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花のように  作者: 藤井 芹香
6/11

失意

個人サイトからの加筆転載です。

 ヴェンダが魔女を休業してから、三日が過ぎた。

 その間、彼女の部屋は物音一つしない。

 どうしたものか。

 昨晩から降り出した雨の中でウルは、考え込んでいた。

 あれから、三日。

 ウルは、時々、このヴェンダの部屋を見下ろせるこの場所にやってきては、彼女の様子を見ていたが、彼女は、何の進歩も進展も無く部屋に閉じこもりきりだ。

 このまま、彼女は、潰れてしまうか…

 それも、よかろう。

 ウルは思った。

 イゼルダとの約束もあったが、それは、ウルが、ヴェンダを認めた後での話だ。

 ウルは、ヴェンダを認めてはいない。

 ヴェンダは、魔法に頼りすぎる上、自分の仕事に自信を持っていない。それが証拠に、自らの仕事を医者の様だともいう。それは、魔術に誇りを持っていない証拠。

 医術は、立派な人間の文化だ。

 それを否定することはしない

 しかし、魔術はそれを凌駕する世界の根底に関わる技術である。

 医者は、生物にしか関われない。しかし、魔女は万能である。

 この世のありとあらゆる存在に作用できる。

 魔法の力は、人の怪我を治したり、病気を癒したりするだけではない。

 ヴェンダはそれに気がついていないのだ。

 それ故に、魔法使いという血に誇りを持つことが出来ない。

 幼くして師と呼べる母親を失ったのだ。彼女自身が、自分の力でそれに気がつくには相当な時間が必要だろう。

 まあ、それも、人間の感覚でだが…

 ウルは、日が傾きかける頃まで、その場で過ごし、やがて、森へ帰るべく頭を上げた。

 雨はまだ降り続いている。

 ウルは、雨が苦手だった。

 雨は、羽根を濡らし重くする。塗れた羽根は、烏から自由を奪い大空を奪う。

 やがて、意を決したようにウルは羽根を広げた。濡れた羽根はやはり重く、森に帰るまでは、一苦労しそうだ。

 数回、羽根を煽り、滴を振り払う。

 そして、飛び立とうとした瞬間に、ヴェンダの部屋に来客が来たことに気が付いた。

 王室親衛隊の制服を身につけた若い騎士だ。

 あれは、儀式の間でウルに剣を突きつけた若い騎士。

 あいつには、貸しがある。

 ウルは、興味がわいてくるのを感じた。

 とりあえず、森へ戻るのはもう少し待とう。


 クルナティオは、三度目のノッカーを叩いてみた。

 二度目までは返事がなかった。

 ドアの前には「しばらく休業します」と書かれた札が掛けられている。

 ヴェンダはいないのかも知れない。

 しばらく待っても返事がなかったので、クルナティオは足下に置いてあった鞄を拾い、その場を離れようと、踵を返した。

 その時、ドアの掛け金を外す音が聞こえる。

 クルナティオが振り返ると、ドアが小さく開かれる所だった。

 あわてて立ち戻る。

「…どなた?」

 くもぐもった低い声が聞こえた。

 まるで、生気のない低い声。

「王室親衛隊、クルナティオ=アースノーツです。先日の忘れ物をお持ちしました」

「忘れ物?」

 ドアの隙間からヴェンダが顔をのぞかせた。

 クルナティオは、少しばかり驚いた。

 ヴェンダの顔が、数日前と比べ物にならないほどやつれていたからだ。

 ヴェンダは、目の下の隈を隠すように目を擦りあげると、クルナティオの顔を見た。

 どこかでは、見たことがある顔。

 想い出したくない時間に関わっていた顔。

 烏の王を呼び出したときにヴェンダの護衛に付いてくれた親衛隊員だ。

「どうか、なさったのですか?」

 クルナティオが聞いた。

「いえ、別に」

 ヴェンダは慌てたように目を伏せた。たぶん、泣いていたのだろう。真っ赤な瞳がそういっていた。

 聞いては行けないことを聞いたか?

