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【改稿前】チュートリアルでレイドボス倒しちゃってスイマセンでしたっ!! ~支援歌【エンハンソング】の悪用法を検証し成り上がる~   作者: デウス・X・マーティー
第二章  【初心者応援】 ドキドキ!? 春のサバイバルイースターエッグ祭り 【公式イベント】
19/22

18話 「マッドサイエンティスト」という人物 ~一日目終了~

今回も、説明(がクソ長い)回です。

長い会話文など、読み飛ばして頂いて構いません。

次回、前回のあらすじにてざっくり載せます。


読み飛ばして頂いて構いません。←ここ重要



明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします。

昨年はいろいろありましたが、本当に幸せな一年でした。

皆さんにも、今年がよい年でありますように。




 ◇――◇――◇――◇

 ~前回のあらすじ~

 ▶DWS三銃士、ヘル=ラース・オークが岩型の謎敵に食われる

 ▶龍神の心臓の、真の効果を知る!!

 ▶[ストレングスソング]との組み合わせに気付く。

 ▶一日目の目標は「採集でいろいろ集める!!」でした。

 ◇――◇――◇――◇

 {夢幻の島:北の海岸}

 イベント一日目 残り時間 7時間:38分:34秒




「まさかとは思うけど、自分のSTRを操りきれなかった……?」


 そんなことあり得るのかっ!?

 自分のバフのせいで死ぬなんて!!


