魔女ヴェンダ
初の投稿になります。今回の作品は個人サイト(Vision of Starseeds)からの転載になります。
花のように
ヴェンダ=バーギは、ライニング公国の宮廷魔女として仕えていた。
この仕事は、彼女が望んで就いた職ではなかったのだが、彼女自身、母親のイゼルダから、よちよち歩きの頃からこの仕事の事を学んでいたし、ほかにこの仕事をうまくこなせる者がいなかったので、ヴェンダは、それが然も当然のことのようにこの仕事を受け入れていた。
だが、彼女は、そつなく仕事をこなしていたし、この国にやってくるどんな魔女達よりも魔術に長けていた。人々は、彼女が、地獄の王と契約を結んでいるので、あれだけの魔力を持っているのだという噂をしあった。
彼女は、しかし、そんな噂は知ってはいても気にしないようにしていた。いろいろな憶測をさせておくのも魔女の仕事のひとつよと、イゼルダに言い含められていたのだ。
魔女に対する憶測や、ゴシップは、一般の人たちの噂話しを抑制することになる。例えば、どこそこの婦人が、淫らな目的のために魔女に媚薬を注文したというような、危険な憶測をさせない役目もあるのだった。
だが、彼女は魔女である以前に、女の子でもあった。いつの頃からか、ヴェンダは、自分に対する不快な噂を耳にするたびに、悲しそうな目をするようになっていた。
もともと、魔女という職業柄、あまり友達を持とうとしなかったせいもあるが、彼女には、本当の意味での友人と呼べる人がいなかったのだ。その上に、いろいろなゴシップで周りを固められたのでは、出来る友人もできなくなってしまう。
そんな、悩みゆえに、彼女は悲しげな目をしていた。
彼女の、華奢で端麗な容姿は、十分に垢抜けてみえていたので、悲しそうな目をするようになってから、その表情は彼女のカラーとなり、十六になる頃には、悲しげな目で微笑むのが癖になっていたし、その微笑みは国民の誰もが彼女のトレードマークとして受け入れるようになっていた。
あの、出来事と出会いがあるまでは、誰も、彼女の本質を見抜けなかったのだろう。
それの発端は、ある夏の夕暮れのことだった。
ヴェンダは、王城のある首都の[ヘニングリート]へ買い物へ出ていた。
最近、急に需要が増え始めた魔法の傷薬のストックを作るためだ。
大抵のものは、南東に広がる闇烏の森へ行かなければ手に入らないが、町の中で手に入れられる魔法の触媒も中にはある。
この触媒のほとんどは、冒険者がたび重なる冒険の副産物として持ち替えるものがほとんどだが、最近は、質も数も徐々に落ち始めていた。使えないというほどでもないが、一頃に比べたら、雲泥の差があった。
とりあえず彼女は、グリズリーの左手と、数種の薬草を仕入れた。
あとは、闇烏の森の中にあるものをそろえるだけだが、前に余分に取ってきてあったので、それを使うことにする。多分、間に合うだけの量は残っていたはずだ。
ヴェンダは、荷物を丁寧にしまい込んだ肩掛けカバンを下げると、自室のある王城へ向かって歩き出そうとした。
その時、ふと、視界の中に町を行く二人連れが目にとまった。
普段なら、単なるアベックかと流したところであったのだが、今日の彼女はどこかが違っていたのか。
女は、小柄なヴェンダと同じくらいの年格好の娘で、男は、腰に立派な剣を帯びているので剣士と思われる。
ヴェンダは、頭の中から、二人の素姓を引っ張り出そうと、頭を働かせてみた。
女の子は、確か、ニム=カルアチーノと言ったっけ。
何回か前の剣王大会の優勝者の孫だったはずだ。確か、輝ける剣士団という名の剣道場をやっていた。
一方の男性のほうは、誰だったかな。
ニムと一緒に歩いている剣士だから、輝ける剣士団の団員であろう。見覚えがあるのだが、思い出せない。頬に小さな傷のある男。以外と整った顔立ち。大柄な体つき。
さて、どなたかしら。
やがて、ニムと男は、ヴェンダの前までやってきた。
「こんにちは、魔女さん」
ヴェンダに気づいたニムが、微笑みとともに言った。
「今日は、お買物ですか」