 クルナティオは少し後悔をする。

 気まずい沈黙が訪れた。

 やがて、沈黙を破ったのは、ヴェンダである。

「どうぞ」

 そういって、クルナティオを中に招き入れる。なぜか、自分の姿を屋外に曝したくなかった。

 クルナティオは、ヴェンダの誘いで、部屋へと入り込んだ。

 ヴェンダはクルナティオを応接間へと通した。

「急な来訪だったので、何も、おもてなしはできませんが」

 ヴェンダは、そういって、クルナティオに椅子を勧める。

 クルナティオは、儀礼的な返事をして椅子へと腰を下ろす。

 ヴェンダが向かいに腰を落ち着けるのを待って、クルナティオは、鞄を取り出した。

「忘れ物は、これですが」

 あの日、ヴェンダが儀式の間へ持ち込んだものだ。

 ヴェンダは、鞄を受け取ると、小声で礼を言った。

「それで、あれから、どうですか?」

 クルナティオが聞いた。軽い気持ちから出てきた疑問だ。

「いつ、宮廷魔女として復職されるのですか?」

 クルナティオの問いにヴェンダは困ったような表情を返した。

「何か、悪いことを聞きましたか?」

 彼女の表情に気が付いたクルナティオは、ばつが悪そうに聞いた。

 ヴェンダは、頭を振った。そして、口を開く。

「私ね。魔女を辞めようと思ってるの」

 クルナティオは、驚きの表情を顕わすと、辞職の理由を聞いた。

 ヴェンダは、静かに目を伏せた。やつれた顔に、迷いの色が見える。

「難しい理由はないわ。ただ、自信がないだけ」

「烏に言われたことを気にしていられるのですか?」

 クルナティオは、単刀直入に聞いてきた。

 聞かれたくないことを聞いてくる人ね。

 ヴェンダはクルナティオにそんな印象を持った。

「何も、烏ごときの言動を気になさらなくとも宜しいでしょうに」

 ヴェンダが黙っていたのでクルナティオが時間を埋めるように言葉を継いできた。

「彼は、ただの烏じゃないのよ」

 ヴェンダがクルナティオの言葉を遮るように言った。

「ウルは、お母さんが残した魔法なのよ」

「魔法?」

 クルナティオが、聞き返した。

「そうよ。だから、私にとってウルはお母さんの分身なの。その分身に私のやってきたことすべてが否定されてしまったのよ」

 ヴェンダは、不意に力が抜けていくのを感じた。

「では、あの烏は、先代の宮廷魔女の魔法によって、あのような姿と能力を身につけたというのですね?」

 クルナティオがヴェンダに聞いた。

 ヴェンダは肯定する。

 クルナティオは、不意に考え込んだ。何か、遠い記憶を呼び覚まそうという感じだ。

 しばらく、沈黙が支配した。

 ややあって、クルナティオが口を開く。

「先祖の残した古い文献に載っていた話ですが、大昔から、あのような烏が幾度となく目撃されてはいるようですよ」

「?」

 ヴェンダが、顔を上げる。

「冗談や、はったりではなく、私の家系はこの[黄金色の風と碧い大地]が、まだライニング公国を名乗るかなり以前からこの土地の領主に使えてきたのです」

 クルナティオは、誇らしげに語る。

「子供の頃にはこの土地の歴史を覚えさせられて、散々、先祖から伝わる文献や書物を読まされました」

「あなた、旧家の出なの?」

 ヴェンダの問いにクルナティオは頷く。

「もう、大分前に読んだ記憶があるだけですから、どの時代の書物に書かれていたとかは覚えていませんが、間違いなく、あの烏は、旧家の歴史よりも古い生き物です」

「お母さんが、呼び出した使い魔じゃない…」

