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因果応報

 夜鷹の方を見ると、顔から凄い量の汗を掻いている。

(おいおい、あの量の汗……ヤバいんじゃないのか? 人間的にっ!)

 夜鷹の容態に口をあんぐりさせる隆盛だが、そんな自分を他所に夜鷹は、まるで砂風呂を楽しんでいるかのような余裕の笑みだ。

 そして夜鷹に質問された百合亜たちが、キョトンとした顔で……

「知らない人に、お家の場所とか訊かれても教えちゃダメって、先生に言われたよーー。だから言わなーーい」

「僕も、先生に言われた」

「…………。まあまあ、とても教育熱心なお子様たちなのですね。良き事です。では今度、先生にお会いになった時にでも、質問してみて下さい。知らない人を砂に埋めて、棒倒しゲームをするのはどう思いますか? と」

 小さい子供に正論を吐かれ、大人気ない事を言う夜鷹。今のこの状況が分からない先生からすると、困惑する質問だろう。

 けれど、先生=何でも知っていると信じている百合亜たちは首を縦に頷かせている。

「うん、良いよ。今度、先生に訊いといてあげるね。お姉さん、お名前なんだっけ?」

「……匿名Yという事で。私も昔、恩師から個人情報の開示を禁止されていましたから」

(うわっ、子供相手にやり返した!)

 これまた大人げない事を笑顔で返した夜鷹に、隆盛が顔を引き攣らせる。

 けれど百合亜たちは、夜鷹のそんなやり返しに気づいてない様に……

「そっか。でもお名前言っちゃってるよ? 『とく名Y』さんって言うんでしょ?」

「言っちゃったね」

 と首を傾げさせてきた。

 時に子供の純粋さは、大人の醜さを凌駕してしまうものだ。

「でも、もう加藤先生たちには会えなくなっちゃうんだーー。ねぇ? 藤?」

「うん、そう……」

 少ししょんぼりとした様子の百合亜と藤に、夜鷹が少しばかり目を見開いた。

「何故、会えないのでしょう?」

「んーとね、百合亜たち……今度から新しい学校に行くんだよーー」

「なるほど。それはきっとーー鬼絵巻が関係しているのでしょうね? お友達と離れるのは辛いでしょうに」

 同情的な物言いの夜鷹が眉を下げる。

 けれど、そんな夜鷹に百合亜たちは少し考えてから、スコップを使って砂を穿り始めた。

「ちょっと寂しいけど、大丈夫だよーー。新しい友達も出来るし、魘紫も藤もいるから」

「それに、また会えるもんね」

「そうですか。早く再開できると良いですね」

 夜鷹の言葉に、藤が表情を変えないままコクンと頭を頷かせた。

 それを横目に見ていた隆盛が、少し遣る瀬無い気持ちで息を吐き出した。

「あら、顔に似合わず物思いにふけているの? 貴方だって、あの子達と同じ形で、こっちに来るんじゃなくて?」

 こちらの動きを把握しているかの様に、意地の悪い笑みを葵が浮かべてきた。

「……俺は良いんだよ! 自分で決めた事だし、別れが寂しいって年頃でもねぇーからな」

「あらまーー、自分の事を大人だと思ってるの? あら、ヤダ。痛いわね。大人振るのが子供の証拠だって気づかないのは、まだまだ青い証拠なのよ?」

 痛いと言われ、小っ恥ずかしくなった隆盛の顔が一気に赤くなる。

「うるせーー! 別に良いだろ? 俺が自分の事をどう見てようとっ!」

 その勢いのまま隆盛が砂の山を大胆に崩す。

 少しの水分で固められていた砂がサラサラと崩落していく。

「あっ、やん。もう大胆なんだ……」

「あ、あああああーーーー! 二回もそんな奇妙な声音にやられてなるのもかーー!」

 妙に甲高い声を上げる葵の言葉を、大声で掻き消す。

 一度ならず二度までもこの声に惑わされる訳には行かない。すると葵が小さく「チッ」と舌打ちをしてきた。

 やはり隆盛の事を再び動揺させようとしていたらしい。

(ふんっ。そう簡単に同じ失敗をする俺じゃないぜ)

