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♯5 設定オワリ、ハジマリへ

ここまで読んでくださってる方々。

本当に、ありがとうございました。


この回は本当にダラダラと長いのですが、流し読みでサラッと目を通すだけでも、ありがたいです。


今からでも6話に飛ぶのに、遅くはありませんよ。

 2067年 3月 24日(金) 11:40


 再び目を覚ますと、そこは知らない天井だった……。

 そう、建物の中であった。


 見渡してみると、ここは荘厳な雰囲気の教会のようなところ。

 自分の背後に大きな女神像があることから、ここは中世の城によくある礼拝堂だろう。

 広さは大体、市の体育館くらいか。

 バスケットコートが6つぐらい入るほどの大きさだ。


 はじめに見た天井には絵が描かれており、女神の周りを天使が飛んでいる絵だ。

 そして女神の前には一人の人が剣を持って立っている。

 とても高くて、どうやって描いたのか不思議だ。


 自分がいるのはちょうど出入り口の反対側らしく、対角にトロールが出入りするかのような5、6メートルはありそうな巨大な木製の扉がある。


 壁には色とりどりのステンドグラスがはめ込まれており、この部屋の中に入る光を色づけている。

 そのなかでも、自分の真後ろにある巨大なステンドグラスは圧巻だ。

 円形で、直径10メートルはあるんじゃないか。

 とにかくでかい。


 足元が緑色に輝いている。

 よく見るとそれは、直径が1メートルほどの幾何学模様の魔法陣であった。

 部屋のど真ん中を突っ切って、出入り口の扉と、この魔法陣のふもとをレッドカーペットが繋いでいる。

 どうやら自分がいる場所は床より一段高い、祭壇のような台の上らしく、眼下にはレッドカーペットの上に数十人の人が自分に対して半円を作って立っているのが見える。


 一番離れている軍団は、全員黒いローブを羽織っている老人集団。

 大体15人ほどかな。

 どの人物も頭には毛がなく、顔はしわくちゃで立派な白いひげをたくわえている。

 この人たちの表情はどの人物も喜んでおり、こちらを向いてうれしそうに微笑んでいる。


 そしてその二歩ほど前には、いかにも神官様みたいな服装の人物が5人ほど固まっている。

 彼らは皆白い衣装に十字架を持っており、なぜか僕に十字架をかざして祈っている。

 その団体はどの人物も頭を下げ、必死に力を込めているように見えた。

 自分の位置が高いせいもあって顔が見えないが、少なくともおじいちゃんたちみたいに喜んでいるようには見えない。


 そして最後に。

 その神官から5歩ほど前、自分の位置から10メートルほどのところに彼女はいた。

 一人だけこちらに対して後ろを向いて、たたずんでいた。



 ~~~~



 少しばかり時間が経った後、ようやく気付いた。

 あまりにリアル過ぎて忘れていたが、これはゲームなんだ。

 ゲームだったらこれはきっとオープニングムービーだ。

 自分から動かないと何も始まらない。


「それにしても、リアルだなあ……。

 手の感覚も、足の感覚も、現実みたいだ」


 魔法陣がのっていた祭壇の上から降りる。

 三段しかない短い階段を下りる足音が、静かな建物の中に反響する。


 どの人物もさっきっから全く微動だにしないと思っていたが、よく見ると微妙に体が揺れている。

 なんて細かいんだ。


 後ろを向いた人物の近くまで、ゆっくりと歩いていく。


 純白のドレスで、金色の髪。

 ステンドグラスからの色づけされた日光を浴びて、頭頂部に天使の輪を作っている。

 枝毛一本もない、ツヤツヤのきれいなストレートだ。

 腰のあたりまで伸びており、そこでぱっつんと切りそろえられている。


 声をかけようと手を伸ばすと、不意に彼女は振り返った。


 フワッ。

 180度くるっと回転したことで、微風が起こる。

 風にのって甘い花の匂いがした。

 髪はさっと重力に逆らって宙になびく。

 ドレスの裾も同じように、地面と平行になるまで広がっていく。

 それは全てがスローモーションに見えた。


 こちらに正面を向いたその人物は、とてもきれいな女の子だった。