 ヴェンダの中で、母親の分身と思われていたウルが一転して正体の分からない存在に変わった。

「でも、お母さんが契約を結んでいた存在であることには変わりないのよ」

「魔法の契約ではないと思います」

 クルナティオが否定する。大人びた表情。

「魔法の契約であれば、呪術によって相手を縛っているはず。しかも、宮廷魔女の残した契約であれば、その娘に対して不利益な契約を結んでいるとは思えません」

 ヴェンダが感心したような顔をする。

「あなた、魔法に関する知識もお持ちなのね?」

「読みかじりの知識です。結局、あなたのように魔法を使いこなすことは出来ませんでした」

 クルナティオは残念そうに言った。

「魔法は、血で使うものよ。生まれ落ちたときに、魔法使いの資質があるかどうかは決まっていることなの」

「そうでしたね。だから、あなたには、魔女を辞めるとは言って欲しくないのです」

 若い親衛隊員は、真面目な顔で言った。

「ありがとう」

 ヴェンダは、気持ちが少し軽くなるのを感じた。

「今日は、随分、気持ちが楽になったわ。まだ、復職する気持ちにはなれないけど、明日からは、もう少し違った物の見方が出来そうよ」

「そうですか。貴女が復職されるのを心待ちにしています。…稀代の英雄であったお父上のお話もお伺いしたいものですから」

 突然話題を父親に振られ、ヴェンダは困惑した。

 父親の思い出など、皆無に等しかった。

 父親は、ヴェンダが幼かった頃に、ある日、突然に死の国へ行ってしまったからだ。

 その、死の原因が、公国中を震撼させた荒竜を退治するときに払った代償だということを聞かされたのはヴェンダがかなり大きくなってからである。

 クルナティオは、ヴェンダの表情を見て悟ったのか、話を切り上げると帰るために立ち上がった。

 ヴェンダは見送りに戸口まで送ろうとクルナティオを追った。

 短い儀式的な挨拶を交わし、クルナティオが扉をくぐろうというときに、彼は、想い出したように振り返った。

 そして、こう言う。

「私の信条とする座右の名が、『自分の道を自分らしく』という言葉なのですが。…真似なさいとは言いません。母親の背中を追うことはしなくても貴女はそれで貴女らしいと思いますよ」

 クルナティオは、それだけ、最後に告げるとヴェンダの部屋を後にした。

 ヴェンダは、クルナティオが帰った後、彼が言い残した言葉を思い出していた。

 貴女はそれで貴女らしい。

 クルナティオはそう言った。本心からだろうか?

 別な利害が絡んでいるのだろうか?

 今のヴェンダには、どうしても、信じがたい台詞だった。

 私が、私らしい?

 本当なの?


 クルナティオが訪ねてきた翌日から、ヴェンダは泣いて過ごすことをやめた。

 こんなに泣いたのは何年ぶりだろう。

 たぶん、お母さんが死んだとき以来かしら。

 感慨に耽りながらも、いつものように朝食をとる。

 しかし、ドアの休業の札は外せなかった。

 やはり、魔法を使うことに躊躇いがあったからだ。

 使い魔もあの後には一度も呼び出してはいない。

 やはり、ウルに言われた「イゼルダの使う魔法と、ヴェンダの魔法は違う」という言葉が気になっていた。

 魔術は、あらゆる空間に存在するエーテルを、魔法使いの生まれ持った能力によって、魔法の源になるマナに変換する一種の超能力のようなもの。

 それ故に、魔力は血統に左右されるものであり、魔法は血で使うものなのだ。

 ヴェンダと、その母のイゼルダの魔力が異質なものとは考えにくい。

 じゃあ、何が違うの?

