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ルールを守れない奴は

「次は緑に右手置きなさい」

 にっこり満面の笑みの葵に、瑠璃嬢が舌打ちを鳴らす。

「この状態で右手動かせとか……あたしの腰を砕こうとしてるわけ!?」

 文句を言う瑠璃嬢の体制は、上半身を後ろに大きく逸らした、体操でいうブリッジの姿勢だ。

 今瑠璃嬢の手があるのは、黄色の円。緑の円はその更に上だ。

 ローションで滑るマットで、不安定な姿勢を維持するのは至難の技だ。

 その点、陰陽院チームの遠夜の場合は……瑠璃嬢よりも身長がある分、割とあっさりと左手を移動している。

「いいぞ、朔月! この勝負、俺らの貰いだな」

 隆盛が仲間の優勢に歓喜の声を上げる。

「瑠璃ちゃん、あんなこと言われてるわよ? どうする? ここで女の意地を見せないと」

 そう言いながら、左手を中々移動できない瑠璃嬢を見て、テンカウントをし始める。

(マズイなぁ……)

 マットの上にローションが塗られていない状態なら、まだ瑠璃嬢にも勝機はあっただろう。元々、櫻真たちの中でも身体能力が高い彼女だ。

 けれど今は、滑りやすいマットの上で普段以上の力を使っているのだろう。

「5・4・3……」

 テンカウントが徐々に0へと近づいていき、櫻真たちの中で敗北の色が濃くなっていく。

(いや、瑠璃嬢はよくやった方やな……)

 今回の勝負において、条件と相手が悪すぎた。そう誰もが思った瞬間。

「ちょっと、カウント……止めて、くれない?」

 空気が詰まった様な声が櫻真たちの耳に聞こえてきた。

 瑠璃嬢の方を見れば、瑠璃嬢が右腕をピンと飛ばし、右手の四本の指先で緑の円に触れていた。

「ナイス、ガッツや! 瑠璃嬢っ!」

 瑠璃嬢が見せた意地に蓮条が声を上げる。

 けれどそれに反して、瑠璃嬢の従鬼である魑衛は訝しげだ。

「これまでに、あの小僧が瑠璃嬢の体に触れる機会が二度あった。だがっ! 次の三度目があろうものなら、私はその時点であの男を斬る。斬るしかない」

 ツイスターゲームの性など知らない魑衛がそんな物騒な事を言っている。

 瑠璃嬢が伸ばす右腕が丁度、黄色の円に触れる遠夜の左腕に重なっている状態だ。きっと遠夜の腕を支える形で、瑠璃嬢は体制を維持しているのだろう。

「いやいや、それはアカンからっ! それに触れてる言うても、腕や腕っ!」

「そうや。ウチの前のビーチで流血沙汰なんて気色悪いやん」

 蓮条と儚で徐に刀を取り出し始めた魑衛を止めに入る。けれど、愛する主が見知らぬ男に触れられるのが我慢ならない魑衛。

「百合亜、藤、早うスピナー回してっ!」

 出来れば、瑠璃嬢と遠夜が離れるカラーが出てくれるのを願いながら、櫻真が百合亜と藤に声を掛ける。

 この空気をいち早く抜け出す為には、先に進んで、瑠璃嬢か遠夜のどちらかが倒れてくれるしか方法はない。

 けれど、そんな櫻真の声は虚しく百合亜と藤は、籠の中で手足をバタつかせる輝夜の方に意識を向けていた。

「スピナー回す役が離脱したら、アカンやろっ!」

 櫻真がそう叫びながら、スピナーを回す。櫻真の声を聞いた百合亜と藤は「あっ、忘れてた……」などと呑気に呟いているのが聞こえてきた。

 内心でそんな百合亜たちに溜息を吐きつつ、櫻真はスピナーの針が何色を指すかを見守る。

 そして、出た色は青。

 青と出た瞬間に葵が、深い笑みを浮かべてきた。

「それでは、再び右手を青に置いて頂戴な」

 葵の言葉でホッとする瑠璃嬢と、先程とは打って変わり動きを止める遠夜。

 瑠璃嬢は緑色の円に置いていた右手を、下にある青い円へと移動させる。

 けれど遠夜の場合は、マットの端にいるため簡単に置ける青い円がないのだ。

「よっしゃ! 形勢逆転や!」

 櫻真が喜びの声を上げて、笑顔で桜鬼とハイタッチする。そんな櫻真に続いて、葵が浮かれた様な声で、

「遠夜君、大、大、大ピンチっ! どうする? この状況?」

 追い込まれた遠夜を煽り始める。そんな安い煽りに遠夜が舌打ちを零す。

「遠夜様、ご安心を。まだ活路は残されております。ヒントを差し上げますと、今の状態よりもう少し楽な状態へと変化させるのです」

 追い詰められた人を煽るだけの葵と違い、セコンドらしい言葉を掛ける夜鷹。

 そんな仲間の言葉に、少しだけ遠夜に焦りの色が薄まった。

「仲間の暖かい言葉に感無量ね。でも、葵にはそんな人情ないわよ? だって、敵だもの」

 敵らしく憎たらしい言葉を投げた葵が、瑠璃嬢の時と同様にテンカウントをし始める。

(姉さん、ここは少し早めにカウントしてくれへんかな?)

