表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

♯1 オワリハジマリ

はじめまして、よろしくお願いします。


ゲーム開始から読みたい方は、6話からお読みください。

そこまでのあらすじもまとめてあります。


そこまでは説明が長いので、6話からお読みください。

 

 ―――まさに理想郷。

 そこが現実(リアル)仮想(バーチャル)かなんて、どうでもよくなるほどに。

 0と1の世界、というと簡素で空虚なものに聞こえるが、そんなことはない。


 今まで過ごしてきた現実こそが、仮想だったのではないかとも思わせる、現実と同等以上の世界。

 まさに異世界。

 現代に現実として存在する、異世界。


 もしかしたら僕たちがいるこの世界も、今どこかでプレイしている、人生という名のVRゲームの中なのかもしれない。

 こう考えると、そもそも現実ってなんだかわからない。




 ~半年後~




 2067年 3月 17日(金) 12:00



 ―――――異常なエナジー量の接近を観測。


 ―――――魔物不可侵結界が破れらました。


 ―――――観測対象、解析開始。


 検出結果―――所属:赤 種族:龍 ランク:神魔

 エナジー測定―――測定限界到達

 危険度測定―――危険度:A+


 緊急クエスト申請―――――緊急クエスト申請却下。


 緊急イベント申請――――緊急イベント申請許可。


 ルール設定―――協力レイド式を採用。

 報酬設定―――ランキング制、ダメージ量制を採用。

 救済設定―――最高レベルの救済を要求。『―――――』に神託を送信します。


 ――――――イベント、発生させます。





 各所で期待されていたVRゲーム、「DifferentディファレントWorld(ワールド)Summons(サモンズ)」。

 瞬く間に全世界が魅了された。


 完成度の高さに全プレイヤーが驚きの声を上げ、人は皆VR世界の虜となった。

 一か月以上が経ってもその狂乱は収まりきらず、半年経った今でも発売当初と変わらない熱狂ぶりだ。

 一時の社会現象だった、VRブームだった、では終わらずに、購入者の半数以上が今でも続けるほどの人気なのだ。


 ゲームがやりたくて買う他にも、観光目的で訪れたり、目的は多岐に渡り始めた。

 観光目的の人にとっては、家から一歩も出ずとも現実世界よりすばらしい世界を見放題なのだから、これ以上に便利なツールはないだろう。


 そして発売されて半年が経った今、全プレイヤー協力型の巨大イベントが開始された。

 開催期間が一週間しかないということもあり、プレイヤーの中には会社や学校を一時辞めたもの、寝る間も惜しんで没頭したせいで病院に運ばれたものもいたという。


 なぜそんなにも熱心になるのか?