 でも事実、高い筋力のせいであの岩にぶつかって死んだ。

 こんなところまでリアルにしなくても……。

 というか、STR補正値は0なのに攻撃力が上昇するのは意外だった。


「だが死ぬ瞬間、僕は見た。

 あの岩の上のゲージが、明らかに削れたのを!」


 思わず口に出すほど、嬉しい事実だ。


 攻撃スキルがだめなら、素で殴ればいいのだから、このステータス上昇に相性がぴったりの敵だ。

 またあそこにたどり着けることができれば、今度はうまくやれば倒せるかもしれない。


「心臓を先に一つ無駄にして検証しておいてよかったぁ」


 そのほかに意外だったのは、重ね掛けできる点もだ。

 はじめはレベル100なのに倍率がたった1.1倍しかなく、「うわっ……私の倍率、低すぎ……?」と思ったが、重ね掛けできるのなら話が違う。

 もしかしたらそれが神崎さんの言う強みだったのかもしれない。


 それに、息継ぎをしないでもいいのには驚いた。

 ……まさかとは思うが、空気、酸素といった要素もコストとして捉えていて、このような仕様になっているのだろうか。


 これまた詳しい検証が必要だ。

 新しい発見が次々と出来る歌唱は、実に面白い。




 それからは樹海に入らず、海岸に落ちているアイテムの採集に没頭した。

 今日のところは採集だけでいくつもりだ。

 どのみちまだ3日間もある。


「漂流物もないから、レアそうなアイテムが少ないな……」


 落ちているのは貝殻、サンゴ。

 それとカニがアイテムとして取れたのは意外だった。

 生物だが、素材アイテムとして扱われるようだ。



 ■△▼△▼△▼△▼△■

 【レインボーシェルの貝殻片】

 ◇分類:素材アイテム

 ◇所有者:マーティー

 ◇所持制限︰none

 ~詳細~

 光を照らすと奥が透ける、光を物理法則とは違うように屈折させ通す貝殻。

 また、魔力も同時に屈折させる。

 ■▽▲▽▲▽▲▽▲▽■



 ■△▼△▼△▼△▼△■

 【魔性珊瑚の欠片】

 ◇分類:素材アイテム

 ◇所有者:マーティー

 ◇所持制限︰none

 ~詳細~

 この広い海にエナジーを溶かした、海底に広がる魔性珊瑚礁の死骸。

 死骸となっても、その膨大な魔力は未だに内包している。

 ■▽▲▽▲▽▲▽▲▽■



 ■△▼△▼△▼△▼△■

 【イソイソガニ】

 ◇分類:素材アイテム

 ◇所有者:マーティー

 ◇所持制限︰none

 ~詳細~

 名前の由来は、いつもせかせかと急いでいるように動くから。

 動きが速いため、捕まえるのにはコツがいる。

 ■▽▲▽▲▽▲▽▲▽■



 カニを捕まえるのには、説明文の通りかなり苦労して、これを初めて捕まえるまで軽く二時間はかかった。

 集中していてあっという間であったが、それからはうまく追い込むようにして取れるようになり、いっきに10匹をまとめて取れることもあった。



 結局、残り時間は採集をしただけで、特に見どころのないまま一日目は終わりを迎えた。



 ―――イベント一日目、お疲れ様でした―――

 ―――タマゴは一度預かり、次の日に持ち越しされます―――

 ―――王国に帰還させます―――




 ~~~~




 2067年 3月 26日(日)  12:01


 ~{王国:大通り・東}~



「はぁーあ、昨日は結局魔物を一匹も倒せなかったし。

 採集目的だったから、仕方がないっちゃあ仕方ないけどさ。

 あ、ほんとにおごってもらっていいの?」


「全然かまわんぜ!

 まあ、それは初心者なら仕方ない。

 ……でも、おかしいな。

 南のエリアは極端に魔物が弱いから、まさにタマゴの取り放題だって話題になってたのに。

 俺らの方はそれより、もっと大変なんだぜ?」


『お待たせしました、当店自慢のこだわりチーズケーキと、店長マスターのきまぐれドリップです』



 ゲームを始めて三日目。


 今日はソウに時間をとってもらい、東の大通りにあるソウおすすめの喫茶店で会うことにした。

 人気の喫茶店で、ソウはおすすめのチーズケーキと、マスターがその日の気分でドリップコーヒーを選択。

 僕も同じセットを選んだ。


 ソウ曰く、四方の大通りはどれもにぎわっているが、今一番にぎわっているのはここ、東の大通りらしい。

 船が完成した影響だとか。

 たしかに、昨日の南大通りよりも人通りが多い。


 南はネイティブも冒険者も買い物ができる商店街、それと農牧地が有名。


 東に裏路地の路上バザールや海鮮市場、職人街が。


 西には共同墓地や多数の礼拝堂、そして職人街が。


 北にもやはり職人街と、闘技場コロシアムというランキング形式で全プレイヤーが競う施設があるらしい。



「いやぁ、それがさあ。

 かくかくしかじか……」


 これまでの経緯、僕がログインしてから、昨日のイベントのことまでの全てをソウに伝えると、ソウは飛び上がって驚いた。


「それで、今後どうしようかと……」


「おいおい、まじかよっ!!

 どうしようも何も、そんなことがマーティーの身に()起きてたんだな!!

 それならそうと、昨日の地点で行ってくれよ!!

