20話 歌唱の勇者、始動 ~イベント二日目~
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~前回のあらすじ~
▶有名なネイティブについて教えてもらうも、「ドン・パバロッティフ」の情報は見つからず。
▶この世界の歌に詳しくなる、と心に決める。
▶「鍛冶屋ロリコソ」にて、装備を購入し、整えた。
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「やっぱ雨は上がってない、か」
雨の日でもにぎわっていて、特に昨日よりも勇者の数が段違いに多い。
おそらく今日の夜から開始されるイベントに本腰を入れるため、他のプレイヤーたちも準備をしているのだろう。
自分は、あとは昨日使ったアイテムを補充しに行って、自室のベッドで寝るだけである。
そうだ、ついでに【歌唱の加護】の熟練度を貯めながら歩いていこう。
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●[ストレングスソング]
Lv.100
経験値:100,000,000/100,000,000
次のレベルまであと:――
分類:トグルスキル
発動者の歌声を聞いた者に勇気を与え、STRを上昇させる。
◇――◇――◇――◇
「やっぱインフレ具合がおかしいな……」
いつの間にか[ストレングスソング]だけが経験値は一億も手に入っている。
エンドコンテンツにしてはやりすぎな設定はいつ見ても引く。
一億なんていう経験値、普通に貯めさせる気があるのだろうか。
「そうだ、さっき手に入れたネックレスだけはつけておこう」
盾はSTRを相当高めてからでないと、盾自体を支えることすらできなかった。
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《名前》:マーティー
《所属》:緑
《種族》:勇者
《称号》
・~高火力~(非表示)
・~無双連撃~(非表示)
・~廃人の始まり~(非表示)
・~【歌唱】を極めし者~(非表示)
《残り生命エナジー》
HP:100/100
MP:100/100
SP:100/100
《GR》:Beginner
《クラン》:none
《貢献度》:30
《所持通貨エナジー》:
42,819,500エナジー
《装備》
【王家の盾】VIT+1
【白兎の懐中時計】←NEW
【白兎の懐中時計】←NEW
【白兎の懐中時計】←NEW
【白兎の懐中時計】←NEW
《装飾品》:
【初心者の服】VIT+1無効
【初心者の靴】VIT+1無効
【初心者のカバン】
《保有加護》:
【鑑定の加護】加護Lv. 2/3 ←NEW
【盾術の加護】加護Lv. 1/5 ←NEW
【剣術の加護】加護Lv. 1/5 ←NEW
【火魔術の加護】加護Lv.1/5 ←NEW
【歌唱の加護】加護Lv. 1/5 ←NEW
《能力補正値合計》:
STR:0
VIT:1 ←NEW
INT:0
MIN:0
DEX:0
《スキル》:
[識別]Lv.23
[鑑定]Lv.6
[クイックムーヴ]Lv.1
[パワースラッシュ]Lv.1
[火球]Lv.1
[ストレングスソング]Lv.100
《状態変化》:
「ストレングスソング」
STR ×1.1【59分45秒+60分+60分+60分+60分】
◇――◇――◇――◇
「白兎の懐中時計は当然のごとく、四つ全てを買い占めたぜ……ふふふ。
今頃ソフィアさんはまた驚いているだろうな……ふふっ」
残り四つしかないしおそらくレアものだからこそ、安くしてもらった時に買わなきゃ損だ。
ストレングスソングの効果時間はそのせいでおかしなことになっている。
合計五時間か。
並みの支援でこんなことは、まずありえないだろう。
効果時間が長ければ長いほど、[ストレングスソング]は重ね掛けできて、STRがバカ高くなる。
本当は5つつけての、夢のロマン人間砲とかもやってみたかったな。
もちろん、僕が大砲の球だ。
~~~~
{夢幻の島:北の海岸}
イベント二日目 残り時間 11時間:59分:59秒
―――イベント二日目です―――
―――昨日の難易度を考慮し、本日は皆様にオートマップ機能を差し上げます―――
―――すでに踏破されましたところは埋まっています―――
―――視界に映りますので、ぜひご活用ください―――
―――残りの魔物の数も少なくなり、よりタマゴは集めやすくなっております―――
―――それでは、イベント開始です―――
「おっしゃあぁぁぁ、いくぜえぇぇぇ!!」
「うおぉぉぉぉ!! 一位は、我ら【テンプレ騎士団】のものだあぁぁぁぁ!!」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
目を覚ました砂浜の上、近くのプレイヤーがむさくるしい大声を上げる。
どうやら今日も昨日と同じ、北の海岸に飛ばされたようだ。
開始早々、またもとなりのプレイヤーたちの巻き上げた砂が、僕にドバっとかけられた。
「ぺっぺっ!
