬼兎火が片目を瞑ってきた。

「そこは任せて。良い説得方法を考えてあるから」

 そう言って、鬼兎火が魘紫たちを集め……小声で何かを話し始めた。

(どんな説得してはるんやろ?)

 自我が強い子供をどう説得するのか? 全く想像ができない蓮条が疑問符を浮かべている間に、満面の笑みを浮かべた鬼兎火が屈めていた体を上げた。

 そして、蓮条にオッケーサインを送ってきた。

「おい、まだかよっ!」

 焦ったそうな声を上げたのは、今まで律儀に待機してくれていた隆盛たちだ。

 どうやら魘紫の大声及び百合亜たちの登場によって、完全に出端を折られた様子だ。

(ただ単にええ奴なだけか……)

 内心でそう思いながら、蓮条が隆盛たちに向かって声を掛けた。

「待たせてしもうて、悪かったわ。おかげでこっちの準備が整った。おおきに」

 蓮条の言葉に、隆盛が一瞬だけ目を瞬かせ……

「あーー、何で俺……律儀に待ってたんだぁあ!」

 頭を抱えて悔しがり始めた。そんな隆盛に今度は蓮条が目を点にさせる。

(待ってたわけやなかったんや……)

 蓮条の中で隆盛はええ奴からアホな奴へと印象が変化した瞬間だ。

「まぁ、ええわ。行くで、鬼兎火!」

 気を取り直し蓮条が指剣を構え、鬼兎火が刀を上段で構えて隆盛への接近を開始した。

 鬼兎火と蓮条の動きを見て、頭を抱えていた隆盛も一気に表情を引き締めてきた。自身へ向かって来る敵を前に、隆盛の戦闘スイッチが入ったらしい。

 蓮条たちが少しの会話をしている隙に、鬼兎火に説得された魘紫と魅殊が彩香へと突貫していた。

 いきなり魘紫たちに突撃された彩香は、一瞬で右遠方へ吹き飛ばされる。

「彩香っ!」

「女の子が心配なのは分かるけど、横目を向いてる場合じゃないわよ?」

「くそっ。すぐ終わらせてやる!」

 焦り苛立った様子の隆盛が向かってくる鬼兎火に向けて、右拳を突き出す。

 するとその突き出された拳から、炎の拳が突き出される。炎の拳は地面を炙り、削りながら鬼兎火へと一直線だ。

「炎で私に勝てると思わないで」

 鬼兎火が微笑み、その炎の拳を刃で斬る。そしてその斬り捨てたはずの炎を自らの炎へと昇華させ、隆盛への斬撃とした。

 斬撃は一つの大きなものから、分散し無数の小さな斬撃へと変化する。

「炎舞、乱れ突き」

 鬼兎火の言葉に合わせて、無数の斬撃が隆盛へと襲いかかった。隆盛は顔の前で腕を交差させ、防御の姿勢を取っているが、その表情は険しい。

 当然だ。斬撃の攻撃範囲が小さくなったとはいえ、威力が落ちたわけではないのだから。それに加え、攻撃のヒット数が増えれば、それだけ身体に負担が来る。

 けれど鬼兎火の攻撃を受けた隆盛は、口元に笑みを浮かべていた。

「この位でへばって、たまるか!」

 鬼兎火の斬撃を全て受け切った隆盛が即座に動く。鬼兎火に向かって、恐れなく接近する。

 刀を胸の前で構える鬼兎火に、隆盛が炎を纏った蹴りを鬼兎火へと繰り出す。

 鬼兎火がそれを刀で弾き、すぐさま斬り返す。

 斬り返された刃で左斜め下から、右斜め上に向かう炎の斬線を描く。隆盛がその斬線から逃れるように後ろに跳躍し交わす。

 瞬時に斬り返した鬼兎火の速さに見切るのは、さすがとしか言いようがない。

攻撃を回避した隆盛が両手から、炎弾を容赦なく連射してきた。

 隆盛が放つ炎弾は、蓮条の結界を容赦無く打ち付けている。攻撃が着弾した地面からは、次々に炎と白い煙が立ち込め、相手の姿が捉えられないほどだ。

 蓮条は一息吐き、意識を集中させる。そして鬼兎火に対する術式を詠唱した。

「木行の法の下、爽風よ我が業火を救援せし鉾となれ! 急急如律令!」

 飛翔してくる炎弾を斬りながら、隆盛へと肉薄する鬼兎火を風が包み込む。鬼兎火の刃に纏わりつく炎が緋色から紺色へと変わった。

 炎の温度がさらに上昇した証拠だ。

 鬼兎火が上段に刀を構え、炎弾を飛ばしていた隆盛へと刃を振り下ろす。隆盛も鬼兎火の攻撃を避けようと動いたが、今度は刀の速度が相手の速度を上回った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポイントを頂けると、とても嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