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08話 入学試験・1

 チュンチュンと、小鳥の鳴き声で目が覚めた。


「ん……う?」


 ゆっくりと目を開けると……知らない天井。

 慌てて周囲を見ると、やはり知らない家。


 あれ? ここは……


「お目覚めになりましたか?」


 振り返ると、美少女。

 すごくかわいい……って、リリィだ。


 そっか。僕、異世界に転移したんだっけ。

 それで、リリィを助けて……そのお礼に、家に泊めてもらったんだった。


 寝ぼけていた頭が正常に回転しはじめて、色々と思い出した。


「おはよう」

「おはようございます。見てください、とても良い天気ですよ」


 窓の外を見ると、リリィの言う通り、良い天気だった。


 空は青く、どこまでも綺麗に澄み渡っている。

 白い雲の合間から顔を見せる太陽は、キラキラと輝いていた。


「気持ちのいい朝だね」

「はい。朝食の準備ができていますから、こちらへどうぞ」


 テーブルの上には、たくさんの料理が並べられていた。

 色々な種類があって、朝からすごい豪華だ。


「これ、どうしたの?」

「今日は、ユウキさまの試験の日ですから……うまくいくようにと、少々、張り切ってしまいました」

「うん。見たことない料理ばかりだけど……でも、どれもおいしそうだね」

「ありがとうございます。そう仰っていただけると、腕をふるった甲斐があるというものです」

「ただ、さすがにちょっと多いかな? 全部食べるのは難しいかも」

「あ……」


 量のことをすっかり忘れていたらしい。

 かわいらしい声をこぼして、リリィは『しまった』というような顔をした。


「申しわけありません……」

「気にしないで。余ったら、残りは昼に食べよう」

「はい。では、お弁当にしますね」

「こんなおいしそうなお弁当があるなら、試験、がんばれそうだよ」


 よし! と、僕は気合いを入れた。




――――――――――




 朝食を食べて、準備をして、家を出た。


 学院は、歩いて10分ほどの距離にあった。


 海が見える丘に、広大な敷地を持つ建物が並んでいた。

 とても大きく、とても広い。

 東京駅のような、モダンな感じのする校舎だ。


「ここが、王立グランノーヴァ魔法学院……なんか、すごいね。歴史を感じさせる外観で、とにかく圧倒されるよ」

「わかります。私も、時々、ぼーっと見つめてしまいそうになりますから」


 今日の試験に受かることができたら、僕もここに通うことに……

 その時を想像して、ちょっとだけわくわくした。


「試験会場はこちらになります」

「うん。悪いけど、案内よろしくね」




――――――――――




 リリィの案内で、試験会場である訓練場にやってきた。


 広大な空間の中央に、石畳で作られた円形のリングが設置されている。

 そのリングを囲むように、観客席まで設けられていた。

 訓練場というか、闘技場みたいだ。


「はーっはっはっは! 待っていたぞ!」

「えっ?」


 突然響く、謎の笑い声。

 見ると、リングで仁王立ちしている人影を見つけた。


「よくぞ来たな、若者よ! 憶することなく、怯えることなく、この学院の敷地に足を踏み入れた勇気、まずは褒めてやるぞ。しかし、しかし……じゃ! これからが本番であり、そなたは、まだ入口に立っただけにすぎないのじゃ! そなたの力が学院で通用するか、否か。今から、妾が見極めてやろう! さあ、来るがいい、若者よ! そして、妾の試練を見事に乗り越えてみせるのじゃ!!!」


 人影は、ちょこん、という感じでとても小さい。

 ぶっちゃけてしまうと、小学生だ。


 小学生くらいの小さい女の子が、腕を組んで、胸を張り、なにやら偉そうなことを口にしていた。


 日本なら、子供のゴッコ遊びで済ませるところなんだけど……

 ここ、異世界なんだよね。


 ということは、つまり……

 よくある、ああいう展開なのかな?


