表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

怪奇な五人の愉快な証言

作者: スペアキー

月が不思議と大きく青く見える夜、五人の人間が署に連行された。

一人の刑事はあくび混じりに聴取へ向かった。


怪奇な五人の愉快な証言




ひとりめ 如月小夜子18歳 職業 女子高生(自称)


「私昔からよく我慢しちゃうんですよ」

少女は興奮気味に口を開いた。


  夢の中で


如月小夜子はとてつもなく我慢強い少女であった。だから悪口とか暴力とか陰謀とかそういうものを自分に向けられても自分が我慢すればいいだけのことだと思い、ごくりごくりと飲み込んだ。


悪く言うと行動力がなかった。


少女は作り笑いのその奥で苛立ちや悲しみを心の中にしまいこんでいたのだが、18歳の誕生日の日に事件は起きた。

学校一のいじめっ子が少女の好きな人とキスしているところを見てしまったのである。

いじめっ子はきっと自分があの人のことを好きだと知ってわざと自分に見せつけたのだと少女は思い込んだ。

その日から少女は学校にもいかなくなり自分の部屋で妄想にふけった。

もしあの人とデートができたら、あのいじめっ子に仕返しができたら。けれどもそれは所詮妄想だ、現実は非常である

そんな日々の中、少女は夢の中でなら好き勝手になんでもできるということに気がつく。


夢の中ならあの人も私の彼氏だったし、あのいじめっ子は自分の手下だった。

夢の中なら少女は何でも出来たし思い通りの万々歳であった。

夢に飽きたら自分の頬をひっかけば元のベッドの中であった。


少女は今日もベッドに潜り込み、やりたいことを思い浮かべながら目を瞑る。

そして少女は夢の中で目を覚ます。そして自室の窓を開け、夜風を浴びながら外に飛び出す。


今日のやりたいこと一、あの人の身につけてるものをもらう。


少女はパジャマのまま夜の人気のない道を一人走り、慣れた手つきであの人の家に侵入する。なんのことはない

少女は夢の中で何度もあの人の家に忍び込んでいる。このくらいなんのことはない。

が、しかし。その日の夢はなんだか違った。家を出るとき、人に見つかったのである。

急に部屋に明かりが灯って誰かが悲鳴を上げた。少女は急いで家を出た、こんなことは初めてだ。

今日の夢はやけにリアル、と思いながら次の願いを実現しに行く。


その二、いじめっ子を殺す。


ナイフはちゃんと持っている、あいつがいつも行ってる店は知っている。

店に向かうと、いじめっ子は友達と店から出てきたところだった。やっぱり夢の中では思い通りだ。

少女はナイフを持っていじめっ子の前に立つ。するとどうだろう、いつもは私に泣いて謝るはずのいじめっ子が

こちらを睨んで騒ぎ立てている。少女はむっとしてナイフを強く握る。なんのことはない、夢の中なのだから。

そして少女はいじめっ子の腹部にナイフを深く深く刺した、彼女の腹からでる血が鮮明だ。

いじめっ子は地に倒れこみ、その友人たちはきゃあきゃあと騒ぎ出す。目的をすべて達成した少女は満足そうな顔で

自分の頬を引っ掻いた。しかし夢は覚める気配がない。なんどもなんども頬をひっかく。

ダメだ、何か救急車の音とか警察のパトカーのサイレンが回るのが見える。


夢じゃない


そう悟った少女は嬉しくて嬉しくてこう叫んだ


「なんだあやれば出来るじゃん私!」



以上が如月小夜子18歳の供述をまとめたものである。

罪状 保田有の家に不法侵入し下着を盗んだ窃盗罪 宮沢ありかをナイフで刺殺したことによる殺人罪






ふたりめ 徳沢一郎 23歳 職業 サラリーマン


「俺たちは愛し合ってたんですよ」

男は異常なほどすわった目で口を開いた。


ふたりでひとつ


徳沢一郎という男には愛らしい彼女がいた。彼女は白く美しい肌を持っていて黒髪が長く長くて唇は血があふれ出ているように赤く赤く赤かった。男にとって彼女は全てであり、また彼女にとっても男は全てであった。

