活動記録2
少々長くなりました...
長期休み明けの登校日。やはり鉄の課題は不十分だったらしく、しばらくの間残されていた。その間俺は、課題を進める鉄の横で、アニメやゲーム、最近はまっている動画の話なんかをした。話をしたくてうずうずしている鉄をみて、近くの男子とケラケラ笑っていた。
鉄が課題を出して帰ってくると、突拍子もないことを言われた。
「部活しようぜ。」
「は?」
「さっき担任にいわれてさ。なんか、追加課題チャラにしてやるから部員探せってさ。」
「それでいいのか公務員。」
「なんか、部員足りなくなって、廃部になるかもって話で、いま入ってる奴が可哀想ってんでな。」
「まあ、構わねえけど、部活次第。」
正直、帰宅部っていうのも飽きが来るしな。あまり手間にならないのであれば、べつに構わない。
「ゲーム部。」
「は?」
さっきと全く同じ反応をしてしまった。
「まあ、正確にはゲーム研究部。目的は、様々な国、種類のゲームに触れて、思想や趣向を学ぶってことらしいよ。」
「うちって、そこそことはいえ進学校だよな。というか、そんなのあったのか。」
「ああ。おれも初めて聞いた。それに愛好会に近かったらしいし、あって無いようなもんだとよ。それでも顧問がうるさいらしくて、おれらの考えてるようなゲーム機とかの持ち込みはダメらしい。」
「なんだそれ。」
「ってなわけで、紙は書いて出しといたから、明日挨拶にいくぞ。」
「ああ。って、はぁ?」
流されるまま、次の日俺たちは部室へと足を運んだ。
部室は旧会議室。少々ボロいものの、設備はそれなりにあるらしい。なぜ名もしられていない部活がそんなにいい部室なんだか。
ドアを開けると、女子と男子の二人が机の上で神経衰弱をしていた。
二人の目がこちらに向くと、鉄は素早く会釈をし、言葉を連ねた。
「どうも初めまして。おれは1-Bの日向 一城です。今日からこの部活に所属することになりました。こっちは同じクラスの立橋 悠也です。これから、よろしくお願いします。」
「初めまして。悠也です。よろしくお願いします。」
鉄は初対面の人には本当に礼儀正しいからな。まあ、世渡り上手ってやつだ。
軽く会釈をすると、女子のほうが軽やかに立ち上がり、そのままの勢いで挨拶を始めた。
「へー。君たちが。あたしは2-Dの阿部 灯。ともって呼んでくれてもいいよ。」
「僕は2-Aの古谷 敬。よろしく。」
挨拶が終わると同時に、鉄が小声で話しかけてきた。
「おい。灯先輩のスペックすげえな。黒髪ショートで活発な感じ。その中で光る可愛らしい声そして体型。めっちゃタイプ。敬先輩もメガネかけてるものの、アレイケメンだぜきっと。身長も俺らよりちょい高いし、もしかして付き合ってんのかなこの二人。」
「復唱してやろうか?」
「やめてください死んでしまいます。」
そんなことを駄弁っていると、灯先輩が、
「ん?1-Bって言ったっけ?。じゃあ夕っちと同じクラスか。」
「夕っち?」
そう訪ねた時、後ろの扉が音を立てて開いた。
「すいません灯さん。日直で遅れまし...た。」
入ってきたのは陽奈美だ。それに灯さんって...
「夕っち!昨日言ってた新入部員だよ!夕っちと同じクラスなんだってね。夕っちが誘ってくれたの?」
意気揚々と質問する灯に対し、陽奈美は少したじろぎながらも、二人が部員になることは知らなかったということ、悠也や鉄とは昔からの知り合いということを話した。
「へー。じゃあなんでもっと早く入部してくれなかったの!?」
「いや、おれたちこの部活があること自体担任から聞いて初めて知ったもので...」
「夕っちと知り合いなんじゃないの?」
先輩のペースに呑まれたのか、はたまた違う理由か。俺たちは言葉に詰まった。
そんな状況を察してくれたのか、敬先輩が助け舟を出してくれた。
「灯。お前みたいに誰とでも話せて仲良く出来てって奴はなかなかいないと思うぞ。僕だって灯や陽奈美ちゃん以外にまともに話せる女子なんていないしね。」
「そうかな。まあ、わかんない。」
自分を作らなくても誰とでも仲良く出来ることも、ある種の才能だと思う。そう言った意味でも、さっきの鉄の言葉に納得してしまった。それと同時に、ひとつ疑問に思った。
「ところで、ひとつ思ったんですが、なんで陽奈美が夕っちなんですか?」
それを聞いて鉄は思い出したかの様に首を縦に振った。
「え?そりゃあ、川の内の陽の美しさ。まさしく夕焼け。ずばり夕っちだよ。」
悠也と鉄は頭からハテナを出し、敬は片手を広げながらやれやれと首を横に振り、陽奈美は恥ずかしそうにしながら顔を斜め下へと落とした。
「なんでみんな同じ反応をするんだ!」
全員理解出来ていないことに少しイラついたのか、灯は顔をしかめてみせた。
しかし、灯のむすっとした表情は、たちまち明るい笑顔へと変わった。
「でもいいや。二人のことはこれからなんて呼べばいい?」
「おれのことは鉄って読んでください。よく覚えてないんですが、小さい頃から呼ばれてたんで。」
「おっけー。鉄くんね。Feの鉄くん。よし、覚えた。君は?」
「俺はそのまま名前で呼んでもらえれば。あるいは、悠とでも。」
「なんかつまんないね。」
灯はまたむすっとした表情になり、しばらく考えこんだように俯いた後、はと思いついたのか喋り出した。
「じゃあ君は虹だ!」
その場にしばしの静寂が訪れたことは言わずもがな、理解出来るだろう。
「橋といえばレインボー!だから虹。」
「もう少しわかりやすいのはないんですかね...。」
「じゃあ、りっち!」
「その心は?」
「橋、ブリッジ、ぶりっち、りっち。」
敬は眉間に指を当てる様にして、深いため息をついた。
「ってなわけで、よろしくね!りっち。鉄。」
その日は初の顔合わせということもあり、トランプゲームを軽くやって解散となった。帰り道、自然と陽奈美と一緒になったが、家周辺の路地にはいるまでは鉄も一緒だったし、先輩たちの話で会話が途切れることはなかった。途中鉄が、自分だけ「っち」がついていないとかなんとかで、特別扱いされてるみたいでテンション上がったとか言っていたが、とりあえず笑って流した。
家に着くとともに、冷蔵庫から適当に引っ張り出して食べ、風呂に入った後歯を磨きそのままベットに倒れこんだ。
悠也は目を閉じ今日という人生の転機とも言えるほどの一日を振り返った。妙にテンションの高い灯、落ち着きのある敬、そして何より、久しぶりに話した陽奈美のこと。これから部活動のある高校生活を送っていくことへの不安や期待。それらは悠也が眠りにつくことを拒むかの様に、ずっと頭の中を巡り続けた。