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49話 トロイの木馬

 放課後になった直後に、試合が開始された。

 こういうタイミングを狙うなんて……試合の時間を決めているのはキティ先生かな? 相変わらず、意地が悪い。


 まあ、ある程度予測していたから、慌てる必要はない。

 僕たちは、事前の打ち合わせの通りに行動して、別行動をとる。


 リリィとセリカは、イル君のパーティーが拠点にしている、旧校舎三階へ。


 イル君のパーティーは、おそらく、バッジを40枚集めたのだろう。あるいは、集める寸前、というところか。

 なので、攻勢に出ないで、旧校舎に陣地を築いて、予選終了まで防御に徹する構えだ。昼に確かめたから、まず間違いないだろう。


 旧校舎は三階建てで、表口と裏口が一つずつ。

 中はシンプルな構造で、身を隠すところはない。不意打ちは、まず不可能。

 イル君のパーティーを崩すとなると、正面突破しかない。


 向こうもそれをわかっているから、きっと、強固なバリケードを築いているだろう。


 これを打ち崩すにはどうするか?

 鍵は、フロムソフトさんが握っている。


「準備はいい?」

「ん」


 僕とフロムソフトさんは、旧校舎から少し離れた茂みに隠れていた。

 リリィとセリカは、裏口の方に移動している。


 周囲と、旧校舎にいるであろうイル君のパーティーに注意しながら、打ち合わせをする。


「はい、これ。僕たちのバッジね」


 みんなから預かったバッジを、全部、フロムソフトさんに渡した。


「……」

「どうしたの?」

「こんなに簡単にバッジを渡すなんて……微妙」

「まあ、それくらいしないと、相手は騙せないだろうからね」


 トロイの木馬。

 内通者を巧みに敵陣に忍び込ませることで、敵を内部から崩壊させる。

 確か、ギリシャ神話の話しだったかな? よく覚えてないけど、そんな感じの作戦。


 今回は、それを採用することにした。

 フロムソフトさんが僕たちを裏切ったように見せかけて、イル君のパーティーに合流する。

 いきなり信用してもらうのは難しいかもしれないけど、僕たちの分のバッジがあれば、問答無用で追い返すことはしないはず。

 ひとまず、話を聞くために中に招き入れるだろう。


 それから、イル君のパーティーは、あれこれとフロムソフトさんに質問するだろうけど……

 フロムソフトさんを内部に招いた時点で、終わりだ。

 タイミングを見計らい、あらかじめ作っておいた特製爆弾を使う。

 爆弾といっても、卵の殻に胡椒と一味を入れただけのものだ。

 とてもシンプルなものだけど……でも、こんなものが直撃したら、タダじゃすまない。少しの間は、行動不能になるだろう。


 そうやって、フロムソフトさんが内部から打撃を与えたところで、残りの僕たちが突入。一気に制圧する……という作戦だ。


「一度、受け入れてもらえたら、後はうまくいくと思うんだけど……最初が肝心だからね。話の信憑性を増すために、バッジは持っておいた方がいいよ」

「いいの?」


 フロムソフトさんは、なにかを探るように、じっと僕を見つめた。


「バッジを渡して、本当にいいの?」

「……僕たちを裏切るかもしれない、っていうこと?」

「ん」


 フロムソフトさんが、僕たちを『本当』に裏切ってしまう。

 バッジを独り占めして、イル君のパーティーに合流すれば、予選突破できる可能性は一気に高くなる。

 利を考えるなら、裏切った方が得だ。


 正直、その可能性は考えていた。

 懸念していた。


 フロムソフトさんと僕らの間には、確かな『絆』がない。

 培われてきたものがない。

 疑念を抱いてしまうのは仕方ない……というか、当たり前のことだ。


 出会って間もない相手を、良い人そうだから、なんていう理由で無条件に信頼を寄せるほど、僕はバカじゃないつもりだ。


 でも……


「信じてみようって、思ったから」

「……」

「本当は、もっと時間をかけて、色々な話をして、信頼関係を築いていけたらって思うんだけど……そんな時間はない」

「ん」

「信じてもらうために、まずは、僕がフロムソフトさんのことを信じてみよう……って」

「……」


 呆れたような視線を向けられた。


「え? え? なに?」

「お人好し」

「うっ」

「将来、詐欺に引っかかり、財産を騙し取られるタイプ」

「否定はできないかも……」

「……まあ、嫌いじゃない」


 ぽつりと、つぶやいた。

 その声は、とても小さいものだけど、でも、はっきりと聞こえた。


「一つだけいい?」

「なに?」

「どうして、私を信じようと?」


 最もな疑問だ。


 フロムソフトさんは、一度、僕たちを裏切ろうとした。

 そんな相手を再び信じることは、すごく難しいだろう。

 普通なら、信じるなんてことはしない。


 僕は、人のイヤな部分ばかりを見てきたから……なおさら、信じるということは難しい。前世なら、間違いなく疑っていたと思う。


 でも、そういうのはもうやめようって、思ったんだ。

 なんの因果か、異世界で新しい人生を送ることになって、良い人たちに出会うことができて……

 ちょっとずつだけと、考え方が変わっていった。

 暗いことばかり考えるのはやめて、明るいことを考えよう。人を疑うくらいなら、良いところを探して、逆に信じてみよう。

 そう、思ったんだ。


 それと……もう一つ、理由はある。


「この前、フロムソフトさんの同居人のナユちゃんに会ったんだ」

「ナユに?」

「軽い世間話くらいだったんだけど……その時に、ナユちゃんが、フロムソフトさんを信じてほしい、って」

「……」

「だから、この場合、フロムソフトさんを信じるっていうよりは、ナユちゃんの言葉を信じる、っていう方が正しいのかもしれない」

「……そう」


 ナユちゃんの名前を出すと、フロムソフトさんは目を大きくした。

 驚いているのかな?


 それから……まっすぐに僕を見つめる。


「今回は裏切らない」


 きっぱりと断言した。


「ナユのために、ユウキの作戦に乗る。信頼に応える」

「ありがとう」

「どうして礼を言うの?」

「なんだかんだで、フロムソフトさんも僕たちに応えようとしてくれているのが、うれしくて。一歩、信頼を深くすることができたんじゃないかな?」

「……これくらいで、ユウキを完全に信用することはない。甘い考え」

「そっか……」

「……でも、少しは信じてもいい。私を信じてくれたように……私も、ちょっとはユウキのことを信じる」

「うん、ありがとう」


 こんな風に、互いに歩み寄るようにして、信頼関係を深めていくことができたら……

 その時は、きっと、フロムソフトさんはかけがえのない仲間になる。


 そんな予感を覚えた。


「そろそろ時間だね。準備はいい?」

「問題ない」

「じゃあ……がんばって」

「がんばる」


 任せろというようにコクリと頷いて、フロムソフトさんは旧校舎に足を踏み入れた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

頭を使った作戦考えるの、難しいですね……

むーん。なかなかどうして、うまくできないものです。

次回の更新は、14日予定になります。

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