01話 そして、異世界へ……
『父さん、母さんへ。
二つ、伝えたいことがあります。
まずは、感謝を。
今日まで16年間、大切に育ててくれてありがとうございます。
父さんからは、強さを。
母さんからは、優しさを。
それぞれ、大切なことを教わりました。
二人から教わったことは、絶対に忘れません。
ずっと、ずっと、この胸の中に抱えていきます。
そして、謝罪を。
先立つ不幸をお許しください。
今になって告白しますが、僕は学校でいじめられています。
毎日が地獄のようでした。
それでも、我慢してきましたが……それも、もう限界です。
僕は今日、命を断つことにしました。
最大の親不孝をしてしまい、すみません。
さようなら。
そして、ありがとう』
僕は靴を脱いで、その隣に遺書を添えた。
「これで、ようやく楽になることができる……」
最後に、そうつぶやいて……
僕は、学校の屋上から飛び降りた。
――――――――――
「あれ?」
目が覚めたら、知らない場所にいた。
平原だ。
広く平らな地が、どこまでも遠く続いている。
ところところに花が咲いていた。
とても和む。
「ここは……もしかして、天国?」
自殺をしたら地獄に落ちる、なんてことを聞いたことがあるけれど……
でも、どうやらそれは間違いだったらしい。
この穏やかな光景が地獄のわけないからね。きっと天国だよ。
天使さまはどこかな?
天国について、色々と説明してくれないかな?
「……誰も来ない」
待てど待てど、天使さまが現れる気配はない。
それどころか、人影一つ見当たらない。
人だけじゃなくて、小動物すらいない。
「ここ、本当に天国なのかな……?」
なんだか不安になってきた。
知らない場所を動き回るなんて、ちょっと怖いけど……
でも、このままじっとしていても、なにも始まらない。
周囲を探索してみよう。
土を慣らした道があったから、その道を歩いてみる。
10分ほど歩いたところで、小さな小屋にたどり着いた。
小屋……というか、ログハウス?
シックな感じがして、日本ではなかなか見かけない感じの小屋だ。
「すいません、誰かいませんか?」
コンコンとノックをしてみるものの、返事はない。
軽く扉を押したら、ギィ……と開いた。
「すいませーん」
もう一度、呼びかけてみるものの、やはり返事はない。
留守なのかな?
でも、よーく見てみると、床や家具の上に埃が溜まっている。
空き家なのかもしれない。
「見たことないものばかりだな」
奥の部屋に進むと、よくわからない道具がたくさん置いてあった。
例えるなら、科学者の研究所?
そんな雰囲気の道具があちらこちらに放置されていた。これも、埃をかぶっていた。
「これは……なんだろう?」
テーブルの上に、一冊のノートが置かれていた。
デ○ノートじゃない。
どこにでも売っているような、安物のノートだ。
ボロボロで、相当に使い込まれている。
興味を引かれて、ノートを手に取る。
パラパラと中を見た。
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魔法名:撃ち貫く炎の刃
効果 :炎の剣を生み出して、目標を薙ぎ払う
範囲 :1~5メートル
ランク:B
魔法名:終焉を告げる聖域の光
効果 :世界を滅ぼしたという光で、全てを消滅させる
範囲 :10~100メートル
ランク:SSS
魔法名:輝く光の盾
効果 :光の盾を生み出して、敵の攻撃を防御する
範囲 :1メートル
ランク:B
魔法名:暁の意思
効果 :対象と心を接続することで、意思の疎通を確立する
範囲 :1~10メートル
ランク:E
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「なんだ、これ?」
……もしかして、いわゆる『設定ノート』っていうやつかな?
ほら、思春期の中学生がよくやるような、アレ。
自分の考えた設定をノートにまとめて、楽しむヤツね。
「懐かしいなあ……これ、誰もが一度は通る道だよね」
かくいう僕も、中学生の頃に作ったことがある。
魔法の設定から始まり、世界観、登場人物。
さらには、物語まで。
色々なことを書いて、たくさんの妄想をして……
でも、それらを文章にする能力なんてないから、そこで終わり。
そのうち忘れて、机の奥に消える。
数年後、偶然、見つけることになって、過去の黒歴史に悶える。
「……うん。思い出したら、ちょっと恥ずかしくなってきたかも」
このノートの作者も、後々、悶えることになるんだろうなあ。
「それにしても……」
このノート、ずいぶんと中途半端だ。
魔法の設定がたくさん書かれているかと思いきや、1ページしか書かれていない。
しかも、四つだけ。
途中で飽きたのかな?
それとも、恥ずかしくなっちゃったのかな?
「もうちょっとくらい、いいよね?」
昔の血が騒ぐ。
他人の日記を盗み見ているみたいで気がひけるけど、まあ、空き家みたいだから、作者はもういないよね。
だから、他のページも見てもいいよね。
もうちょっとだけだから。
だって、気になるし。
「ちょっとだけ、もうちょっとだけ」
自分に言い訳するように言いながら、他のページを……
その時だった。
「きゃあああああっ!?」
小屋の外から、女の子の悲鳴が聞こえてきた。
かっこいい、と思えるような主人公を書きたくて、書いてみました!
基本的に、毎日更新していきます。
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