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ツイスターの恐ろしさ

 葵が持ってきた遊具を見て、櫻真は眉間に皺を寄せていた。

「ツイスターって、凄く嫌な予感しかせんのやけど……」

櫻真が不安を口にすると、葵が「おほほ」と笑い声を上げてきた。

「心配ご無用よ。さっきのように命の危機は感じないゲームだもの。そう思わない?」

「そうやけど……でも絶対に普通のルールではやらへんのやろ?」

「ええ、その通りよ。これは勝負だもの。普通の平和的にやっても詰まらないじゃない。それではルールを発表するわね」

 櫻真に向かって、手でオッケーサインを作ってきた葵が、全然オッケーではないツイスターのルールを話し始めた。

「まず、このツイスターをするのは代表者一名。陰陽院チームが男で䰠宮チームが女ね。二回戦目は、その逆よ。両者には目隠しをしながら、審判である私の言う事に従ってもらうわ」

 微笑む葵の言葉に櫻真たちは大きく溜息を吐きたくなった。

 葵が審判というだけでも嫌なのに、それに加え目隠しなんて……もう、頭が痛い。

 しかし、ここで変に「何考えてんねんっ」とか批判をすれば葵が、

「おっ、完全にスケベな方で意識してるな? このムッツリスケベめ」

 と揚げ足を取ってきそうだ。

 いや、だからと言ってこのルールを飲むことすらも、『ムッツリ』の称号を与えられそうで、櫻真は何とも言えないループにハマってしまった感覚だ。

 言ったもん勝ち……というより、勝負を決めた者勝ちになってしまっている。

(ホンマに情けないわ……)

 こういう時に発言が出来ない自分が。

 そして、そんな頭を抱える櫻真を他所に葵がさらに発言を増やしてきた。

「さぁ、今こそ! 我こそはという者、挙手っ! そうでなければ、葵姉さんが公平なるクジ引きによって決めちゃうわよ?」

 葵がウキウキした様子で夜鷹が取り出した、くじ引き箱を手で軽く叩いてきた。

(姉さんによるクジ引きも嫌やけど……)

 誰もこの勝負で手を上げる者はいないだろう。そうなると自動的に葵によるクジ引きになるだろう。

 そう踏んでいた櫻真だったのだが……

「じゃあ、最初にそれをあたしがやる」

 瑠璃嬢がケロッとした表情で挙手してきた。

「なっ! 瑠璃嬢っ! 何を言っている? こんな破廉恥な腐臭のする勝負を君がするなど、言語道断だ! 私は断固として辞退することを進言する!」

 勝負相手でもある陰陽院の人たちも含め、櫻真たちが唖然としている中、動転した様子の魑衛が瑠璃嬢を止めに入る。

 しかしそんな魑衛の言葉や、周りの視線など気にしていない瑠璃嬢が、

「破廉恥って言うけど、そんな自意識過剰にならなくても大丈夫でしょ? 向こうの男にすけべが居なければ。それにもし当たったとしても、別に減るもんじゃないし」

 しれっとした顔で持論を話してきた。

 そしてそんな瑠璃嬢の言葉を聞いて、静かな沈黙が陰陽院の男子たちに降り注ぐ。

(あれ? 祝部君の姿が見当たらん……どこか行ってはるんかな?)