 きれいすぎて、目が離せなくなった。

 色白の透き通った肌に、吸い込まれそうなほど大きな青い瞳。

 スラっとして鼻筋が通っており、その下に小動物のようなちょこんとした口がある。


 とても顔は小さく、ハンドボールほどの大きさしかないんじゃないか。

 身長は自分が少し見下ろせるくらいだから150cmほどか。

 体系は細身でかなり幼く見える。

 まるで天使のようだ。


 開口一番、彼女は手を胸の前で組み鈴のような心地の良い声ではっきりと、僕に懇願してきた。


『勇者様! どうか私たちの世界をお救いください!』


 ―――やっぱりこの人が王女様か!

 一目見ただけで分かるほどに上品で美しく、かわいい。


 きっと後ろのお爺さんズが僕を召喚したんだろう。

 さしずめ自分は、異世界召喚されてこの世界を助けに来た勇者、という設定か。

 まさに、ロールプレイングゲームだ!

 これだけでもかなりテンションが上がる。


 これが噂に聞いていた異世界に召喚された気分ってやつか。

 CMの通りもうすでに僕はこの世界の虜だ。

 自分は勇者って言われているし、なによりも目の前に王女様がいるのだ。


 美しい。

 なんだか時間が止まったかのように感じる。


 ――――現に沈黙が続いていた。


『勇者様?』


 不思議そうにとぼけてポカンと開けた小さな口から、かわいらしい呟きが発せられた。


 コテッ。

 首をかしげたことにつれられ、長い髪が一本ずつ、サラサラっと重力に従って流れ落ちていく。

 まるでお人形さんみたいだ。


 ちょうど斜め45度くらいまで彼女が首をかしげたところで、僕はようやく我に返った。


「は、はい! すいません。

 ぜひ救わさせていただきます!」


 彼女はハッと気づいたかのように顔を持ち上げた後、表情がパーっと明るくなり満面の笑顔が咲いた。

 満月のような大きな瞳は、三日月のように湾曲した。


『ありがとうございます、ありがとうございますっ! 勇者様!』


 それにしてもこれがNPCだとは全く思えない。

 中に人が入っているよ、と言われたら確実に信じる。

 むしろそう言われないと、今起きてることが信じられない。

 あり得ないほど現実に近い。


 後ろの神官さんやお爺さんズがコソコソ耳打ちしながら、チラチラとこちらを見ているのは気にせず懲りずに王女を見つめていると、彼女はまたハッとしてしゃべりだす。


『申し遅れました、私が現国王のアーキデウス35世の実の娘、ユウナと申します!

 この度はこの国の危機を救うべく、異世界召喚に応じていただき、誠にありがとうございました』


 ペコリ。

 早々と一息もつかずに喋りつくしてから、効果音が聞こえるほどきれいにお辞儀をした。

 またもサラサラのブロンドヘアが優雅に舞い降りる。


 頭を勢いよく上げると降りた髪が重力に逆らって元の位置に戻る。

 またもニコリ、と頬を和らげる。


 なんなんだこの生き物は。

 一挙手一投足がかわいすぎる。


 もし今ここに先ほどの白い人がいたら、心を読まれて100%引かれていただろう。


『そして誠に勝手ながら、勇者様を別の世界からお連れしてしまい、大変申し訳ないかぎりです。

 私たちの力が足りないばかりに……』


 いきなり真顔に戻ってお詫びをしたあとこぶしを握って悔しそうにする。

 歯を食いしばって、さっきとはうって変わった表情だ。


『勇者様の自室はここを出て右手に見える扉から行くことが出来ます。

 自室にはアイテムボックスがあるので、大事なアイテムはそこに入れるなどしてご活用ください。

 ……突然ですが、勇者様はこの世界の現状についてご存知でしょうか?』


 自室のアイテムボックスが、白い人の言っていた倉庫のことだろう。


 世界の説明はきちんと受けておくとしよう。

 この時間だったらもうイベントの参加には間に合いそうにないし。

 聡がスクリーンショットを撮っていたら後で見してもらいたいものだ。


「教えていただけると嬉しいです!」


 笑顔でそう伝えると、彼女は深くうなずいて、神妙な顔つきで話始める。


『わかりました。それでは説明いたしましょう。

 この国がなぜ勇者様を呼ぶことになったのかを――――』



