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晴れた日は、小鳥もさえずる  作者: ぼたん鍋
第1章:春はあけぼのとは言うけれども
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4月5日の憂鬱(1)

 

 20分ほど電車に揺られ、学校の最寄駅に着く。

 高校生になって最初に味わう試練は、おそらく通学ラッシュだろう。

 狭い車両いっぱい詰め込まれる感覚は

 寿司職人に握られるシャリの気分に似ている。シャリになったことはないけれど。


 長野県の片田舎であるこの街は

 都会と違って電車は40分に1本という頻度でしか走っていない。

 それだけ需要が低いという見方もできるか

 毎日通学する学生からすると、もう少し本数を増やしてもらいたいものだ。

 2両編成ではさすがに苦しい。


 学校への通学には、この最寄駅から更に20分ほど歩かなければならない。

 長く続く急こう配の坂道を登り、両手に桜並木を見上げる通学路。

 勉強をするために通い続けるのは憂鬱な気分になるが

 この景色はだけは、毎日見ても飽きない。


 今日が入学式だと言うのに

 周りの新入生らしき学生たちは

 まるで当然というようにグループを形成して

 日々の習慣と言わんばかりにおしゃべりしながら歩いていく。

 田舎にとっては、高校に進学しても

 周りの友人関係はそれほど変わらないのだ。


 ふと、卒業式のことを思い出す。

 「西村。引っ越し先でも頑張れよな」と声をかけてくれたあいつは

 今頃都会の電車にもまれているのだろうか。


 新しい街。新しい景色。新しい環境。

 わずか十数年の年月しか生きていないおれでも

 今までのことから変わってしまうことにはそれなりの想いがある。


「今日の入学式、面倒くさいな」


 始まりの季節には、それなりのお決まりがある。

 式典。自己紹介。新しい人間関係。

 そうした、わずらわしいことを考えると

 自然と足取りが重くなっていく。


 暗い気持ちを払いのけるように

 顔を振って、前を向いて歩くようにする。

 せっかくの桜の季節だ。これを見ないのはもったいない。


 話しながら歩く集団を追い抜き

 一歩ずつ、坂を登り続ける。

 なにかいいことが起きるような気がする。

 そんな、春の匂いがする通学路だった。

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