パート10
みんなが起きたから、ウーゴの案内で近くに村があるという事でそこに向かう事にした。
僕が出した剣は消す事が出来るみたいだけど、一応いつモンスターに襲われてもいいように消さないで手で持つ事にした。
道中、ミノタウロスが死ぬ前に渡してきた小さな球をポケットから取り出して、よく見てみる事にする。
「……これって、この世界でも使われてる文字なのか?」
球の中には『牛』と書かれた文字が入っていた。多分これは、ミノタウロスの事を指すんだと思う。
でも問題なのは、この牛という文字だ。
普通、異世界に来たなら文字や言葉なんかはまったく違うはずだ。
もしかしたら、この世界は僕たちがいた元の世界となんらかの関わりがあるんじゃないか……?
「残念ながらそれはありませんね。ただ、あなたたちが困らないように、文字や言葉が通じるように設定されているだけです」
「……そうですか」
淡々とそう告げるウーゴに対して、僕はそっけなく答える。
本当に、こいつの『相手の心を読む』設定はうざいな……。こっちが考えている事が全部ウーゴに分かってしまうんだから、何を考えてもすべて読まれてしまう。
一応なんらかの対処とか考えておいた方がいいのかもしれないな。
そんな事を思っていたら、村らしき形が見えてきた。遠くから見ても、やっぱりよくゲームとかで見る村のみたいだな。
ただ一つ違うとしたら、村の入り口が固く丸太で作られた檻で閉ざされている事だった。
「誰も、いないのかな?」
「おーい、誰かいないのかー!」
体育系男子が大声を上げると、上の見張り台の方から人が出てきた。
つか、いちいち体育系男子って言うのめんどくさくなってきたな……。後で斉藤さんにでも名前何か聞いてみるか。
「誰だ! お前らは!」
「あー、えっと……」
体育系男子が返答に困っていたから、代わりに僕が答える事にした。
「僕たちは世界のあちこちを旅する旅人だ! 道中モンスターに襲われて何もかも無くしてしまった! どうかこの村に入れてほしい!」
なんとか噛まずに大声でそう言うと、その人は怪訝そうな顔をしながらいなくなった。おそらく、この門を開けに行ったんだと思う。
「野中君、今のって……嘘だよね?」
「当然だよ。そうでも言わないと、きっと入れて貰えないと思う」
にぶい音を立てながら門が上にあがっていく。すると中から老人とさっき僕たちに訪ねてきた人が出てきた。
「……お主ら、旅人と言ったか?」
「はい」
けれど、この世界でのお金なんかは持っていない。もしその事で追及されたらおとなしくこの村から離れるしかない。
でも、ウーゴがわざわざこの村を案内したという事は、何かあるはずだと思っていた。
老人は僕が持っている剣をじっくりと観察して、次に僕の顔を覗き込んだ。
「今のこの世の中で、旅人だと? 冗談を言うのはよしてもらいたいのう」
「……それは、どういう意味ですか?」
「そんなことも知らないのか!?」
僕の問いに、大げさなぐらいに隣にいた人が驚いていた。
「今世界中にはモンスターが溢れている。そんな中自ら旅人なんかを名乗ろうなど、そんなの自殺行為だ。ましてや、お前らみたいな貧弱な子供に出来るはずが無い!」
「子供じゃねえ! 俺たちは高校生だぞ!」
体育系男子がそう言って怒ってるけど、この世界だと僕たちくらいの年はまだ子供だと思われてしまうみたいだ。
……だけど、今の言葉はさすがの僕でも、ちょっとむかついたぞ。
「じゃあ、これを見ても信じられませんかね?」
そう言いながら取り出したのは、ミノタウロスからもらった小さな球だった。
それを老人に手渡すと、いきなり老人はその球を凝視しはじめた。
「こ、これは……ミノタウロスしか持たないはずの“種族の証”じゃないか!」
「なんだって!?」
老人がそう叫んだのを聞いて、隣にいた人もその球を見始めた。
一か八かだったけど、どうやら僕は賭けに勝ったみたいだ。
ミノタウロスが最後に渡してくれたこの球には重要な役割があるんじゃないかと、僕は思っていた。そしてさっき言っていた、世界にはモンスターがたくさんいて旅をする人なんか一人もいない。
これはつまり、モンスターを倒せる人が少ない、あるいはいないのだろう。
だとしたら、この小さな球は僕がモンスターを倒した証になるんじゃないかと、そう踏んだのだ。
「ゆ、勇者様!」
「は?」
球を見終わった老人は、いきなり僕の両手をそのしわだらけの手で掴んできた。
つか、勇者? どういう事だ?
「どうか……どうかこの村を救ってくださいませ!」
いや、僕にすくえるのはアクぐらいなんですけど。




