パート04
まあ、ここまではもはやお約束の展開だから、仕方ないと諦めるしかない。
ひとまずは役立たずの皆に邪魔されないように……もとい、皆を守れるように。そして自分が戦いやすいようにステージを作っておかないと。
「確かこっちの発動の仕方は……『何物にも通さぬ壁を創り出せ、そして癒しの力を! 輝きの壁!』」
そう言いながら左の真っ白の方の剣を地面に突き刺すと、皆を包み込むように、きらきらと輝く透明な小さなドームが出来た。僕が作った設定だと、このドームの中にいればどんな攻撃も受け付かないし、中にいるだけで治癒能力を高めてくれる。まさに守りの壁だ。
なにより便利なのが、このドームは僕以外、許可を出さない限り外に出る事は出来ない。これで皆が勝手に逃げ出したりして狙われずに済んで、僕はのんびりと戦いに集中出来る。
……まあ、のんびりなんて出来ないだろうけど。
「お、おい中二病! なんだよこれは! ちゃんと説明しろ!」
ミノタウロスの姿がはっきりと見えてきたから迎え撃とうとしたら、ドームを出る寸前に肩を掴まれた。振り返ってみてみると、さっきウーゴに話しかけていたあの体育系男子だった。
つか掴まれてる肩が痛いんだけど。こいつどんだけ力いれてんだよ。
「さっきから言ってるだろ。ここは僕達がいた平和な世界なんかじゃなくて、異世界だって」
「そっちじゃなくて、このドームみたいなこれのことだ!」
あ、そっち?
「別に、お前が気にするような事じゃない」
「いいから説明しやがれっ!」
ああもう、うるさいな。これだからこんな急展開についていけないただの一般人は。まあ僕もそれを言ったらそうなんだけどさ。
まあちょうどいいから、もう一つの能力はこいつでちょっと確かめてみるか。
「『誇り高き戦士よ、戦場駆け巡るその力を我に宿したまえ。戦士の魂!』」
僕がそうつぶやくと右手に持っていた真っ黒の剣から黒いオーラのような物が出てきて、僕の体を覆うように包み込んだ。
驚いてポカーンとしている体育系男子の腕を掴んでやると、そのまま力を加えた。
「い、いてぇ! 離せ、離せよ!」
「ほら」
素直に離してやると、体育系男子は突然腕を離されたからかそのまま尻持ちをついた。
いま発動させた『戦士の魂』は、自分の腕力とか視力とかの身体能力を格段に上げる能力だ。しかもそれだけじゃなく、この黒いオーラは僕が想像で創り出した架空の戦士の魂を表している。それをまとっている今の僕は、戦闘経験とか関係なく、戦場で鍛えられる勘や実戦経験をすでに知っている事になる。
これなら、初めての実戦でも充分通用するはず。それに試運転とかもあるし。
「いいからそこで黙って見てろ。……皆の事は一応守るから」
それだけ言って、僕はドームの外に出た。
「ふん……。久しぶりに暴れられそうな相手が来たと聞いたが、こんな貧弱そうな人間か」
僕がドームの中から出ていくと、外にはもうミノタウロス達がそうすぐそばにまで来ていた。
ウーゴの言った通り、僕が想像した通りの外見だった。その手には大きな斧が握られていた。多分、あの武器はバトルアックスだっけ?
「うわ、実物なんて初めて見た……」
ミノタウロスを間近で見て、恐怖とかを感じるよりも先に感動した。そうだよ、僕はいつもこんな風な異世界を待ち望んでいたんだ。
この願いが叶ったなら、もう死んでもいいかも。
「お前らはこの世界とは違う、異世界とやらから来たんだろう。その腕前を試しに来たが……。お前一人でいいのか?」
「えっと、まあ別に構いません。どうせ僕以外、役に立ちそうに無いですし」
「ふん……。確かに、お前以外からはまったくといいほど戦意が感じられないな。が、それを補うかのように、お前からは圧倒的な力を感じる」
「どうも」
まあ僕が考えた架空の戦士の設定は、王族を護衛する精鋭隊の隊長としてある。考えた僕が言うのもあれだけど、実力は一流だ。
「じゃあ、時間ももったいないから、さっそく行かせてもらいます」
「構わない。全力を見せてみろ!」
すると、今までずっと喋っていたミノタウロスの周りにいた四体が一斉に動き出した。
落ちつけよ、僕。こんな戦闘はとっくの前から慣れてるはずだろ?
そう思い込ませながら、ミノタウロスの動きに焦らずに、ゆっくりと戦闘を開始した。