 そんなの、ゲーマーなら当たり前じゃないか。


 ―――魅力的な報酬が待っているからだ。


 今回のイベントでは、ボスに一撃を与えるたびに、ダメージ量に応じて経験値と素材がドロップする。

 通常の戦闘では、戦闘を行った後に分け与えられるのだから、効率よく経験値とお金とを稼げるため、プレイヤーにとっておいしすぎるイベントであった。

 このゲーム、現在はプレイヤー自身のレベルは存在しないが、代わりに習得できるスキルにレベルが存在している。

 いくら廃人のプレイヤーでも、このスキルレベルを上げることは容易ではないからこそ、皆が必死になった。


 さらに多種多様なランキングも用意されており、良い成績に輝いた者には、戦闘報酬とは別に貴重な報酬が配布されると告知されている。

 その中でも一番注目されているのが、メインランキングとされて報酬も一番良い、ボスに与えた総合ダメージを競うダメージランキングだ。

 誰もがそのランキングに入賞しようと躍起になっていた。



 ~~~~



 2067年 3月 24日(金) 11:55

 ~{王国:王宮のふもと}~


 ―――残り時間が五分を切りました。皆様どうか諦めず、最後まで全力を尽くしてください―――


 ワールドメッセージが全ての勇者たち(プレイヤー)の視界に直接映る。

 それは、このボーナスステージの終わりを告げる宣告だった。


「支援スキル系、遠距離スキル系の使い手、それと初心者!!

 王宮の目の前の敵から離れて!!

 体から吹き出す炎のスリップダメージで死ぬわ!!」


 イベント終了ギリギリにやってきた初心者や、前に出過ぎた後方組に向けて、火耐性の装備でかためた金髪の女戦士が叫ぶ。

 素直に従った者は助かったが、聞こえていない者、聞かなかった者は10秒と持たずに溶けていった。

 火が燃え移って、アバターは光のポリゴン片となりその場から消え去る。


「「「ウォーター――」」」

「「「アイス――」」」


「「「ボオォォゥルッ!!!」」」


 接近戦を行う者の背後には、魔術師のようなローブを着た者がズラッと並んでいる。

 虚空に魔法陣が複数展開され、幾千もの水の塊、氷の塊が現れては投げられ、現れては投げられ。

 空に彩られた打ち上げ花火のように展開されたそれらは、標的に向かって間を置かずに延々と撃ち放たれる。

 焔が立ち上っていた敵の皮膚が音をたてる。


「後方組ありがとよお!

 お前ら、ここが正念場だあああぁぁぁぁ!!」


 間髪入れずに、火が消えて攻撃が通るようになったポイントを狙って、近接組が剣で切りつける。

 濡れた皮膚からは炎が止み、攻撃が通りやすくなっていた。


「おっしゃあああぁぁぁぁ!

 最後まで気合入れていけえええぇぇぇぇ!

 野郎どもおおおぉぉぉぉ―――!!」


「「「―――ぅぉぉぉおおおお!!」」」


 声を振り絞り、手に持った刀を振り掲げる。

 それに続いて声を合わせ、一斉に突撃していく。

 その人数は百を超えている。


「―――俺らのクランも負けてらんねえぞおおおぉぉぉ!!

 後に続けえええぇぇぇ!!

 ここが命の、張りどころだあああぁぁぁ!!」


 負けんとばかりに、続く集団が剣を振りかざす。

 こちらは百をゆうに超え、千に近い。

 同じ目標に向かっているのはそれだけに限らず、何万……いや、何百万もの人間が同じ目標めがけて攻撃を加える。


 定番の長剣や短剣に限らず、トンファーや三節混や鎖鎌、人の背丈の二倍はある大剣や太刀、死神が持つような大鎌や、自動車も一発で廃車にできそうな巨大ハンマーやハルバードなど、各々が様々な武器を担ぎ、渾身の一撃を振るう。

 王道ファンタジーの主人公のような勇者風の鎧、戦国時代の武将のような恰好、西洋風の銀の鎧をまとった騎士、蛮族風の衣装、ビキニアーマー、などなどコスプレのような防具を身にまとって、全員が必死に奔走する。

 それらは、戦場となった王国をただひたすらに駆け巡る。


 竜巻を召喚して当てる者、津波を起こして攻撃する者、龍の形となった落雷をぶつける者、光の熱光線レーザービームで撃ち抜こうとする者、闇の瘴気で犯そうとする者、激しい衝撃波を繰り出すもの。

 天変地異、阿鼻叫喚。

 世界の終わりのように、止まない攻撃が続く。




 ~~~~



 同時刻

 ~{王国:時計塔}~



 聴こえてくるのは、龍が導く終焉への足音と戦闘音だけではない。


 風に乗って、オーケストラの壮大な調べが運ばれてくるのが聴こえた。

 誰もが知っている、ベートーヴェン作曲、交響曲第五番「運命」の第一楽章。


 迫りくるこの王国の、希望のない未来を表現するかのように、有名なフレーズが耳をつんざく。

 弦楽器の激しく目まぐるしい旋律が繰り返される。

 奏者の弓は激しく上下に弦を弾き鳴らし、全員がスキルをオート操作ではなくマニュアル操作で演奏している、プロである意思が伝わってくる。

 緩急をつけて演奏されるメロディーは、聞くものを昂ぶらせ、戦意を向上させる。

 有名なメロディーの繰り返しが終わり、曲も終盤に差し掛かっていた。


[STR上昇付与]ストレングスエンチャント!!」


 指揮者が指揮棒を振り上げると同時に、スキル名を叫ぶ。

 指揮棒の先から赤色の光が、この曲を捧げている、間近のたった一人の観客に注がれる。

 光をもらった人物は、演奏を聴いているしている最中も、常に弓を引き絞り続けていた。

 この者の弓は、楽器ではない。

 体全体をほんわかと覆いつくし、やがて馴染んで消えていった。


「全クランメンバーの【楽器の加護】スキルによる強化、【付与魔術の加護】のカンスト[STR上昇付与]ストレングスエンチャント、完了しました!!