 ……まあ、俺が信用にたる人物か分からなかったから、すぐに教えられなかったか。

 それで呼び出したんだな、納得だ」


 後から知ったが、建物の中、特に店の個室というのは、盗み聞き関連のスキルを使われない限り盗聴がされない、特殊なエリアらしい。


「どうりでタマゴが手に入らないわけだ。

 よし、今日のイベントは無理でも、来週の三日目ならまだ時間がある。

 それまでにクエストを終わらせてくれれば、うちのギルドに入ればいい!

 全体支援が得意なのは、今回のイベントなら重宝するぜ。

 運営のお情けで、たまたま協力イベントと仕様が同じで、クランメンバー全体にかかるからな。

 それと本当に助けが欲しい時はいつでもフレンドコールで呼んでくれ。

 即駆けつける!」


「ありがとう、ソウ!

 本当に助かる!」


 よかった、これで三日目からはタマゴが手に入りそうだ。

 ソウには何から何まで助けてもらっている。

 もう頭が上がらないな。


「それとその研究者っぽいのだが……」


「何か知っているのか?」


「知っているも何も、十中八九、クラン【Odd(オッド)Mad(マッド)Head(ヘッド)】の連中だろう。

 まさかあの素材アイテムにそんな効果があったとは知らなかった。

 どうりで……」


 ソウは顎に手を当てて、何かを考え込む。

 どうやら思い当たることがあるようだ。


「……あぁ。

 掲示板の情報だと、リーダーの『アインシュタイン』、通称【マッドサイエンティスト】は前回の緊急イベントに参加しなかったらしいんだ。

 おそらくは心臓の効果に気付いて、その買い占めをネイティブから行っていたんだろう。

 どうりで素材アイテムは値崩れする前に早くネイティブに売った方がいい、っていう情報が出回ったわけだ」


 納得したようにうなずいて、話を続けながら何かを検索し始めるソウ。

 その表情は厳しい。


「あいつは自分のゲームプレイのためなら、掲示板の情報操作もするし、プレイヤーだけじゃなくネイティブまで手駒にする。

 ネイティブの中にまで、あいつの信者がいるって話だ。

 王国中からの買い占めくらい、どうということはない。

 それと、DWS三銃士は有名な少数先鋭クランの一つだが、あいつの信者じゃない。

 マーティーの盗み聞きした話の通り、心臓の効果に惹かれて従ったんだろう。

 あー、心臓売らなきゃよかったーっ!!」


 手足をバタバタさせて後悔するソウ。

 話がいったん終わると、検索していたページが見つかったようで、僕にそのページを送ってきた。


「ほら、前言ってた『デスコック事件』。

 そいつが引き起こした事件だ。

 マッドは、生産スキル発動時にDEXに一時ボーナスがかかる現象を悪用して、公式イベントの最強決定戦っていうので、残酷な殺し方を観客に見せつけて優勝した、通称「デスコック」の生みの親だ」


 前、ギルドの礼拝堂で言っていた、話しにくいことか。


「それだけでもかなりの心的障害者を生み出したのに、それで収まらずにマッドはデスコックを煽って、今度は街中でネイティブを殺害させ始めた。

 戦闘スキルじゃなくて、生産スキルだから通っちまったらしい。

 思考解析プログラムの抜け道を使った悪用だな。

 デスコックは当然アカウント凍結したんだが、マッドには何のお咎めもなし。

 全く、運営も運営でどうかしてるぜ」


 ソウは「ま、ゲームが楽しいから俺は続けるんだけど」と付け加え、再び僕に向き直ってコーヒーをすすった。

 デスコック事件、か。

 ネットで調べた限りはその情報があまり公表されておらず、このページを教えてもらうまでは知らなかった。

 ニュースで言っていた人権問題も、もしかしたらその事件のことを言っていたのかも。




 でも、なんだか聞いたことのあるような名前だ。

 アインシュタインなんてありふれた名前だが、このDWS内でもどこかで……あ、そうだ。


「そういえば、初日にソウにフレンド申請を送ったじゃん?

 実はその前に『アインシュタイン』っていう名前のプレイヤーから、フレンド申請が来てたんだよね……。

 もちろん知らない人だから断ったけど」


 ソウの顔が再び驚愕に変わる。

 ドン! と両手を机にたたきつけて立ち上がったせいで、机上のマグカップが倒れそうになるのをなんとか抑えた。

 一体ソウのステータスはいくらしているんだ、全く。


「なんだって……!?

 ……多分今、マーティーはレイドボスを倒したことを嗅ぎつけられて、マッドの標的にされている。

 もしかしたら……マーティーに心臓について気づかせたのも、マッドの思惑かもしれない。

 今日のイベントも参加するんだったら、十分注意した方がいい」


 ソウはその後もしきりに僕の心配をしてくれ、何かあったら絶対に呼べよ、と何度も繰り返し言ってくれた。

 たかだかゲームで、そんなに危険視することもなかろうに。


「それと、フレンドメッセージにおすすめの鍛冶屋と道具屋を書いたの見たか?

 とりあえずあそこで説明のチュートリアルを受けてきた方がいい」


 僕が頷くと、ソウはこれからクラン内での作戦会議またあるようで、急いで行ってしまった。




