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【改稿前】チュートリアルでレイドボス倒しちゃってスイマセンでしたっ!! ~支援歌【エンハンソング】の悪用法を検証し成り上がる~   作者: デウス・X・マーティー
第二章  【初心者応援】 ドキドキ!? 春のサバイバルイースターエッグ祭り 【公式イベント】
22/22

21話 歌唱無双

 ◇――◇――◇――◇

 ~前回のあらすじ~

 ▶実は四つ買っていた「白兎の懐中時計」を使い、最大火力を更新。

 ▶五時間歌うことで、準備万端。

 ▶一方そのころ、森ではゴブリンが群れで暴れていた。

 ◇――◇――◇――◇

「お~♪ ようやく見つけた~♪」


 魔物の数は一気に減少しているようで、島の中央に向かってもなかなか遭遇しなかった。

 タマゴも取りつくされていて、あちらからも来てくれなかったのだ。


 先ほど必死な形相の騎士とすれ違ったが、その人が何を言っているかは、スキルの集中モードによって聞こえなかった。

 もしかしたら「そっちに行ってはだめだ!!」とかいうテンプレセリフを僕に吐いていたのかもしれない。


 そこにいたのは、ゴブリンの群れ。

 ぱっと見だけで一個中隊はいるんじゃないか。


『ギャアギャアッ!!』


『ギャアァァァ!!』


『ギャッギャギャアァァ!!』


「そうか、一か所に固まっていたのか~♪

 だから見つからなかったわけね~♪

 ……ってこりゃ無理だわ!!」


『『『ギャアァァァ!!』』』


 僕を見つけるや否や、まずは十匹のゴブリンが一斉にジャンプして飛び込んでくる。

 どれもが剣や槍を振りかぶり、僕の息の根を一発で止めようとしてくる。

 ゴブリンの間の詰め方はそれしかないのか。


『ギシャアァァァ!!』


 一匹、二匹、三匹と僕の上にハンバーガーのように重なってくるゴブリンたち。

 いくらVITがあれど、ダメージをガンガン喰らった。


「うぉ、やばいやばい!!」


 とっさのことで驚いたが、どうやら待ってくれる気もなさそうだ。

 のしかかってくる全てを……押し返す!!


「ふんっ!!」


 僕の上に山のように重なって覆いかぶさったゴブリンは、そのまま投げ出されて四方八方に飛ばされていった。

 紙屑のようにポーンと投げ出される姿はコメディのようであった。


 あるものは空の彼方へ。


 あるものは木に体を撃ちつけ。


 あるものは木の枝に刺さって落ちてこず。


 あるものは味方に向けて飛んでいき、味方の剣にあやめられた。






『……ギャ?』





「……え?」







 まだ僕を包囲している生き残りは、そろいもそろって面食らっている。

 だが一番面食らったのは僕だ。


「いくらなんでもこんなことってある……?」


 本人ですら驚いてるんだもの、呆けて当然だよゴブリン君たち。


 昨日僕を散々痛めつけてくれたゴブリンがどれかは分からない。

 だが、今なら。


「これはこれで、無双ゲームのようで……楽しいかもしれない」


 自分の中で、何かが目覚めた気がした。


 驚いた拍子に止まってしまったため、心臓をもう一つ食べなおして、再び無限歌唱を始める。

 声は誰にも聞こえなくていい。

 ただ自分にだけ聞こえるような、pp(ピアニッシモ)で。


「一気に倒せる方法を~♪ ……そうだ!

 ……ふんッ!!」


 足元に落ちていたゴブリンの瀕死体を拾い上げ、遠心力をつけて、思いっきり群れめがけて投げる。


『……ギャッ! ……ギャ! ……ギャアァァァ!!』


 来るな、来るな、来るなあぁぁぁ、かな?


