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巡りあう

 あれから、十年という月日が流れた、私はあの後、森の奥の村で五つまでいたが、五つの時流行病で優しかった義理の両親を失い、そして、村から出ていった。

 幸いにも「前」の記憶が会った為に、一人で生きていく事は出来る、と言っても、今でも思うのだが、私の知識は色々と偏っているようで、偶に変な事をやってしまう時がある。

 そして、今私は少し大きな街での用事を終え、帰宅する為に人気のない裏道を歩いている。


「離せっ!」


 唐突に私の耳に凛とした声、次にくぐもった声が聞こえ、そちらに顔を向けると麻袋を抱え上げた複数の男たちがいた、どの男たちもみすぼらしい恰好をしているが、どこか鍛え上げられた体をしており、違和感を覚えた。

 私は気配を徐々に押し殺して、そして、身を顰める。


 観察していてわかるのだが、男たちは一見荒々しく麻袋を扱っているように見えるが、それでも、どこか緊張しているようにも見えた。

 それに、先ほどの声が私の聞き間違いではなかったら、子どもの声だった。


 男たちは馬車に麻袋を詰め、そして、走り出す。

 私はフードを深くかぶりなおして、尾行をする。

 もし、私が普通の子どもならば間違いなく馬車を尾行など出来ないだろうが、相手にとっては不幸で、私にとっては幸いにも私は普通の子どもではなかった。

 屋根に飛び上って、上から馬車を追う。この時、私は水の魔術を使い目くらましをする。

 そして、馬車は街から出ていった。


 いよいよ、怪しくなった男たちに私の鼓動は異常に早まっていた。

 まるで、何かを期待しているような、でも、どこか恐れているようなそんな感じがした。

 身を隠せない平原に私はかなり距離を置いて追いかける、そして、馬車の方向を確かめ、頭の中に叩き込んでいる地図でこの先にないがあるか思い出す。

 この先にあるのはある男の屋敷だ、そして、その屋敷で「前」の私が作られた。

 そして、今私がいる地点は「前」私が生み出される前の時、おのずと導き出される答えに私は憤りを覚える。


 先ほどの声は多分、あの人だ。そして、これから、あの人は傷つけられ、自分を生み出す。

 もう二度と、あの人を傷つけさせたくない、そして、まだ見ぬ「前」の自分と同じ存在を生み出してほしくない。

 そう思い、私は速度を上げた。

 何せ、この先に屋敷があるのは知っているがどこにあるかまでは知らないのだ、だから、馬車に乗り込む人たちに勘付かれない距離を保ちながら進むしかなかった。


 もしも、私が知っていたならば先回りをしてでも、あの「セイレイ石」を砕くのに、と思った。

 そして、馬車がついてからしばらくして、私の目の前に大きな屋敷が見えてくる。

 門番とかがいるが、私は今の距離ならば見えないと思い、術を発動させる。


 「前」の影響なのか私は四属性の魔術を使えるし、癒しや補助の魔術も扱える、ただ、前と違って精霊の核を持っていないから四属性の魔術の方は「前」よりも劣っている。

 だが、いくら劣っていても使えるものは使わないとあの人を救えない、私は地と風を操り、天高く跳躍した。

 地の魔術で大地に引き寄せられる力を弱めて、風の力で身を守る。

 そして、屋敷の回りには結界の類いはないのか一度の跳躍で思ったよりもあっさりと屋敷の庭まで私は潜り込む事が出来た。


 ハンカチとは呼べないような少しぼろく、地味目の色の布で口元を隠し、私は音を立てる事無くガラスを溶かし、子ども一人分通れる穴を作る。

 中に入ると使われなくて大分と立つのか埃まみれだった。

 私は「前」の記憶を頼りに薄暗い屋敷を迷いなく進んでいく。

 そして、地下への入り口にたどり着いた瞬間、何か濃厚な魔素を感じた。


 魔素それは全ての源。

 術を使う為にも火を使うなら、火の魔素を扱う。

 そして、今しがた感じた濃厚な魔素は火ならば火山の噴火、水ならば高い山をも呑み込む高波、風なら巨大な竜巻、地ならば人が落ちたらもう二度と上がって来れないほどの地割れを起こすほどの災害並みの魔素だった。

 やばいと、警鐘が頭の中で鳴り響く、私は隠密で動く事を断念して強行突破に移り出た。


 階段を降りるなんてしている余裕もなく跳躍で下まで降り、そして、真っ直ぐに魔素の集まる部屋に向かった。

 廊下で何人か襲い掛かって来たが、風の刃で全て撃退する。

 そして、私がようやく目当ての場所にたどり着いた時には既にそれは行われていた。

 身を隠しながら中を覗くと幼いあの人とセイレイ石を掲げた白衣の男、そして、そのセイレイ石は輝き、同時にあの人から「力」が流れ込む。


 私は拙いと思った。

 そして、あの人ともうすでに発動しているセイレイ石を壊さないように魔術を練り始める。

 もしも、セイレイ石がまだ発動していなかったら容赦なく砕いていただろうが、この発動段階でもし、壊してしまえばあの人の「力」が暴走してあの人自身が危険に晒されるだろう。

 そんな事を望んでいない私は練り上げた魔術を発動させる。


「降り注げ、蒼き氷の飛礫っ!」


 私の「言葉」と同時に氷の飛礫があの人とセイレイ石以外を攻撃する。


「な、何だっ!」

「機械を守れ。」

「折角のデータがっ!」


 混乱する中に私は躊躇なく中に入り込み、そして、私に気づいた研究員らしい何人かを昏睡させる。

 無事、あの人の元にたどり着いた私はあの人に触れる。


「誰だ。」


 手負いの獣のように、否、実際彼は力を抜かれて、酷く疲弊しているだろう、そんな彼は何処にそんな力があるのか私を威嚇する。

 私はそんな彼に一言だけ放つ。


「味方。」

「味方だと?」


 私は頷きながら周りを注意深く観察する、酷く疲弊しているこの人を抱えて逃げるのは困難だ。

 そして、あの人の「力」とセイレイ石の間に生まれた「子」を見て私は目を見開く。

 その「子」は赤子だった。

 無力なその「子」をこんな場所に置いていく事なんて出来ない。

 この時、私はあまりやりたくなかった切り札を使う事を決める。


「ごめんなさい、説明したいけど、後で絶対に説明するから、私を信じて。」


 正直に話す私の言葉など、この人は信じてくれないと分かっていた、でも、この人は目を見開き、そして、笑ってくれた。


「ここよりはマシだろうな?」

「……多分。」

「まあ、いい、俺はどうすればいい?」


 私は信じられない面持ちでこの人を見るが、状況を思い出し、そして、小さくかぶりを振って雑念を飛ばす。


「あの「子」を連れてくるから戻ってきたらしっかりと私を抱きしめて。」

「……分かった。」


 頷いてくれるこの人に私は数歩先にいるその「子」を素早く抱き上げ、あの人の元に戻る。


「我願う、点と点を司るモノよ、我の魔素を元に我を別の点に繋げ、瞬間転移っ!」


 私の中にある魔素をごっそりと使う切り札によって、私はこの場所から逃げ出した。

 そして、無事見覚えのある場所にたどり着いた瞬間、私の意識は途切れた。

 その時、慌てたような声を出すあの人に私は胸が締め付けられるような気がした。

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