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深まる謎

 夕刻になり、佳たちは竹生島に向かう準備をしていた。

竹生島に向かうのは、自分と紫陽。そして仏頂面の隆盛だ。

「やっぱり、待ってた方がええんじゃ……」

「ぜってーヤダ。俺がただ待ってるだけなんて、天変地異が起きてもありえねぇーから」

「そう、言わはってもな……」

 書き足した護符を術式で作った簡易の空間収納にしまいながら、佳は隆盛を見て溜息を付いていた。

 竹生島に行く未来を占術で訊くと、行くと出たのは自分と紫陽だけだった。

 つまり、自分の前で行く気満々の隆盛は、彩香たちと同じく留守番という結果が出たらしい。けれど隆盛本人は納得行かないらしく、「俺は男だから」という理由で着いて行こうとしている。

「留守って出たって事は……行ってもあんまり意味がないって事やないの?」

 言い難い事だが言わなければいけない。

 せっかく行ったのに、骨折り損のくたびれ儲けではあまりにも可哀想だ。けれど、そんな佳の悲哀は、護符を用意している隆盛には届いていない様子だ。

「祝部君たちの迷惑にならない様でしたら、連れて行ってあげてください」

 嘆息交じりにそう言ったのは、額に手を当てた彩香だ。自分よりも隆盛と付き合いの長い彩香は、隆盛は止めても無駄という事を熟知しているのだろう。

「星が指し示した事でも言うこと聞かないんですから……アレでよく陰陽師を名乗れますよね?」

「た、確かに……」

 星の示した結果が全てだと思っている自分たちからすると、隆盛の行動は逸脱している。

 しかし、彩香いわくそれが隆盛という人間の人柄らしい。

「まっ、とは言っても……大抵はどこかしらで隆盛が星の示した道通りに軌道修正がされてしまうんですけどね」

「それじゃあ、最初から言う事を聞いた方がええんちゃうの?」

 佳がそう言うと、彩香が諦めた様に首を横に振ってきた。

「それをしないのが隆盛なんです。最初から諦めるのは性に合わないらしくて、一度失敗しないと気が済まない」

 彩香の言葉を聞きながら、「結滞な性分やなぁ」と呟きながら、ふと自分も言えた義理じゃないと考えを改めた。

 もし、仮に隆盛と自分が逆の立場だったら……自分も彼と同じ事をしただろう。

(俺も住吉と同じやったな)

「隆盛らしくて、可笑しいですよね?」

 隆盛と自分を重ねて笑った佳を、彩香は「隆盛の奇行に笑った」と思ったらしい。

 そんな彩香に佳が曖昧な返事を返す。

 正当な陰陽師である彩香からすれば、隆盛や自分の様に星の声を無視するのは愚行に見えるのは当然だ。

 しかし、そんな彩香が「でも……」と言葉を続けてきた。

「私は絶対的な星の言葉を聞いても諦めない隆盛の姿は良いと思います。私も含め、術者が星の声を無視するのは、どうしても勇気が要りますから」

 そう言って苦笑した彼女は、自分自身を責めている様に見えた。

 だからこそ佳は苦笑を浮かべながら、彩香に向けて首を横へ振る。

「でもその勇気はただの蛮勇かもしれへんよ?」

 佳の言葉に少しだけ、彩香が目を丸くする。そして自分の表情から何かを察したかの様に、彩香が小さく笑ってきた。

「まさか、隆盛の仲間がこんなに近くにいると思いませんでした」

 そう言ってきた彩香に佳が苦笑を浮かべ、自分でもついさっき気づいた事を白状した。



 用意してもらった船へと乗り込む隆盛たちを見送り、彩香は再び部屋へと戻ってきていた。

 ああいう話をした後という事もあり、彩香は自分も同行しようか逡巡したが……それを見透かした紫陽にやんわりと制止されてしまったのだ。

「本当は……隆盛も留守番して欲しいくらいなんだ。もし君までって言ったら、穂乃果はともかく今度は夜鷹さんが参入してきそうだからね」

 やや困り顔を浮かべる紫陽の顔を見て、彩香は駄々を捏ねるのを辞めた。

(まさか、夜鷹さんまで同行を希望していたなんて……)

 どんどん隆盛属性が増えているのを感じて、彩香は小さく溜息を吐く。

「でもまぁ、私が言える立場ではないですけど」

 実の所、隆盛に感化されている節があるのは自分でも認めている。けれど、隆盛に感化されつつある自分とは違う、佳や夜鷹ですら星の声を無視する気があるのとは思わなかった。

