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21話 特訓

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

 リリィから離れて、ホーンラビットの視界に入るところまで移動した。

 ホーンラビットは僕を見つけると、「キィ」と鳴いて威嚇をした。


 ……ウサギって、キィって鳴くんだっけ?

 まあ、異世界のウサギだから、地球のものとは色々と違うのかな。角、生えているし。


「キィ」


 ホーンラビットは威嚇するような鳴き声をあげて、ジリジリと距離を詰めてきた。

 じっと、睨みつけられているような気がする。やるのか? と言っているみたいだ。

 これ以上踏み込んだから、その鋭い角を、槍のように突き出してくるだろう。

 だから、僕は、さらに一歩を踏み込んだ。


「キィッ!」


 ホーンラビットは甲高い声で鳴いて、額の角を突き出すようにしながら、突進してきた。突進というよりは、前に跳ぶ、という感じだ。

 想像以上に速い! スリングショットで撃ち出されたみたいに、勢いがいい。


 僕は慌てて体を横にひねる。

 直後、ホーンラビットが脇をかすめて飛んでいく。


「あぶなっ」


 避けるのがあと数秒遅れていたら、どうなっていたことか。

 これは、思っていた以上に大変な特訓になりそうだ。


「ユウキさま、相手の動きを良く見てください」

「動きを……」

「攻撃をする際は、なにかしらの兆候があります。例えば、足を動かしたり、呼吸を整えたり……そういう『兆候』を見極めることで、より正確に攻撃を避けられるようになります」

「やってみるよ!」


 リリィの言うとおり、ホーンラビットをじっくりと観察する。


 ホーンラビットは、獲物を仕留められなかったことで、苛立つように鳴きながら、再び僕に向き直る。

 前足で地面を軽くかく。

 ……これは、攻撃とは関係なさそうだ。

 後ろ足を小さく動かして、リズムを計るように体を揺らした。

 ……これも、攻撃とは関係なさそうだ。


 後ろ足を揃えて、頭を低く下げた。


(来るっ!)


 これが、ホーンラビットの攻撃の兆候だ!

 その予測は的中した。土を蹴り、再び、ホーンラビットが突進してきた。しかも、今度はただ突進するだけではなくて、途中で二度、地面を叩きつけるように踏むことで、軌道を変えた。


 予測外の一撃。

 しかし、『兆候』をしっかりと見極めていたおかげで、後手に回ったとしても、十分に対処することができた。

 片足を軸に、駒のように体を回転させる。猛牛を避ける闘牛士のように、ホーンラビットの攻撃をいなした。


「お見事ですわ、ユウキさま」

「うん……なんとなくわかったような気がするよ」


 攻撃のタイミングを掴むことで、冷静な判断力が生まれる。そして、わずかだけど、考える時間も生まれる。

 よほどの相手でない限りは、しっかりと考えて、冷静な判断を下すことができれば、対処できそうだ。


「どんな時も、焦らず、落ち着いて……的確に相手の攻撃を見極めてください」


 一番、やってはいけないことは、焦ったりパニックになったりすること。そんな状態に陥ったら、もうおしまいだ。攻撃の線を『読む』ことができなくなり、まともに直撃してしまうだろう。


 ……常に冷静な心を。

 ……常に的確な判断を。

 最初は、その二つが特に大事なんだろう。


「それにしても、意外と……よっと……いけるものだね」


 二度も攻撃を避けられて、ホーンラビットは完全に頭に来たらしい。鼻息を荒くして、何度も何度も突進を繰り返した。

 感情が昂ぶっているせいか、攻撃の精度は落ちて、荒くなっている。しかし、その分、勢いがあって速い。体感的に、1,2倍くらいの速度だ。


 それでも、僕はホーンラビットの攻撃を避け続けていた。

 ホーンラビットの攻撃の兆候は、おおよそ、三パターン。

 頭を伏せて角を突き出す。地面を鳴らすように前足を強く鳴らす。一度動きを止めて、深く体を沈める……他にも、細かく見るとパターンは増えるが、どれも似たようなもの。基本的な種類は、この三つだ。


 低級の魔物だからだろうか? 全部の攻撃を覚えたら、もう大したことはない。ダイエットのような気楽な感覚で、ホーンラビットの攻撃を避け続ける。


「さすが、ユウキさま。もうコツを掴んだみたいですね」

「これくらいの相手ならね……ほいっと」

「では、難易度を上げてみましょうか」

「え?」


 なにそれ?