……さてと、僕は歌うところからはじめようか」
ストレージから心臓を取り出して、一口で一気に頬張る。
血の鉄の味が口の中一杯に広がる。
実はレバーの味が苦手だ。
だが背に腹は代えられない。
「……モグモグ……ゴクン。
よし、僕のターンのはじまりだ」
それからはとにかく歌い続けた。
歩きながら歌うことで、体が慣れないほどの歌唱をしないように気をつけながら。
だが、一瞬でも歌うことをやめてしまうと、心臓の効果は切れてしまう。
そのせいで一つを無駄にした。
残りの数は、昨日1つ使って、今日2つ使ったので、残り7個だ。
ある程度まで上昇させたら「オレロリコン=アイギス」を装備し、体を硬質化させると同時に、体重を重くして自分が吹っ飛んでいくのを抑える。
―――――五時間が経過した。
ついに限界値が訪れた。
五時間の限界時間を超えると、それからは古いものの効果が切れた瞬間に、新しい効果が更新される状況となる。
「1.1倍が100個分……計算すると、約13,780倍か~♪
我ながら狂ってるな~♪
それじゃあ、ゴブリンにリベンジといくか~♪」
ズシズシと歩くたびにその地に足型ができる、歩く災厄となったマーティーは、満を持して森に進撃を始めた。
~~~~
{夢幻の島:北の森}
イベント二日目 残り時間 06時間:19分:43秒
「くそっ!!
昨日のゴブリン軍団かっ!!」
「まずいです!
もう[STR上昇付与]の効果が切れます!」
「回復が追い付きません!
立て直し不可能です!」
「くそぅ、せっかくタマゴをこんなに入手したのに!
たかだかゴブリンに、負けてたまるかあぁぁぁぁ!!」
イベント初日、マーティーの近くで戦闘民族がごとくスタートダッシュを決めていた人たち。
二日目もスタートダッシュを決め、マーティーに砂をかけた50人……クラン【テンプレ騎士団】は、その倍の数のゴブリンに対して苦戦を強いられていた。
「テンプレ加護の長所……それはどんな状況でも有利に立ち回れる構成……。
それなのに、なぜ……」
「隊長!!
しゃべっている暇があるなら、ゴブリンのヘイトをひきつけてください!」
そう叫んだのは、タンク役の一人。
タンクを多めにしたテンプレ構成に関わらず、敵の数が多過ぎるせいで、タンクがあまり機能していなかった。
「くっ……。
SPもMPもアイテムも尽きてしまった、回復役の五人は真っ先に狙われて死んでしまった……。
残された手段は、タマゴを誰かに託して、それ以外が肉壁になるってだけか……」
「だから!!
しゃべってないで!!」
そのタンクが隊長に気を向けた瞬間、ゴブリンが一斉に跳躍して、空から降ってくる。
「くそ!!
こんなことならテンプレにこだわらずに、範囲魔法を入れておくんだった!
[犠牲の盾]!!」
範囲内にいる味方のダメージを肩代わりしたタンク役のおかげで、なんとかクランの全滅は免れた。
だがそのタンクはポリゴン片を辺りにちらし、一瞬で光の粒子となって空に帰る。
残ったのは模様付きのタマゴ一つだけ。
「また一人、消えていった……か。
残るは5人。
もうメンバーの現名装備のスキルは使い切ってしまった……。
どうしようもないのか……」
クラン【テンプレ騎士団】がゴッズダンジョンに何度も挑戦し獲得した、スキル[流星盾]を持つ現名装備【隕鉄の盾】、[死者蘇生]を持つ【復活杖アスクレピオスワンド】、[完全回復]を持つ【聖剣エクスカリバー】。
クランメンバー50人がそれぞれ三つずつ所持していたのだが、それも全て使用できない。
【テンプレ騎士団】が上位に食い込めた、最大の原因であったのに。
倒しても倒しても森中から集まり、倒したゴブリンはとうに1000を超えている。
きれいな森林の風景は失われ、いつの間にか視界にはゴブリンの汚い緑しか見えなくなっていた。
「隊長!
新しい強者が近づいてきます!
この強さ……昨日のオークかもしれません!!」
「なんだと……!!」
テンプレ騎士団唯一の斥候役はなんとか生き残り、さらなる危険を知らせた。
……こんなに多くのゴブリンに囲まれ、それに加えてあのオークか。
おそらくはこの島の森北部のエリアボス。
一匹で我らを壊滅させた存在がまたやってくるとは。
北の難易度は、高すぎる。
クランランキングトップ10に入る我らですら、力が及ばないとは。
「すぐそこまで来ています!
隊長だけでも、その金のレアタマゴを持って逃げてください!
それさえあれば、まだうちのクランは上位を狙えます!」
たしかに、そうだ。
最後のタンクのランダムドロップしてしまったタマゴをなんとか拾い上げ、仲間が作ってくれたゴブリンの包囲網の隙をねらい、一目散に駆け出した。
足元に生える背の高い雑草は、走るのを止めようと必死に抵抗する。
それを自慢のSTRとVITで薙ぎ払いながら走る、走る。
「ハッ……ハッ……ハッ……ん?」
逃げる途中、一人の勇者がこちらに向かって来た。
そして、すれ違った。
服装は初心者用の服、片手に女性の二次元絵が描かれた大盾を持ち、首からジャラジャラと時計をいくつも下げた、正真正銘の変人であった。
変人は何かをぶつぶつと呟いて、スキップをしながら過ぎ去った。
「おい、そっちは行ってはいけない……!!」
いつの間にか大声で叫び、静止させようとしていた。
だが彼は聞く耳を持たず、行ってしまった。
「Hum~♪
Hum~Hum~♪」
そして彼は、囁き声と共に、参上した。




