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【改稿前】チュートリアルでレイドボス倒しちゃってスイマセンでしたっ!! ~支援歌【エンハンソング】の悪用法を検証し成り上がる~   作者: デウス・X・マーティー
第二章  【初心者応援】 ドキドキ!? 春のサバイバルイースターエッグ祭り 【公式イベント】
16/22

15話 初公式イベント開始、だが……。 ~イベント一日目~

 ◇――◇――◇――◇

 ~前回のあらすじ~

 ▶王女にイベントの詳しい説明を聞いた。

 ▶アイテム整理をした。

 ▶アイテムを購入してイベント準備完了。

 ▶一日目の目標は「採集でいろいろ集める!!」

 ◇――◇――◇――◇

 2067年 3月 25日(土)  18:01



 {現実世界:自室}



 準備が完了した僕は、昼ごはんのために一度ログアウトし、そのまま仮眠をとった。

 昨日からの脳の酷使もあり、かなり疲れがたまっていた。

 夜の睡眠では全く足りない。


 ……ソウは一日中VRに籠りっぱなし、というのがあり得ない。


「う~ん、よく寝たなぁ。

 って、もうこんな時間かぁ」


 起きるとすでに夜の6時。

 今日は両親は毎週のスポーツに出かけるため、家には弟と婆ちゃんと猫が残っている。


 作っておいてもらった夕食を腹いっぱいまで食べ、弟にDWSの感想を語り、猫を撫でまわしていると、あっという間にイベント開始30分前。


 これから半日分の経験を、一時間でやってくるのか。

 初めてのイベントに胸が高鳴る……!!


『準備が完了しました。スキャン完了しました。ログイン可能です。

「ログイン」とおっ』


「ログインッ!!」



 ~~~~



 {夢幻の島:北の海岸}

 イベント一日目 残り時間 11時間:59分:59秒


 視界が真っ暗の中、スタッフロールのようにイベントの説明がズラーッと流れていく。

 どれも午前中に言われたことと同じようなことだ。

 それが続いたあと少しの時間の空白があり、多少の酩酊感を味わった後にこの南国の島にたどり着いていた。


 波が浜に打ち上げられる、いわゆる海の音で目が覚めた。


 ―――すべての原初、「夢幻の島」。


 降り立った場所は、現実の海のように漂流物で汚れてることなく、絵に描いたような砂浜だ。

 日光を反射して白く輝く砂浜は宝石のようで、目に入る光がまぶしい。

 見渡す限りの海も、何も遮るものがなく、一直線に水平線が広がっている。


 背後はジャングルのようで、島の中心に向けて密林が広がり、様々な動物が生息しているのが気配で分かる。

 どの大樹も自分の何倍も高く、南国の無人島、という雰囲気が心を落ち着かせる。


 空は雲一つないほどに真っ青で、都会の喧騒なんて忘れてしまうほどに優雅だ。

 ……まあ、僕の家は田舎なので毎日こんな青空の元に住んでいるが。


 雨が降っていないことから、ここがDWS世界とは切り離されている、というのは本当のようだ。


 太陽が傾いていることから、おそらくはこのイベント限定エリアでは今、午前中なのだろう。

 終わりは半日後だから、夜になるころかな?


 僕がボーっと状況を把握しながら景色を楽しんでいると。



「「「[STR上昇付与ストレングスエンチャント]っ!!」」」


「「「[力の紋章]っ!!」」」


 すぐ近くの周りのプレイヤー集団、20人ほどが、自分自身にバフをかけ、一目散に森の中に走っていった。

 いや、走っていくという表現じゃあ生温い。

 言葉通り、森に飛び込んでいった。


 実は足にブースターがついていると言われても信じるくらいの初速で、ドンッと発射したのだ。

 むしろ何かしらの仕掛けが足に無いとおかしい。

 音速、とまではいかないが、あまりにも早すぎて砂浜がその衝撃でえぐれ、僕に大量の砂を振りかけた。


「えぇ……ここってどこかの星の戦闘民族が集まる場所ですか……」


 その他にもちらほらといたプレイヤー計30人ほどは、それぞれ威勢よく島の中心に走り去っていった。


「クソ! テンプレ団に先を越された!

 俺たちも急ぐぞ!」


「おぉぉぉ!! 久しぶりの公式イベントだぁぁぁぁ!!」


「目指せ我らのクランランキング入賞!!」


「「「おうっ!!」」」


「前回緊急イベントで入賞できなかった雪辱、ここで晴らしたるっ!!」


「今度こそソウちゃんに追いつけるようにがんばるわ~♥」


 どこかで聞いたことのある特徴的な声が聞こえた気がしたが、それは気にしない。

 スタートダッシュに乗り遅れて、砂まみれになり一人ぽつんと取り残された僕は、つられて焦らずゆっくりと森の中に入っていくのだった。