ヴェンダは、いつもの微笑みを浮かべると言った。
「その通りです。ミス・カルアチーノさん」
「お久しぶりですね」
ここではじめて、男の方が口を開いた。まるで、ヴェンダを知っているかのような口調で。
「えっと、どなたでしたか」
ヴェンダは、業と困ったような表情をつくると畏まった口調で言った。
「知り合いに、あなたのような剣士様はいらっしゃらなかったはずですが」
男は、一度、詰まると顔を赤く染めながら慌てて自らの名を語った。
「失礼しました。僕の名は、バド。バド=アルターナス。今は、輝ける剣士団のトレーニングリーダをやっています。小さな頃に何度か会ったことがあるのでてっきり、覚えていらっしゃったかと思ってたのですが・・・・・・」
「あっ」
今度は、ヴェンダが顔を染める番だった。
思い出した。
かなり小さな頃の記憶だ。確か、ヴェンダの父親の友人の子として紹介されたような気がする。
「ごめんなさい。忘れてました」
ヴェンダは、口許に手を当てて、あまり他人に見せたことのない表情をつくっている自分に気がついた。
どうしてこんな顔ができたんだろう。
ヴェンダの冷めた部分がそう問いかけてきたとき、傍らから押さえたクスクス笑いが聞こえた。
「ニム?」
バドがいぶかしんでニムに向き直った。
ヴェンダも首を巡らせてニムを見る。既に、表情は、悲しげな色を帯びている。
よほどおかしかったのだろう。ニムは、忍び笑いを懸命に押さえながら言った。
「だって、まるで漫画なんですもの。あなた方のやりとりが」
バドは呆れ顔で肩をすくめた。
「ごめんなさい。あたしって笑いだすと止まらないものだから」
ニムは、笑いすぎて目に滲んだ涙を指で拭きながら言った。まだ、完全に笑い止んでいない。
ヴェンダは、口許に儀礼的な微かな笑みを浮かべると重い口を開いた。
「私、そろそろ失礼しますわ」
「あ、もう行かれるのですか」
バドが残念そうに言う。
「ええ。そろそろ帰って魔術時間の準備を始めないと・・・・・・」
「じゃあ、ミス・魔女。お願いしてた傷薬が出来上がったら知らせてくださいね」
ニムは、急に真顔になるとヴェンダに向かって言った。
「ニム、その呼び方は失礼じゃないか」
バドが、ニムを諫める声が聞こえてきたがヴェンダは、肩越しに微笑みを覗かせると王城のほうへ向かった。
王城は、ずっしりとした造りの立派な建物であったが、元来、ライニング公国は農業立国であったためにその性格を繁栄して、堀や、高い塀などのない外に開かれた造りとなっていた。建物自体も低く造られていて一国の城というより、裕福な地方領主の館と言った趣があった。
しかし、政を司る機能の全てを有した立派な城である。
この城の中で、唯一ヴェンダの部屋に限って正門を通らずに出入りできるようになっていた。例外中の例外的なことだ。近隣のどの国もこのような構造の城をもっている国はない。
それは、このような構造が、城の弱点となりうるからだ。
しかし、これは、建国当時に立ち会った宮廷魔女が、王に使える代償として承諾させたことである。宮廷魔女の魔力は、国王が一人占めするべきではない。本来、宮廷魔女は国民に開かれた立場にあるべきだと。
そう唱えた彼女は、建国に対して大きく貢献し、国王との約束から、この王国の中で、自由に魔術をふるう事を許されたという。
それが、ヴェンダ=バーギの祖母にあたるカテリナ=バーギだった。
それ以来、こうして三代続けて、宮廷魔女として仕えている。
そして、人々が気軽に魔女の元を訪れては少々の代償と引換に大きな問題を解決してもらって行く。
ヴェンダの部屋がこういった構造になっているのは、町の人々が気軽にやってこれるための工夫なのだ。
まるで、お医者さんだわ。
ヴェンダは、時々自分の仕事をこう言い表す。
何も、医者を蔑んでいるのではない。
魔術も使わずに、いろいろな病や傷を治して行く医者という職業の人たちには、敬意を払っていたし、特別嫌いだという訳でもない。
ただ、同じようなことをやっているのがやるせないのだ。
魔女には、もっと魔女らしい仕事があるはずじゃないの?
