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04話 フレアメルク王国

「ところで、名前を聞いてもいいかな?」


 基本的なことを忘れていた僕は、歩きながら、そんなことを尋ねた。


「あっ……も、申し訳ありません。命の恩人に対して、そのような大事なことを忘れていたなんて……」

「そんなに気にしないで。色々あったから、仕方ないよ」

「ありがとうございます。そう言ってもらえると、多少、気が楽になります」


 女の子は軽く頭を下げて、笑顔で言う。


「私は、リリィ。リリィ・マクスウェルと申します」

「僕は、士道勇気。よろしくね」

「シドー・ユウキさま……よろしくおねがいします、ユウキさま」

「えっ、あ、その……」


 いきなり名前で呼ばれて、ドキッとした。


「どうかしましたか?」


 リリィは不思議そうにしている。


 ……あっ、そうか。

 ここ、外国と同じで、苗字がファーストネーム、名前がラストネームになっているんだ。

 だから、リリィは勘違いをして、ラストネーム……僕の名前を口にしたんだろう。


 訂正するにしても、日本語の名前の配置を教えないといけない。

 でも、ややこしいんだよね……

 うまく説明できる自信がない。


 それに、なんで僕だけそういう風になっているのか、と聞かれたら、これも説明できる自信がない。


 ……特に問題があるわけじゃないし、とりあえず、このままでいいか。


「ところで、ここは街の外なんだよね?」

「はい。門を出て、1キロほど歩いたところになります」

「マクスウェルさんは、どうしてこんなところに?」

「リリィとお呼びください」

「えっ、でも……」

「ユウキさまは、命の恩人ですから。それに……私は、自分の名前が好きなのです。ですから、リリィと」

「う、うん。えっと……り、リリィ」


 格好悪いけれど、ちょっとつまってしまった。


 だって、仕方ないじゃないか。

 女の子の名前を呼ぶなんて、そんな経験なかったんだから。


「私が学院生というお話はしましたよね? その授業で薬草を使うのですが、この辺りで採取できるので」

「そうなんだ。でも、ゴブリンが出るようなところに女の子が一人なんて、危なくない?」

「本来なら、ゴブリンが現れるようなことはないのですが……少し、油断していたのかもしれませんね。私も、学院生。いざという時は、自分でなんとかできると過信していました……お恥ずかしい話です」

「気をつけないといけないとは思うけど……でも、自信を持つことは良いことだと思うよ。過信も、度が過ぎなければ悪くないよ」

「……」

「どうかしたの?」

「そのようなことを言われるなんて、思ってもいませんでした。ふふっ、ユウキさまは、変わっているのですね」

「うーん、そうかな?」

「って……私ったら、命の恩人に失礼なことを……」

「大丈夫、気にしてないから。それに、リリィのかわいい笑顔を見ることができたから、むしろ、うれしいな」

「か、かわいいなんて、そんな……」


 リリィが頬を染めて、小さくうつむいた。

 恥じらうところが、とてもかわいらしい。


 って、僕はなにをやっているんだろう!?