 音速で投げられたそれは、当たっては新たなゴブリンを引き連れて飛んでいき、どんどんと重なって固まったいく。

 10を超えるほどまとまったところで、最後は木の枝に串刺しになった。


 焼き鳥のように、10匹の腹を貫通して枝が突き抜けている。

 あそこで火を焚けば、ゴブリンバーベキューになるな~なんて、吞気な考えが頭をよぎる。

 あまりにもクレイジーな発想の自分に、自分で驚きだ。


 なお、想像ではグロテスクな光景だと思うかもしれないが、出てくるのは血ではなくポリゴン片だし、HPが全損すればすぐに、ゴブリンたちは光の粒子になって消えていく。

 さすがに血が出てきたりするほどリアルだったら、僕も殺せない。


「うわぁ、すまない~♪

 だけど昨日も散々お世話になったから、これでおあいこ……だよな?」


 僕はにやりと笑い、立て続けに二体目、三体目と放り投げ、ありえない速度で投げられた瀕死体は、質量の凶器となって群れを襲う。

 仲間に抱きつくように両手を広げて飛んでいき、最後には何匹も絡めとって大樹に叩きつける。

 いくつかのゴブリンボールが出来上がり、まとめて光になって消えるのが気持ちいい。


 剣を持ったゴブリンに当たったときは、その剣が一緒に刺さるため、きれいな団子ができあがる。

 ゴブリン団子は、一匹がそこから抜けようともがくと、そのせいでより深く他のゴブリンの傷ぐ口がえぐられ、HPを0にして次々と光に変わっていった。




『ギャアァァァ……!!』





 ―――ゴブリンたちは気づいた。


 自分たちは狩る側、ではない。


 狩られる側になったのだ、と。





 だがもう、時すでに遅し。





「すまない、すまないが、昨日のこと。

 まったく恨んでいないわけではないんだよ?

 むしろ―――かなり恨んでる」



 逃げるゴブリンも一匹たりとも見逃さない。


 盾を前面に構えて、地面を思いっきり蹴りだす。

 テンプレ騎士団がスタートダッシュでやっていた、あのロケットダッシュだ。


『……プギャッ』


 音速で盾を構えて飛び出せば、盾のおかげでぶつかってもダメージを受けない。

 何匹ものゴブリンを轢いて、そのたびに頭や腕、足が失われると同時にHPが全損し、光と化していく。


 勢いを一切ゆるめることはなく、目標のゴブリンに一気に間合いを詰め、正面からぶつかる。

 おそらくこの体の大きい2メートルはありそうなコイツが、群れの長、ゴブリンキングであろう。

 鑑定をかけていないが、頭に付けた王冠の装備で分かる。


 そういえば歌唱の発動中に他のスキル名と言うと、スキルは発動するのだろうか……?

 戦闘には全く関係ないが、新しいアイデアが頭に思い浮かぶ。

 それほど余裕だ。

 昨日とは打って変わって。


『ギシャアァァァ!!

 ギャアゥギャアァァァ!!』


 盾に張り付けられて浮遊している間も、ゴブリンキングは離れようと必死に抵抗する。

 だが、物理法則にはファンタジーのモンスターも敵わない。

 ……いや、そもそもこの僕の体にこれほどの筋力がある地点で、物理法則は既に崩壊しているのだが。


「ん? 離れろって?