それが、ヴェンダの心の中にある大きな疑問であった。
だが、ヴェンダも心の中をもっと別なことが支配しようとしていた。
まだまだ小さな火種であったが、それは、ゆっくりと且つ着実に大きくなりつつある。 しかし、ヴェンダはまだそのことには気づいていなかったようだが。
やがて、ヴェンダは、王城へたどり着く。今のところ、今夜に行なう魔術の準備のことで頭が一杯だった。
ヴェンダの部屋へは、小さな勝手口から入ることができる。ここには、必ずヴェンダの使い魔がいて、不審な訪問者がいないかチェックするようになっていた。これは、ヴェンダ自身の自衛の手段でもあったのだが、国王と交わした約束ごとでもあった。
ヴェンダは、書き置きなどを投げ込んでもらうように設置した受け箱を覗いて中にいるはずの使い魔に声をかけた。
使い魔は機嫌よさそうな鳴き声を発ててヴェンダの肩に飛び乗ってくる。
彼は、甘えた声を発てながらヴェンダの頬に擦り寄った。
ヴェンダは、留守中に書き置きがなかったかを受け箱を覗いて確認すると、使い魔を肩に乗せたまま部屋の鍵を開けた。
使い魔は、ヴェンダの狭くて細い肩の上を器用に移動すると再び受け箱の中に戻る。それがこの魔の役目なのだ。使い魔にとって一度受けた命令は、解除されるか、契約が切れるまで絶対の法則となる。この使い魔には戸口の見張りを命じてあった。
扉を開けようとしたとき、ヴェンダは、数枚の紙切れが扉の隙間に差し込まれていることに気づいた。
これじゃ、何のための使い魔だか解らないわ。
ため息をつきながら、今度は、命令をもう少し複雑に変えておこうかしらと思いを巡らす。
ヴェンダは、戸を開けてから散らばった書き置きを拾い集めた。
伝言のほとんどは、魔法薬の注文と呪詛の取り除きを依頼したものだったが、一通だけ、見たことのない奇麗な文字の並んだ書き置きがあった。
小綺麗な封筒に簡潔な内容の手紙。紙自体も上質で、あまり出回っているようなものではない。
しかも、その内容がかつて無い内容だった。
『お話がしたいです。・・・・・・』
たったそれだけの内容だった。
差出人は、リズと書かれていたが、これだけでは何の手がかりもないも同然だった。
ヴェンダは、ちょっと考えると、ある呪文を口にした。
確かに、こんなときに役に立ってくれそうな魔法だ。
やがて、その書き置きの紙切れの周りに場が構成されてそこに白くぼんやりとした人影が浮かぶ。
紙の心に、送り主を描いてもらったのだ。具体的には、紙に残った残留思念を映像にしたものだ。
書いてからしばらく経つらしく、映像はぼんやりとしていたが、伝言の主が金髪で背は低く、やはり女であることが解った。
ヴェンダは、今晩の儀式の準備をしながら謎の伝言主のことについて思いを巡らせていた。
知っている人の中に、リズと名乗る金髪の女性はいない。金髪でなければ、リズという名の女性は幾人か知っていたが、全員、あんな中途半端な書き置きの置き方はしない。使い魔に直接預けてしまうはずだ。
では、いったい誰が置いていった書き置きだろうか。
やがて、ヴェンダは、今そのような詮索をしても時間の無駄だと思い、魔術の準備に専念することにした。
そして、夜が更けて行き、人々がベッドへ入って安らかな夢を見る頃になって初めてヴェンダの夕食の時間がやってくる。
既に、魔術の準備はほぼ完成して、あとは儀式に入るだけになっている。
ヴェンダは、城の料理長がいつも分けてくれる夕食をダイニングのテーブルへ運んできた。メニューは毎日ほとんど変わらない。具の少ないスープに数枚のベーコン、それになぜか、極上のパン。これが、ヴェンダの夕食の献立だった。
スープは、時間を見て火にかけていたので食べられるぐらいに温まってはいるが、ほかの料理は既にできたてには程遠い。
しかし、ヴェンダは構わず食べ始めようとした。そこで初めて、彼女はいつもよりパンが多く積まれていることに気づいた。
不思議に思って数を数え直してみるが、いつも二つだけにしてもらっているパンが、今日に限って三つあった。
きっと、料理長が気を利かせて追加してくれたのだろうが、ヴェンダはこんなに食べ切ることができない。
ヴェンダは、気を利かせてくれた料理長に対して感謝すると同時に、ちょっと悲しい気持ちになった。いくら、量を増やしてくれたところで、ヴェンダはいつも以上の量は食べられないので、残してしまうことになるからだ。
これでは、せっかくの好意を無にしてしまう。
そこで、苦肉の策。ヴェンダは使い魔たちにパンを分けてやることにした。
貪欲で、食欲旺盛な彼らのことだ。きっとパンだって食べるに違いない。
それに、自分が食べたことにすれば、相手に不要な不快感を与えずに済む。
腐らせてしまうよりは、よっぽどいい。
ヴェンダは決断するとすぐに手の空いている使い魔たちを呼び出した。
すぐに三匹ほどの使い魔がやってきた。
彼らは、自分たちを呼び出したうら若き主人の前に集まると何の用だとばかりに鳴きたてた。
「静かになさい。みんなの迷惑でしょ」
ヴェンダは静かな声でそう言った。
すると、散々騒いでいた魔達は、すぐにおとなしくなってしまった。
「みんな、一生懸命やってくれるからね。今日はご褒美よ」
ヴェンダは、使い魔達にパンを端から千切って与えた。
そして、すぐに、パンの中に何か異物が詰め込まれていることに気付く。
何だろう?
