パート32
「なんとも下手くそな伏線の張り方だな……」
もし僕が小説を書くとしても、そんな伏線の張り方は絶対にしないぞ。
そう苦笑しながらも、体のどこかに怪我をしていないかを確認しながらなんとか立ち上がる。
守りの要でもある白い剣が壊されてしまった今、攻めるしか方法がない。
けれど、僕にとっての問題はそれじゃなかった。
白い剣が壊されたという事に、問題がある。
「…………っ」
「二眇様、大丈夫ですか?」
「……いや、実際いろいろとキツイかも」
突然来た体の奥の方から沸き起こる熱い何かを、必死に押さえつけようとする。
それと同時に頭に響くのは、夢で出会ったあの騎士の声。
(……その体を、この俺に明け渡せ……!)
「くっそ……それでこの場を凌げるんだろうけど、絶対に返さないだろおい!」
これ以上惑わされないように、がむしゃらになってエンドに突撃する。
「二眇様!?」
「おいおい……明らかに状態悪そうだなぁ。そんなんで大丈夫かよ?」
「大丈夫だ……問題ない!」
ネタはネタで返せるあたり、まだそこまで騎士の影響は広まってはないのだろう。だがそれも時間の問題だ。
僕が使っている『戦士の魂』は前にも言ったけれど、僕が想像した死んだ騎士の魂を身にまとわせて、不足している運動能力と戦闘経験を補っている。
けれど、その魂を定着させているのは右の黒い剣の力。それを暴走させずに制御している役割をしているのが――先ほど壊された白い剣だからだ。
つまり、白い剣が壊されたことによって魂は暴走し、未練を果たすために俺の体を乗っ取ろうとする。そういう設定だった。
本来なら、僕の書いている主人公が予想外の展開に驚いて戸惑うんだけど……この設定を作った僕なら別の話だ。
だからといって、それを生で体験するのはなかなかに貴重――じゃなくて、きつい物がある。
「はあぁぁっ!」
今まで片手で扱ってたのを両手に持ち替えて斬りかかる。おそらく僕の予想だと、エンドの能力はこういった真向勝負にはあまり意味はないはずだ!
「いいなぁおい! 俺はこういうのがやりたかったんだよ!」
思った通り、今度は避けずに剣で受け止めた。鍔迫り合いをして押しかかろうと思ったけど、今の僕の状態では無理だと判断し、すぐに一歩だけ引いて横なぎに斬りかかる。
それをやすやすと避けたエンドは、剣先を向けて突きを繰り出してくる。それを少しだけ首を横に倒して避けてからがら空きになった体を斬ろうとしたら、その前にエンドの膝蹴りが鳩尾に襲ってきた。
「ぐ……っ!」
「おらおらぁ! まだまだこんもんじゃねえだろぉ!」
痛みに少しだけ動きを止めてしまい、その隙をついてきたエンドはさらに回し蹴りをしてきて、僕の体を吹き飛ばす。
絶え間ない攻撃を喰らってしまい、ダメージが蓄積された体は動くことを許してくれなかった。足はもうガクガクで、もはや立ってられない。さらに発動させている『騎士の魂』の暴走は激しくなる一方で、もはやそれを押さえつけているので精一杯だった。
「くそっ、日ごろ運動しとけば良かったなこりゃ……」
「どうしたぁ? もう終わりかよ!」
エンドが大きく剣を振り上げて、たった一度の跳躍で吹き飛ばされた僕との距離を詰めてきた。剣を持ち上げてそれを受け止めようと思ったが、それを行うだけの体力もなく、ただエンドが振り下ろしてきた剣を見ているだけだった。
――あ、これ死んだわ。




