パート11
村の中に入れて貰える事になった僕たちは、さっそく宿で飯を食べさせて貰う事になった。
良世界だから、少し食べられなさそうな食べ物が出るかと思ったけど、意外にも川で採ってきた魚や育てた野菜ばかりで、しかも僕たちがいた世界とあまり大差なかった。
みんながこの世界に来て初めての食事を満喫している間、僕はさっきの老人――村長にさっきの助けてくれという話を聞く事にする。
「それで、この村で何かあったんですか?」
「実は……最近この村の近くで大量の骸骨が増えてまして。中でも一番厄介なのが骸骨王なんです。近頃は村の中にまで入ってきて荒らしているのです」
「なるほど……。自衛団や、村を守る組織とかってここにはいないんですか?」
「いるにはいるんですが……。人間ならともかく相手はモンスターなので、すっかり怯えてしまって、あまり役に立たないんですよ」
この村長の話を聞いてる限り、どうやらこの世界ではモンスターというのは自然界の中でもっとも高い位置にいるみたいだ。まあそれはどのラノベやゲームでもそうだと思うけど。
けど、どのラノベやゲームでも、人間はあらゆる方法でモンスターと対等に戦っている。それがこの世界では無いようだ。
さっき僕が口から出まかせに旅人と言ったけど、旅人とはこの世界だと『唯一、モンスターに打ち勝つ事が出来る』存在だと設定されていると、僕は思った。
村長はそんな僕の事を大げさな表現で勇者と言った。それほどまでに、モンスターに勝てる人間はいないって事なのか。
「おそらく、今夜も奴らは現れるでしょう。どうか、どうかこの村を救って下さい」
「あ、野中君。話は終わったの?」
村長の話を聞き終わって飯を食べに戻ってきたら、斉藤さんに声をかけられた。他のみんなはもう食べ終わったのか、雑談を始めていた。
「うん。とりあえず、この近くにいるモンスターを倒す事を条件に、しばらくこの宿に泊めて貰える事にしてもらったよ」
「……ということは、また戦うの?」
斉藤さんが心配そうに、僕の顔を覗き込んできた。う、よくあるシチュエーションだけど、実際にそれをやられると結構ドキドキ来るな。
「べ、別に平気だよ。どの道、これから先も戦う事になると思うから、今のうちに慣れておいた方がいいと思うし」
これは気休めじゃなく、本心だ。
僕のラノベからの経験上だけど、異世界に突然償還された主人公なんかは結構長い間、その異世界に留まる。しかもこんな勇者扱いなんかされてしまったら、なおさらだ。
「あたしも、野中君みたいに創造出来たらいいのに……」
「それは……」
正直、やめておいた方がいいと思った。今この村では僕だけが勇者という事にしている。もし斉藤さんまで戦える事が出来るようになってしまったら、それこそ命の保証がない。
斉藤さんはここにいるみんなから好かれているはず。それは前の世界にいる、他のクラスメイトたちにも言えることだ。だけど、中二病なんて言われて嫌われている僕なんて、誰も心配する人なんていないはずだ。
「気持ちだけでも嬉しいよ。けど、斉藤さんには危険すぎる」
「それは野中君だって同じでしょ? たった一人で引き受けるなんて……」
「だって、僕なんかより斉藤さんの方が大切に決まってる」
クラスで中二病なんかあだ名で嫌われている僕なんかより、みんなをまとめる委員長をしている斉藤さんの方が、みんなにとって大切のはずだ。
それなら、いつ死んでもいい僕がこの依頼を引き受けた方がいい。
「そろそろ来る時間って言ってたから、行くよ」
「……絶対」
僕が立ちあがろうとしたら、僕の服を掴んで斉藤さんは言った。
「絶対に、生きて帰ってきて。委員長命令だから!」
宿から出て、門の前まで来て、僕はそこで一度立ち止まった。
「委員長命令って……。部活とかでよく聞く部長命令とかじゃないんだからさ……」
思わず苦笑してしまう。誰かに命令されるなんて、これが初めてかもしれない。
どちらにしろ、たとえ斉藤さんの命令が無くても僕は死ぬつもりはない。これっぽっちもない。
まだ僕は、この異世界を体験しつくしていない。
この異世界で全てを体験して、そしてみんなで生きて帰ってやる。
「それまで、絶対に死ぬもんか」
そして新たに創造させるために、僕は右手を構えた。