ヴェンダはパンの中からその異物を引き出した。
それは、固く丸められた紙だ。手紙だろうか。
随分手の混んだことをする。いったい誰からの手紙だろう。
ヴェンダは、使い魔達にパンをやり終えてから手紙を開いた。
手紙の主は、リズという女の人からだった。どうやら、書き置きの主と同一人物らしい。同じサインが施してある。
読んでみると内容は他愛無いものだったが、ヴェンダにとって十分面食らうことができる内容だった。
前略。ヴェンダおねえさま。
この様な形でお手紙差し上げることを許してください。だって、どうしてもお話がしたかったんです。
私は、ある事情のためにおおっぴらにおねえさまの元へ会いに行くことが出来ないのです。
そこで、明日の日の出前に城の中央庭園にある噴水の前でお待ちいただけませんか。
見張りの兵達には手を回しておきます。
おねえさま、どうか来てください。
リズは、おねえさまが来てくれるまで一睡もしないで待つつもりです。
ヴェンダは、冷め切ったスープの前で片肘をつきながら呆れていた。
実際、呆れたのは手紙の内容ではない。
自分の愚かさだ。手紙の内容から気付いたのだ。
リズはいた。しかも身近なところに。
ライニング公国の王ユノ=ライニング=クレアストーンは、正妃ナルタ=フィルホーンとの間に王子と王女を一人づつもうけていた。
王子の名は、ラーナス=クレアストーンと言った。
そして、王女は、リスティ=クレアストーンという。
さらに、彼女は自分のことを”リズ”という愛称で呼んでいた。
そうだった。王女のリスティもリズだったっけ。
盲点だった。
たっぷり時間を費やしてヴェンダは面を上げると、ようやく食事に手をつけ始めた。
スープはすっかり冷めてしまい、極上だったパンも固くなってしまっていた。
ヴェンダはパンを千切りながらどう対処すべきか考えていた。
リスティ王女は、無垢な性格の持ち主だ。しかも、向こう見ずなところまである。それゆえに、一度思い込んだら猪突盲進する傾向があった。
しかも手紙には、『リズは、おねえさまが来てくれるまで一睡もしないで待つつもりです』と書かれている。
「困ったわ」
他人に好かれることは、悪い気はしないが、他人とつき合うことをあまりしていないヴェンダは、好意を寄せられることが苦手だった。嫌悪や妬み、嫉妬だったら噂話しと同じように放っておけば良かったのだが。
放って置いたのでは、王女がかわいそうだ。それに、自分が原因で人を悲しませるのも好きではない。
やがて、食事を終えたヴェンダは、結論が出ないままに、いつもより遅い、魔法の儀式を始めた。
そして、大鍋より取り出された丸薬は、今日のヴェンダの心を反映してか、あまり良い出来の品がなかった。
でも、魔法薬としての能力がないわけではない。
ヴェンダは、極端な失敗作を除くと丸薬をストック用の小瓶へしまった。
やがて、その頃になると、夜明けを告げるモーニングスターの姿が東の空に現れ始めた。 東の窓からのぞくモーニングスターの輝きを見る頃になって、やっと、ヴェンダはリズに会いに行ってみようという結論を出すことができた。
会うだけなら、そんなに気取ることもないはずだ。それに、王女とは週に一度程度は顔を合わせていた。話すことはしなかったが、あいさつ程度なら交わしている。
「そう。そんなに気取ることもないはずよね」
ヴェンダはそう声に出すと立ち上がった。昨晩は一睡もしていないが、今のところ体力的には問題はないと思う。リズと会ったらすぐに帰ってきてベッドへ入ればいい。
ヴェンダは、使い魔を呼び出し、留守を任せると部屋を忍び出た。
王城のほぼ中心に位置する場所に噴水のある中庭が設けられていた。
華花の咲き乱れる、小さいが本格的な庭園である。
ヴェンダが、この庭園にやってきた時にはようやく、東の空が白み始めた頃だった。
モーニングスターは、徐々にその輝きを落としつつある。
ヴェンダが、噴水の元までやってくると、噴水の池から水の固まりが顔を覗かせた。
水の精霊族ウンディーネの「エルグペルグ」である。いつも定期的に新しい水を供給することを条件に、噴水を起こしてくれるように契約している。
「おはよう。ご苦労さま」
ヴェンダがそう声をかけると、エルグペルグは、ヴェンダの前に、水を触手のように伸ばしてきた。
ヴェンダは、握手するような気軽さでその水に触れた。
水を通して、エルグペルグの意識が流れ込んでくる。
{おはよう。ヴェンダ。今日はずいぶんと早い}
「ええ。ちょっと待ち合わせなの。ところで、リスティ王女はいらっしゃらなかったかしら」
{いいえ、今日はまだ見ていない}
「そう。じゃ、そこで待たせてもらうわね」