~~~~


 2067年 3月 26日(日)  12:51


 ~{王国:路地裏・東「鍛冶屋ロリコソ」}~



 相変わらずの、二日続けての大雨である。


 太陽の光は一切ささず、曇天が空を覆う。

 

 この国を表すスチームパンクの虹色の煙も、いまでは灰色の空に混ざってただただ薄汚れた油のような色合いをしている。

 これはこれで好きだ。


 路地裏を歩く途中、誰かからの視線を執拗に感じた気がしたが、おそらくは気のせいだろう。

 薄暗い路地裏ではよくあることだ。


 たどり着いたのは、路地の角にあった一軒の鍛冶屋。

 一階建ての、狭い平屋に見える。

 まさに裏の店、という感じで、熟練者のみが通う一見さんお断りの雰囲気。

 軒先には「鍛冶屋ロリコソ」という木の看板がぶら下がっている。


 ―――カランカラン♪


「すいません、ここって鍛冶屋ロリコソっていう場所でしょうか……?」


「ああ、そうでぃ!

 雨で寒いだろ!

 早くあがんな!」



~~~~



 つられて歩いて行くと、奥の工房にいくと大きな炉が一つ、ボンッと置いてあって、その周りには様々な色の鉱石が入った麻袋がある。

 中は炉からら吹き出す熱気で、外とは打って変わって熱い。

 オーブンでひりひりと肌が焼かれるような錯覚を覚える。


 そこで少し温まった後、さらにその奥の部屋の、テーブルと椅子が二つある、休憩室で座って話を始めた。

 意外なことに、出してくれたお茶がとてもおいしい。

 茶菓子も王国で有名なものらしく、しゃべり口調に似合わず乙女だ。


『……そうか、おめえがソウ坊の親友、マーティーか!!

 まさかこんなにはやく来るとはな!!

 知ってたらいい武器の一つや二つは用意してたのによ!!』


 可愛い声で、威勢のいいしゃべり方をする。

 オレっ娘、とでもいうのか。

 ロリ姿でそんなことをいうもんだから、ただただかわいい。


 ……ごついおっさんを想像していた?

 ああ、最初は僕もあの看板からそう思っていたが、出てきたのは身長が130センチほどしかない、まだ小学生にも見えるロリ娘。

 童顔で、金髪のツインテール。

 目はくりくりして大きく、肌が白いことから「洋ロリ」という印象だ。

 フリフリのスカートをはいているが、これで鍛冶仕事ができるのだろうか。


 聞けば彼女はドワーフ族と人間のハーフらしい。

 なんでも魔物の中のドワーフという種は、知能も高く、人間と和解した数少ない魔物の一種だとか。

 なお、ドワーフは長命なので、彼女はれっきとした成人なのだそう。


 もしかしてソウはこの娘目当てで来てるんじゃないのか?

 小学校の教師を目指すとかも将来の夢で聞いたことがあったし、まさかとは思うが……。


『そういえば、おめえさんは何の用で来たんでぃ?』


「装備のチュートリアルが受けられるって聞いて、ソウに言われてきました。

 まず、装備ってものが何なのか知りたいです!」


 ロリ娘の顔が驚愕に変わる。

 目をぱちぱちとさせ、口をパクパクさせた後。


『まさかおめえさん、()()()()()()()()()()()()がまだなんでぃ……?』


「は、はい。すいません。

 なので出来ればぜひ……」


『はあっ!!

 ソウ坊にもナメられたもんでいっ!!

 この借りは絶対返したる!!』


 大きなため息をついた後、愚痴をこぼす。

 だが口ではそう言いながらも、かなり嬉しそうだ。

 ソウはどんだけ好かれているんだか。

 ギルドでの一件もそうだが、ソウはNPCに対してもなかなかの有名プレイヤーのようだ。


『……こっちの話じゃ、こっちの話。

 初心者のアンタはわかんねえだろうが、ここは本来は初心者が来るべき場所じゃぁねえんだ。

 まあちゅーとりあるは王宮の命令だから逆らえやしねえがな。

 そいで、どこまで知ってる?』


 今更だが、キャラが濃過ぎないか、この人。

 この街の属性も多いし、奇抜なキャラを運営は愛しているのだろうか。

 詰め込み過ぎてパンクしないといいが。


 ロリっ娘オレっ娘ドワーフの質問に、僕は首を横に振る。


『はぁー……。

 わかった、全部説明してやる。

 あ、その前に。

 オレの名は「ソフィア・ロリコソ・ノームズ」

 ソウ坊にはロリッコとか呼ばれてるんでぃ!!』


 うーん、ソフィアっぽくないというか。