 ~~~~



 荘厳な雰囲気の中、王女の説明が始まった。

 それは、この世界の歴史についてであった。


 オーケストラの壮大なBGMが流れ始める。

 が、王女の後ろに目線をやるといつのまに取り出したのか、お爺さんの集団が楽器を手にもって演奏を始めていた。

 主旋律はバグパイプで演奏され、いかにもファンタジーな北欧風ケルト音楽だった。

 RPGのはじまり! という感じがしていい曲だ。

 ここまでリアルにしなくても、ゲーム音ぐらい流せばいいと思うのだが……。


『王家には代々、この世界はもともと、ひとりの人の手によって創り変えられたようなものだ、と伝えられております。

 彼は、人間が毎日をなんとか生きていくような、荒廃しきっていたこの世界を、人間だれもが繁栄できるような理想郷に変えました。

 飢えにも困らない、すべての人間が笑顔で暮らせる世界です。

 そして、その中心となるこの王国の管理をここに住む人に任せ、去っていきました』


 王女は落ち着いた声でゆっくりと続ける。

 ゲームのオープニングにふさわしいしゃべり方だった。


 ―――平和な世界も唐突に終わりが訪れます。

 彼が世界を作り変えるためにやってきた穴が、時が経つにつれて広がり、この世界の脅威となる魔物が侵入しはじめたのです。

 魔物は人を食べていきました。

 食べることで力を増し、さらに多くの人を食べていきました。

 繁栄していた人間の抵抗も虚しく、どんどん数を減らし、追い込まれていくのです。

 人の中には魔物ではなく、穴をあけたかの人物を恨むものまで出てきました。

 今までの繁栄はその人物のおかげであったというのに……。



 豊かにしてあげたのに、いつか恨まれるようになるなんて、それでは作り変えた人物が報われない。

 同情してしまう。

 王女は声が震えながらも、話を続けた。



 ―――ですがなんと、世界を作り変えた人物が、この世界に再び舞い戻り、彼らに協力したのです。

 召喚された彼のおかげもあり、魔物を抑えることに成功し、人間は再び彼のおかげで守られました。

 そして、友好を築けそうな異種族の者にも手を差し伸べ、王国を広げていったのです。



 もうすでに一度勇者がやって来て、この世界を助けてくれているのか。

 それならなぜ僕は召喚された設定なんだ?



 ―――再び平和が訪れました。

 その平和も、これから永遠に続くものと思われていました……。

 ですが、最近になってまたも、魔物の波が訪れたのです。

 異種族の者とも力を合わせて立ち向かったのですが、侵略を持ちこたえられるだけで、なかなか敵の戦力を落とすことが出来ません。

 その間にも魔物たちは各地に拠点を広げて、どんどん強くなっていきます。

 王国に残された先鋭も、次々と命を落としていきました。

 徐々に侵略され始め、もう手段はない、と確信したそのとき。

 現国王のもとに神託が降りました。

「異世界の勇者を一斉召喚せよ」、と。



『そして、あなた様の召喚に成功した次第です』


 王女は申し訳なさそうにつぶやいて、話を締めくくった。

 確かに言い方は落ち込んでいた。

 だが、目はしっかりとこちらを向いていた。

 決意の目だ。


『……以上がこの国の現状です。

 私たちの願いとしては、この世界の魔物を一匹残らず駆逐していただきたいのです。

 この話を聞いても、私たちに協力していただけるでしょうか……?』


 ゲームと分かっていても、王女の説明には心を動かすものがあった。


 そりゃ当然か。

 ここで生きている彼女にとって、本当にこの世界の危機なのだ。


 僕らの世界では縁のない戦争というものが、この世界では現在進行形で起こっているのだから。

 NOなんて言えるわけがない。

 王女は真剣に話してくれたんだ。

 その気持ちには、こたえなければ。


「はい、大体のことは把握しました。

 お力になれるよう、がんばります!」


 声を張り上げて返事をすると、王女は驚き、そして歓喜の表情を浮かべた。


『ありがとうございますっ!