 ~~~~



 {夢幻の島:北森林}


 森の中はまさにジャングル、生き物や植物の宝庫だ。

 さすがは世界の原初、といったところで、シダ植物が多い気がする。

 気分は恐竜時代だ。

 いくつものツタが背の高い木から垂れ下がり、ターザンが飛んできてもおかしくない。

 中には30メートルを超すような巨大樹まである。


 隙間なく雑草は生え、ひざ元まで常に覆ってきている。

 ここをズボンなしで歩いたら、そうとうこそばゆいだろう。


「[識別]……[識別]……[識別]……。

 お、これがタマゴか!?」


 森に入ってすぐの木の根元。

 [識別]を使い続けていたおかげで、樹の裏、雑草の下に隠されていたそれに気づくことが出来た。


 ダチョウのタマゴ、といったら伝わるだろうか。

 かなりの大きさでストレージに入れなければ持ち運べない大きさだ。

 色は紫色で、ボーダーの縞模様がついている。


 ■△▼△▼△▼△▼△■

 【魔獣のタマゴ】

 ◇分類:イベントアイテム

 ◇所有者:マーティー

 ◇所持制限︰none

 ~詳細~

「クラス:魔獣」の魔物が産まれるタマゴ。

 ヒント1…色によって生まれる種族、強さが変わるよ!

 ■▽▲▽▲▽▲▽▲▽■



 割れないようご丁寧に藁がしかれ、その上に緑色のタマゴが一つ置いてあった。

 多分あの全速力を出した人たちは見逃したのであろう。


「ラッキー! 幸先いい!

 この調子で、採取メインでタマゴを取っていこう!」


 ホクホク顔でそのタマゴをつかみ、ストレージにしまう。

 次のタマゴを探そうと立ち上がり、後ろを振り向いたそのときだった。


『ギャっ……』


 そこには、自分の背よりも頭一つ分だけ低い、身長130cmほどの小人が立っていた。

 思わず目が合ってしまう。

 相手も驚いたようで、お互い時間が止まったように見つめ合ってしまった。



 小人、と言ったが、万人が想像する小人のようなメルヘンチックなもんじゃない。


 目つきは野犬のように鋭く、鼻は大きく魔女のように尖った鉤鼻。

 耳も大きく先っぽがとんがっていて、口はその耳まで裂けるほど大きい。

 にやりと笑ったその口からは、茶色く濁った鋭い歯がこちらを狙っていた。


 体格はひょろひょろのがりがりで、あばら骨が浮き出ている。

 濁った緑色、苔むしたような汚い皮膚だ。

 身にまとっているのは動物の皮でできたベスト一枚のみ。

 骨ばった手には木の棒に鋭い赤い石をロープのようなツタでくくりつけた、金槌のようなお手頃特製ハンマーを握っている。


 ―――――ゴブリン。


「[識別]……!!

 やっぱ名前ぐらいしか分からないか……」


 ◇――◇――◇――◇

 【ラース・ゴブリン】

 Lv.―[識別]で判定不可―

 ランク:魔獣

 名前:―[識別]で判定不可―

 所属:赤

 種族:―[識別]で判定不可―

 種族スキル:―[識別]で判定不可―

 所持スキル:―[識別]で判定不可―

 ◇――◇――◇――◇



 だが、彼はRPG定番の雑魚モンスターではなかった。


『ギエェェェェェ!!』


 ゴブリンは大きく叫び声をあげると―――視界から消えた。


「……っ!!

