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竹生島の物語

竹生島に降りてから、櫻真たちは島中を隈なく歩き鬼絵巻の気配を探っていた。

 けれど、それらしい気配はまるで無く……島の南東にある竜神拝所から湖を見ながら、桜鬼と共に肩を落としていた。

「やっぱり、俺の勘違いやったんかなぁ?」

 すっかり自信損失をした櫻真が小さく息を吐き出す。すると隣で肩を落としていた桜鬼がフルフルと首を横へと振ってきた。

「櫻真、まだそうと決めるのは早いぞ。鬼絵巻はまさに神の気まぐれの様なもの。きっと姿を表す時も何かしらの条件があるのかもしれぬ」

「そうやな。うん……。昨日の声と言い、今日の占術といい、当てはまるとしたらここやもんな!」

 むしろ、ここ以上に当てはまる場所が思い浮かばない。きっと自分を励ましてくれた桜鬼も同じ気持ちだろう。

 櫻真は気を取り直して、辺りを見回した。

 竹生島は琵琶湖に浮かぶ小さな島だ。島中央の南側に行くつかの神社が建てられており、停泊所近くには数件の売店がある。神社がない部分の殆どは林に覆われており、観光客が足を踏み入れることのない。

(どないしよう? 鞍馬山の時みたいに……林の中に入る事になったら……)

 以前の古傷を思い出して、櫻真が顔を曇らせる。

「櫻真、どないしたん? そんな微妙な顔をして?」

「蓮条……。いや、別に大したことでもないんやけど、少し嫌な事を思い出して」

「嫌なこと?」

「あっ、いや。ホンマに大した事やないから。それより、蓮条、何を持ってはるん?」

 櫻真が蓮条と鬼兎火が持っていた土器を指差した。

「これは、“かわらけ”よ。これに願いを書いて、湖面に突き出た鳥居に向かって投げ入れるの。まぁ、いわば願掛けね」

 鬼兎火が手に持っていた未だ何も書かれていない、土器を見せてきた。

「へぇ、そんなのあるんや。鬼絵巻の気配を追うのに夢中で見てへんかったわ」

「櫻真と桜鬼……船降りてから、物凄い勢いで鬼絵巻を探しに行きはったもんな」

「ふふ。そうね。それで? 鬼絵巻の手掛かりは見つかった?」

「今の妾たちを見て、見つかったと思うのかえ?」

 少し意地悪な質問をしてきた鬼兎火を桜鬼がジト目で見る。すると、鬼兎火が「確かに、そうね」と言って苦笑を零してきた。

 そんな鬼兎火を見て、櫻真がふと思った事を口にした。

「でも、何か珍しいな? 蓮条たちが鬼絵巻の名前を聞いても焦らへんなんて」

 竹生島に来る間に、蓮条たちに櫻真が聞いた声の事などは話してある。そして、話を聞いた蓮条たちも自分たちの考えに、肯定的だった。

 そのため、蓮条たちも櫻真たちと同じくらい鬼絵巻を探すと思っていたのだ。

「もしかして、情報提供者の俺らに気を使っとる? それが敵からの塩は受け取らへんとか?」

「敵って……。よう言うわ。そんな風に見てへん癖に」

「否定はせんけど。蓮条がどう思ってはるかは分からへんやん?」

 物言いたげな蓮条の視線に、櫻真がそう弁明する。櫻真自身、自分の考えが甘いことは前より自覚しているつもりだ。

 けれど、そんな自分に双子の片割れは、呆れ混じりの溜息を吐いてきた。

「敵意がない奴を敵視するほど、もう俺も子供やないわ。むしろ、俺と鬼兎火やてのんびりしてるわけじゃないで? なっ?」

 同意を求めるように、蓮条が鬼兎火を見る。

「ええ。桜鬼たちが足を使うのなら、私たちは頭を使っただけよ?」

「頭をとな? どういう事じゃ? 今の状況で頭を巡らせる事は無いように思うが?」

「先に言っておくけど、私たちも正解を見つけられたわけではないわ」

 首を傾げる桜鬼に鬼兎火がそう断りを入れてきた。一体、どういう事なのだろう? 話の先が見えず、櫻真が桜鬼と顔を見合わせて首を傾げる。

 すると鬼兎火が「けどね、正解には近づいたわ」と言って、話を続けてきた。

「私もこの島に来てから鬼絵巻の気配を探ってみたの。けど、気配は感じなかった。一瞬、的が外れたんだと思ったけど、考えてみたのよ。櫻真君が耳にした声の言葉と、竹生島の物語を」

 意味深に細められた鬼兎火の表情は、さながらテレビなどで見る探偵のようだ。

 そしてそんな彼女の表情を櫻真と桜鬼が食い入るように見つめる。

湖の方から吹く風が櫻真たちから、夏の暑さを忘れさせていた。

「鬼絵巻は月が出るのを待っているのよ。月魄の恩師って言っていたんでしょ? 月魄は月の精を指す言葉だもの。それに竹生島でも漁翁と浦の女は、一度姿を消している。しかも今晩は満月よ。凄く舞台が揃ってると思わない?」

 櫻真と桜鬼は、鬼兎火の言葉を聞いている間、納得し自然と頭を頷かせていた。

「確かに。鬼兎火たちのいう通りやな! あ〜〜、何でもっと早く気づかんかったんやろ? アホや〜〜」

「いや、まだ気が早いで? 鬼兎火の話は筋が通ってはるけど、まだ確定ってわけやないし」

「そうじゃ。櫻真はアホではないぞ。どちらかと言えば、妾に非がある。妾が考えもせず勢い任せに動いてしまったのだから。櫻真はそんな妾に付き添ったに過ぎぬ」

 脱力しその場でしゃがみ込んだ櫻真に、蓮条が待ったを掛け、桜鬼がフォローを入れてきた。心配性の蓮条と、櫻真ファーストの桜鬼らしい言葉だ。

 そんな二人に櫻真が微笑を浮かべて、立ち上がる。

「とりあえず、俺も蓮条たちの話に乗るわ。どうせ、他に当てがある訳でもないし。それに、桜鬼も気にせんで。俺も考えてなかったのは事実やから」

 櫻真が桜鬼に笑いかけると、桜鬼がいつもの感極まった様子で抱きついてきた。

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