パート18
僕が予想した通り、賭けは見事当たってしまった。
これで斉藤さんも僕と同じになってしまったわけ、か。いや、まだ僕と同等になった訳じゃないけど。それでも、この世界にだんだんとなじみ始めてきた訳だ。
この世界で創造させるために必要な事。それは自分が頭の中で描いたイメージが、本当にそこにあるかのように本心から思わせないといけない事だ。
僕の場合はよく小説を書く時、頭の中だけだと分からないから絵にして描いてみたり、実際に体を動かしてキャラクターの動作をそのまま書いていた。そのおかげで創造する事があっさりと出来た。
けど斉藤さんは僕と違って、よくいる高校生。ファンタジーだとかそういうのは自分で考えた事は無いと僕は思った。あとは本心から何かを信じた事があるのかどうか。
イメージを創り出すのはともかく、本心から信じるという事がどちらかと言うと難しいだろう。なぜならいないと分かっているのに幽霊は存在していると信じている、と同じことなんだから。
まあともあれ、僕が創造した大剣は斉藤さんの想いに答えて、設定した通りの姿に生まれ変わっていた。
初めはどこにでもありそうな、なんのひねりも無い大きな剣だったのに、斉藤さんの本心に答えた僕の大剣はあちこちに宝石のような物がついていて、しかも鍔の部分はまるで翼のような形になっており、刀身の腹の部分にはなんと豪華に金色に光っていた。
初心者の斉藤さんにはちょっと豪華すぎる贈り物かもしれないけど、まあいいだろう。
「うわあぁ……」
「それがその大剣の真の姿だよ。そして斉藤さんの武器だ」
「え、でも私は創造してないよ?」
「その大剣は所有者を変更する事が出来るようにしてあるんだ。だからそれは僕の物じゃない。それに大剣から使い方をもう教えて貰ってるはずだよ」
「そんな事……え、嘘……?」
多分、斉藤さんは大剣から僕があらかじめ考えておいた設定とかを直接頭の中にインプットされているはずだ。そうすればいちいち始めから考えて創造しなくて済むし、これ以上僕が教えなくて済む。
あとは斉藤さんが慣れるだけだ。
「凄いね、野中君って……。いろんなパターンを考えて、しかも臨機応変に対応できるようにしてるなんて……」
「まあ、このぐらいはよく考えてたから。あとは斉藤さんが使いこなすだけだよ」
「ちなみにこの剣って、名前とかあるの?」
「う……」
名前かあー……。
正直、僕にはネームセンスがまったくないと思っている。だから僕が使っているあの双剣――白い剣と黒い剣も名前を付けずにそのまま呼んでるし。まあ確かに不便だけどさ。
「もしかして、無いの?」
「あー……。うん」
「じゃあ私が付けてもいい?」
「いいよ」
むしろ僕としては、好都合だったり。
「じゃあ……シャイン・ウィング! なんか光っててカッコイイし、この羽も可愛いし!」
「へえ、いいんじゃない?」
そのままだと思ったけど、ストレートでも結構しっくりと来た。なるほど、こういうのはストレートの方がいいのか。
「これからもよろしくね、シャイン・ウィング!」
そう言って大剣を抱きしめた斉藤さん。この様子だと、設定として考えた自我と仲良くやっているみたいだ。僕からは聞こえないけど。
まあ少々不安なんだけど、これで僕を含めて戦えるのは二人になった訳だ。基本は僕が攻めで、斉藤さんは後ろでみんなを守ってもらう事になるだろう。
もし、万が一僕に何かあっても斉藤さんがなんとかしてくれるだろう。僕よりもみんなから信頼されてるし、よく頭は回るしクラス委員長だし。みんなをまとめる事なんて造作もないだろう。
明日はいよいよこの村を出て、この世界を旅する事になるだろう。はたしてどんな世界が僕を待っているか。それを考えるとワクワクが止まらなかった。




