パート玖
シャインは、ひとまずトイナさんに案内してもらって都で落ち着こうと言った。確かに、私はサソリとの戦いで疲弊してるし、怪我人もいるから異論はなかった。
そして今、赤木君たちは怪我をしている騎士の肩を担ぎながら、無言で歩いていた。
シャインはというと、トイナさんからいろんな話を聞いていた。おそらくこの世界のこととかについてだと思う。
私はというと、一人で一番後ろで歩いていた。
頭によぎるのは、サソリの尻尾で刺されて崖から落ちた野中君の光景。
あの時。私がまだサソリが生きているってことに気づいていれば。私がもっと強かったら。
「……………」
あるのは、ただただ後悔のみ。
みんなで元の世界に戻ると決めたのに、もう野中君を死なせてしまった。もしかしたら落ちていくとき、まだ生きてたのかもしれない。あのまま助けに行ってたら、野中君を助けられたかもしれない。
シャインの力を使いこなせていれば、あの時……!
「大丈夫、瑠花ちゃん?」
「あ……」
落ち込んでる私に声を掛けてくれたのは、沙弥ちゃんと蘭ちゃんだった。
二人とも、きっと私のことが心配になって声を掛けてくれたんだと思う。この二人とは学校が始まったころからの友達で、いろんな悩みをお互いに言い合ったり聞いたりしてる。それほどに、私たちは仲が良かった。
「確かにあの中二病……じゃなくて、野中の奴が死んだのはあれだけどさ。だからと言って、瑠花のせいじゃないんだぜ?」
「う、うん……。私たちだって、今まで何もしてなかったから……。だから、もしまた戦うことになったら、今度はちゃんと戦うから」
「ああ。瑠花だけに任せはしないよ」
「ありがと、二人とも……」
慰めてくれる沙弥ちゃんと蘭ちゃん。
二人の気遣いは嬉しい。けれど、こうやって二人がそう思ってくれたのも、野中君が死んだからだ。
もし野中君が生きて帰ってきたとしたら、みんなはまた野中君に頼って自分たちは何もしなかったんじゃないだろうか。
そう考えると、結局は何も変わらないような気がする。本来なら、この世界に来た時からみんなで協力し合わないといけなかったのに。
「案ずるな、マスター」
「ひゃっ!?」
さっきまでトイナさんと話していたのに、いつのまにかシャインがこっちに近づいていた。
「今はただ、こいつらを守ることだけを考えればいい。それがマスターにとって、一番の役目でもある」
「役目……? どういうことなの?」
「いずれ分かる。それにトイナ殿のおかげで、この世界については大体把握することが出来た」
落ち込んでいる間にかなり歩いていたのか、砂漠を超えて周りは草原になっていた。前を見てみると、ここからでも充分すぎるほどに大きいと分かる、城壁が見えてきた。
「あれが……」
「そうだ。あの城壁向こうが第八都市のひとつ――『バイアス』が存在する」