 葵に小さな意趣返しに成功した隆盛が口の端を上げていると……

「ああっ! そんなっ、そんなっ! お子様という事で侮っておりました! まさか、そんな際どいコースを進んで行くだなんて……。なんて末恐ろしいのでしょう!?」

 夜鷹がさっきの隆盛に負けず劣らずの大声で、叫び散らしている。

 大人が上げたまさかの大声に百合亜と藤も体をビクッと震わせた。そしてお得意のきょとん顔。

 同じく驚いていた隆盛がそちらの方を見ると、百合亜と藤が夜鷹の足の間の砂を取り除き、トンネルの様に開通させていた。

 どうやら夜鷹を砂の山に見立て、トンネルを作ったらしい。

「あちゃ〜〜、百合亜たちやっちゃったわね。きっちり固めていない砂山でトンネルを作るだなんて、愚の骨頂よ?」

 葵の言葉の通り、見る見る内に夜鷹を包んでいた砂たちが一気に流れ落ちていく。

 百合亜達も手で慌てながらも必死に、崩れる砂を食い止めようとするが……

「これは、これは……」

 夜鷹も哀しげな表情を浮かべ、自分を包んでいた砂が無くなるのを見守っている。

 この時点で隆盛の勝利が決まった。

 それを見定めた紫陽が満足げな顔で、自分たちの勝利宣言をしてきた。

「䰠宮チームの砂が全て落ちましたので、これにより棒が倒れたと見做します。よって、五本目の棒倒し勝負は……陰陽院チームの勝利とします」

 紫陽の隣で、䰠宮チームである桔梗が心底残念そうに片手で額を押さえている。

 そして紫陽がすぐさま指剣の構えを取り、

「夜鷹さん。おめでとうございます。これは勝利の花火ですよ」

 と言って夜鷹の足元に術式を構築し始めた。

「あのぉ、人間ロケットの件……実はブラフだったり致しませんか?」

「ないですね。その約束を反故しちゃうと、僕らの方に苦情が来ちゃいそうなので……」

「そうですか。私は非常に残念で仕方ありません」

「ええ、本当に……」

 苦笑を浮かべた紫陽がそのまま術式を発動する。

「ああ、今日日二度目にございます」

 嘆きを漏らした夜鷹が足元から火を吹き、琵琶湖の方へと飛んで行く。

「マジで、人間ロケット……やりやがった……」

 本音を言えば、隆盛も本気で棒役である二人を飛ばすとは思ってもいなかった。

 まさしく因果応報。

 これまでの勝負で、審判役として葵と共にやりたい放題していた夜鷹への罰が下ったのだろう。

「あら、ヤダ素敵。人間って、ちゃんと放物線を描いて飛んでいけるのね」

 飛ばされなかったのを良いことに、葵が手を額に当て、飛んでいく夜鷹を見て余裕の表情だ。

 無事に勝利を掴めたのは良かったが、葵にも人間ロケットになって欲しかった、という気持ちは胸にある。

 夜鷹と同じく好き勝手にやっていたのは、この女も同じなのだから。

 けれどその気持ちは、隆盛以外の人たちも思っていたらしい。

 その代表格である桔梗がニッコリと笑みを浮かべて、葵の肩を叩く。

「お友達が空を飛んでるのを見たら、君も飛びたくなったやろ?」

「いえいえ、そんな事は微塵も思っていなくてよ?」

 葵も桔梗に笑顔で返すが、その瞬間……葵の姿が消えた。

 消えた葵は先を行く夜鷹と同じく足元から火を吹き、綺麗な放物線を描いていた。

「一人だけ、罰を受けへんのは……狡いやろ?」

 湖の方へ綺麗に飛んでいく葵を満足そうに見る桔梗の一言に、隆盛は内心で大きく頷いた。

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