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自己紹介

 再び目を覚ますきっかけになったのは赤ちゃんの泣き声だった。


「おい、泣くなよ。」


 戸惑うあの人の声に私は小さく笑みを浮かべ、瞼を押し上げると赤ちゃんをあやすあの人の姿があった。

 あの人は私に気づいていないのか、必死にあの「子」をあやしている。

 私は体を起こし、声を掛ける。


「お腹すいているのかもしれないから、こっちに。」

「お前。」


 目を見開くあの人に両手を広げて私は微笑みかける。


「……すまない。」


 謝りながらその「子」を抱き上げ、魔素を注ごうとするが何故か受け入れてくれなかった。


「どうしたんだ?」

「いえ…。」


 不思議そうにしていた私にこの人は困惑したように訊いてきた。


「普通に魔素を送ったのですが、受け入れてくれなくて。」

「……あのやり方じゃなくても出来たのか?」


 どこか怒ったような顔をするこの人に私はその質問に答える。


「あの時はこの子が飢餓状態だったから、直接魔素を受け入れてもらわないといけなかったから、あの方法が一番だったんです。けど、今は意識がはっきりしているから、こっちから送れば自然に受け入れてくれると思ったのですが……。」

「受け入れてもらえない?」

「はい…。」


 困ったように私が眉を下げるとこの人は何を思ったのか、私から離れて体を反転させた。


「あの?」

「あの方法しかないんだろう、さっさとしろ。」

「……はい。」


 この人が言うようにその方法しか残っていないので再び授乳ならぬ授素によって与えるのだった。

 そして、満足したのかこの「子」はぐずる事無くすやすやと眠り始めた。

 私たちが危害を与えないと知っているからかのんびりしているこの「子」に私とは違うのだと思った。


「終わったか?」

「あっ、はい。」


 服を見苦しくないように整え終えるとあの人はこっちを向いた。


「毎回こうなるのか……。」


 どこかげっそりとしたこの人に私は本気で分からず首を傾げる。


「そう言えば、起きて平気なのか?」

「まだ、少しだるいですけど、大丈夫です。」

「……。」


 私の顔をじっと見つめ、この人は溜息を零す。


「あの……。」

「名前。」

「えっ?」

「名前は何だ、いつまでも、おい、や、お前じゃ嫌だろう。」


 私は数回瞬きをする。何せ「前」の時私には名前なんていうものはなく、いつも、おい、お前、だったのかなり違和感を覚えた。

 因みに私は「前」のこの人の事を「マスター」と呼んでいたが途中から嫌そうな顔をしていたので何も呼べずにいた。


「で、名前。」

「マラカイト。」

「……………。」


 この人はジッと私を見つめ、そして、納得したように頷く。


「確かにその眼は孔雀石マラカイトだな。」

義母ははにもそう言われました。」

「……家族は?」

「数年前の流行病で亡くなりました。」

「……。」


 私の言葉を聞いて、軽く目を見張り、そして、死者を悼むように顔を歪め、黙り込むこの人に、やはりこの人は優しい方だと思った。


「すまなかった、辛い事を思い出させて。」

「いえ。」

「……。」

「……。」


 沈黙が私たちの間に落ちるが、私はフッと腕の中に眠る「子」に名前を与えるべきか考える。

 「前」の私は別に名前なんて必要じゃなかったが、流石にこんな小さな「子」に名前を与えないのは釈然としなかった。


「………おい。」

「えっ?はい?」


 急に呼びかけられ、私はハッとなる。

 どこか怪訝な顔をするこの人に私は誤魔化すように笑った。


「何ですか?」

「名乗ってなかったな。」

「えっ?」

「ジェダイド、オレはジェダイド・――。」


 家名を名乗ろうとしたこの人に私はそっと指で彼の唇に触れた。


「ここで名乗らない方がいいです。」

「何故だ?」

「ここは私のテリトリーですが、それでも、どこに何の目や耳があるか分かりません。」

「……。」

「なので、今は名乗らないのが一番かと。」

「分かった。」


 頷くこの人……何故でしょうか、睨まれました。


「ジェダイド。」


 名前を言うこの人ーー。


「ジェダイドだ。」

「……。」


 私は顔を引きつらせる、どうやらこ……ジェダイドは私に名前で呼ばれたいみたいです。本当に呼んでいいのでしょうか?


