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11話 歌唱スキルって使っちゃダメなの?

 2018/01/04・ソウからの王国周辺の状況説明を追加


 ◇――◇――◇――◇

 ~前回のあらすじ~

 ▶聡、ソウと出会った。

 ▶ソウと一緒にクエストに出かけた。

 ▶ソウの熟練者ぶりを垣間見た。

 ◇――◇――◇――◇

「おお……」


 口から素直に声が漏れてしまった。


 速過ぎて、知らない人は何をやっているかは分からないだろう。

 剣道をやっている者なら分かるだろうが、面抜き胴とは、相手の面打ちを横に抜けるように回避しながら、相手の胴に胴打ちを決める技だ。


 思わず旗を上げてしまうほどのきれいな残心をとった後、ソウはこちらに駆け寄ってきた。

 手に持った刀はきらりと黒光りし、駆け寄ってくるソウが恐ろしく感じ、思わずたじろいだ。

 武器を構えて走ってくるんじゃない!!


「おーい!!

 どうだった?」


「いや、どうもなにもねえよ!!

 それじゃ参考にならねえわ!!」


「悪い悪い、ちょっと先行者として自慢したかっただけだ。

 でもなんとなく形はつかめただろ?」


 笑顔で詫びるソウだったが……。

 それ本気で言ってるのか?

 いくら初心者でもできることと出来ない事があるだろう。


「マーティーだって剣道やってたし、あの型くらいは余裕じゃないか。

 ちょっと武器の性能の違いで回数はかかるかもしれないけど、あれなら被ダメージなく倒せる。

 スライムは基本まっすぐ突進してくるだけだし」


「いや、でもスライムって物理が効きにくいんじゃないのか?

 火魔法とかでバーンって倒すのかセオリーとか」


「あー……まあテンプレはそうだな。

 でもこの方がプレイスキルの訓練にもなるし、俺は初心者のころからそうしてたぞ」


 さすが聡さん、ストイックっぷりが半端ないっす。

 さも当たり前のように真顔で語ってくるからこそ、説得力がある。


「それじゃあ、次にマーティーも倒してみてくれ。

 魔術系のスキルでも構わないから」


「え?」


 二人の間に、沈黙が流れる。


「まさか入れてないのか?

 このゲームのウリは魔法が使えることもあるのに……!!」


「いや、とっているっちゃあとっているけど。

 でも【光魔術の加護】だぞ」


「あーそれを選んだか。

 たしかにその持ってる盾と組み合わせて、聖騎士風のロールプレイが出来そうだな。

 いいセンスしてんじゃんか。

 ん?

 ……ってことはもしや、【剣術の加護】のチュートリアルも受けてないのか?」


「うん、そうだが……」


 あ、これはもしかして、もしかしなくてもやってしまったか。

 答えると、ソウは頭に手を当てて悩み始めた。


「あちゃー。

 んー、そうかあ……。

 他に加護は何を選んだんだ?」


「あとは【盾術の加護】と、【挑発の加護】と、【歌唱の加護】だよ」


 ソウは再び考える人のように悩むポーズをとった後、僕に慰めの言葉をかけた。


「たしかにいい選択だ。

 だけどそれだと協力イベント用か、ボス用だ。

 序盤はとにかく火力さえあれば行けるから、細かいことは考えないで、【剣術の加護】と五属性魔術の加護を入れとけばいいんだが……やっぱクエスト前に行くべきだったかあ。

 ……よし、今は俺が10匹を倒しちゃうから、そこで見といてくれ」


 腕を組んで考え始めたあと、周りをぐるっと見渡し、人があまりいないことを確認してから僕に真顔で、小声で告げた。


 僕のやれることは見守ることしかないのか。

 せっかくゲームの醍醐味、戦闘になったというのに。

 それなら白い人に従って、攻撃系の加護をすぐに入れておくんだった。

 まあ、いまさら後悔してもしかたない。


 ……そうだ。

 自分にもやれることがあるじゃないか。

 スキルレベルがMAXになったあの[ストレングスソング]が。


 とりあえず使ってみたいし、やってみよう。

 レベルがMAXにもなればかなりソウの役にたてるんじゃないか?


 早速[ストレングスソング]をオンにし、ソウに意識を向けて歌ってみる。

 自分がよく歌う、60年代の応援歌のヒットソングだ。


「がん~ばれ~♪

 がんば~れ♪

 ソウよ~、力の限り~♪」


「おいやめろ。

 大丈夫か、マーティー」


 スライムに向き直りこちらに背を向けて走り出そうとしていたソウが、真顔で振り返り、ツッコミをいれてくる。


「イベントは終わったんだから、もう歌唱のスキルは使わないだろ?

 なんでいきなり歌い始めるんだよ、びびったわ」


「すまんすまん、でもソウに全部任せちゃうのは気が引けて、な」


 僕が答えると、つい今まで真剣な顔だったソウが、途端に笑い出した。


「なんだよ、そういうことか!