 [引き溜め]最大倍率まであと10秒です――――!!」


「―――[腕力強化(アームブースト)]―――[闘気解放]―――[貫通付与]―――」



 王国の時を刻み、王国で生活を営む人々を常に見守ってくれていた時計塔。

 高さは300メートル、大体東京タワーほどで、平地に立っているのに、国の中心の小高い丘の上にそびえたつ王宮と肩を並べるほどに高い。


 そこからは、この王国の悲惨な現状を、全て見渡すことが出来た。

 四方の門のうち、昨日までは人々が行きかっていた北門から王宮に向けての道が、更地となっていた。

 ネイティブを全員避難させたはいいものの、王国の被害は甚大。

 進行速度が遅く、イベント発生から一週間の猶予があったことだけが不幸中の幸いである。


 頂上には50人ほどの人だかりが。

 誰もが楽器を手に持ち、脅威に戦慄することなく、勇敢に旋律を奏でていた。


 だが一人だけ、他とは明らかに違う”武器”を持ち、派手な格好の者がいる。


 掲げた大弓は、常人が扱えるような常識的範囲の弓の大きさではなかった。

 人の身長の倍はある、3メートルほどの豪弓。

 北欧神話の、ラグナロクを導いたとされる神殺しの弓をモチーフにした、ヤドリギで出来た神弓。


 弓につがえた物は、誰もが思い浮かべる矢じりと羽根のついた矢ではなく、槍であった。

 こちらも常人には持つことさえできなさそうな、大槍。

 ケルト神話の、放てば三十のやじりとなる英雄クーフーリンの愛槍をモチーフにした、魔槍。


「――――残り5秒!」


 そう言われると、腕を限界まで伸ばして、さらに弦を引き絞る。

 歯を食いしばって引いた後、まだ言い残したスキル名を、自分にだけ聞こえるように小声で唱える。


「―――[クリティカルブースト]―――[遠比例撃ち]―――[無限槍(エターナルスピア)]―――!!」


 最後の言葉を唱えた途端、その者の背後の頭上に魔法陣が幾重にも展開した。

 魔法陣の一つ一つからは、つがえた槍と全く同じものが召喚されていた。

 どれもが意思をもったかのように震え、輝きだし、周りの空気は蜃気楼のように揺れている。


「――――1、0。

 矢をお撃ちください――――!!」


「[神穿つ直閃(ラグナロクストレート)]ッ―――!」


 ――――瞬間、幾重もの光が虚空を切り裂いた。


 弓から槍を離した直後の出来事であった。

 全くの同時に背後の魔法陣からも、槍が飛び出す。

 時計塔から高速で放たれた槍は、1キロメートル以上離れた動く標的の、怒りと憎悪で満ちた紅蓮の目を、集中的に、正確に撃ち抜く。

 クリティカル判定の光が飛び散り、傍から見てもかなりの大ダメージを与えたことがわかる。

 現に、今まで攻撃を気にも留めていなかった標的が、歩むのを止めた。


「ギルガメッシュ様が槍を撃ったぞおおおぉぉぉ!!