「いいから呼べ。」


 呼ぶしかないのね。と私は諦めたように彼の名前を呼ぶ。


「ジェダイド?」


 名前を呼ぶように強要したのは彼の方なのに何故か、私が名前を呼ぶと顔を真っ赤にしている。

 何をしたかったのでしょうか?


「マラカイト。」

「はい?」


 名前を呼ばれ首を傾げると、ジェダイドは口元を隠して震えている。


「…………あの。」

「何だ?」

「この「子」の名前何にしましょう?」


 私は取り敢えずよくよく分からない空気から脱出する為に、話題を振った。

 ジェダイドは眉を寄せ、この「子」を見つめる。


「女の子だよな?」

「いいえ。」

「……ちょっと待て、アレがついていなかったぞ。」

「この子は精霊なので性別はありませんよ。」


 怪訝な顔をしたジェダイドに私はそう言うと、何故か鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。


「何でそんな事に詳しいんだ?」


 ジェダイドの問いに私は曖昧に微笑んだ。


「……本当に教えてくれないのか。」

「すみません。」

「………そいつの名前だな。」


 私をじっと見つめていたジェダイドは私が口を割らないと悟ったのか、寂しそうな顔をして私から目を離した。

 私は心中で謝り、話題を変えてくれた事にありがたいと思いながらのっかかる。


「ええ。」

「……グレー?」

「……。」


 この「子」の髪を見ながらそう言うジェダイドに私は残念な目で彼を見てしまった。


「………お前はなんか思いつくものがあるのか。」


 私の視線の意味をしっかりと理解していたジェダイドは眉を寄せて、その緑色の瞳に僅かに怒りが宿っている。


「セラフィナイト。」


 私は緑色の石を思い出しそれを口にする。


「セラフィナイトか。」

「はい。」

「いいんじゃないか?」

「グレーじゃなくてよかったんですか?」

「嫌味か?」


 その顔に苦渋を見せるジェダイドに私は首を横に振った。


「いいえ、貴方……ジェダイドが一生懸命に考えたので、私ので良かったのかと思いまして。」


 名前を呼ばなかったので睨まれてしまって、言いなおすと元に持ったジェダイドに私はこっそりと息を吐く。


「構わない、というか、お前もっと砕けた言い方が出来ないのか?」

「出来ません。」


 きっぱりと言う私にジェダイドは何か言いたそうな顔をするが、私はそれに気づかないふりをして、この「子」――セラフィナイトの灰色の髪を撫でる。

 そして、セラフィナイトは目をぱっちりと開けて緑色の瞳が私を映す。


「よろしくね、セラフィナイト。」


 私に返事するようにセラフィナイトは「あー」と言って私に手を伸ばした。

 私は指を出すとしっかりと小さな手が私の指を掴んだ。

 嬉しそうな顔をするセラフィナイトに私はどこか複雑な感情が芽生える。

 この子は私と同じ「道」を歩む事になるかもしれない、私自身は後悔などなかったが、それでも、こんな小さな子が歩むなんて私は嫌だった。


「あなたも私が守るから…。」


 誓おう、私はあの人である「ジェダイド」も昔の私と同じ存在として生まれて来た「セラフィナイト」をこの命に代えても守ってみせる。

 あの未来にならないように私はどんな手を使ってでもこの二人には幸せになって欲しかった。

 私は気づかなかった、この時ジェダイドが私の言葉を聞いて私と同じように何かを誓った事を。

 知らなかった、小さな命の真の意味を、それを知るのはずっとずっと未来さきの話――。

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