 そんなん気にしないでいいぜ!

 だって俺とお前の仲だろ!」


 大声で僕に向けて言い放った後、バシバシと肩を組んで叩いてくる。

 装備の違いでステータスに差があるせいで、痛みはなくとも衝撃がものすごい。


「というかむしろ、俺に使うのはよくない。

 知ってるか?

 初心者が上級者に支援スキルをかけているのは、経験値を奪う寄生行為の一種だからな。

 パーティー内の行為だから黙認されるが、俺に限ってはそうはいかないかもしれないし」


 ソウはそのまま肩を組んで小声で僕につぶやいた。


「既にこの状況を見られたら、なんと言われるか。

 だから、ここはこっそり俺がクエストクリアしちゃうから、とにかく他人のふりして見ててくれ」


 おそらくギルドでのひと悶着といい、ソウはDWSで有名なプレイヤーなんだろうか。

 周りをしきりに気にしていたのもそのせいであろう。


 だが、周りにはスライムが湧いてくるのに集中して、ただ走り回る初心者プレイヤーたちしかいない。

 なにをソウが恐れているのかは分からないが、とりあえず言われた通り、何もしないでおこう。




 それからソウはまさに無双ゲームのごとく、一瞬にしてスライム9匹をほふっていった。

 スライムが当たって飛び散る様は、見ていて爽快。

 ものの見事にきれいに真っ二つにされていくスライムは、まるで豆腐のようであった。


 MMOゲームでの古参プレイヤーとは新規プレイヤーより圧倒的に強いものだが、まさかここまで違いがあるとは。

 リアル過ぎるゲームだからこそ、プレイスキルも、装備の強さの違いも、明確に分かる。

 ここまで追いつけるのか、かなり不安になった。


 聞けば攻撃系スキルは一度も使わず、全てプレイスキルで攻撃していたらしい。

 まさにリアルチートである。


 だがソウ曰く、


「剣道の段を持ってるマーティーなら、普通に戦えるだろ?

 一ヶ月すればVRの操作にも慣れて、これくらい朝飯前になるから」


 らしい。

 もう剣道やめて三年以上経っているし、そんなに早くは上達できないわ。



 ~~~~



「なあ、ソウ、この国の魔物が出るのってこの草原だけなのか?」


 魔物を倒し終わり帰っている途中、僕はふと思いついた疑問をぶつけた。


「んなわけねぇだろ!

 王国の四方が壁で囲まれて、どの方角からも魔物の脅威は進行してきてる。

 この南は比較的初心者向けの、通称【緑の地】。

 草原や森といったフィールドがあって、それにちなんだ森のダンジョンも存在する」


 緑……ギルドのイメージカラーか。

 初心者の緑だと思っていたが、全てその方角の地を示していたのか。


「西は通称【黄の地】。

 砂漠や洞窟といったフィールドで、洞窟ダンジョンとかも多い。

 一番ダンジョンが見つかっているのも、この黄の地だな。

 北は通称【赤の地】。

 山脈、火山のフィールドで、溶岩がむき出しになってたりするところもある。

 山のダンジョンが多いな。中には火口ダンジョンなんてのもある。

 そいで東が通称【青の地】。

 海と島で構成されるフィールドだ。

 最近、ようやく船が勇者とネイティブの協力で完成して、行った人曰く、島がまるごとダンジョンになってるっていう噂だ」


「船までプレイヤーで作って海に行くのか!?」


 そこまでプレイヤー任せとは。

 自由なのはいいが、そこまで自由であると、面倒だな……。


「ああ、海にもともとあった船は、どれも魔物に壊されたっていう設定があったからな。

 当然海は、難易度が高いフィールドだぜ。

 ほんでもって、今俺らは、ある魔物を追いかけているんだが……。

 それはここで話せねえし、違うところで言おう」



 ~~~~



 あっさりとクエストクリアをした後、再びギルドに戻ってクエストを完了させる。

 これまたソウ曰く、「クエストは完了報告までがクエスト」らしい。

 採取系のクエストだと、目当ての物が取れたとしても、死んでしまえばそのアイテムがなくなった状態で復活するからだ、と。

 リセットデスペナルティが厳しすぎる。



「よし、それじゃあ詳しい加護交換の説明をしてやろう!