ヴェンダは、そう言って池のほとりの張り出しへ腰を落ち着けた。
ウンディーネはヴェンダが池のほとりに腰を下ろしたのを見て、噴水の水の勢いを落とした。跳ねていた水が、ほとんど跳ねなくなる。
「ありがと」
ヴェンダは、小声でいうと右手を水の中に浸けた。いつの間にか、表情にあの微笑みがやどっている。
{どうした。元気がないようだが}
「大丈夫。ちょっと気が重いだけ」
エルグペルグは、ちょっと考えるように間をおくと続けた。
{悩みというやつか}
「ううん。違うと思う」
ヴェンダは空を見上げながら言った。空は、白くなっていて所々に雲が認められた。既に、星々の姿はない。
「それにね、ちょっと寝不足だし」
{なら、いいが}
エルグペルグはそれきり黙ってしまった。
でもね。
ヴェンダは、独り、心の中で言葉を紡いだ。
何か、今日は変なの。誰かが心の中に居るみたいで。
得体の知れない不安のような、わだかまりが彼女の胸にあった。
これから、王女に会うので緊張しているのかしら。
そこまで思考を巡らせたときだった。どこからともなく声をかけられた。
「?」
ヴェンダは、周囲を見回してみたが、それらしい人影はなかった。
再び、声をかけられた。今度は、はっきりと聞き取れた。
“おねえさま”と呼ばれたらしい。
ヴェンダは、立ち上がると声のしたほうを振り仰いでみた。
中央庭園を見下ろす二階のバルコニーに人影が見えた。金髪で、小柄な人影だ。
「ああ、良かった。来てくださったんですね。私、おねえさまが来て下さらないのではと思って心配してたのですの」
バルコニーに居る人影は、やはり、リズだったらしい。
「王女様。いったい私に何のご用ですか。それも、手の込んだ呼び出しかたをして」
「私、おねえさまとお付き合いをしたいんです。それに、今ここに居る私は王女ではなく、リズという名の一少女です」
ヴェンダは、開いた口がふさがらなかった。
「私、おねえさまにずうっと憧れてましたの。その人目を引く華奢で端麗な容姿、国民の全てから信頼されていて、どんな魔法使いよりも強力な魔術を操る。これだけ、すばらしい人が他に居ましょうか」
王女、いや、リズはそこまで一気に言い終えると、ヴェンダを見下ろした。
「おねえさまのような人になりたいんです。私」
リズのヴェンダに対する思いは、既に好意というより、信仰に近いようだ。
ヴェンダは、どのような返事を返せば、少女を傷つけないで済むかを思案してから、やっとの思いで、口を開いた。
「では、王女様。いえ、リズ。私の噂はご存じ?」
「え、噂ですか」
リズは、一瞬つまると、背後に向かって小声で声をかけた。そして、小声でやり取りをおこなっている。ヴェンダの居る位置からでは、内容を聞き取ることができないが、どうやら、背後に侍女でも待たせてあって、相談しているのであろう。
侍女にとっては迷惑な話だ。
ヴェンダは、待たされているであろう侍女をかわいそうに思い、上昇の呪文を口にすると、大地を蹴った。
みるみる内に、彼女は上昇して、バルコニーの手摺に捕まるとそれに腰かけた。
ヴェンダの穿くロングスカートがフワリとなびいた。同じタイミングで、朝日が顔を覗かせる。ヴェンダのどことなく悲しげな表情が、日の光に照らし出された。
「あっ」「おねえさま!」
案の定、リズは、一緒にいた侍女から、ヴェンダの噂話を聞き出そうとしているところだった。
「いいのよ」
ヴェンダは、リズの陰に縮こまっている侍女に声をかけた。
「それよりも、リズ。あなた、今の自分はただの少女だと言ったわね」
リズの返答を待たずに、ヴェンダは言葉を続けた。
「じゃあ、なぜ、侍女を連れているの」
「それは・・・・・・」リズは、返答に困って今にも泣き出しそうな顔になった。
「普通の女の子なら、侍女なんて連れて歩かないものよ」
「ヴェンダ様。おやめ下さい。姫様がかわいそうです」
侍女が、割って入ってきたが、ヴェンダは構わず続けた。
「もっと、世間を勉強すべきね。私に好意を寄せてくれるのは嬉しいんだけど、相手を知らないでいたのでは、いつ裏切られるか解らないのよ」
ヴェンダは、手摺から飛び降りると、ゆっくりとした足取りでリズの元へ歩み寄った。
リズは、泣き崩れて、両手で顔を覆っている。自分が心の底から慕っている人に、自分の行動を否定されては、ショックだったのだろう。
ヴェンダは、ちょっと言い過ぎたかなと心の中で反省すると、前へ膝をついた。
そして、右手をそっと差し出すと、精一杯優しい声で言う。
「お姫様」
ヴェンダの声が一転したことに驚いたリスティは、恐る恐る顔をあげた。