 問い返すより先に、リリィは『キュウウウ』というような、変わった音をした口笛を鳴らした。

 今のは、どういう……?

 怪訝に思っていると、すぐに口笛の意味を知ることになる。


「キィ!」

「キキキィッ!」


 新たに、ホーンラビットが二匹現れた。


「今度は、三匹を相手にしてみましょう」

「げっ……マジで?」

「マジですわ♪」


 ニッコリとリリィが笑う。


「複数を相手にする場合は、『兆候』を見極めるだけでは間に合いません。常に意識を研ぎすませて、360度、全方位に注意を払い、警戒を怠らず、いつどんな攻撃が来ても対処できるように『準備』をしなくてはいけません」


 それ、言葉で言うのは簡単だけど、実際にやるとなると、相当に大変なのでは……?


「これ以上、難易度を上げる予定は?」

「まだまだ、第二段階にすぎませんので。明日までに、第七段階まではクリアーしたいところですね」

「……ちなみに、第七段階はどんなことを?」

「基本的に、段階が上がることに魔物の数を増やしていきます。第七段階は、複数の魔物を相手に、そうですね……6種類で3匹ずつ。計18匹の魔物を相手にしてもらいます」

「……リリィって、意外とスパルタなんだね」

「これも、ユウキさまのためを思えばこそ」


 それくらいしないと、クロラインさんには勝てない、っていうことか。

 なら、やってやろうじゃないか!

 6種類だろうが18匹だろうが、それ以上の数であろうが、なんでもやってやる!


「あ、ちなみに特訓が順調に進み、第十段階に達した場合は、10種類、30匹の魔物を相手にしてもらいます」


 ……ちょっとだけ、心が折れそうになった。




――――――――――




 ……そして、翌日の夕方。


「はあっ、はあっ、はあっ……」


 草むらに大の字になって倒れ込んで、僕は肩で息をしていた。


 や、やり遂げた……特訓、第十段階まで到達して、そして、見事にクリアーしてみせたよ……


 低級の魔物とはいえ、30匹も集まると、とんでもない。嵐に飲み込まれたように、四方八方から攻撃が飛んできて、おまけに攻撃が絶えることがない。

 瞬時に安全地帯を見極めて、攻撃を避けて、そして、休む間もなく次の攻撃に備えて……

 最後の半日は、ずっとそんなことを繰り返していた。


 特訓が終わった後は、集められた魔物は魔法で一掃した。その瞬間は、爽快というか、待ちに待ち望んだというか……感動の一瞬といってもいいくらいだね。


「おつかれさまでした。どうぞ、ユウキさま」

「ありがとう」


 リリィから水筒を受け取り、喉を潤す。スポーツドリンクみたいに、ちょっと甘く、ほんのりと塩気がある。水筒に入っているところを見ると、リリィのお手製なのかな?

 僕のために、こんなものも作ってくれるなんて……少しは、期待に応えられたかな?


「リリィ、ありがとう。おかげで、それなりにまともになったというか、自信がついたというか……明日、がんばれそうな気がするよ」

「応援していますね」

「昨日と今日の特訓、必ず活かしてみせるから!」


 明日は、必ず勝つ。

 その誓いを表現するように、空に向かって拳を突き上げて、強く握りしめた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

ちょっと、スローペースな展開が続いていたと思います。反省。

ただ、次回からは、いよいよ決闘回になります。

主人公が、さらにステップアップするので、ぜひぜひ見ていただければ。

これからもよろしくお願いします。

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