 まずは交換できるスポット、礼拝堂に行くぞ」


 手を引かれ連れていかれるのは、ギルドに入って正面の突き当りの部屋。


 ギルド内に設立された礼拝堂は、王宮の物ほどの広さはなく、学校の教室ほどの広さであった。

 ギルドより隔離されているせいで、一気に静かになり、荘厳な雰囲気は王宮の物と似ている。


 ここも石造りでひんやりとした空間であり、前方に向けて木の長椅子が左右に3つずつある。

 おじさんの結婚式が、まさにこんな小さめのチャペルで行われていたなあ。


 既に10人ほどの列ができている。

 列の先には、王宮の礼拝堂にもあった女神像の十分の一スケールほどの、お地蔵さんサイズの女神像が佇んでいた。

 先頭の人は片膝をついてその像に祈るポーズをすると、白い光に包まれ、すぐ礼拝堂から出ていった。



「さっきも見せてもらった加護だが……あれくらい徹底的にやるのはボス戦くらいだ。

 どこのサイトのテンプレを参考にしたんだ?」


「あんまりネタバレがして欲しくなかったから、『ネタバレなし!!』ってところを見たかな」


 答えると、ソウは納得、といった表情でうなずいた。


「あー、多分マッドのマスターが書いてるブログの記事だな。

 俺もたまにお世話になってる。

 たしかに書いてあることはそうなんだが、あれは今のトッププレイヤーの現状だぞ。

 序盤はそれこそ、属性魔術の加護をバンバンいれて、速攻で敵を倒していった方が効率がいい」


「なんだ、てっきりMPを消費しないスキルで固めた方がいいと思って」


 僕は尋問のように聞かれて落ち込んだが、ソウは口を手で覆い隠して小声で言った。


「今のテンプレ的には確かにそうだが、あれは装備のスキルでMPを使うからであって……。

 まあそれを初心者が勘違いするように、マッドもあえて書いたんだろう。

 そういう無意味に人をハメることを、面白がってやりそうだしな。

 あの人の記事は俺も少し信用ならんから、まず情報を疑ってから信じてる。

 ……なにせコック事件の生みの親だしなぁ」


「なにそれ?」


「知らないのか!?

 まあ、ここで言うことじゃないし、また気が向いたら教えるさ」


 慰めの言葉と共に、忠告をしたソウ。

 ソウが小声で言うときは聞かれたくない事だろうし、察してこれ以上深くは聞かない。

 ザヴォルグさんの時のように地雷を踏みたくないし。


「ま、今はとりあえず、【剣術の加護】と、五属性プラス無属性の合計六種類の魔法加護のうちの、どれか一つを入れとけば大丈夫だ。

 闇と光は補助的な魔法スキルが多いし、初期スキルはどっちも目くらましだから、正直つかわないかな」


「【闇魔術の加護】の初期スキルはどんなのなんだ?」


[闇球ダークボール]っていう、ダメージ無しの球を出して、それに攻撃したら煙幕が出る。

 ま、[光球ライトボール]とさほど変わらんな。

 さっき言った六種類の魔術は、同じボール系のスキルだけれど、どれも攻撃用だ」


「それじゃあ、抜くのは何がいい?」


「そうだな、盾はそのまま使うんだったらあってもいいし……。

 やっぱ【歌唱の加護】を抜くのは必須だとして……。

 残りは【光魔術の加護】か【挑発の加護】で選択だな」


「え!!

 【歌唱の加護】を抜くのか!?」


 僕は声をあげて驚いたが、ソウはそれ以上に僕の言葉に驚いた様子で、大声をあげた。


「え、そりゃそうだろ!!

 そんな死に加護、あるだけ枠の無駄だぞ?

 スキルを使ったら、たまに寄生扱いされてパーティーを追い出されることもあるし」


 なんて世知辛い世の中……。

 スキルを使うだけで害悪認定とは。


 僕が顔をしかめると、ソウは慌てて励ましてくれた。


「まあ寄生扱いする奴らなんて、無視すればいいだけだ!

 無駄に効率を意識しすぎて、他人にそれを強いるのは、違うしな。

 “自由な世界”なんだから、自分の好きなようにやればいいじゃんか!

 効率とか求めてプレイするのも、全て楽しむためだろ?

 楽しめればそれでいいじゃん!」


「たしかに……そうだな!」


 僕はソウの言葉に大きく頷いて、加護を変更する。

 相変わらず僕は人の言葉に流されやすいが、それは自覚しているからいい。


 ソウの助言通り、【剣術の加護】と【火魔術の加護】をセットする。

 抜くのは【光魔術の加護】と【挑発の加護】だ。

 歌唱のスキルと[拡声]のコンボは強力だとわかったが、たしかに歌唱のために二枠をとるのはリスクが大きかったし。


「よし、加護の変更はこれで完了だな。

 それじゃあ次は、鍛冶屋とアイテム屋か」


「説明が少し……というかかなり多いな」


 愚痴を思わずこぼしてしまうと、ソウは顔をしかめる。


「まあ、その分だけボリューミーなゲームなんだよ、DWSは。

 あとは攻略サイトなりで見といてもらってもいいが、大変だぞ?

 掲示板で教わっても、それが本当のことかなんて保証はないしな」


「すまんすまん、すごいありがたいし、助かってる。

 説明の続き、頼んでもいいか?」


「おう!

 任せとけ!

 あと、俺もそんなんじゃ怒らんから謝るなよっ」


 ソウに連れられて、夕方の赤く染まった空のもと、一人の初心者が一人の鎧武者に連れられ大通りを歩いて行った。


 ……やっぱりこの街並みに甲冑は合わないわ。

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