 名は人を表すというのに、そんなおしとやかには見えない。

 僕は水を差す感想を胸にしまい、黙って聞いていた。


『まずは装備という概念についてだ。

 装備とは魔物の素材、つまり実体化したエナジーの塊から作られる、武具。

 だからその場で壊れても、勇者に結びついて消えはしない。

 耐久が減っていって壊れても、オレのところに来る、なんて必要はねえ。

 礼拝堂に行けば自動で戻ってくるからな。

 たとえば何らかの原因でなくした場合にも、死んで生き返ったときには手に戻っている。

 所有者の登録が本人にある限り、元に戻ってくるんでぃ。

 誰かが拾ったとしても、本人が生き返れば本人のもとに装備がワープするってこった。

 所有権を変えるには、市場を通す必要がある』


 いきなり言われたことに頭がパンクしそうになるが、なんとか嚙み砕く。

 ようは装備は、他人に売らない限り永遠に自分のものってわけか。

 いちいち鍛冶屋にもっていかなくてもいいのは、便利だな。


『たとえばボスを倒して装備をドロップしたとき。

 勇者は一度でも街に入っているアイテムは死んで落とすことはないが、入っていないものは全てをその場に落として死んじまう。

 だが街に入ったことがなくても、装備している装備は例外的に落とさん。

 これは勇者の特権でぃ』


 おそらく装備に限っては道端に落ちていることはないだろうし、高難易度フィールドに行っても当たって砕けろ戦法では、どのみち強敵を倒せない。

 だから、強敵を倒して装備をドロップした人に対する、アイテムロス救済措置なんだろう。


『また、装備には勇者にとって特別な利点が2つある。

 ステータスの能力値補正と、スキルの存在だ。

 ステータスの能力値は、装備を装備することでのみ、上げることが出来る。

 本人の力に直接影響するってことでぃ。

 こっちは後で詳しく話したる。

 そして、装備にはスキルがついた珍しいものもある。

 まあ、オレも「武具玉」さえあれば作ることができるがな。

 あ、「武具玉」は()()()()()()とかクエスト報酬で手に入るらしいぞ。

 ……おっと、話がそれちまった。

 勇者には加護があるが、加護が5つだけだとフィールドに出ても柔軟に対処できねぇ。

 だから装備にもスキルがついたものがあるっていうことでぃ』


 もし装備にもスキルがあるなら、5つまで装備枠があったから、5個分のスキルが増えることになる。

 加護も全て熟練度を最大まで上げて加護レベルがMAXになれば、25個までスキルが得られるから、合計30個のスキルを一度に覚えられるのか。


『本来はオレのところに来るべき、生産の鍛冶のマニュアル方法についてだが……。

 まあ今回は弟子入り目的じゃないんだろ?

 ならこれは飛ばすか』


「え、何を言おうとしてたんですか?」


『ん? 興味があるんでぃ?

 でも今は【鍛冶の加護】を持ってないだろ?

 つけてきたら話してやるんでぃ』


 てっきりチュートリアルかと思ったが、それはまた別のお話なのか。

 マニュアル、と言っていたし、また一段階レベルの高いお話なのかも。


『あとは装備でのステータス、能力値の詳しい話か。

 こっちに来るんでぃ』


 ソフィアさんと僕は立ち上がって、再び工房を通り店に戻る。

 ここまでに従業員の人と一度も会っていないし、この少女が一人でこの店を切り盛りしているのか。


『これを見ろ!!

 これはオレが作った最高傑作、オリハルコン鉱石を素材に使った、その名も「オレロリコン=アイギス」でぃ!!』


 そういって指を差した先に置いてあるのは、部屋の隅のガラスショーケースに入って、厳重に保管されている大盾。

 デ・デ・デ・デッデデーン!! というセルフ効果音と共に紹介されたそれは、この世界に元々存在しないであろう概念。


 ―――例えば愛車に好きなキャラクターをプリントするように。

 ―――例えば抱き枕に好きなキャラクターのプリントがされているように。

 目の前に存在するドワーフのロリっ娘が、等身大二次元デフォルメされて、でかでかと描かれたデザインの大盾であった。

 特徴を捉えて非常によく似ているのが、またなんとも言い難い。



 ■△▼△▼△▼△▼△■

 【オレロリコン=アイギス】

 分類:武器|《盾》

 所有者:《ソフィア・ロリコソ・ノームズ》