リスティの、涙で半分曇った瞳に、優しげな表情を浮かべたヴェンダの顔が映る。
「お姫様は、綺麗になれる可能性を秘めてらっしゃいます。無理して、私の後を追いかける真似をするより、その可能性を引き延ばして行くことで、私より綺麗になることができますよ」
そう言ったヴェンダの顔には、いつもの表情はかけらもなかった。
リスティは、そのヴェンダのいつもより幼く見える表情に一瞬ドキリとした。
すぐに、赤面を始めるのを感じる。
おねえさまって、以外と可愛い。
リスティは、すぐに、赤面した頬を覆った。そして、頬が先ほどの涙で濡れていることに気付き、慌てて拭い始める。
「姫様。これを」
侍女が、すかさずハンカチを差し出した。
リスティは、ハンカチを受け取り、丁寧に涙を拭うとヴェンダの元へ向き直った。
そして、お嬢さま然とした態度ををつくり直してから、静かに尋ねた。
「おねえさま。さっき話されていた事は、本当なのですか」
ヴェンダは、わざと大きく、顎を引いて肯定した。
「じゃあ、一つ教えて下さい。私の可能性って何なのでしょう?」
ヴェンダは、その問いに対しては、しばらく間を置いてから答えた。
「それは・・・・・・それは、自分で見つけなくては意味がありません」
ヴェンダのその答えに、リスティは、大きく肩を落とすのだった。
「ヴェンダ様。せめて、姫様に手がかりだけでもお教えいただけませんか」
リスティの肩に手を添えながら、侍女がヴェンダに向かって言った。
優しい娘。
ヴェンダはそう思った。こんな常識外れの時間からつき合っている上に、まるで、自分の身のことのように主人を心配している。
「貴方、お名前は?」
ヴェンダは、侍女に聞いた。
「私で、ございますか?」
侍女は、とんでもないといった風に首を振った。
「何も、取って食おうというわけじゃないわ。私は、貴方が気に入っただけ」
ヴェンダがそう言うと、今度はリスティが明らかに不服そうな表情になった。
お姫様は、見かけによらず、焼き餅焼きなんだ。
ヴェンダは、リスティのそんな子供じみたところに好感を抱いた。
その一方、侍女は迷っていた。姫様から、彼女のヴェンダに対する気持ちを知らされていた
ので、その姫様を差し置いて、自分がヴェンダに気に入られてしまったのでは、姫様に対して申しわけがない。
それに、ヴェンダの噂を侍女は知っていた。どうやら、ヴェンダは魔力と、美しさを保つために地獄の王と契約を結んでおり、数年に一度、満月の晩に生娘の名を一人づつ地獄へ報告しなければならないそうだ。そして、報告された娘にはその次の新月の夜に、地獄から迎えの馬車がやってくるという。地獄の王の妾にするために。
『ライニング公国』の仕来たりの中に、王女の世話は、処女の娘がおこなうというしきたりがあり、彼女もその例外ではなかった。彼女は、純血を守っていたからだ。
だから、侍女は、その噂におびえた。
でも、姫様の手前、今、ヴェンダに逆らうのはためらわれた。
その葛藤が迷いとなって現れていた。
侍女は、自分で結論付けができずに、主人の指示を仰ごうとした。
だが、彼女の主人は、ふくれっ面でそっぽを向いている。
結局、結論は、自分で出さねばならぬようだ。
侍女は、さらに迷いの淵へ落ち込んで行き、モジモジとしてはっきりとしない態度をとっていた。
ヴェンダは、侍女の態度を見て彼女は私の噂を気にしてると悟った。
これ以上は彼女を苦しめるだけだと思ったヴェンダは、話題を変えることにした。
「言いたくないならいいわ。・・・・・・・・・では、お姫様」
ヴェンダは、リスティのほうへ向き直った。
「私の見つけた貴方の可能性のヒントを差し上げます」
リスティの目がパッと輝いた。面を上げ、ヴェンダのほうへ身を乗り出してくる。一音も聞き逃すまいといった風に。
ヴェンダは、心の中で小さく噴き出すと続けた。
「私が見つけた貴方の可能性は、万物の象徴に例えるとすれば、水ね」
「水?」
リスティが怪訝そうな表情で聞き返した。もともと幼い顔立ちが、余計、幼さを強調される。
「そう、水。厳密にいえば、水の一面かしら」
「どういう意味ですか」
リスティが口を尖らせながら聞いた。
「自分で考えなさい」
ヴェンダは、にべもなくそう言い放った。
また、リスティは剥れてしまった。その隣では、感情の起伏の激しい主人をどうやって宥めればいいのといった風に、侍女が困り顔でこちらを見ている。
ヴェンダは、大きく溜め息をつくと、やれやれといった風に口を開いた。
「お姫様。あまり使用人を困らせるものじゃないわ」
「だって、おねえさまって意地悪なんですもの」
リスティはそれだけ言うと、そっぽを向いてしまった。