 ヴェンダには、その答えはまだ見えそうにない。

 彼女が、その答えを見つけるのは、いつのことか。

 そして、ある日の昼下がり。

 ヴェンダの元にバドが訪ねてきた。

「何か、あったのですか?」

 戸口に掛けられた札を見てバドが聞いてきた。

 ヴェンダは曖昧な返事をかえす。

 バドは、納得はしなかったようだが、話題を変えてきた。

 剣王戦の出場が正式に決まったと言うことだ。

 剣王戦は歌姫の降臨祭に続いて行われる剣術の大会だ。

 元々、農業立国であった『ライニング公国』は、兵力不足が悩みの種であった。

 そこで、考え出されたのが、剣王戦である。

 農民達に武術の奨励を行い、その成果を試す大会を数年に一度、歌姫の降臨祭の時に開催したのだ。

 この大会は、成功を収めた。

 公国の騎士は、一騎当千の強者が揃うようになった。

 そして、噂が噂を呼び諸国から腕自慢達が、剣王戦に出場するようになると、大会に冠せられる剣王の称号はそのまま、大会の優勝者の称号として語られるようになる。

 剣王の称号は、剣を扱う者の目指すところになったのだ。

 バドは、その由緒ある大会に出場を決めてきたという。

 ヴェンダは、その知らせに微かな不安を感じた。

 まるで、大好きなぬいぐるみを取り上げられた時のような感じ。

 元々、バドの所属する輝ける剣士団では、必ず、剣王戦には出場者を送っていたという 

 今回の出場者にバドがエントリーされただけのこと。

 不安を感じる材料はこれっぽちもない筈。

「これで、優秀な成績を収められれば、師匠だって、僕を認めてくれる」

 ヴェンダの心配をよそにバドは喜々として話を続ける。

「それで、やっと目標のスタートラインに着ける筈なんだ」

「目標?」

 ヴェンダは、バドの言葉に問い返す。彼女は丁度、バドの座るテーブルの所へ木の実のビスケットを運んできたところだ。

「そうだよ。僕は冒険者になるんだ」

 バドは、ヴェンダに視線を向けながら答えた。

「冒険者って、危険な職業なんでしょう?」

 ヴェンダは聞いた。

「確かに、実力がない人いとってはとっても危険な職業だよ。だから、師匠に実力を認めてもらうまで、旅立つことが許されてないんだ」

「じゃあ、この剣王戦に優勝できたら冒険に出る許可が出るのかしら?」

 ヴェンダが、バドの対面に腰を下ろしながら聞いた。

「優勝は無理だなぁ」

 バドは頭を掻きながら言う。その表情は、少年のようだ。

「参加するクラスは実戦級だから二勝もできれば充分実力は認めて貰えると思うよ」

 ヴェンダは、気のない返事をかえす。さっきから、バドは自分のことばかり話している。

「実戦級は真剣を使うクラスだから経験の差が大きく出るんだ」

 バドは、自分の実力に自信がなさそうに言った。

 その時、ヴェンダは「バドを魔法で縛れたら」と考えている自分に気が付いた。

 魔法でバドの心をつかむ?

 どうして、そんなことを考えるの?

 それは…………。

 それは…………なぜ?

 そのころ、ようやくバドはヴェンダの顔が少しやつれていることに気が付いた。

 数日前とは、全然感じが違って見えた。

 何かあったのだろうか?

 もう一度、バドは、ヴェンダに聞いてみた。

 すると、ヴェンダはこう答えた。

「魔女をやめようと思ってるの」

「やめる?」

 バドは聞き返した。

 ヴェンダは肯定する。

「なぜ?」

「自信を無くしちゃった」

 ヴェンダは仕方ないというように肩をすくめて見せた。

 哀しそうに微笑む。

 バドは、しばらく沈黙して何かを考えていた。

 やがて、思いついたような口振りでヴェンダに質問をする。

「宮廷魔女をやめるんだよね?」

「そのつもりよ。だから、ここにも居られなくなるし」

「そうか……………………………………」

 ヴェンダの返答にバドは大きく頷く。

 そして、バドの口から出た言葉に、ヴェンダは耳を疑うのだった。

「じゃあ……その………僕と一緒に来ないか?」

 え?

 心臓が大きく跳ねるのがわかった。

 聞き返す言葉が、声にならない。

「私が…?」

 それだけ、口に出来たのは、しばらく時間がたってから。

 バドはうなずき、そして言葉を続けた。

「君のような有能な魔女がそばにいてくれたら、きっと、色々な冒険を成し遂げられると思うんだ」

 魔女として?

 ヴェンダは、頭に上った血がひいてゆくのを感じた。

 バドは、魔女としてのヴェンダに、冒険の同行を求めている。

 求められているのは、私自身ではなくて、私の魔法なのね。

 ヴェンダは大きなため息をついた。

「どうかしたのかい?」

 ヴェンダの内心を察し切れていないのだろう。バドが、ヴェンダのため息の訳を聞く。

「なんでもない」

 ヴェンダは頭を振った。

「私ね。魔法を使うことに自信を無くしちゃったの」

 バドは、黙って頷いた。

「多分、いつも通りに魔法は使えると思うわ。でも、魔法を使えても誰の役にもたてないし、小さな命一つ救えないの」

 ヴェンダは、鼻の奥に辛さを覚えた。やがて、目から涙があふれ出すのがわかる。

 あれほど、泣いたのにまだ、涙は出てくるの。

「私には、どうしようもないのよ」

 泣かないって思っていたのに…

 ヴェンダは、泣き出すことが止められなかった。

 バドは、ヴェンダが泣き出してから彼女が泣きやむまでただ、見ているしかできなかった。

 自分は無力。そう痛感する。

 やがて、泣きやんだヴェンダの涙を拭ってやってから、一言、謝った。

 無力なら、無力なりに何か出来なかったのか?

