63話 アルス・マグナスという人
祝勝会を終えて……
念のために、ユファとナユちゃんを送り……
その帰り道。
リリィと肩を並べて、夜道をゆっくりと歩く。
「やりましたね、ユウキさま」
「うん。これで、選抜戦に出場できる」
目標とする天魔征伐戦の優勝は、まだまだ先だ。
でも、入口に立つことはできた。
あとは、一歩一歩、前を向いて歩いていこう。
いつか、たどり着けると信じて。
「でも、喜んでばかりもいられないね。今度はみんながライバルになるし……とんでもない強敵もいるし」
「フェールラーベンさまのことですか?」
「……うん。そうだね」
フェールラーベンさんの保存魔法は脅威だ。
あれから、合間にちょくちょくと対抗策を考えてみたものの、なにも思い浮かばない。
果たして、選抜戦までに対抗策を生み出すことができるのか?
はっきり言って自信がない。
まあ、だからといって諦めるわけじゃないけどね。
もう、なにもしないうちから諦めるようなことはしたくない。
後悔を残したくない。
だから、対抗策が思い浮かばなくても、全力でぶつかるだけだ。
……ただ、懸念材料はフェールラーベンさんだけじゃない。
もう一つ。
それは……
「……」
「ユウキさま?」
不意に足を止めた僕を、リリィは不思議そうに見た。
「ごめん、ちょっと用事を思い出した。リリィは先に帰ってくれる?」
「どのような用事ですか? 私もお付き合いいたします」
「大したことじゃないから、付き合わせるなんて申しわけないよ。先に帰ってていいからね」
ちょっと強引だけど、話を終わりにして、僕は来た道を引き返した。
――――――――――
見られている、という感覚があった。
空から見下されているような……
すぐ近くで観察されているような……
無茶苦茶な表現だけど、そんな感覚。
善意も悪意もない、ただの視線が僕を捉えていた。
どこだ?
この視線の主は、どこで僕を……
「こんばんは」
視線の主を探して、街の外に出たところで声をかけられた。
僕と同じくらいの男の人。
中性的な顔をしていて、パッと見、女の子に間違えてしまいそうだ。
細身で、背は低い。
その外見に似合うような柔らかい笑みを浮かべていた。
いったい、誰だろう?
学園の制服を着てるから、同じ生徒なんだろうけど……
いや。それよりも……だ。
この人の目……
この人の視線……
僕は、この人に見られていたんだ。
「えっと……こんばんは」
とりあえず、無視するのもどうかと思い、挨拶を返しておいた。
「気持ちのいい夜ですね」
「うん、そうだね……って、そうですね」
「あはは。言い直さなくてもいいですよ。僕の方が年下ですから」
「そうなんです……そうなの?」
「はい。っと……自己紹介が遅れました。僕は、アルス・マグナスと言います」
どくん、と心臓が高鳴る。
アルス・マグナス。
予選を一位で勝ち抜いたチームのメンバーだ。
どんな相手か気になっていたけど、まさか、こんなところで出会うなんて……
いや。
出会うという表現は、間違っているのかもしれない。
アルス君に視られていた、という感覚……僕は、ここに呼び出されたのかもしれない。
「不躾な真似をしてしまい、申しわけありませんでした」
「え?」
「あれ? 僕の魔法に気がついたのでは? だから、ここに……違いましたか?」
「視られてるような感覚がして……あれは、君の魔法だったの?」
「はい。ちょっとお話したいことがありまして……直接、声をかけてもよかったのですが、僕の魔法に気づくかどうか、試してみたくもありまして」
「……そうなんだ」
勝手に人を試して……
普通なら気を悪くするんだろうけど、不思議と、悪感情は湧いてこない。
それは、アルス君の柔らかい物腰がそうさせるのか。
でも……
悪感情は湧いてこないけど、違和感を覚える。
言葉にすることは難しいんだけど……何かを見誤っているような気がした。
「それで、どんな用かな?」
「大したことじゃないんです。一度、お会いしたくて」
「僕に? どうして?」
「尊敬する先輩ですから」
「……え?」
予想外の言葉に、きょとんとしてしまう。
「そんなに驚かないでください。僕が変なことを言ったみたいじゃないですか」
「いや……十分に変だと思うけど。尊敬って……僕、尊敬されるような人間じゃないよ?」
「謙遜ですか? 古代魔法を使うことができて、予選を見事に通過した……十分にすごい人だと思いますよ」
「それを言うなら、アルス君の方がすごいんじゃ? 三人なのに、一位で通過したじゃないか」
「運が良かっただけですよ。もう一度、同じことをしろと言われたら、困ってしまいますし」
そんなことを言う割に、アルス君からは絶対の自信があふれていた。
あの程度、なんてことはない……そう言っているみたいだ。
「選抜戦で先輩と戦うことができるなんて、光栄です」
「えっと……どうも」
調子が狂うな。
こんな風に、まっすぐな好意を向けられたことがなかった、っていうのもあるけど……
それ以上に、アルス君という人がわからない。
悪意はないはずなのに……どうして、居心地が悪いんだろう?
どうして、警戒してしまうんだろう?
「選抜戦では、お互いにがんばりましょう。今日は、それを言いたくて」
「……うん、がんばろう」
「握手をしてもいいですか?」
「いいよ」
アルス君と握手を交わす。
アルス君の笑みが深くなる。
子供が浮かべるような無邪気な笑みだ。
「先輩となら、とても楽しく戦うことができそうです。その時は、よろしくお願いします」