 こんな……なんていうか、その……ナンパみたいな、ことを口にするなんて。

 うー、恥ずかしい……


 ついつい、リリィと一緒に、顔を赤くしてしまうのだった。


「えっと……ところで、この道を反対に進むと空き家があるんだけど……なにか知らない?」

「空き家ですか? えっと……確か、古代魔法ロストスペルを研究している魔法使いの方が住んでいましたね。人嫌いで、街の外に家を建てたらしくて……」

「過去形、っていうことは……?」

「だいぶ前に、魔物に襲われて亡くなりました。家は街から離れたところにあるので、取り壊すこともなく、放置されているとのことです」

「なるほど」


 すでに、家主は他界していたのか。


 空き家から持ち出したノートを見る。

 火事場泥棒をしたみたいで、ちょっと気が引けるけど……

 これがないと困ったことになりそうだから、もうちょっとの間、借りることにします。


 心の中で手を合わせて、魔法使いの冥福を祈っておいた。




――――――――――




 押し固められた土の道を歩くこと、30分……僕たちは街についた。


「ようこそ、フレアメルク王国へ」


 門を潜ると、壮大な光景が僕を迎えた。


 街の中央に、巨大な城が見えた。

 ノイシュバンシュタイン城のような、とても綺麗で、壮大な城だ。

 別の言い方をするなら、千葉県の遊園地の、あの城だ。


 城の周囲に、城下町が広がっている。

 合間に水路が流れていて、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。


 そして、その水路は海に繋がっていて……

 街を優しく抱くように、広大な海が見えた。


 街全体が一つの芸術みたいで……言葉を忘れて、思わず見惚れてしまう。


「すごいね。なんていうか……語彙が少なくて、恥ずかしいんだけど……本当にすごいよ。とても綺麗な街だ」

「ふふっ、そう言ってもらえるとうれしいです。私の生まれた街なので」

「ここは、フレアメルク……っていうんだよね? よかったら、この街について教えてくれないかな?」

「はい、いいですよ」


 リリィは笑顔で了承してくれた。


 『フレアメルク王国』。


 海に面した王国で、総人口は120万ほどの大都市だ。

 その歴史は長い。

 記録によると、建国は2600年前。大体、日本と同じだ。


 主な産業は、漁業。

 それと、魔法技術の開発。


 フレアメルク王国は、魔法技術の開発に力を注いでいて、別名、魔法都市と言われている。

 魔法に関する技術、知識は、数ある国の中で五本の指に入るほどだ。

 その技術を糧にして、ここまで発展してきた。


「……大体のところは、このような感じでしょうか? お時間をいただければ、もっと詳しい説明ができますが」

「いや、今はこれで十分だよ。ありがとう」


 聞いたことのない国の名前と歴史。

 そして、魔法。


 もう確定だ。

 疑いようがない。


 ここは……異世界だ。


「本当に、異世界転生しちゃったんだなぁ、僕……あ、この場合、転生じゃなくて転移になるのかな?」

「え? 今、なんて?」

「ううん、なんでもないよ。なんでも」


 ついつい、余計なことを口にしてしまった。

 慌てて、手を横に振り、ごまかしておいた。


「立ち話もなんですし、寮に行きましょう。こちらです」


 リリィの案内で、街を歩くことしばらく。

 似たような建物が並ぶ住宅街についた。


 その中にある、白い家の前に移動する。


「ここが、私の家ですよ。家というか、学院の寮なのですが」

「へえー、綺麗な家だね。ここが寮なんだ」


 寮っていうから、マンションとかアパートのような建物を想像していたけれど……

 普通に、一軒家が並んでいるだけだ。


 マンションとかアパートを作る建築技術がないのだろう。

 だから、一軒家を個人の寮の代わりにしている、っていうところなのかな?」


「寮は抽選で決まるのですが……ここは、人気なのですよ? 良いところが当たり、ラッキーでした♪」

「運が良いんだね」

「そうなのでしょうか?」

「僕は運が悪い方だから、うらやましいよ」


 鍵や財布を落とすなんてことは、いつものこと。

 街を歩けば不良に絡まれて、家に戻れば転んで怪我をする。


 ゲームのようなステータスがあるとしたら、きっと、僕の運は一桁しかないだろう。

 神さまが、スキルを振り忘れたのかもしれない。


 そんなだから、前世はうまくいかなくて、最後は……


「ユウキさま……? どうかしたのですか? 苦しいのですか? もしかして、病気などが……」


 いけない。

 リリィに、余計な心配をさせてしまったみたいだ。


 こんな良い子に心配をかけてしまうなんて。


 僕は反省して、ひとまず、イヤな思い出は遠くに放り投げた。


「ううん、なんでもないよ。体は健康そのもので、大丈夫。ちょっと、昔のことを思い返していただけだから」

「そうですか……ですが、外で考え事ばかりしていたら危ないですよ? 転んで、怪我をしてしまうかもしれません。私なんて、一日に何度、転んでしまうことか……」

「そうなの? リリィって、しっかり者のイメージがあるんだけど」

「そんなことはありませんよ。私、ドジなところがありまして……恥ずかしい話ですが、財布を忘れたまま、買い物に出かけようとしたことがあります。途中で気づいて、慌てて戻ったのですが……今度は、家の鍵を落としてしまいまして。財布は家の中。ですが、鍵はない……なんてドジをしたことがありますよ」


 それはまた、すごいドジだ。

 しっかり者に見えるけど、意外とおっちょこちょいなのかもしれない。


 でも……どこか僕と似ているようなところがあって、親近感を覚えた。


「僕も、同じようなことをしたことがあるよ」

「まあ、ユウキさまも?」

「うん。財布を落として、家の鍵を落として、ついでに……」


 僕の不幸を話してみると、リリィは楽しそうに笑ってくれた。

 僕も、ついつい笑顔になる。


 不思議だなあ。

 リリィと一緒にいると、不幸話も楽しいものに変わる。

 リリィの魅力なのかもしれないな。


「それでは、中へどうぞ」


 リリィが家の扉を開ける。


 ……よくよく考えると、女の子の家に入ることになるんだよね。

 今更だけど、ドキドキしてきた。

基本的に、毎日更新していきます。

気に入っていただけましたら、ブクマや評価などをどうぞよろしくお願いします!

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