ヴェンダは、呆れた。これでは、子供っぽさどころか、まるで子供だ。ただ、それが、彼女の可能性なのだが。水のように透き通った純粋な心。そんな心のまま人間的に成長することができれば、彼女は、ヴェンダが足もとにも及ばないほど美しい魅力を持った王妃となることができるだろう。
しかし、リスティにその片鱗があれども、精神的な成長がなければ、その美は、花開くことはないだろうが。
ヴェンダは、溜め息をつきつつ、腰に両手を当ててポーズをつくると、切り出した。
「困ったお姫様。じゃあ、これが最後のヒントよ。後は自分で考えるって約束できる?」 リスティは、少々思案したようだが、やがて、ゆっくりと頷いた。
ヴェンダは、それを確認してから続けた。
「そうね。・・・・・・あとで、飛び切り天気のいい日を選んで中央庭園の噴水をずうっと見ててご覧なさい。ただ、遠くからじゃだめ。すごく近いところ。水面を覗き込めるぐらい近くでね。多分、水の美しさが解ると思うわ」
「解りましたわ。今日にでもやってみます」
リスティは、喜々として言った。
疑うって言葉を知らないのね。
ヴェンダは、少し羨ましく思った。でも、王族である以上、行く行くは国の政に手を染めて行くことになるのだ。そうなれば、疑うということを知らない人は、それが弱点となりうる。所詮、外交や権力闘争は、どれだけ相手を出し抜けるかということ。リスティのような白い心の持ち主は、純粋なまま生き残ることは難しいだろう。
ヴェンダが、そんな考えを巡らせていると、今度は、リスティが声をかけてきた。
「ところで、おねえさま。リズとお付き合いして頂くお話の、お返事を頂きたいのですが・・・・・・」
「え?」
「時々会って、一緒にお茶を飲んだり、お話をしていただく程度でいいです」
リスティは、速足でヴェンダの目の前に歩み寄ってきた。そして、あれよあれよという間にヴェンダの両手を握りしめて、胸元にもってきた。
そして、ヴェンダの瞳をじっと見つめる。その瞳は、いつに無く真剣で、ヴェンダが、たじろぐほど迫力に満ちている。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
ヴェンダは、慌ててリスティを振り解いた。彼女の真剣そのものの瞳に背筋がうそ寒くなるような悪寒を感じたからだ。
「おねえさまはリズが嫌いなのですか・・・・・・!」
「そういう意味ではないのよ」
ヴェンダは、にじり寄ってくるリスティを懸命に押し留めながら言った。
そして、この事態から逃げ出すために懸命に頭を働かせようとする。
だが、寝不足が今になって出始めたのか、あまり良い答えが浮かばない。
「では、どういう意味なんです?」
「私はね、忙しい仕事を持っているの。だから、私と付き合うと言っても寂しい思いをさせるだけだし。それに、お姫様がやりたがっていることは、本当は好きな人とやるべきことよ」
「寂しいのは我慢します。それに、リズは・・・・・・リズは、おねえさまが好きなんです!」
リスティの気迫に押されてヴェンダは、さらに一歩下がろうとした。しかし、背中が壁に接してしまう。どうやら、悶着をやっている間に、バルコニーの内側に追い込まれてしまったらしい。
万事休す。既に、逃げ場はなくなった。
どうしよう・・・・・・・・・・・・。
ヴェンダは、不安に駆られた。知り合いならば良かった。友人をつくることに酷く脅えを感じていた。しかも、相手は王女様で、ヴェンダに尋常ではない熱を上げている。
これで不安を感じずにいられようか。
ヴェンダは、どうして良いのか解らずにリスティと向き合ったまま思考を働かせようと躍起になっていた。
その時、ふと、ヴェンダの肩に手が置かれた。
「?」
ヴェンダは振り返ってみた。そして、同時に驚きのあまり茫然となる。
リスティも同様の反応を示した。侍女に至っては、唖然とした後に慌てて平伏した。
そして、ようやくのことでヴェンダが、言葉を口にした。
「王妃様・・・・・・」
突然の来訪者は、ライニング公国の正妃であるナルタ=フィルホーン妃であったのだ。
ナルタは、ゆったりとした夜着のままでこの部屋に来られていた。
「畏まらなくても良いわ」
ナルタは、侍女とヴェンダに向かって言った。そして、バルコニーの中程まで歩みを進めた。
「ナルタ様。いつからいらっしゃったのですか」
ヴェンダがこれ幸いと、リスティの元を逃げ出してきた。
「貴方が、リスティを叱咤してた頃かしら」
ナルタは、さらりとした表情で言った。
「相変わらずね。人間嫌いが直ってない」
「人間嫌い、私がですか?」
ヴェンダは思いもしなかった指摘を受けてキョトンとした表情で聞き返した。
