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なろう的童話シリーズ

退屈な少年と竜

作者: 風木守人

ある村に少年がいた。

田舎の小さな村だった。

少年は村を出た。


少年は何もない村に嫌気がさしていた。

のどかで静かで、平和で変わり映えのしない毎日に飽きていた。

ある日、月に一度訪れる行商人から火山に住むという竜の話を聞き、少年は村を出た。


その竜の翼は空を覆い、爪は岩をも砕き、口からは火を吐くという。

少年は冒険の魅力にとりつかれ、その竜のところに行きたいと思った。

そうして、少年は村を出た。


少年は夜明けに村を出た。

父と母にも何も告げずに村を出た。

昔父が使っていた剣を勝手に持って村を出た。


川を渡って森を抜け、砂漠を越えて荒野を駆け、少年は火山に到った。

ごおごおと轟く不気味な音と、火山の熱気に少年は目を細める。

少年は火山に足を踏み入れた。


赤黒い溶岩の流れと熱風悪臭、様々なものが少年をはばむ。

しかし、少年はやっとの事で竜のいるという頂上にたどり着いた。

少年の頬を涼やかな風が撫でた。


竜がいた。

赤い鱗と黒い角、白い牙と爪を持つ竜がいた。

竜は少年を見つけると、翼を広げ咆哮する。


「何故ここに来た」

竜の問いに少年は答えた。

「お前を倒すためだ」


少年は父の剣をふるった。

しかし、竜の鱗は鉄のよう。

剣であろうと傷一つつかない。


竜は少年に火を吐いた。

避けなければ死ぬ。しかし距離を取っては剣が届かない。

少年は火を果敢に潜り抜け、竜の喉元に迫った。


少年は竜の喉元に剣を振り上げる。

しかしそれも鱗に弾かれ意味をなさない。

その間にも竜の鋭い爪が少年を襲った。


今度はかわせず少年は吹き飛んだ。

地面にたたきつけられてもなお、剣だけは手放さない。

竜は少年が絶命したと思いその顔を覗き込んだ。


少年は跳ね起き、最後の力を振り絞って剣を振り上げた。

狙いは竜の瞳。

剣は見事突き刺さる


しかし竜は剣を自ら引き抜き投げ捨てた。

少年にもはや武器はない。

瞳をやられ怒り狂うであろう竜に、少年は死を覚悟する。


しかし竜は少年を爪で器用につまみ上げると言った。

「あっ晴れな小僧だ。王国の兵団も、勇者と言われた猛者も、俺に傷を負わせる事は出来なかった」

そう言った竜は笑っているようにも見えた。


少年と竜は語り合った。

少年は竜に言った。

「僕の村は平和で退屈で何もない。だから冒険がしたくてここまできた」


竜はその言葉を聞いて笑う。

「退屈なのは俺も同じだ。いつも誰かが来ては俺に殺され死んでゆく」

少年と竜は語り合ううちに友達になった。


「これからお前はどうするのだ」

「故郷に帰ろうと思う。僕の求めるものはここにはなかった」

「なら俺の背に乗れ。故郷まで送ってやろう」


少年は竜の背に乗って空を飛んだ。

地面は眼下遥か。雲はどこまでも近い。またたく間に村が見えた。

少年は感嘆した。


その速さにではなく、村の姿にである。

荒野と砂漠、森と川を飛んだその先に、自然の真ん中に、村があった。

自然を切り開く、その人の営みの結実に、少年は感嘆していた。


「そうか、ここにあったのか」

竜の背でポツリと少年は呟いた。

呟きは風に流され竜には聞こえない。


竜が村の広場に降り立った。

少年が礼を言うと、竜はまた会おうと言って飛び立った。

少年はその姿をいつまでも見送った。


その後、少年は誰よりもよく働いた。

田畑を耕し森を切り開き、よく働いた。

たまに暇を見つけては竜に会っていたが、長く村を離れる事はなかった。


「お前は何かを見つけたな」

竜はそう言って羨ましげに少年を見た。

「いや、何も見えてなかっただけさ」


少年はそれからもずっと村にいた。

幸せを見つけた村にいた。

ずっとずっと村にいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 少年が刺激を求めて旅に出ただけでなく、身近な発見をできたという話はとてもよかったです。 まさに、灯台下暗しというやつでしょうか、そういうテーマが見えてとれて、とても素晴らしかったです。 …
2012/06/25 17:16 退会済み
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