パート06
「なるほど……それが小僧、お前の力か」
最後に残っていたミノタウロス(おそらくこいつらのリーダー的存在なのだろう)が、僕のさっきまでの動きを見てそう言った。
「僕自身でも、驚いてるけどね」
「これは久しぶりに楽しめそうだ。少しは耐えて見せろ、小僧!」
ミノタウロスは地面に落ちていた味方の斧を二本持つと、その片方を思いっきり投げてきた。
それを大きく跳ぶことで回避する。だけど、それこそミノタウロスの狙いだった。
「がっ!」
投げられた斧は僕じゃなく、僕の後ろにあるドームを狙って投げられていたのだ。たとえ痛覚を無視して戦っていた僕でも、今の攻撃は体の芯にまで衝撃が行き届いていた。
空中で痛みに悶えていた僕を迎え撃つように、落ちていた斧と自分の斧を両手に持って斬りかかってくる。それをなんとか剣で受け止めて、攻撃を回避する。
でも衝撃だけは受け流す事が出来ずに、そのまま僕はドームの中にまで吹き飛ばされた。
「あんにゃろう……。やっぱり強いな……」
「お、おい、大丈夫かよ?」
みんなが心配して僕の近くに寄ってきた。心配してくれるんだったら、この戦い手伝ってくれよ。
ドームの中に入ったから、いままでの痛みが少しずつ癒されていく。そういえばそんな設定作ってたっけか。
じゃあ、もう一つだけ設定をあのミノタウロスに見せつけてやるとするか。
「みんな、このドーム消すから、消えたらここから離れた場所に移動してくれ」
「はあ!? お前、何を言って――」
「うん、分かった」
すぐに反論が来たけど、ただ一人だけ僕の話を聞いてくれた人がいた。その声に反応して、僕を含めたみんなが一斉にそっちを見る。
「さっきのウーゴの話、聞いてたから。私たちを守ってくれるこの膜のせいで、あなたに迷惑がかかっちゃうんでしょ?」
「う、うん。そうだけど……」
「だったら、ここから離れた方が全員が安全になるんだよね? だったら、今は彼の言う事を聞こうよみんな。多分、私たちは足手まといなんだから」
その女子の話を聞いた他のみんなが、説得力があったのか素直に聞いていた。なるほど、僕が何を説明しても聞こうとしないと思ったけど、こういう風に分かりやすく説明すればみんな聞いてくれたのか。
「とりあえず、ドーム消したらあっちの方に移動して。あっちまで戦闘は届かないはずだから」
「うん、分かった」
僕がドームを消す前に、すぐに逃げれるようにみんなが僕が言った方向に走る準備をする。それを見計らって、僕は地面に刺していた真っ白な剣を抜く。
「走れ!」
それを言うと同時にドームは消え、みんなは走り出した。
「む……」
みんなが安全な場所に移動するのを見届けて、再びミノタウロスと向き合う。しばらくドームの中にいたから、体力も傷もある程度回復しているはずだ。
「逃げるみんなを追わないのか?」
「ふん、そんなのはひきょう者のする事だ。俺はこれでも戦士の志を持っているつもりだからな」
それを聞いて僕は驚いた。ミノタウロスにも、そういうプライドみたいな物を持っているのか。そういえば僕がドームの中にいる間、攻撃を仕掛けてこなかった事を思い出す。
「……あんた、意外とかっこいいな」
「小僧もそういう志を持てばいいだけの話だ……。行くぞ小僧! 次は手加減はせん!」
再びミノタウロスとの戦闘が始まった。
さっきは慌てていたからよく観察出来なかったけど、今は気持ちが落ち着いているから、相手の動きをよく見る事が出来る。
ミノタウロスの動きはさっきまで戦っていた他のミノタウロスより早く、より俊敏に動いていた。力任せに戦うモンスターとは到底思えない。
二本の斧を思いっきりミノタウロスは振り下ろしてき――僕はそれを左手の真っ白な剣で受け止めた。
「なに?」
いくらミノタウロスが力を加えても、僕の左腕はびくともしない。
これが僕の考えた設定だ。右の真っ黒な剣はするどい切れ味と身体能力を上げ、左の真っ白な剣は守れる膜を張り、そして絶大の防御力を誇る。
真っ黒な剣で受け止めていたら僕は押し負けて、また吹き飛ばされていただろう。けれどこの真っ白な剣はけっして押し負けることはない。
「反撃開始だ!」
そして僕は、今まで持っていた剣を逆手に持ち替えた。