 STR:0 VIT:665 INT:0 MIN:0 DEX:0

 所持スキル:nothing

 ▶備考

「ソフィア・ロリコソ・ノームズ」に至高のオリハルコン鉱石を使って作られた、世界でも最高峰の硬度を誇る盾。

 宿る力は装備者に最高の堅牢さを与える。

 誰も死なせたくない、その思いが強さとなり、思いの分だけ重くなった。

 人が持つことを前提に作られるのが武器という概念のはずが、その概念を超えてしまった、使えない武器である。

 VIT上昇値が推定値の倍を超える、なぜか665《ロリコン》になっているのは、ソフィアの力量と、世界の謎である。

 その分、つけようとしていたスキルは全て吹き飛んだ。

 ■▽▲▽▲▽▲▽▲▽■



「……このイタ盾でステータスの説明をするんですか?」


『な、なんて顔してやがる!?

 オレの最高傑作を馬鹿にしたなっ!!』


 ソフィアさんが怒ってもなお、僕は努めて冷静に真顔で答える。

 多分僕の顔は、哀れなものを見るように、冷めきっていただろう。


「チェンジで」


『なんでそんなこと言うんでぃ!!

 実際に強いんだぞ!?

 ソウ坊達のクランに手伝ってもらって手に入れた激レア鉱石の、至高のオリハルコン鉱石を奮段に使って作った、現時点で最強の硬度とVITを誇る盾だ!!』


 馬鹿にしていたのもつかの間、改めてその能力値を確認すると、恐ろしい数字に思わず言葉が出た。

 ソフィアさんは、にやりと笑顔を浮かべた。


「なんだこれ……」


 僕の持っている初心者用盾の、665倍。

 比にならない。


 大きさは2メートルほどの縦長で長方形の大盾は、攻撃を受けるその面全体に絵があるが、裏面はシンプルな持ち手である。

 自分が持って使う分には、支障がないようだ。

 だが見える側にいる、共に戦う仲間、そして何より敵は何を思うのであろうか……。


『だが、とにかくVIT上昇値を優先しすぎてなぁ。

 鉄壁の城塞を目指したんだが、結果的に動かせんほどに重くなっちまった。

 この部屋からは、ストレージを持たないオレじゃ持ち出せない。

 ソウ坊に持ってもらっても、引きずることすらできんかった。

 もし使うならせっかくのVIT値を捨てることになるが、ストレージから出して受けて、受けたらまた閉まっての繰り返しになる』


 なにそのめちゃくちゃ面倒くさい盾は。

 そんなんで盾といえるのだろうか。

 ただの壁じゃないか。


『戦闘中にそんなこと無理だ。

 敵の攻撃中によそ見するだけで危険だからな。

 でも装備を変えるにも時間がかかる。

 それ用の待ち時間を早くするスキルを使えればいいんだが、そんなもんつけるくらいなら、【盾術の加護】のスキルで無理矢理動かしたほうがいい。

 まあ当然SPはすぐ尽きるだろうけどな、重いほどあのスキルはコストを使うらしいし』


 ソフィアさんは一番の傑作を自慢しているのか、けなしているのか分からないような説明を続けた。


『これは何トンを超えるか分からない、何が詰まっているのかも不思議なほどのありえない重さだ。

 おそらく普通に使おうとしたら、推定必要STR補正値は一万を超えるだろうな。

 だが、装備すれば途端に本人のステータスが上昇し、無敵の硬さを誇るようになる』


「それだったら、装備枠に装備しておいて、そこらへんに置いておけばいいんじゃないんですか?」


『それが出来れば苦労はしない。

 装備枠に着けた装備は、基本的には手から離れられないんだ。

 体から離すと、装備枠から自動で外れるからな。

 それから持ち直したって、装飾品枠に入れられて、また打ち直す必要がでる。

 装備枠に入れると、ステータス上昇と、装備の所持スキルの恩恵を受けることが出来る。

 さっき言ったのはアイテムとしての使い方であって、装備は装備してこそ効果を発揮するんだ』


「決戦用にして敵の渾身の全体攻撃を一撃だけ回避する用に使うか、使い潰しのタンク役に持たせるか……。

 ……それってどのみち使えないじゃないですか」


 僕が素直な感想を言うと、ソフィアさんはタジタジになった。

 顔を赤くして、怒っているようだが……可愛らしい。

 いや、別に僕がロリコンなわけではないが。


『っそ、そういうことになる、か……。

 よくそんなすぐに使い道が思い浮かんだなっ!!

 まあ、いい!!

