活動記録1
窓の外に降る、冷たい水。
枯れることなく、増すこともなく、ただひたすらに落ちていく。
時折ガラス越しに聞こえる、こつっという音に、どこかもどかしさを感じた。
「どうせならもっと寒くしてくれっての。」
悠也はそう、歪んだ雲に愚痴をこぼした。
季節は冬。されど、気温はまだなりきれていないようで、白銀の世界を拝むことは出来そうに無い。
天気も一日に二転三転。そんな毎日に流されてか、今日も一人、パソコンをひらく。
ディスプレイの下には二次関数の文字が映り、中央には動画が流れている。ここ最近はずっとそうだ。たまに動画が消えることもあるが、数分後にはまた違う動画が流れている。
簡易的な作りのテーブルの上に置かれたノートパソコン。その隣には甘いコーヒーと問題集。マウスを片手に左手で頬杖をつく。そんな毎日。
朝昼晩なんて関係なく、ただ腹が減ったら食ってネットの繰り返し。
そんな毎日が最後になる日。
久しく聞いていなかったチャイムがなった。最低限の身だしなみを整え、ドアノブを押した。
そこに立っていたのは鉄。本名は日向 一城。あだ名は小学校の体育の授業中、校庭にあった鉄棒の上で踊り出したことに由来している。その時の先生が
「鉄棒の踊り子だね。」
と言ったわけなんだが、その当時、鉄は先生に気があったらしく、
「おれは鉄棒の踊り子だ。」
なんて言い出した。
呼び名にしては長すぎるってなもんで、鉄と呼ばれるようになった。いまでも、自分のことを鉄と読んでくれ。なんていうあたり、まだあの先生に気があるのだろうか。まあ、そんなわけないか。
「おっす。どうせ暇だろうと思って雷の降る中会いに来てやったってもんよ。」
「雨なら軽く振ってるが、雷は知らなかったな。」
実際、傘無しでも不自由無い程度の雨だ。雷なんて、ここ最近はテレビでしか聞かないわけで。
「まあ、せっかくきて帰すわけにもいかないし、そこであと数時間待ってろ。」
「じゃあ全裸でボディービルやってるぞ。」
「・・・さっさと入れ。」
冗談でも、やられたら俺が捕まりかねない。
「相変わらずグータラしてんのな、お前。その分じゃ課題なんて手もつけて無いんだろ。」
「ちょっとはやったさ。」
「ほう。じゃあどのくらい終わったんだ。」
「半分。」
「おれの予想を大きく超えてやがる。これじゃあ課題持ってきたおれのほうが教わりに来た感じになっちまうだろうが。」
「じゃあ教えないから。安心していいぞ。」
「それは、困りますね。少し。いや、進まないくらい。」
俺はたまに、こうして鉄に勉強を教えている。そんなに授業を真面目に受けるタイプでは無いから、教えられることは少ないが。
「俺もわかんないとこのほうが多いから、お前は自学自習してろ。」
「それはまずいな。お前がわかんねぇとなると、いよいよ陽奈美様の出番かねえ。」
「お前が呼ぶなら構わないけどな。」
川内 陽奈美。一軒間をあけた隣の家に住んでいる幼馴染である。小学校から同じ学校で、いまはクラスメイトでもある。
小さい頃こそ遊んだが、中学に上がってからは話す機会も減って、いまでは話すことも無い。同じ高校なのは、通っている学校が進学校というだけのこと。学校生活も、お互い友達と過ごし帰る。帰りは俺と鉄が真っ先に教室を出るということもあり、すれ違うことも無い。別段、嫌いになったとかそういうことじゃなく、ただ話しづらくなって、そのままという感じだ。
「おれも流石に呼ぶのは無理だ。お前だからこそと思ったんだが。おれがあいつと話すようになったのは、悠也と仲良かったからだし、いま話すことは特に無いしな。」
「まあ、年をとったってことだ。」
「なにじじくさいこといってんだか。」
他愛ない話をしながら課題をある程度進めた後、数年前に流行ったゲームを取り出し、その日を過ごした。