パート 伍
大剣で咄嗟に防御をしても、その衝撃は大剣を通り越して私の体を吹き飛ばした。
遠くまで吹き飛ばされて、大きな木に背中から当たってようやく止まったけど、お腹と背中に鋭い痛みが走って上手く息が出来ない。
「がっ……! げほっ……」
思わずせき込むと、喉から何かが出てくる感触があって咳と一緒に出した。それはあんまり前の世界だと見る事が少ない、血だった。
その時、やっと私は理解した。
ああ、これが今まで野中君が味わってきた世界なんだ、と。
ミノタウロスと戦った時、ボーンキングと戦った時。野中君はこんな痛みと常に背中合わせに戦ってきた。それでも根を上げずに、諦めずに戦っていた。
ここは前の世界とは違う。こんな痛みも、この世界だと当たり前なんだ。
「……どうしたの、斉藤さん。まだまだこんなものじゃないよ」
野中君が飛ばされた私の所まで歩いてきた。その両手にはあの黒と白い剣の二つが握られていて、野中君の体はあの黒いオーラみたいなもので包まれていた。
「やっぱり斉藤さんの気持ちも、ここまでみたいだね。だから言ったんだ。ただの一般人、それもまだ大人になっていない高校生でしかも女子。そんな人が戦おうなんて無理がありすぎる」
「そ、そんなこと……!」
「所詮、その程度だったんだよ。今なら間に合う。その大剣を僕に返してくれれば、それだけでこんな痛い目にもう合わなくて済む。さあ――」
「……だから、ふざけないでって言ってるでしょ!」
どうにか大剣を杖代わりにしながら、よろよろと立ちあがる。
「――私はみんなを守る力が欲しい! その為には何をしたって構わない! たとえ痛い目に遭おうと、死ぬかもしれなくても、それでもみんなを守れるなら別にいい!」
全ての想いを野中君にぶつけたその時。
『……なら、我が力を貸そう』
突然剣が光りだした。
私が驚いてると、野中君が呟いた。
「……やっぱり斉藤さんの勝ち、か」
「え、どういう事……?」
「その剣の設定を教えてあげるよ。その剣は『持っている人の想いに答える』設定を持っているんだ。つまり、斉藤さんの想いが強ければ強いほどその剣は強くなる。さらに思った通りの力も状況によって追加する事も出来るんだ。例えば高く跳びたいと思えばその思った分だけ、斉藤さんは高く跳ぶ事が出来る」
じゃあ、さっきの時も早くなりたいと思ったから、野中君と同じくらいに早く動けたってこと?
でも、私はまだ野中君に勝ってもないのに私の勝ちって言ったの?
「そしてなんでその剣を貸したかというと……。斉藤さんの本心を確かめるためだったんだ」
「私の、本心?」
「うん。見てごらん、その大剣の本当の姿を」