 櫻真の疑問を他所に、沈黙する男子たちの背中を夜鷹が押す。

「男性の皆様、これはまだ感覚を研ぎ澄ます為の鍛錬でございます。そう思って自分の抑圧された感情と向き合い、打ち勝って下さいまし」

 そんな仲間の言葉に押されたのか、隆盛が顔を上げてきた。

 しかし隆盛の口が開くよりも先に、

「俺が勝負する」

 と眉を顰めたままの遠夜が宣言してきた。

 そんな遠夜の言葉に、葵が嬉しそうに指を鳴らしている。

「さすが、遠夜く〜〜ん。自分が出番を分かってるぅ」

「一々、鬱陶しい茶々を入れんな。俺はただそこの女の言葉も一理あると思っただけだ」

「えっ、でも遠夜。本当にこの勝負やるの?」

 葵を睨む遠夜に、明音が驚いた表情を浮かべている。

「ああ、やる。考えてみれば、目が見えなくても、気配を読めば相手の体に触れずに体を動かす事はできるからな」

「遠夜がそう言うなら……でも、だからって油断しないでね」

 まだ少し不安そうな明音に、遠夜が「分かってる」と短く答える。

「あそこの二人、やっぱり付き合ってはるんかな?」

 二人の様子を見ていた儚が近くにいた櫻真と蓮条に訊ねてきた。儚は年頃の女子という事もあって、恋愛事に興味津々だ。

「いや、どうなんやろ? 付き合っとるんかな? でも、それにしては……」

 二人の間にはまだ距離があるような気がする。

 学内では付き合ってることを秘密にしておきたい人もいるが、遠夜と明音がそういうタイプにも見えない。

「儚は、あそこにいる奴が好みなん?」

 そう首を傾げたのは蓮条だ。蓮条の質問に儚が一瞬固まった後、勢いよく首を横に振ってきた。

「あっ、ちゃうちゃう。そんなんちゃうよ。ただ素朴な疑問が浮かんだだけで、別に……いや特に、そう言う好みとかやないよっ! だから、安心してなっ!」

「えっ、あ……分かった」

 いきなり手を握ってきた儚に驚きつつ、蓮条が反射的に頷いている。

 そんな二人の様子を鬼兎火が微笑ましく見ていた。

「女の子だものね。色恋沙汰が気になるのは当然だわ。桜鬼もそう思うでしょ?」

 鬼兎火が櫻真の横に居る桜鬼に同意を求める。けれど求められた桜鬼は、顎先に手を当て、険しい表情でブツブツと呟いている。

「櫻真が選ばれぬ様にするには、どうするのが良いのじゃ? まさか先ほどの様に妾以外の女子の柔肌を櫻真に触らせる訳には行かぬ。何としてでも阻止せねば……」

「桜鬼……」

 聞こえてきた桜鬼の言葉に、櫻真が桜鬼と共に苦笑を零す。

 どうやら二回戦目で櫻真が代表に選ばれない為の計画を画作中らしい。

 浜辺に戻ったあと、桜鬼は櫻真に対して怒りはせず、脱落しなかった事を労ってくれていた。そのため、櫻真もホッと胸を撫で下していたのだが……やはり、内心では気にしていたらしい。

(桜鬼が何とかしてくれはるのは、ありがたいんやけど……)

 問題なのは、あの葵に対しどこまで桜鬼の頑張りが通じるか、だ。

(姉さん、自分の楽しみを取られるの嫌いそうやからなぁ)

 櫻真が頬を掻きながらそんな事を思っている内に、瑠璃嬢と遠夜が緑、黄、青、赤の色の円が描かれたマットの上に向かい合う様に乗っていた。

 葵と夜鷹が各々に目隠しを装着する。

「遂に始まるわね。六本勝負、二本目が。瑠璃ちゃん頑張って勝利して頂戴ね」

「姉さんに言われなくても、勝つ」

「遠夜さん、貴方の気配察知は素晴らしい物ですが、呉々も気をつけて」

「……分かった」

 セコンドの様に、瑠璃嬢と遠夜に声を掛ける二人。

 だがこの二人は、悪魔の二人。ただ目隠しを着けて声をかけるだけでは終わらなかった。

目隠しを着け終えた二人が、どこからか透明な液体の入った一リットルのペットボトル、二本を取り出してきた。

「あれは、何の液体じゃ?」

「さぁ。水……ではないようね」

 首を傾げる桜鬼と鬼兎火たちが首を傾げさせる中、櫻真たちはあの液体が何なのか分かっていた。

「姉さんたち……やる事が地味にエグいな」

 葵たちが取り出したのは、バラエティー番組とかで度々登場するローションだろう。

 目隠しをしている上に、ローションを塗るなんて……ツイスターゲームの難易度をかなり上げた仕様だ。

 櫻真たちのそんな視線など目にもくれず、マットの上などにローションをぶっかけている。

「ちょっと、姉さんっ! いきなり何かけたわけ? ヌルヌルしてすっごい気持ち悪いんだけど?」

「おほほ。小さい事を気にしては駄目よ。大丈夫。勝負をしている内に気にならなくなるから」

「絶対に嘘。姉さん、マジ、後で覚悟しといてよ?」

「嫌ぁね。仲間内から報復宣言されるなんて、葵は凄く悲しいぞ」

 言葉ではそんな事を言っているが、瑠璃嬢にローションを塗る葵は満面の笑みだ。

 そして全ての準備が整った所で勝負が始まった。

 スピナーを回すのは、百合亜と藤だ。本来ならば審判役の葵たちが回すのだが、百合亜と藤が「見てるだけなんて、つまんない」と文句を吐きつつ、魘紫を使って脅してきた為、この結果になった。

 二回戦目で当たるかもしれない櫻真たちにとっても、葵たちが回すよりずっと安心だ。

(姉さんやと、色々と自分の好きな様に細工をしよるやろうし)

 百合亜と藤が回すスピナーがまず赤色を示してきた。

 それに合わせて、審判役の葵が瑠璃嬢と遠夜に指示を飛ばしてきた。

「左足を赤へ移動。細かい場所の指示はちゃんと言ってあげるから、安心してね」

 そんな葵の言葉に合わせて、瑠璃嬢と遠夜が赤の円の所に左足を移動させる。

 円の地点に足が置ける様に、細かい指示を葵や外野である櫻真たちが教え、最初は難なく位置を移動させていく。

 しかし、このツイスターゲームの恐ろしさは、スピナーが指し示す色によって際どい体制になっていくという点だ。

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