パート31
エンドがそう呟いた途端、頭上に何かが現れたのか急に暗くなった。
「『何物にも通さぬ壁を創り出せ、そして癒しの力を! 輝きの壁!』」
それが何かを確認するよりも前に、僕はで白い剣を地面に差して透明なドームを築き上げた。
戦士の魂をまとっている今の僕は戦闘における勘も鋭くなっている。だから上を見る前に行動することが出来た。
今の技は、マズイものだと。
「なんだ、これ……?」
ドームを出した後に上を見上げてみると、そこには黒いボールのようなものが浮かんでいた。まるでブラックホールのように黒いそれは、ゆっくりと落ちてきた。
でも、このドームがある限り僕には当たらない。そう思ってどんな能力なのかを見極めようとしたその時だった。
ピシッ……。
それがドームに触れた瞬間にヒビが入り、あっという間に砕け散った。
「な……!?」
ドームが壊れると同時に、地面に差してあった白い剣も壊れる音が聞こえた。けれど突然の事に僕は動けずにただ立ち止まってしまい――。
「風よ! 彼の者をこちらに運びなさい!」
――いきなり突風が吹き、僕の体を吹き飛ばした。
「うわっ!」
そのまま地面を転がっていると、ルナが風で吹き飛ばされた僕の体を受け止めてくれた。
「大丈夫ですか? 二眇様」
「あ、うん……。今のってルナが?」
「はい。私たちエルフは、自然の精霊を操ることが出来るのです」
「なるほど……ありがとう」
つまりは魔法のようなものか。ともかく、助けてもらったことには代わりない。
ルナに手を貸してもらいながら立ち上がると、さっきまで僕がいたところには大きな穴が出来ていた。もしルナが助けてくれなかったら、今頃あんな風に一瞬で死んでいた。そう思うと、少しだけ体が震えた。
「良かったなぁ。優しい仲間がいて」
「……今のはなんだ?」
輝きの壁をあんな一瞬で破壊されるなんて思ってもなかった。あの技は、設定では『どんな攻撃でも防ぐ絶対の壁』となっている。あの程度の攻撃なんて防げるはずだった。
にもかかわらず、まるでもろい壁のように壊しやがった。
「そうだな……まあ、このぐらいならネタバレしてもいいだろ。今の技はな……『相手の能力を終わらせる』技だ」
「能力を終わらせる……?」
「お前の技は少し前に見せてもらってなぁ……どうやらさっきのドームみたいなは、どんな攻撃でも防げる、まさに鉄壁の壁って感じか。でもよ……この世界に絶対なんて設定はないんだぜ?」
「…………」
エンドが言っている事を頭の中で整理する。
確かに、ここには僕以外にもたくさんの異世界人がいる。その人たちは僕やエンドと同じように武器と能力を想像し、実現することが出来るはずだ。
その中には、互いに矛盾する能力だってある。
「例えば最強の矛と最強の盾があるとしようか。矛は絶対に盾を貫くが、逆に盾は絶対に矛を貫かない。これから矛盾という言葉が生まれた……そんぐらいは知ってるよなぁ?」
「……ああ」
「けどよ……ここはそんな絶対なんて事は起きない。絶対に貫く矛と絶対に貫かない盾。この二つがぶつかる時――どちらもここではお互いがまったく正反対の絶対を持つというのなら、無かったことにされるのさ」
「つまり……どちらも破壊されるって事か?」
「ご名答」
エンドは、まるで出来のいい生徒を持って嬉しそうな顔をしているがどうにも府に落ちないことがある。
もしエンドの話が本当だとすれば、僕の輝きの壁は無敵ではない。けれどこれは予想の範疇ではあった。そう簡単に話が進むとするなら、きっと僕が来るよりも前に誰かがやっているはずだからだ。
問題なのは……輝きの壁は破壊されたのに、なぜエンドの技は破壊されなかったのか?
「それで俺のさっきの技についてなんだが……あれは別に大したことはしてねーよ。さっき言った意味そのまんまだ」
「相手の能力を終わらせる……終わらせる?」
破壊でもなく終わらせる。
ということは、さっきの輝きの壁は壊されたんじゃなくて、終わらされたという事か?
「どんな物にもどんな能力にも、いずれは終わりがやってくる。俺はそれを早くさせただけさ」
「なんだよそれ……ほとんど反則じゃないか」
「おいおいおい、なーに言ってんだ? むしろこのぐらいが普通だぜ? こんなチートまがいな事、俺以外にもたくさん考えてるぜ。だから言ったろ。俺の名前が伏線だってよ」




