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晴れた日は、小鳥もさえずる  作者: ぼたん鍋
第4章:きみのことが知りたくて
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閑話⑥1人きりの打ち上げ


「あー、うらやましいー」


 今日も私は、家に帰ってから誰もいない部屋で

 帰り道に買ってきた飲み物のプルタブを引っ張る。

 口を大きくあけて、中身を一気に流し込む。


 今日は一段と苦い味がする。

 それはたぶん、いつもより高いものを買ったのが原因ではないだろう。

 この原因は、今日の歓迎会で、あんなうらやましいものを見てしまったせいだ。


 私は、歓迎会の担当として、前年とその前の年の実行委員を務めた生徒と一緒に

 テーブルに置かれたプチシュークリームを食べていた。

 これを出すということは知っていたけど

 こんな紙と、しかもわけがわからない文字まで添えられているとは

 思ってもみなかった。

 しかも、私はもう忘れてしまったような

 言葉にするのも恥ずかしい、「恋の味」なんて言葉が書かれていた。


 2・3年生からのからかいを丁重ていちょうにかわしつつ

 事情を聴くために2人を探して、講堂の奥へ行くと

 そこでは、今までお互いのことを見ようともしなかった2人が

 なぜか、階段を何段も飛び越えたような行為に及んでいた。


「あれはちょっと、出ていける雰囲気じゃなかったかな」


 よくもまあ、あんな大勢がいる中で、大胆なことができるものだ。

 それはある意味、入学したときの2人からは

 一番遠い位置にあった行為とすら思えた。


「私が面倒みないと、なんて思ってたけど

 なんか、私の方がまだまだお子様だったみたい」


 高校生の成長は、想像もつかないくらいの速さで進んでいる。

 そのことが、嬉しくもあり、ちょっとだけうらやましくもあり。


 早くも空になった缶を横にずらし

 ビニール袋の中から2本目を手に取る。

 今日は数本飲んだだけでは満足できないくらい

 自分の中の気持ちが高ぶっていた。


「私が見ていたからいいものの、ほかの先生だったら大目玉だったよ」


 近づけない雰囲気の2人には

 誰も近づかないように、遠くから私がブロックしていた。

 あの2人には、ようやく見え始めたものを

 こんなところで失ってほしくない。


「でも、この歳の私にはちょっときつかったなー」


 30を目前に控えて、私だって燃えるような恋がしたい歳なのだ。

 誰かに私のことを見てほしいし

 私だって、誰かのために一生懸命になりたい。

 誰かのことを想って毎日を過ごしたいのだ。


「まあ、これでひと段落、かな」


 何はともあれ、心配していた2人の生徒は

 ようやく自分たちを見つけることができたのだ。

 教師として、これほど嬉しいことはない。


 巣立つ雛鳥を見送る親鳥のような

 そんな気持ちになった私は

 早くも3本目をビニール袋から取り出した。


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