 このような現状になってからお呼びするのは、本当に心苦しい限りです。

 ですがもう対抗する手段がなく、あなた方を呼ぶしかなかったのです。

 ほんとうに申し訳ございません……』


 王女は喜んだもの束の間シュンとした様子になり、か細い声で謝った。

 背後のお爺さんの集団が「姫様ぁ……」と慰める声が聞こえる。


 そんなに謝られても。

 むしろぶっちゃければ、僕がこのゲームを買ったのが遅かったからいけないわけで。

 この国の人たちに何の非の打ちどころもない。

 あんまり謝られても僕が困るだけだ。


「いえいえ、大丈夫です!

 それよりもはやくこの世界を救いたいんですが……」


 王女はまたも満面の笑みで、こちらの言葉に目を潤わせるほど感激していた。


『ありがとうございます!

 え、えーと……。

 申し訳ございません!

 お名前をお聞きするのを忘れていました!』


 声が一気に明るくなり、先ほどの重たい雰囲気が嘘のようだ。

 喜んで、意気込んで、うつむいて、驚く。

 表情がコロコロ変わって、忙しいお方だなあ。


「僕の名前は、そうだな……。

 うん……。うーん……。

 ―――マーティー、マーティーです」


 ぱっと出てきた名前(ニックネーム)がこれだった。

 名前もプライバシーということで、本名をアバターの名前にすることはやめておく。

 まあ、よっぽどのことが無い限り、現実での事件につながることはないが。

 よく自分がゲームで使う名前を登録した。

 特に意味はない。


『マーティー……。マーティーさんですか』


 彼女はその言葉を反芻するかのように、小声でボソボソと繰り返した。

 そのあと、記憶にその名前を刻み込んだようで、再び元気よく僕に説明を続ける。


『それでは、ステータスのnameの欄に名前を打ち込んでください!

 今はnothingとなっていますが、そこをタップすると変更できます。

 当然、これ以降は変更はできませんよ!』


 今までのリアルな情景はどこへやら。

 いきなりゲーム的な要素が出てきた。

 しかも王女の口から、だ。

 雰囲気ぶち壊しもいいとこである。


 メニュー、ステータスとつぶやいて名前を押すと、今までの半透明のディスプレイと同じように半透明のキーボードが出る。

 たぶんインターネット機能もこれを使って打ち込むのだろう。


 僕はカタカナで「マーティー」と入力した。


『マーティーさん!

 それでは最後に、スキルの訓練に行きましょう!

 これが終わると、王宮での説明は以上です。

 スキルの訓練場はこの礼拝堂の隣にあるので、祭壇の隣の勝手口から行くと近いですよ!』


 そう言って、王女は僕を勝手口の前まで案内してくれた。

 まるで非常口のように、部屋の隅にこじんまりと存在していた。

 礼拝堂があまりにも壮大だったため全く気付かなかった。


『ここを出ますと庭に繋がっており、そこが訓練場です。

 スキルに関しては、訓練場にいる教官に聞いてください!

 それでは、いってらっしゃいませ!』


 王女とはここでお別れのようだ。

 僕が扉を出ると、再び白い光に包まれた。


〜DWS豆知識〜

設定、とはなんなのか。

その人の人生は全て設定なのか。

その人の歩みは設定として片付けられていいものなのか。

設定こそが物語であり、物語を語るには設定が無ければ成り立たない。

だが、設定とはときに何も無いところから生まれる。

事実は小説より奇なり、とはよく言ったものである。

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