 どこだ……!!」


 見渡しても見当たらない。


 いなくなった……と安堵した、次の瞬間。


『ギャアァァァァァ!!』


「上かっ……!!」


 僕が見たものは、空中から斧の刃をこちらに向けて空から降ってくる、恐ろしい鬼の姿であった。


 ―――あ、死んだ。


 直感的にそう悟ると、体から一気に力が抜けた。

 もうどうしようもなくなったとき、人はどうやら諦めを選択するようだ。


 純粋に殺意を向けられるのなんて、人生初である。

 その殺意、というものは、いままで社会で感じてきた悪意なんてものの、比じゃなかった。


 いくら剣道をやっていても、本物の殺意なんて感じることがなかった。

 ソウのまっすぐ目を狙ってくるような面打ちでも、ここまでの恐怖を感じたことはなかったな。


 攻撃はもろに喰らい、脳天がかち割れる……と思ったところで、ゴブリンは僕の頭から離れ、一度距離をとった。


「死んで……ない?」


 視界には、『―身代わり人形が発動しました―』の文字が。

 そうか、それで九死に一生を得たわけだ。

 痛みに代わる痺れすら感じていない。


「よーし、今度は僕の番……!!」


 腰にさしてあった剣を抜き、背中に背負っていた盾を外し、ゴブリンに向けて構える。

 腰を落として、しっかりと地に足着け、どんな状況にも対応できるように姿勢を整える。


「さあ、正々堂々と勝負だ!!

 [パワースラッシュ]―――!!」




 ~~~~




 {夢幻の島:北の海岸}

 イベント一日目 残り時間 11時間:25分:17秒



 ―――あなた方が行った行動によるランキングもございます。順位が高いほど大幅なポイントボーナスがございますので、思うがままに自由に行動してください。具体的には魔物の討伐数、タマゴや採集アイテムの数やレア度などです―――


「午前中の王女の説明との相違点はやっぱりこれくらい、か」


 南国の島の海岸に打ち上げられた僕は、視界に表示されたワールドメッセージを見てつぶやく。

 イベント開始直後、このメッセージが表示されたが、事前説明と違うのはこれくらいだった。


 本来は自分の集めたポイントで報酬が交換できる、という予測が当たっていたことを素直に喜んでいるはずなのだが。


「この難易度がデフォルトだとすると……。

 はぁーあ。

 ……それにしても、世の中って厳しいなあ」


 この感想を漏らしたとき、僕はすでにこの島で、たった30分間の間に10回目の死を迎えていた。



 僕は何度も同じように、木の洞でタマゴを探して見つけては、あの「ラースゴブリン」にやられ、草の中を搔き分けて見つけては、ラスゴブにやられ……。


 最初のラスゴブ戦?

 もちろん死んださ。

 僕がね。


 あの後「現世戻りの秘薬」まで消費しちゃって、開始早々60,000(六万)エナジーが吹っ飛んでいった。

 僕の人生初、VRゲーム史上初の戦闘は大敗に終わった。


「っていうか、死ぬのにも慣れてきたな……」


 混じりっ気のない殺意を向けられるのを、人生で初めて経験した。

 最初の3回まではただただ恐ろしかったが、四回目以降からはもう慣れた。


 この世界のこの体、アバターは、僕が操作しているコントローラーなんだ、と思うと自然と恐怖が抜けて、またゲームを楽しめるようになっていた。

 自分を第三者視点で見れるようになった、というと分かりやすいかもしれない。

 今までこの世界に自己投影しすぎていたからな。





 懲りずにまた島の中心に向けて歩き始める。

 まだ時間はあるし、タマゴをとりあえず一つは手に入れて、あの安全地帯の砂浜まで持ち帰っときたい。


「はあーあ。

 そこらへんに運よく何個もタマゴがまとまって落ちてないかなぁ。

 [鑑定]、[鑑定]、[鑑定]!!」


 タマゴが二つ以上落ちていれば、一つをランダムドロップしてしまっても残るのに。


 そうそう、[識別]を使いまくっていたおかげで、【鑑定の加護】の加護レベルが上がって新しいスキル[鑑定]を覚えた。


 おそらく他のプレイヤーはさらに奥地に行っているようで、周りには一人もいない。

 独り言を呟きながら、加護レベルが上がって覚えた新スキル、[鑑定]を連呼していると。




 この森林の中に、樹が直径10メートルほど生えていない、開けた空間にやってきていた。

 今回は敵と一度も遭遇していなく、初めてこの奥地までやってこれた。


 そのちょうど中心。

 わらがどっさりと積み重なった上に、それはあった。


「え、まさか、言ったことが現実になった……!?

 ちょい待て待て待て!!

 [鑑定]……うん、やっぱそうだ!!

 マジか、マジかよ……うおぉぉぉ!!

 言霊思想サイコー!!

 やっぱ僕、なにか持ってるわ!!」


 何度も死んだあとの、これだ。

 これを喜ばなくて、何を喜ぶ!!

 正直、いつの間にかレイドボスを倒したことになっているよりも、努力を認められた気がして嬉しい。

 早速ダッシュで近づいて、タマゴの取り放題の開始だ!!

 

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