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晴れた日は、小鳥もさえずる  作者: ぼたん鍋
第1章:春はあけぼのとは言うけれども
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閑話②風見鶏のオウム返し


 私には、私というものがわからない。

 私は私だけど、それはいったいどんな人なのか

 私にはまったくわからない。

 少しぬるめのお風呂に浸かりながら

 今日あったことを思い出す。

 

 西村肇という人物は、一見するととても優しそうな男の子に見えた。

 同じ中学では見かけたことがなかったので

 きっと、違う中学から来たのだろう。

 クラスの男の子たちがツンツンに整えた髪になっている中

 彼の髪はぼさぼさで、全く手入れをしていないように見えた。

 制服の着こなしも至って普通。

 彼には、彼の個性というものがないのかもしれない。


 天井についた水滴をぼーっと眺めながら、日課となった1人反省会をする。

 あの時、もっと違う言葉をかけていたら。

 あの時、もっと気の利いたことが言えていたら。

 次はあんなふうにしよう。

 こんなことがあったら、こういう感じで話そう。

 誰もいないからこそ、1人頭の中でシュミレーションすることができる。


 いつからだろうか。

 何をするにも、事前にこうしていろいろ考えるようになったのは。

 その場その場で発言することは、思ってもいないことを口に出してしまう。

 悪気があるわけじゃない。

 適当にしているわけでもない。

 ちゃんと話を聞いているのに、相手のことを思っているのに

 なぜか私の頭は、思ったように動いてくれない。


 だから私は、風見鶏のようにその場の流れを先に予想しておいて

 オウムのようにそれを繰り返す。

 予想していなかったことが起きたら

 とりあえず”そうだよね”とか”確かにね”とか

 そんな曖昧な表現でその場をしのぐ。

 そうやって、波風が立たないように

 周りの人が居心地がいいように

 望まれる自分を常に頭の中で考えてきた。


 でも、いつしかそれは、私にとって当たり前のことになって。

 そうしたら、今までの当たり前が当たり前じゃなくなってしまって。

 気付いたら、本当の私は目に見えなくなるまで小さくなってしまった。

 今では思い出すこともできない。

 私はいったい、誰なんだろう。

 私っていったい、何者なんだろう。


 今日、初めて知り合った彼は

 どこを見ているのかわからないような目をしていて

 何度見ても、どんな私を望んでいるのかわからなかった。


「変な人……」


 そう呟くと、湯船にぽつんと水滴が落ちてきた。

 天井を見ると、さっきまでそこにあったはずの水滴はかなり小さくなっていて

 まるで、自分の半身を失ったと言わんばかりに、どこか寂しげにぶら下がっているように見えた。


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