男と彼女はいつも一緒で男に仕事のない日は片時も離れなかった。男が仕事に行かなければいけないときは互いに身を切られる思いであった。


「彼女はわかってなかったけど俺にはちゃんとわかったんですよ」

男は言った。


彼女と男が出会ったのはちょうど今日のような青い月の上る夜。夜道を歩く彼女に男は一目惚れをした。

男は彼女と親密な関係になりたいと思い、彼女のために色々な事をしてあげた。

例えば夜道に悪い虫がつかないようにエスコートしたり、例えば彼女が一人で怖い思いをしないように電話をかけてあげたり、例えば彼女へのプレゼントポストの中に入れたり。

彼女と男は大変親しい仲となり、互いに愛し合う関係となった。そして男は彼女を家に招待した。

ずっと一緒にずっと一緒にいられるように、彼女が男を愛せるように。

男は彼女に与えられるすべてを与えた。日が当たる部屋、栄養のある食事。そして休みになったら二人で旅行をした。


そんなに愛し合っていても離れなければならない時はやってくる。


仕事に行く時だけは二人一緒にというわけには行かなかった。残業になり、家に帰れない日もあった。

それは何事にも代え難い苦痛であった。休みの日に呼び出されることも度々あった。

男はその苦痛に耐え切れなくなり、彼女にある提案をした。


一緒に死んでくれ


彼女は涙を流して喜び、そして賛成したそうだ。

男と彼女は二人で旅行に行った海で溺死することを決めた。そして、二人の足を固く縛り合いはなれないようにして

海に飛び込んだ。


が、しかし。死んだのは彼女だけで男だけ生き残った、男は孤独に耐え切れなくなり近くの交番に自首した。


男はまた言った

「彼女には悪いことをしました」



以上が徳沢一郎23歳の供述をまとめたものである。


徳沢一郎が自首したのは一昨日、昨日徳沢の自宅を家宅捜索したところ血まみれの手錠、足枷と鉄格子のある部屋が発見された。手錠の血液は水沢初枝24歳のものだとわかった。


罪状 水沢初枝の監禁による監禁罪 無理心中による殺人罪







さんにんめ 三雲美奈代 32歳 職業 薬剤師


「どうにでもなーれーってなりました」

女はひどくやつれた様子で口を開いた


臆病者


三雲美奈絵という女には五年間付き合っている恋人がいる。

彼は俗に言うメンヘラってやつだという事が付き合い始めて一ヶ月で分かった。

彼と出会ったのは北風が体を吹き抜ける季節であった。同じ職場の彼の押しの強いアプローチに押され押されて付き合うことになったのだと記憶しているが、まさかこんなことになるとは思わなかった。


彼は女が男性と仕事をした時、そんな男にうつつを抜かすのかとヒステリック気味に詰め寄ったり

女が構ってくれないと騒ぎ立て精神安定剤を大量に摂取してブッ倒れたり

ずっと一緒にいたいと女の家に勝手に居候して

そして精神崩壊を起こして仕事も辞め女の家に入り浸る日々が続いている。


女は別れたがったのだが別れ話を出すたびに彼はヒステリックになり暴れたり手首を切ったり吐いたりと大変なので

なかなか別れることができず、付き合い始めて五年目に突入してしまったのである。


五年目の北風が体を吹き抜ける季節のある日、女はある決心を胸に家に帰った。

家に帰ると彼が手首を切って待っていた。話を聞くと帰る時間がいつもより一分遅かったらしい。

彼は死んでやる死んでやると喚いている。


女は小さなバックを取り出し、前々から用意していた三つの小さな小瓶を取り出して彼の前に正座した。

そしてことりことりと彼の前に一つずつ置いていった。


右から、青酸カリ、睡眠薬、向精神薬である。


そして女は彼に「右から青酸カリ、睡眠薬、向精神薬です」

と説明した。彼はわけがわからないといった顔で女を見た。


「おすすめは一番右の青酸カリです」


「何でおすすめなんですか」


「死ねます」


女は淡々と答えた。彼は怯えた顔で女から逃げようとした。

女は彼の手をつかみ、言った。


「飲まないのならあたしがあなたを殺します」


彼は追い込まれた表情で三つの小瓶と女をぐるぐると見回した。

ぐるぐるした結果彼は、青酸カリの瓶を避けて向精神薬の瓶に手を伸ばし瓶の中の錠剤を大量に飲み込んだ。

そして泡を吹きながら床に倒れこんだ。

その光景を見ながら女は彼を見下ろし


「臆病者」


と言った。



以上が三雲美奈代 32歳の供述をまとめたものである。


罪状 真田研に向精神薬を大量に摂取させたことによる殺人未遂





よにんめ 神田川零司 45歳 職業 社長


「狂ってしまったら戻れないんですよ」

社長という肩書きを持った男はうきうきしながら口を開いた。


人間蚕蛾


社長は本題に入る前にこんな話をしてくれた。


その昔、生糸を作る一つの会社があった。昔はものすごい売れ行きを誇っていた会社である。

しかし時が進むにつれだんだんとライバル社に追い越され経営は傾いていった。

困り果てた会社の社長は友人の科学者にどの会社にも負けない質を持ち一匹から大量に糸がとれる蚕を作れないかと相談した。すると科学者はこう言った、方法がないわけではない。ただしその方法は多大な犠牲を必要とする。