 しばらく、二人の間を沈黙が支配する。

 やがて、口を開いたのは、ヴェンダだった。

「ごめんね」

 小声でそれだけ言う。

 今度はバドが口を開く

「こっちこそ、ごめん」

 また、沈黙の時間。

 今度の沈黙を破ったのはバドの方だった、

 はじめは、押し殺したような忍び笑いだった。

 それは、すぐに大きな笑いになる。

 ヴェンダは、訳が分からずに独り置いてきぼりを食らったような気分になった。

 バドは、ひとしきり笑うとヴェンダに事情を説明してくれた。

「だって、二人とも悪くないのに、二人とも順番に謝ってて、なんか、それがさ。とっても可笑しくてさ」

 バドは、頭を掻く仕草をした。

「こんな事やってたら、また、ニムに笑われちゃうな」

 そうですねと、ヴェンダは軽く肯定して見せた。でも、内心はバドがニムの名前を出したことに少しがっかりしていた。

 輝ける剣士団の師団長オキナ=カルアチーノの娘ニム。ヴェンダより、バドと過ごしている時間の長い娘。

「そうだ。今度、うちの剣士団を見に来るといい。きっと、師匠だって喜んでくれる」

 バドが思いついたように言う。

 誘ってくれるのは嬉しいが、自分なんかが訪ねていったりして、バドの迷惑にならない?

「迷惑だなんてとんでもないよ」

 ヴェンダの疑問にバドはこう答える。

 とても嬉しい返事。

 ヴェンダは、バドの道場を訪ねる事を約束した。


 丁度、バドがヴェンダの元を訪ねた頃。

 ウルは、国境近くの山岳地帯を数羽の仲間とともに飛行していた。

 別に散歩をして居た訳ではない。

 烏達は、「ライニング公国」の裏の支配者である。

 国境付近を縄張りとする烏達から新しい報告が入ったためだ。

 再び、国境を渡ってきた人間の集団があるらしい。

 しかも、前回の連中とは違って彼奴等には、殺気がある。

 尋常ならざる殺気だ。

 大分、距離を置いているにも拘らず、強力な殺気が伝わってくる。

 弱い生き物ならばこの殺気に当たられただけで死ぬ。

 放っておく訳には行かない。

 彼奴等は森を乱しすぎる。

 山地からなだらかに連なる森を見下ろしてウルはそう感じた。

 やがて、ウルは一本の立ち木の上に舞い降りた。

 さて、どうしたものか。

 ウルは、考えあぐねていた。

 彼奴等の殺気は実力からくる自信の現われ。

 よほどの実力の持ち主のようだ。

 烏には荷が勝ち過ぎるか。

 殺気のせいで小動物がすっかり生りを潜めた森を見下ろす。

 眼下では、彼奴等が歩みを進めていた。

 目的地は推測するに人間の王都だろう。

 国王の首でも殺りに行こうというのか。

 人間どもは、なぜに、争いを好む?

 仲間の烏たちが口々に人間を批判していた。

 確かに、烏は烏同士で共存するための社会を作り出した。

 しかし、人間にその社会を当てはめる事は無理な話だろう。

 人間は翼をもたない動物だからだ。

 やがて、彼奴等はウルの視界から消えていく。

 人間の歩みにしては、かなりの強行軍に思えた。

 よほどの目的があるに違いない。

 それならば、それを利用するだけの事。

 人間同士の争いで烏に犠牲が出ることは避けたい。

 特に、今は人間に義理を立てるような人物もいない。

 人間同士の争いだ。人間同士でけりをつけてもらおう。

 ウルの心中に、妙案が浮かびつつあった。

お話自体は完結してます。転載にあたり加筆など行ってますので修正しだい次を掲載します。

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