パート 肆
勝てる訳がない。
最初の攻撃で私はそう思った。
野中君からの条件とは、『野中君が創造した武器を使って、野中君に勝つ』という勝負だった。
けれど……。
「だからって……、こんなのきついに決まってるよ……!」
確かに私は創造が出来ないから、代わりに野中君が新しく創造したこの大剣を使っているんだけど、正直こっちの方がきついんじゃないだろうか。
なぜかと言ったら、この大剣を創造したのは野中君なんだから、向こうはこっちの能力がなんなのか分かってるはず。でも私はこの大剣にどんな能力があるのかまだ知らない。かろうじて分かるのは、この大剣はどうやら持っている人の身体能力を上げるみたいだった。
今もこうして野中君から逃げきれているのは、普段の私からは考えられないほどの体力と脚力のおかげだった。でもそれは野中君も同じだから、あとはこの大剣の能力をどう使うかにかかってる。
「ほら! 逃げてばっかりだといつまで経っても勝てないよ!」
野中君の声が聞こえたと同時に、急いで体を真横に避ける。するとそこには野中君が振り下ろした攻撃によって、また新しく小さなクレーターが出来る。
「きゃっ――」
その衝撃だけはかわす事が出来ずに、近くにある木にしがみついてなんとか飛ばされないようにする。
さっきから、それの繰り返しだった。
ずっと逃げている私に野中君が攻撃してきて、それをなんとかかわしてまた逃げる。
野中君が手加減しているのは分かっている。もし野中君が本気だとしたら、一分ももたないだろう。
なんとかして、こっちから攻撃してみないと……!
「えいっ!」
衝撃を全部しのいだ後に、大剣を大きく構えて野中君に向かって振り下ろした。
けれどあっさりと、左手の白い剣で防がれてしまった。
「それじゃあダメだ。ただ力任せで振り下ろしてくるんじゃなくて、もっと勢いをつけないと」
そのまま大剣をはじかれて隙だらけになった私に、容赦なく斬りかかってくる野中君。
「きゃあ!」
なんとか大剣で防ぐけど、ところどころ当たっているみたいで、制服のあちこちが破れていた。
でも、怯えてるばかりじゃなくて、私からも攻撃しないと!
防御ばかりじゃなくて、たまに攻撃をしていくと、だんだん野中君の攻撃が見えるようになってきた。
けれどただ見えていても体が追いつかない。もっと早く、早く動けたら……!
そう思ったら、急に野中君の動きについていけるようになった。
「え、なんで……」
「……ねえ斉藤さん。そんなんで本当に創造出来るようになりたいと思ってるの?」
戦っている最中だというのに、野中君はいきなり話しかけてきた。
「やっぱり斉藤さんには無理だ。君はただの高校生で、ただの一般人なんだから。それなら大人しく創造したいなんて言わないで、全部僕に任せればいいんだ。そうすればこんなに大変な思いをしなくて済むし、少なくとも死にはしない。だから……」
「ふ、っざけないで!」
怒りのこもった今までで一番強い一撃を野中君に振るう。また防がれたけど、そんな事はどうでも良かった。今は野中君の言葉に怒っているんだから!
「それなら野中君だって、私たちと同じ高校生で一般人でしょ! そんなに大差があるわけじゃない!」
怒りに任せて、がむしゃらに大剣をふるい続ける。すると今までどんな攻撃をしても平然としていた野中君の顔に、驚きと少しの焦りが見えた。
「ぐ……」
「それに! これから私たちの分まで命をかけるだなんて、そんなの間違ってるよ! 少なくとも私は、私自身で身を守る! それでみんなの事も守りたい!」
すると野中君は一気に後ろに飛んで距離を取った。身体能力を上げていてもがむしゃらに大剣を振っていたから、私は息が乱れていた。
「……分かったよ。でも、これから先は今よりもっと痛い目に遭うかもしれない。もしかすると死ぬかもしれない。それでもいいのか?」
「……そんなの、覚悟してるよ」
「そうか……。じゃあ――」
野中君は離れていた距離を、まるで瞬間移動したかのように一気に詰めてきた。
「え……」
「――一度、味わってもらうよ」
そして、今度こそ本気でやってきた蹴りを私の胴体に当ててきた。