 一斉に、放てえええぇぇぇ!!!」


 時計塔からの一撃を合図に、時計塔の周りの各地から、矢や魔法が雨のように標的の背中に降り注ぐ。

 動かなくなった標的にはその全てが命中した。


 だがそれらの攻撃を受け続けてもなお、倒れる気配はいっこうとしてない。

 一千万人近くの勇者プレイヤーが一週間ダメージを与え続けたのに、である。


 歩みを止めたのはほんのわずかの間だけで、龍は再び王宮に向かって歩み始めた。





 王国を襲う圧倒的な質量。

 迫りくる物体は、一歩を踏み出すたびにその地に業火と爆風と地震を起こす。

 歩み過ぎ去った後には、建物が一つも残っていない更地が広がっている。

 そこに街があったとは思えないほどのありさまだ。


 空気を揺らすその咆哮はあらゆるものを震わせ、恐怖で空間を支配する。

 きっと龍から見たら、僕らは蟻だ。

 比喩ではない。実際にそうなのだ。


 全長1キロメートルはあるんじゃないだろうか。

 頭の先から尾の先が一目で見えない。

 勇者がいようと全く気にせず、ただひたすらに、歩いていた。

 目的地はこの王国の中心、王宮だ。


 なぜ王宮を目指しているのか?

 決まっている。

 そこは勇者が、無限に湧いてくる地なのだから。

 ここを潰すことさえできれば、勇者はもう来ることがなくなる。

 逆に言えば、ここを潰さなければ勇者が永遠にやってくると知ってしまったから。


 だから一心不乱に突き進む。

 邪魔する者はなぎ潰していく。

 いや、邪魔にすらなっていないのかもしれない。


 ――――終焉を導く龍、エンドロギアス。


 二体の放浪魔物ランダムエンカウントモンスターの間に生まれた、規格外の魔物。

 その巨体は、もはや生物ではない。

 それの足元にいたら、ここに建造物が建っているんだと勘違いするだろう。

 間違っても生き物だとは到底思わない。


 エンドロギアスは王宮の目の前で立ち上がった。

 二足で立ち上がると、王宮の本殿の高さを越すほどでかい。



 だが、勇者たちの奮闘もむなしく、時計塔の鐘は轟音を響かせる。

 時間は待ってくれなかった。


 時計の針が希望を撃ち抜いた。



 ―――終了時刻となりました―――



 無慈悲にも終了の合図が全勇者に伝えられ、立ち上がった龍は前方に倒れる。


 あぁ、王宮が潰される。


 一千万人がそう確信したときはもう遅い。


 龍は倒れ、王宮は跡形もなく潰され――――





 ――――なかった。



 北門にむけて設置された王宮の裏手のバルコニーから、一人の人間が飛び上がる。

 彼は空高く、高く、飛び上がる。

 まるで、満を持して打ち上げられたロケットのように、垂直にただ上へ、上へと飛ぶ。

 その先は、今まさに王宮を質量にて押しつぶそうとしていた、エンドロギアスの頭だ。


 その勢いのまま頭を越え、ついに最高点に達した。

 彼は剣を抜き、振りかぶる。

 その剣は日光に反射して、宝石のように輝いていた。


『――――』


 全勇者(プレイヤー)が見守るなか、目に見えぬ速さで、龍を頭から何度も何度も絶え間なく切り刻む。

 空中で不安定な中、重力に引かれて地に落ちることからあがくように、しかし一閃一閃は乱れずに切り刻む。

 その剣筋はただものではなかった。


 並みの人間には物理的に不可能な、神の所業。

 それこそが、スキルの発動。

 だがそのスキルは、今までの勇者プレイヤーが使用したスキルとは格が違った。


 エンドロギアスは王宮を押しつぶす寸前で、頭からみじん切りにされていき、光のポリゴン片となって空に昇華されていく。

 一瞬のうちにその姿を消し、王宮の前に残ったのは、龍の残骸とそれを作り出した者のみ。

 ただ一人、王宮の建つ丘の前で、仁王立ちしていた。


『――――ありがとう』


 その言葉は、消えていった龍に手向けられた。

 だが、聞き取ったものは誰一人いなかった。

 少し離れて周りにいた他の勇者たちは、呆気にとられ、ただただ立ち尽くすしかなかった。



 ―――現時刻をもちまして、DWSサービス開始より初の【始祖】称号持ち放浪魔物が討伐されました―――

 ―――称号【始祖の龍】が開放されました―――

 ―――【始祖の龍】は「霆轟龍」「爆轟龍」「嶽轟龍」に付与されました―――

 ―――緊急イベント終了です。お疲れ様でした。順位報酬は13:00に配布されます。ランキングの発表は17:00です―――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