「そう。人間嫌い。その様子では、好きな男の子の一人もまだいないんでしょう?」
ナルタの台詞で、ヴェンダの脳裏にふと、昨日会った輝ける剣士団の二人のことが去来した。
ナルタは、ヴェンダが、ぼっとしたまま返事を返さないので、彼女の胸元につき刺すように人差し指を立てた。慌てて、ヴェンダが顔を上げる。
「もっと他人を知りなさい。自分以外の人間も、満更捨てたものでもないわよ」
ヴェンダにウインクをしつつ、ナルタはそういい捨てると、今度は、リスティのほうへ顔を向けた。
「さて、リスティ。覚悟はできているわね」
リスティは、ゴクリと喉を鳴らすと、そそくさとヴェンダの陰に逃げ込んだ。
まるで、悪戯を叱られる子猫のようだ。じっと、頭を低くして、ヴェンダの陰から母親の顔色を伺っている。
「まず、何で怒られるのか言ってみなさい」
ナルタは、低い有無を言わせぬ口調で言った。
リスティは、小声で何か呟くがほとんど聞き取れない。
「聞こえない。もっと大きな声で言いなさい」
「リズの我儘から、おねえさまにご迷惑をおかけしたこと」
リスティは一転して、少し大きめの声でそう言った。
「それだけ?」
ナルタが聞き返す。
リスティは自信なさそうに頷いた。
「侍女のワーニャに迷惑をかけたことは?」
ナルタは、ちらりと侍女のほうへ目をやった。
侍女が、慌てて割って入ってくる。彼女にしてみれば、自分の仕事をこなしているだけなのだろう。それが、引き合いに出されてしまったのだ。
それを、ナルタはやんわりと制して、リスティに返事を催促した。
リスティは、ややあって答える。
「・・・・・・・・・・・・はい。かけました」
「宜しい」
ナルタは、畏まった態度をとると言った。
「では、反省を促すために、罰を与えます」そして、ちらりとヴェンダに視線を投げると「あした一日、貴方はヴェンダのところで、魔法の初歩を学ぶのです」
「ええっ・・・・・・!」
同時に二人から驚きの声が上がった。
「ナルタ様!」
ヴェンダがすかさず詰め寄った。しかし、ナルタは毅然とした態度でいった。
「貴方にも責任があるのよ、ヴェンダ。元はと言えば、貴方の人嫌いからリスティは悲しい思いをしたし、問題も拗れかかった。その責任をリスティに勉強を教えることで逃れられるのですもの。感謝されることはあっても、非難される覚えはないわよ」
「でも・・・・・・」
「でもじゃないの」
ナルタは、一転して優しい表情をつくった。右手で、ヴェンダの頬に触れる。
「私は、少しでも貴方に他人を好きになってもらいたいのよ」
ヴェンダは、悲しそうな困り顔をつくった。ナルタの冷たい指先を通して、頬に彼女の優しさが流れ込んでくる様な妙な錯覚にとらわれたからだ。
「ほら。すぐそんな顔をする。笑った笑った。美人が台無しでしょう」
ナルタが、注意を促す。
ヴェンダは、気押されてぎこちない愛想笑いを浮かべた。
意識して微笑むことがこれほど難しいことだとは思わなかった。
ヴェンダが、そんな感想をもったとき、ナルタがリスティを叱咤する声が聞こえた。
「何、貴方は喜んでいるのですか」
どうやら、リスティはヴェンダに勉強を教わることが嬉しくってたまらないらしい。
信仰と言えるほど慕っていたのだからこの反応も当然だろうが。
「罰を与えられているですから、もっとそれらしくなさい」
ナルタの口調は、その言葉の意味とは裏腹に優しく諭すようだ。
リスティは、素直に返事をするが、どうしても自然に目尻が下がってしまう。やがて、どうしようもなくなり、両の手で頬を覆うとそっぽを向いてしまった。
そんな、リスティの仕種はその場の笑いを誘った。
ヴェンダにとって、ナルタは不思議な存在だった。
王妃でありながら、そんな気配を微塵も感じさせず、ただ、それでいて気品だけは失うことがない。ただ、その場にいるだけで場の雰囲気が和む。
しかも、母親のイゼルダの友人であったこともあり、ヴェンダは、ナルタに対しては、どうしても強硬な態度をとることができない。頭が上がらないのだ。
かえってそれが、ヴェンダを人となりの良い方向へ向かせることになっていたのだが、ヴェンダ自信はそのことに気づいてはいない。
ただ、いろんな感情を自分にさらすナルタを、苦手に感じていた事は確かだ。
やはり、人との付き合いが少ないせいなのだろうか。
ヴェンダの冷めた部分が、そんな風に考えを巡らせたとき、お開きにしましょうとナルタが手を打った。
気がつけば、ヴェンダは足もとがふらついていた。思ったより疲労の色が濃い。
既に、日は昇り始めていて、城の不寝番が最後の巡回を始めたころだった。
個人サイトからの転載になります。