 自分の生家でもある百瀬の家では「星の声は神の声」と言われて育ってきた。

 神にとって自分たちは、ちっぽけな存在だ。そんなちっぽけな存在が神の声に背くことは『絶対』にできない。

 そしてその言葉は、未だに破られてはいないのだ。

 隆盛は占術をして、その結果が気に入らなければ反駁する。けれどその反抗の結果は、星の声の言う通りになっているのだ。

失敗する隆盛を見て、彩香は諦める事を進めた。けれど隆盛はそんな自分を一顧だにせず、

『俺の未来を見た事もねぇ奴に決められるのは、嫌なんだ』

 と神様相手に無茶苦茶な論をぶつけてきたのだ。

 それを聞いた時、彩香は頭が痛くなった。

 けれど、その言葉に人間の意地の様なものが見えて、内心で笑ってしまったのも事実だ。

(でも、きっと今回も失敗に終わってしまうんでしょうね……)

 正直、今の隆盛が星を相手に抵抗を見せられる程の力は有していないのだから。

 彩香は苦笑しながら、連敗し拗ねた様子で帰ってくるはずの隆盛への小言を考え始めようとしていた。そんな矢先。

 部屋に置いてあるソファの上に、不愉快そうに寝転ぶ穂乃果の姿が目に入った。

 こういう時の穂乃果には、あまり関わらない方がいい。

 そう頭では分かっているのだが、彩香が穂乃果から目を離す間もなく、不機嫌な彼女と目が合ってしまった。

「……どうして、そんなに不機嫌そうなんですか?」

 不機嫌な視線に凝視され、堪らず彩香が口を開く。すると、穂乃果が大袈裟な溜息を吐いてきた。

「百瀬ちゃんも思わない? この状況が非常に面白くないって」

「でも、それは致し方ない事なのでは? 宝玉に近づくこと無に等しい、という結果が出てしまったのですから。でも、意外でした。鳴海さんがこの状況を芳しくないと思っていたなんて」

 穂乃果は能力的には問題ないものの、自分たちの中ではやる気のない分類だ。

 そんな彼女なら、自分が動かなくても良い、この状況を喜んで享受していると思っていた。そのため、不服そうな表情を浮かべる穂乃果に失礼ながら驚いているのだ。

 しかしそんな彩香を見て、穂乃果が「分かってないなぁ」と呟きながら首を振る。

「百瀬ちゃんが勘違いしてるようだから言っておくけど、別に穂乃果は紫陽さんたちに付いて行きたかったわけじゃないからね?」

「えっ? そうなんですか?」

 目を見開いて彩香が答えると、穂乃果が黙って頷き返してきた。

「じゃあ、どうしてこの状況が面白くないんですか?」

 穂乃果の考えている事が分からず、彩香が首を傾げさせる。すると穂乃果が俯せに寝ていた体を反転させながら口を開いてきた。

「だって、今の状況ってただのハーレムじゃない?」

「ハーレム?」

 穂乃果の意図がますます分からなくなり、彩香が顔に戸惑いの色を滲ませる。

「分からないの? 今の鬼絵巻の状況はまさにハーレムじゃない?」

「ちょっと待ってください。ハーレムって鬼絵巻の事を言っていたんですか?」

「もちろん。佳君と隆盛君は除外にしろ、後の人たちは粒ぞろいのイケメンなんだよ? その人たちが自分を巡って争うわけ。つまりはハーレムじゃない?」

 彩香にそう説明しながら、穂乃果が「私以外で奪われ合いされるとか、許せない〜〜」と言って足をバタつかせている。

 彩香はそんな穂乃果を見て、呆然と言葉を失っていた。

 隆盛の無鉄砲さとは、また別の意味で頭が痛くなる。

「そいつの言葉をまともに聞いてると、馬鹿を見るぞ」

 片手で米神を抑えていた彩香にそう言ったのは、目を眇めた遠夜だ。

「あっ! 遠夜君! 私の隣に来る?」

 鬼絵巻相手に幼稚な敵対心を見せていた穂乃果が、けろっとした表情で起き上がり、遠夜へと手招きをしている。

 けれど、そんな穂乃果の誘いを遠夜が目を細めて一蹴した。

「行かない」

「ええーー、今の荒んだ穂乃果の気持ちを慰められるのは、遠夜君だけなのに〜〜」

「俺には無理だ」

 どこまでも素っ気なく答える遠夜に穂乃果が頬を膨らませて、

「じゃあ、また明音ちゃんにでも……」

 と意味深な事を言った瞬間、遠夜が横目で穂乃果を睨んできた。けれどそんな遠夜に臆した様子もなく、穂乃果は「冗談、冗談」と軽く笑った。

「穂乃果にそっちの気はないもん。あっ、でもさ、どうして隆盛君と遠夜君は同行出来なかったんだろうね?」

 話を逸らしたというよりは、ふと思い浮かんだ事を口にした様子の穂乃果に、遠夜が怪訝そうな顔で肩を竦めた。

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