パート20
「…………!」
周りを警戒しながら、遺跡の入り口付近で倒れている人たちに駆け寄る。もしかすると、この近くにモンスターがいるかもしれないからだ。
「おい、大丈夫か!?」
「う、うう……人、か?」
僕の呼び声に気付いたのか、三人の中で一番傷が浅い人がこっちを向いてそう呟いた。傷が浅いといっても、着てる騎士のような鎧にはあちこちに傷が出来ていた。こんな丈夫そうな鎧なのに、これだけの傷をつけられるなんて……。しかも鎧の一部には、熱で溶けたような場所があった。
「お、おい……なんだよそれ。本物かよ……」
体育会系の隣にいた、もう一人の男子(名前は赤木だったか)がそう言ったけど、当然本物に決まってる。そうつい怒鳴りそうになったけど、そんな事を言ってる余裕すらなかった。
「斉藤さん。バックの中に包帯とかあったはずだから、今すぐ出して。それから水とか、食料もお願い」
「うん、分かった」
持っていた荷物を置いて、一人ずつ鎧を外していく。こういうタイプの鎧なら、留め金がある部分を外していけば、二つに分かれて取れるはずだ。
僕が鎧を外した順番に、斉藤さんとさっきの少し控えめの女子(こっちは鈴木さんだっけ)が怪我を消毒して、包帯を巻いていく。あっちの鈴木さんは、あの手つきを見ている限りだと、医療の知識があるみたいだった。
そして最後に、さっき返事をしてくれた怪我が一番軽い人の鎧を外していく。兜を先に取った方がいいよな……って、女の人!?
「す、すまない……」
「あ、いや、別にこのくらい普通ですよ」
そういえば、ラノベでも騎士の中には女の人も混じってたりするよな、うん。
そう気持ちを切り替えて、鎧の方も外す。なるべく体を見ない様にしながら、丁重に。
斉藤さんたちの治療が大方終わってから、僕は話を聞く事にする。
「大丈夫ですか?」
「ああ、もう大丈夫だ……。ところで、君たちは一体……?」
「僕たちは異世界人です。あっちの方にある村から、都に向かってる最中にあなたたちが倒れている所を見つけました」
村長から、僕達が誰かと尋ねられた時は『異世界人』と名乗った方がいいと言われた。これはおそらく、何物かを証明する時に一番分かりやすい方法だからだと思う。
案の定、異世界人と聞いた女性は目を大きく開いて驚いていた。
「異世界人……。そうか、通りで若いはずだ……」
「それで、あなた達の傷は一体何にやられたんですか? 見た所、モンスターのようですけど」
「ああ……。私たちは、この遺跡にいる、遺跡の中にあると言われている宝石を取りに来たんだ。だが、それを守るかのように、モンスターがいてな……」
しばらく話を聞いていると、どうやらそのモンスターはサソリが巨大化したような姿らしい。そして遺跡の中ではまだ仲間が戦っていると言っていた。
けれど、サソリが鎧を溶かすほどの攻撃をするのか? 僕はそこに疑問を感じた。
「……多分、普通のサソリじゃないんだろうな」
いくらこの世界がラノベでよく見る世界だとしても、予想も出来ないようなモンスターもいるはずだ。それに、これはむしろチャンスかもしれない。
「く……仲間を早く助けに行かねば……!」
「だ、ダメですよ! その傷で動くなんて!」
「……僕が行く」
そう言った途端、みんなが一斉にこっちを向いた。
「の、野中君!? もしかして本気なの!」
「うん、本気だよ。それにこれはある意味チャンスなんだ」
もし僕達がそのサソリを倒して、宝石を見事取る事が出来れば、都に行った時に何か役に立つかもしれない。それにここにはそれを取りに来た騎士達がいる。これはもしかすると王族か何かからの依頼という事かもしれない。上手くいけば、城の方で報酬を貰う事が出来るはずだ。
「……だからって、わざわざ危険を冒すの?」
「冒すわけじゃない。ちょっと、人助けをするだけ」
「じゃあ、私も行く!」
「ちょっ、おい委員長!?」
……やっぱり、ラノベみたいな展開になってきたな。斉藤さんがそう言ってきたのを聞きながら、僕はそう思った。
「私だって、野中君と同じみたいに武器を持ってるし、この人の役に立ちたいよ!」
連れて行っちゃいけない事は、分かってる。斉藤さんを連れていけば、お互い危険は増すし、斉藤さんを死なせてしまうかもしれないから。
……けれど、早く斉藤さんに実戦経験を積ませるには丁度いいかもしれない。
「……分かった。斉藤さんにも来てもらうよ」
「おい、何勝手に決めてやがる中二病! てめえ一人で充分だろが!」
「森田君、これは私が決めた事だからいいの。それに、一回でも多く戦わないと、皆を守れる力はつかないから」
まるで僕が考えていた事を代わりに言うかのように、斉藤さんは皆の前で言った。この様子だと、もう僕がいなくても大丈夫そうだな。
「私も行こう。モンスターと一度戦った私なら、何か分かるかもしれない」
「分かった。でも、あんまり無茶はしないで下さい」
残った皆に傷ついた騎士達を任せながら、僕と斉藤さんと、負傷している女性の騎士は、遺跡の中へと入って行った。