 瑠璃嬢の時とは違い、長く感じるテンカウント。

 けれど、櫻真とは逆に早く感じているらしい隆盛が「何か、さっきより速くね?」などと不満を漏らしている。

 しかしそんな隆盛の不満など聞こえていない様に、葵の口は止まらない。

 しかし葵の口が「4」という数字を数え終える前に遠夜が大胆に動いた。

 元々青い円に置いていた左手だけで体を支えながら、体を仰向けから俯せへ変えてきた。

 体制を変える為に上げた右足をすぐさま元の位置に戻し、指示された右手を瑠璃嬢の体の横にある青い円へと置いてきた。

「おおっ!」

 葵の歓喜の声に、

「なっ、私の瑠璃嬢の上に覆い被さるとは……っ! 何たる不遜! これはやはり、私が奴に断罪をくれてやらねばっ!」

 怒り心頭の魑衛の言葉。

 喜ぶ葵は取り敢えず放って置いても良い。けれど本気で遠夜へ斬り掛かろうとしている魑衛を止めなくてはいけない。

(でも、魑衛が瑠璃嬢以外の言うことを聞くとは思えんし……)

「桜鬼、魑衛を何とか止めはって!」

「うむ。任された」

 櫻真の言葉に桜鬼が頷く。けれど、そんな桜鬼の事を魁が止めてきた。

「安心しろよ。そんな大事にしなくても奴は止まる」

「そうは言うが、相手は理性が爆発寸前の魑衛じゃぞ? 如何様にするのじゃ?」

 荒ぶる魑衛の姿に目配せし、桜鬼が首を傾げさせる。

「まぁ、見てな」

 魁がそう言って、声聞力を上げている魑衛の元へと足を運び……

「魑衛、落ち着け。お前がここで手を出したら……お前の主の頑張りが無駄になっちまうんだぞ?」

 魑衛を説き伏せる。

 そしてそんな魁の言葉を肯定するように、葵と夜鷹が目尻を釣り上げる魑衛に向けて、微笑みを浮かべてきた。

 それを見た魑衛が憎々しげな表情で、抜刀しかけていた刃を納刀する。

「……良いだろう。憤懣やる方ないが、あの無作法者に斬るのは瑠璃嬢が勝利を掴んだ時とする」

 未だに魑衛は相手を斬る気満々ではいるが、取り敢えず乱入騒ぎにはならなそうだ。

「うむ。やはり愛の力は偉大じゃのう」

「愛……なんやろうなぁ」

 桜鬼の簡単に櫻真が苦笑で返す。

 最初に会った時からのこんな感じだったが、魑衛から瑠璃嬢への愛の強さは目を見張るものがある。

「まぁ、魑衛の気持ちは分からなくもないがのう。妾も櫻真に見知らぬ女子が引っ付いたら、見るに耐えぬぞ」

 そう言いながら、桜鬼が水着姿にも関わらず自分にぎゅうっと後ろから抱きついてきた。

(瑠璃嬢たちのこと、何も言えへんかった……)

 抱きついてきた桜鬼に対し、櫻真が顔を真っ赤にさせアワアワとする。

 その間に、瑠璃嬢たちの勝負は次へと進んでいた。

「次は右足を青へ」

 葵の言葉に再び瑠璃嬢の顔が曇った。

 ブリッジの体勢である瑠璃嬢にとって足を動かすのは、非常に困難だ。

「何という事か! あの葵という奴……さっきから瑠璃嬢を窮地に追い込んではいまいか?」

「まぁ、確かに。厳しいな。敵の男はすんなり移動してるみたいだしな」

「それを考えると奴は、向こうが送り込んできた刺客……にも見えるな」

 魑衛がそう言いながら眉を顰めていると、瑠璃嬢が先程の様にガッツで右足を青へ移動させる。

「凄いガッツやな……」

 儚が奮闘する瑠璃嬢に感嘆を漏らしたその瞬間。瑠璃嬢が青い円に右足を着けた瞬間。

 葵たちがマットの上に蒔いたローションがその効力を発揮してきた。

 足を着地させた瞬間に、その足がツルっと滑ったのだ。

 反射的に瑠璃嬢が自分の体を支えようと、近くにあった遠夜の右腕を掴む。けれど、体制の崩れた体制は戻せず、瑠璃嬢は背中全面をマットにつけ、右腕を掴まれた遠夜も道連れで膝をマットに付けてしまった。

 そして、膝をついた遠夜が瑠璃嬢の体に重なるように倒れ込む。

「貴様〜〜〜〜! 私の瑠璃嬢の上にっ! 許せんっ! 斬り捨てる!」

 剣幕を携え、抜刀した魑衛がそのまま倒れた遠夜に襲い掛かる。

「遠夜っ! 逃げてっ!」

 動揺する明音の叫び。けれどそんな叫びは空を切った。

 自分の瑠璃嬢に仇なす者として、遠夜を成敗しようとしていた魑衛が、

「ルールを守れない奴は、ダメなんだぞっ!!」

 と叫ぶ魘紫に物凄い勢いで突貫され、琵琶湖の沖へと吹き飛ばされてしまったからだ。

「住吉君だけやなくて、魑衛まで吹っ飛ばしよった……」

 魑衛の勢いは凄かった。誰も止められやしないと思うほどに。けれど、そんな魑衛を魘紫はいとも簡単に吹き飛ばしている。

 そんな魘紫の強さを垣間見て、櫻真や他の主に戦慄が走る。

 けれど櫻真たちよりも顔を青くしていたのは、一度飛ばされた経験のある隆盛だ。

「俺、アイツのタックルだけは止められる気が全くしねぇ……」

 いつもは勝ち気な隆盛があそこまで言う魘紫のタックル。

 出来ればそんなタックルの餌食にはなりたくない、と櫻真は強く思う。

 そして、魑衛が吹っ飛ばされた事で勝負は瑠璃嬢の敗北で幕を下ろし、二回戦目へと突入した。

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