 ……ごめん、それはできない」


 瞬間、樹に激突し、ゴブリンキングは盾と樹の間でつぶれてひしゃげ、光の粒子となる。

 大樹はそこを起点にミシミシっと爆音を立てて折れ、倒れた先にいたゴブリンも下敷きとなって散る。


 盾は全くの無傷だ。

 もちろん、僕もである。


『……ギャギャァ』


「やっぱこの盾、すっげぇんだな……。

 ……おいしょっと!!」


 今倒れた、全長20メートルはありそうな樹木を、落ちている枝を持ちあげるように軽々と振り上げる。

 こんなに巨大なものでも、このSTRにかかれば、ただの「木の棒」でしかない。


『『『……ンギャッ』』』


 振りかぶって縦に振り下ろせば、見る限り3匹のゴブリンが光になった。


『『『『……ギャアァァァ!!』』』』


 振りかぶって横に薙ぎ払えば、他の大樹と共に10を超えるゴブリンが、一斉に光となった。


 辺りは更地となり、災害の後が生々しく残るのみ。

 島に渦巻いていた生き物の気配は、直径40メートルの円の中、局地的に一切なくなった。


 このSTRにおいて、重さという概念をほぼ感じない。

 体が羽毛でできているように軽い。

 空を飛べるはず、というのはこのことを言うのだろう。

 この盾が唯一僕を地面に置いておいてくれる、いわば船の碇のようなものだ。


『……ギャッ……ギャッ……ギャッ』


「あ! タマゴ!!」


 災害を抜けて、大量のタマゴを手に抱えて森林に走っていくゴブリンが見えた。

 そんなにタマゴを抱えて、どこに行くのか。


 逃げるゴブリンに向かって、大木を槍投げのように投げる。

 空気を切り裂く轟音と共に、大木はまっすぐゴブリンに吸い付くように向かって行く。


『……ギャエェェェ!!』


 必死に走るも、なんなく大木に追いつかれて、その命を散らした。

 ゴブリン一匹にはオーバーキルだったようで、あたりの地形と共に一直線の茶色い地面がむき出しとなった。

 もうそれ以外はなにも残っていない。


 だが、ピコン♪ という音と共に、タマゴ獲得のメッセージが流れた。


「タマゴを持っているのを倒したときもらえるのか。

 ……でも、もう少し、スマートにいこう。

 さすがにやりすぎた」


 歌唱がチートすぎるとばれると、弱体化を食らってしまう。

 実際に[土兵創造]は弱体されたらしいし。

 こんだけやればもう手遅れかもしれないが。


 そこからは倒すよりも、見つけるのに苦労した。

 なにせゴブリンは緑色、樹林に擬態してなかなか見つけづらい。

 この機会を逃せば、多分もう会えないだろう。


『ギャッ―――!!』


 走って、潰す。


『ギョ―――!!』


 投げて、潰す。


『ギ―――』


 殴って、潰す。


 サーチアンドデストロイで、潰す、潰す、潰す。


『―――ギョ』


 腹を殴れば貫通し、何の手ごたえも感じず、まさに暖簾のれんに腕押し。

 触るだけで崩れていくとは、まさにこのこと。

 瞬間的にHPバーはなくなって、光となって消えていく。


「まだ生き残りがいたか」


『ギョギョギョッ!!』


 一気に近づいて、上から盾でスタンプっ!

 とくに抵抗感を感じず、梱包材のプチプチシートを潰すようにぷちっとした感触と共に消えていった。





 すべてを殲滅するのに、わずか10分もかからなかった。


 盾は一切汚れておらず、ソフィアさんの笑顔が日光を反射してまぶしく映る。

 当然僕もSPの消費コストが0でずっと維持してきたため、SPの減りは自分の行動だけだ。

 しかもSTR任せのため、たいしてSPが減るような疲れる行動はとっていない。



「やばい、なんだよこの力!!

 これがあれば、ソウに追いつくことも簡単じゃん!」


 言葉通りの無双であった。

 今なら倒せない者がいないと感じる、万能感。

 僕は、無敵だ。

 これ、修正されないといいなあ……。


「HP回復だけはこまめにしておかないと、な。

 うわ、いつの間にかこんなに減ってる。危なかった。

 でも、少し……というかかなり、やりすぎた」


 辺りは森林の中にぽつんと、十円ハゲが出来上がっている。

 周りがジャングルの高い木ということもあって余計目立つ。


 自分の性格も、心なしか無双ゲームをやるときのように変わっていた。

 ゲームで熱くなると口が悪くなると、またソウにいじられてしまう。



「まあいいか。

 下方修正されたら、そのときはそのとき!

 それまで楽しんでおこう!

 よし、次はあの岩のところにいくか!」



 そうして、災害は過ぎ去っていった。 




~~~~




 クラン【テンプレ騎士団】の斥候はなんとか生き残り、一部始終を離れた樹の影で見ていた。


「おいおい、なんだよあの初心者服。

 桁違いじゃねぇか……」


 驚くべき点は3点。


 一つ目、スキルを多用した戦闘ではなかったこと。

 それなのに、ゴブリン軍をあっさりと殲滅したのだ。


 二つ目は、初心者服。

 装飾品でも、もっとましな服を着るだろう。

 あれだけの強者ならなおさらだ。


 三つめは、なにかを常にボソボソと呟いていたこと。

 これが一番恐ろしすぎる。


「もしや、またマッドサイエンティストが新たな怪物プレイヤーを作ったのか?

 ありえない、ありえなさすぎる。

 でもあの反応は確かに、オークと勘違いしたやつだ」


 【察知の加護】のスキル[強者察知]は、自分より現時点のステータスが高い者の位置を正確に感じ取ることができる優れもの。

 魔物、勇者関係なく発動してしまうため、今回のように敵と味方を勘違いしてしまうことも多々ある。


 だが、普段の比ではない警鐘だった。

 敵で言ったら、それこそエリアボスのような、魔王クラスに匹敵する能力値だ。

 こんなの、プレイヤーでは一度も会ったことがない。

 おそらくはあのギルガメッシュよりも……。


「そういうことなら、スキルを使わなかった理由もわかる。

 ……いや、スキルを使ってあんなバケモノになったのか?」


 ここで彼はすでに正解にたどり着いていた。

 だが、一つ大きな勘違いをする。


「実際に現名装備の変身スキルで、一時的なステータス爆上げは存在する……それなら説明がつくな。

 対策も存在するが、このイベント中は難しいな。

 戦いになったらどうなることやら」


 空を向いてつぶやいた。

 あの謎の初心者服が大樹で蹴散らして舞った土ぼこりが、まだ空気中に霧散していた。

 高い木々の葉の隙間から覗く島の空はまだ青く、すがすがしい。


「……今まで秘匿されていた、新たなゴッズダンジョンの攻略者、か。

 今月だけでもう5件目になる。

 俺らもまた探さなくちゃな、ゴッズダンジョン」

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