 念のために、リリィに確認しよう。


「ねえ。もしかして、あの子は……?」

「はい。学院の先生で、今日の試験でユウキさまの相手を務める、キティ・マクダール特務官ですよ」

「やっぱりというか、先生なんだ……」


 合法ロリ? それとも、ロリババア?

 どちらにしろ、本当にそんな人がいるなんて……


 異世界は広いなあ。

 思わず、しみじみと感じ入ってしまう僕だった。


「むっ? どうした、なぜ黙っておる? さては、妾の言葉に胸を深く打たれたか? まあ、無理もないのう。妾の言葉は、天の託宣に等しき尊いもの。感動しないという方がおかしいからの。はーっはっはっは!」

「なんか、緊張して損したな」


 これなら、試験なんて大したことなさそうだ。

 チャチャっと終わらせて、安住の地を手に入れることにしよう。


「……なんて、そんな余裕をかますことができたらいいんだけどね」


 キティ先生を前にして、僕は、無意識のうちに汗をかいていた。

 冷や汗というやつだ。


 見た目は小学生にしか見えない。

 口を開くと、もっと小さな子供に見えてしまう。


 だけど。


 その目は、とても子供のものとは思えない。

 例えるなら……そう、肉食獣のものだ。


 獲物を狙い、決して逃がさないとする、鋭い視線。

 キティ先生は、刺すように、僕のことをじーっと見つめていた。

 僕のことを見定めているんだろう。


 もう試験は始まっている。


「若者よ。おぬし、名前は?」

「士道勇気です」

「ふむ。シドー・ユウキか……良い名前じゃの。それに、その目……妾を子供と侮っておらぬ。これならば、期待しても良さそうじゃな」

「やりましたね、ユウキさま。キティ先生が褒めてくれるなんて、そうそうありませんよ?」

「喜んでいいのかな?」

「うむ。誇っていいぞ。おぬしは、第一関門は突破じゃ」


 下手をしたら、戦う前に落とされていたのか。

 危ない危ない。


「では、そろそろ本番に移るとするか」

「っ」


 ぶわっと、風が吹いたような気がした。


 違う。風なんかじゃない。

 キティ先生から放たれた、質量すら伴う威圧感だ。


 これが、この人の本当の力……

 思っていた以上に、やばいかもしれない。


「マクスウェルよ。お主は……」

「ユウキさまの戦いを見届けます」

「ふむ……本来ならば、関係者以外は、試験に立ち入ることはできないのじゃが……素直に聞きそうにないのう。仕方ない、特別に観戦することを許可するのじゃ」

「ありがとございます」

「観客席に移動するのじゃ。そこなら結界が張られているから、問題は起きないじゃろう」

「はい」


 リリィが僕の方に歩み寄り、手を握る。

 そのまま、僕の目を見つめて、優しく微笑んだ。


「ユウキさまなら、きっと大丈夫ですわ。ご武運をお祈りしています」

「うん。精一杯、がんばってみるよ。期待して、見ていて」

「はい。応援していますね」


 笑顔を交わして……

 リリィは観客席に移動した。


 ブゥンという音と共に、リングと観客席の間に光の壁が現れた。


 なるほど、あれがキティ先生が言っていた結界か。

 流れ弾が飛んでも、結界が守ってくれるんだろうな。

 これなら、安心して戦うことができる。


「よしっ! では、これから試験を執り行うぞ。ユウキよ、リングに上がるのじゃ」

「はい!」

「力強い、良い返事じゃ。うむ、気に入ったぞ」

「どうも」

「力の方も、妾の期待に応えてくれるものじゃと良いが……はてさて、どうなるか」

「応えてみせますよ」


 がんばって生きる、って決めたんだ。

 こんなところでつまづいてなんかいられない。


 全力で行く!


「では、試験開始じゃ! かかってくるのじゃっ!!!」

基本的に、毎日更新していきます。

気に入っていただけましたら、ブクマや評価などをどうぞよろしくお願いします!

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