社長はすがるような気持ちでどのような方法なんだと聞いた。科学者はゆっくりと口を開いた。


その方法とは、人間を蚕蛾に変えると言うものであった。


科学者は生き物を別のものに変える研究をしていた。そしてある日鶏を蚕に変え、糸をとってみたとき

通常の蚕よりも断然美しい糸が取れた。もしこれを人間で試してみたらさらに美しい糸が取れるのではないかと思った次第である。社長はその手があったかと叫ぶと急いで家に帰り、生贄を科学者のもとへ連れてきた。


生贄というのは社長の一人娘である。


科学者は社長になにも娘さんを連れてくることはないじゃないかといったが社長は考えを変えず

この娘の糸はきっと美しいだろうと胸を張るだけだった。そして娘を蚕にしないようならお前のやっている外道な研究を世間に晒すぞと脅した。科学者は娘に罪悪感を感じながら娘に人間を蚕蛾に変える施しをした。娘は何も知らず終始何もわからない様子で、おじさんなにをするの?と問いかけていたらしい。


科学者はすまない、すまないと言うばかりであった。そうしている間に娘は大きな幼虫に成り果ててしまった。

蚕になった娘はやがて繭を作った。社長はその時期を見計らって研究所に足を運び、満足そうに会社に持って帰り

茹で殺して早速糸をとってみると、ぞっとするほど恐ろしく美しい糸が取れた。

社長は大喜びで糸を取り続け、そしてそれを売りに出した。その絹糸で作られた洋服などは美しい光沢と着心地の良さで大変な人気になり、経営はものすごい勢いで回復していった。

社長は娘の糸を事情を知る数人をこもらせて取り続けさせたそうだ。これで会社は安心、しかも無限に取れるから蚕を飼う金もかからない。人件費は最小限。金だけが溜まっていき、社長の暮らしは素晴らしいものになっていった。


しかしある夜こんなことが起こった。

社長が寝床に着くと、どこからか「オトウサン」という声が聞こえてきたそうだ。

そしてうるさいと目を覚ますとそこには誰もいない。こんなことが何日か続いたそうな。

そしてその数日後寝室に「オトウサン」という声が満ちた時、社長が恐る恐る目を開けるとそこには

立派な蚕蛾に成長した娘の姿があった。娘はオトウサン、オトウサンと言いながら社長に甘えたが

社長があんまりにも拒否するもので怒って絹糸で絞め殺してしまったらしい。

科学者は社長と人間蚕蛾となってしまった娘を傷んだ。娘を蚕蛾お嬢様と崇め、寺を立ててその魂を癒したらしい。


「あ、そんなのただのおとぎ話だと思ったでしょう」

社長はにやにやと笑いながら言った。


「でもね、嘘じゃないんです。その会社は実際にあって、人間蚕蛾はいたんです」


神田川零司はこの人間蚕蛾の話に魅入られた男である。このもうひとりの社長は人間蚕蛾のものとされる洋服屋商品を高値で片端からかいとり、そして蚕蛾の標本と人間蚕蛾のものとされる洋服にまみれた部屋で生活していたらしい。


「人間蚕蛾に会ってみたかったんです。私は蚕蛾がだいすきでねぇ、その関連のものは全部コレクションしましたよ。あとは人間蚕蛾だけだったんですがねぇ、私のところにも来てくれましたよ。今私の部屋ではりつけにしてあります。あなたも見てみてください」


以上が神田川零司 45歳の供述をまとめたものである。


罪状 自分の妻、神田川紗英を自宅の壁に標本のようにはりつけにしたことによる殺人罪





ごにんめ 月城優 13歳 職業 中学生


「僕は正しいことをしただけなんです」

少年はにいっと笑っいながら口を開いた



僕の姉


月城優少年の姉は大変に優れた姉である。

姉はいつも笑顔で頭が良くて美人で性格も良くて優しくて気が利いて、非の打ち所のない姉である。

姉は少年には特に優しく、いつも頭を撫でてくれた。伸び悩む自分の背を


「小さくて可愛いわ」


と言ってくれた。少年は姉のことが、言わずもがな大好きであった。

しかし最近姉の帰りが遅かった。姉は学校で勉強をしていると言っていたが、少年は信じられなかった。

ある日少年は家を飛び出して姉の後をつけてみた。姉はどこか装飾の派手な店に入っていった。

少年が店の前で姉を待っていると


ひどく顔を汚く化粧をして寒そうな服を着た姉がどこの馬の骨ともしれぬ男と楽しそうに話をしながら出てきた。

少年はあれが姉だと信じられなかった、未だに信じていない。あれは姉であって姉でない

姉の形をした化物なのだ。


少年は手に余る程大きな石を探し当てた。


姉の形をした何かが男と別れたところを見計らって少年は、そいつの頭を思い切り殴りつけた。


「だからね、刑事さん。ぼくがころしたのは姉さんの形をした化物であって、何も悪くないんです」



そうか



刑事は月城少年から目をそらし、部屋から出た。


五人の聴取をし終わった一人の刑事は、タバコをひとつふかし

彼らの奇行のすべてを月が大きく青いせいにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