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来るべき氷期

作者: 柳川カリン

2045年、世界は寒冷化を避けられない状況になった。

「大統領、今年の平均気温は7度です」

副大統領マディソンは、大統領の背中ごしに事実を淡々と伝えた。空気の重い執務室である。

暖房しか使わないエアコンがすうすうと静かな音を立てて動いている。

「どうあがいても」と彼は言った。世界大統領ブエンディア・マルケスである。

「どうあがいても、この寒冷化は止められないだろう」

執務室のガラス窓からは、グリーン・ヒルが一望できる。かつて緑の楽園と言われたグリーン・ヒルも

今では雪に閉ざされた街に変わってしまった。

「マディソン、タバコを吸うか」

そう言ってマルケスはポケットから取り出したタバコに火をつけた。

「いえ。執務中ゆえ・・・」

「堅い男だな、お前は。休暇をとってスキーにでも行ったらどうだ。最近息子と遊んでいないのだろう。確か17歳になったんだったよな」

マルケスの顔がたばこの煙でぼやけた。

「はい。今年17になりました」

外では雪が音もなく降り続いている。これからどれだけの雪がこの街に積もるのだろう。マルケスは苦悩を通り越し、達観とも諦めともとれる涼しげな笑みを長年の友人に向けた。

「計画は、ひそかに、そして直ちに実行されなければならない。俺の親父の口癖だったんだよ」

「はい。存じております。立派な方でした」

マディソンは続けて、

「計画とは、人類の移住計画のことですか」

と聞いた。たばこを灰皿に置き、マルケスはマディソンの顔を見て

「そうだ」と一言だけつぶやいた。

「長い旅になるぞ。今のうちに世界を目に焼き付けておかないとな。まあ、どこもかしこも雪に埋もれてしまったが。なあ、マディソン。俺たちは次の世代に何ができるんだろうなあ」

「捨て石になるよりほかありますまい。捨て石になれるだけ幸運な世代だったと思わねばなりません」

マディソンはマルケスの肩に手を置いて、言った。誰よりも屈強だった彼の背中にも、いつのまにか老いがしのびよって来ていた。マディソンは、世界大統領として世界の重荷を一身に背負うマルケスに、深い慈しみの気持ちを感じた。

「さあ、行こうか、マディソン。先は長いぞ」

そう言って2人は執務室を出た。

外には、渺渺びょうびょうたる雪原が、大きな手を広げて、2人を待っていた。



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