 とにかく、武器や防具は装備をするのとしないのでは違いがある。

 この盾は装備をしなくても硬いから、違う使い方で使えるが、中には装備枠に入れないと全く意味がないものもあるんでぃ。

 例えば、指輪とかネックレスとかだな。

 とにかく大事なことは、能力値ステータスは5つまでセットできる「装備枠に入った装備」によってのみ上げることができるんだ。

 ただ持っているだけなら、装飾品枠に入れられ、この5つまでの枠を潰すことはない。

 だが、装備品も装飾品も重さ、厚さという概念は存在しているから、相手の攻撃を防ぐことだってできるし、ジャラジャラとつけていれば邪魔にもなる。

 重たいだけだし、オレは一切つけないなぁ。

 ステータスは内側の、中身のアバター能力値ステータスを上げるから、いくらVITが高い防具を装備していても急所を鎧で隠せていなければ、かなりのダメージを受けることとなるんでぃ』


 ほう、またややこしい設定である。

 確かに装備をいくつつけてもステータスに反映されるなら、両手が指輪で埋まるのがプレイヤーの基本テンプレートになってしまうし。

 かといって5つまでしか身に着けられないとしたら、自分の好きな恰好になれない。




「……装備を、装備枠に入れて着けていればステータス上昇などがあるが、体から離すと外れる。

 装備枠に入れなく身に着けると、装飾品枠に自動で入れられ、ステータス変化はないオシャレアイテムのような使い方ができる。

 でもどちらの枠に入れて身に着けていても、物体のため、攻撃を防ぐし、重たさも存在する。

 ってことですか?」


『えらく簡単にまとめたな……。

 たしかに、そういうことでぃ。

 理解が早くて助かる』


 ソフィアさんは感心したように僕を見てつぶやく。


 そのあと、ステータスの各項目についても説明してくれた。

 さすがにここはわかりづらかったので、メモ機能を使いながら聞いた。




 ◇――◇――◇――◇

 STR

 筋力パラメータ。

 この値が高いほど体全身の筋力が増える。

 この値がマイナスになると、筋肉がなくなり体が動かせなくなる。

 高すぎても自分の体の動きに追いつけなくなるため、注意が必要。


 VIT

 生命体耐久力パラメータ。

 この値が高いほど体が物理的に丈夫になる。つまり体が硬くなり、HPが減りにくくなる。

 この値がマイナスになると大気圧、水圧に押しつぶされて死ぬ。

 高すぎて不利になることはない。上げられるのならとことん上げたほうが良い。


 INT

 知能パラメータ。

 この値が高いほどスキル発動時の効果、威力が上昇する。だが、スキルの倍率は変わらない。

 この値がマイナスになると、スキルが発動できない。

 高すぎて不利になることはない。上げられるのなら上げたほうが良いが、効果があまり実感しにくいため、死にステータスとも。(これは種族:人間や勇者がもともと高いためである)


 MIN

 精神力パラメータ。

 この値が高いほど精神力が上昇する。さらに状態異常、能力干渉にかかりにくくなる。状態異常に対策するとき上げる必要がある。

 この値がマイナスになると、錯乱する。(五感感覚が全て断ち切られ、一時的にログアウト状態となる)

 高すぎて不利になることはない。上げられるのならとことん上げたほうが良い。


 DEX

 精密度パラメータ。

 この値が高いほど体感時間が伸びる。知覚速度をわずかに伸ばすことで、結果的に判断する時間が増えて、手先の器用さ、クリティカルに当てやすい、などの利点が出る。主に生産スキルを使うときに必要になる値だと思われがちだが、戦闘でもかなり役立つ能力値。

 マイナスになると知覚速度が逆に遅まり、自分だけが見る世界が速くなって追いつけなくなる。

 高すぎると、体を動かしたいのに体がついてこれなく、感覚が狂うので、下手に上げ過ぎると逆効果。

 STRとの上昇値の調整をしなくてはならない。

 ◇――◇――◇――◇




 ソフィアさんが一息ついたところで、僕もようやくメモを書く手を落ち着けた。


『それじゃあ、これで説明はおわりだ。

 何かうちで武器でも買っていくか?

 初心者だし、安くしとくでぃ?』


「うーん、じゃあ見ていってもいいですか?」


『おうよっ!』


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