黄泉がえり
声が聞こえた。
女性とも男性とも分からない声だった。
その声は言った。
『癒しのモノよ、人の思惑によって、生を捧げた哀れな魂よ。そなたの「願い」聞き入れた。どうか正しき形で、この世界を救ってくれ。不運な形で救われたあの点ではなく、別の点にたどり着けるように、見守っている。』
そして、目を開けたら真っ暗だった。
驚いて声を上げようとしたが、何故か呼吸がうまくできなくて苦しくて、泣いた。
そして、しばらく泣き続けていると、唐突に何か重い音がして柔らかな光が入って来た。
「まあ、生きているわ。」
「姉さん、もしかしたら、アンテッドモンスターかもしれないわ。」
「そんな訳ないわ。」
自分は生きているのだろうか。
何で。
あの人は?
自分だけ?
凍り付くような寒さに体が震える。
「まあ、可愛そうに。」
温かな腕が自分を抱き上げる。
この時初めて自分の大きさが異常に縮んでいる事に気づく。
「姉さん。」
非難する声音に自分を抱きしめる女性が微笑んだのが分かった。
「大丈夫よ、この子は温かい。」
「でも。」
「それに綺麗な目をしているわ。」
「髪が老人のように真っ白なんて異常だわ。」
「ストレスで真っ白になる人もいるわ。」
「でも、可笑しいわっ!」
姉を案ずる女性に自分はどうする事も出来なかった。
「この子は生きている。わたしはそれを知って見捨てたくないわ。」
「姉さんっ!」
「わたしは子どもに恵まれない体質だから、きっと、神様がわたしを憐れんでくださったのよ。」
「何を言っても無駄なの?」
「ごめんなさい、貴女が心配してくれるのは分かるけど、わたしはこの子の母親になりたいわ。」
「……もし、姉さんを不幸にしたら、あたしはこの子を許さない。」
「……。」
女性の言葉に母になりたいと言ってくれた女性が悲しそうに顔を歪めた。
そんな時、遠くから声が聞こえた。
「あら。」
「義兄さんだわ。」
「マラカイト、あなたのお父さんになる人が来たわ。」
「マラカイトって……。」
「この子の名前よ。」
女性が眉を寄せた気がした。
「この夜の闇にも負けない、綺麗な緑色…そう孔雀石のような瞳、ピッタリだと思わない?」
「……。」
黙り込む女性に、義母は溜息を零した。
「さあ、帰りましょう、わたしたちの家に。」
こうして、自分は新たな生を受けた。
訳が分からないまま、「マラカイト」となった自分は「前」とは違うモノになった。
一体自分に何が起こったのか分からないけど、ただ、今は疲労で眠気が襲い幼い体はそれに抗う術もなく、一時の温もりに包まれたのだった。